あるいは、開演前
金色が、闇に浮かんでいる。
目が慣れると、それが天井の縁取りだと分かる。翼を生やした人たちの絵が、色あせた空を舞っている。
その下に、赤いビロードの席が何百と並んでいる。どの背もたれにも、誰の頭もない。
埃と、古い布のにおいがする。空気は冷えて、動かない。
物音は、ひとつもない。
正面の舞台で、閉じた幕だけが──かすかに、揺れている。
「……よし。だれもいない。……よ、っと。──わ、」
「……いったぁ……。まくの、ばか」
「…………。」
「──や。……やあ。ふたりとも、こんなとこにいたの」
「じゃあ、こっちが王さま。こっちが、どろぼう。……ん? ぎゃくだったかも。……ま、いっか。おんなじ顔だし」
「王さまがパンをとったら、『おめしあがりください』。どろぼうがパンをとったら、『つかまえろ』。──おんなじ『とる』なのにね」
「…………。」
「──ねえ。いつから、そこにいたの?」
「みてた? いまの。……ちがうよ、あそびじゃないよ。おしごと。……こほん」
「──ようこそ、お客さま。ほんじつは、かいてん……かいえん? ……どっち? ……ふふ。まあ、どっちでも」
「──…………もういいや」
「ねえ、きみ。……みにきたの?」
「ここ、なんにもないよ。だれもいないし、なにもおきてない。……それでも、みてく?」
「……ふうん。……ものずき」
「……あ。そうだ。こういうときの、あれ。……えーっと」
「──本日は、まだ何も始まっておりません。なにひとつ」
幕が、音もなく、ゆっくりと開いていく。




