第一章 10話 「蠍の使い魔 2」
前回の続きです。
興味あれば短編もぜひ!
「そこの男!ご主人様とイチャイチャしない!」
蠍が,鋏をいからせて二人の間に割り込んでくる。
「「イチャイチャなんてしてない!」」
意図せずハモってしまい,雷と愛美は目を合わせて苦笑いをした。生死をかけた戦いをともにくぐり抜けた仲なだけはあり,息ぴったりだ。
「じゃあ,雷くん。クッキー食べよ!」
そう言って愛美は雷の手を引き,歩いて行こうとした。しかし,蠍が雷のシャツを掴み,引き留める。
「こいつと話すことがあります。ご主人様は先に行っててください。」
愛美が心配そうにこちらを眺めてくるので,頷く。彼女が出ていくと,蠍・・・スコッピは雷に向けて鋭い殺気を発した。
「貴様,調子に乗るなよ?ボクのご主人様に近づくようなら,殺すぞ?」
先ほどまでとは全く違う殺意をはらんだ声に,思わず後退りをしてしまう。
ーこいつ,ヤバい!勝てる気がしない。
見た目はそこまで危険な漢人はしないが,とてつもない魔力を感じた。
「えっと,スコッピ?」
ひとまず落ち着かせようと思い,名前を呼んだが,どうやら逆効果だったようだ。蠍の堪忍袋が切れる音がした。
「ご主人様にもらった大切な名前を,貴様のような奴が口にするんじゃない!」
「じゃ,じゃあ,なんて呼べば?」
すると,蠍の悪魔は体を反らせ,ハサミを大きく開いた。
「畏れよ!我が名はマルコシアス!30の軍団を率いる侯爵なるぞ!」
「・・・・・・」
ーいや,蠍の姿でドヤられてもな。あんまり実感が湧かないや。
「じゃあ,マルコってことで。」
「なんだ,その適当な・・・・・・」
蠍の悪魔スコッピあらため,マルコシアスはしばらく沈黙していたが,やがてハサミを下ろした。
その姿がなぜか,ひどく哀愁に満ちているように見え,雷は何と声をかければ良いかわからなくなった。
「いや,案外悪くない名だ。」
どうやらその名前で機嫌を直したらしく,マルコは部屋の隅で丸くなった。
ひとまず刺激しないように,雷はその場を離れた。
「ご主人様にはこのこと,言うなよ!」
その声を最後に,キッチンの扉は閉じられた。
愛美のところに着くと,彼女は申し訳なさそうに手を合わせた。
「ごめんね,スコッピのせいで,嫌な気分になったでしょ?」
「いや,面白い奴だよ。」
「そっか。よかった!」
愛美はそう言って微笑むと,木の皿に入ったクッキーを差し出した。
「これ,わたしが作ったの。食べてみて?」
そう言われ,差し出されたクッキーを食べる。
「っ!美味しい!」
「ほんと?よかった!」
愛美の可憐な笑顔に,雷はまたしても顔を赤くした。
ーなんか,僕,最近ずっと愛美に釘付けだな。
頬杖をついてこちらを満足げに眺める彼女から目が離せなくなっていることに気づき,なんとか話題を探す。
「さっきのマル・・・いや,スコッピってさ。いつから愛美と一緒にいるの?」
「え〜っと,おじさんが魔法の使い方を教えてくれて,すぐに眷属召喚魔法を使ったんだよね。守ってくれる使い魔がいたほうがいいって言って。だから大体,7,8年前からかな。でも,すっごく時々しか姿を見せてくれないの。」
そう言い,愛美は雷の手を握った。思わずびくりと手を引っ込めかけるが,彼女は首を振り,もう片方の手も重ねた。
「だから,こうやって家に誰かがいてくれるのは,すっごくあったかいしうれしい。」
それを聞いて,雷は胸を撫で下ろした。自分の存在が,少しでも彼女の支えになっているということがわかっただけでも,今まで戦ってきた苦労が報われる気がした。
ーいつもからかわれてばっかりだし,たまには愛美を照れさせてみたいな。
「よかった。僕は,愛美を1人にしないために戦ってるから。君がそう思ってくれるだけで嬉しいよ。」
案の定,からかわれることに慣れていない愛美は顔を真っ赤にしてうつむいた。その表情を見てにやにやしていると,突然彼女は雷に近づいてきての口元に触れた。
「なっ!?」
思わぬ行動に固まっている雷を見て,愛美は赤らんだ顔を近づけてきた。
「クッキーのかけら,ついてたから。仕返し。」
熱い息が耳にかかり,背筋にぞくりとするものが走る。
「降参,って言って?」
耳元で小さな声が囁く。逆らえない。本能的にそう思ってしまい,負けを認めることにする。
「降参します!」
「いい子。じゃあ,ご褒美,なんちゃって。」
愛美が手を伸ばし,雷の髪をくしゃくしゃとなでる。
ー僕,そういう趣味はないはずなんだけどな・・・・・・
そう思いながらも彼女に逆らえず,されるがままにしていると,心の奥で何かが開きかける音がした。
ーなんだっけ?前にも似たような体験したことがある気がする・・・・・・
ほんの一瞬,脳内に景色がよぎる。
花の咲く野原で,雷の目の前には幼い少女がいた。
「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎。」
彼女が,何事かつぶやく。それに対して,雷自身も何かを言う。
すると,彼女は雷を花の中に押し倒した。そして,耳元で囁く。
「ねえ,降参?」
雷が意地でも降参せずにいると,少女は雷の頬にキスをした。
「これでも降参しないの?」
可憐な少女にそう言われて断れるほど,雷の意志力は強くなかった。
「ちぇっ。降参,するよ。」
「はい,いい子。ご褒美あげるね!」
そう言い,少女は雷の頭に花の冠をのせた。しかし,そのすぐ後,彼女は誰かに手を引かれて連れて行かれてしまった。
「またあそぼ〜ね〜!」
少女の声が遠のいていく。
ーいつの記憶だ?そもそも,僕はこんな子,知らないぞ?
違和感を覚えた雷だったが,次第にその違和感は消えていった。
ーデジャブか?まあ,気にする必要もないか。
「雷くん,聞いてる?」
「うわっ,ごめん!」
急に目の前に愛美の顔が迫り,雷は思わずのけぞった。
「で,なんの話だっけ?」
「もう。この服,可愛いでしょって自慢したの。2回もいうの恥ずかしいんだけど。」
「ご,ごめん。すっごく似合ってるよ,って,いつの間に着替えたの?」
先ほどまでの白い服とうって変わり,今度はベージュのセーターを着ている。袖が長く,手が隠れる・・・いわゆる「萌え袖」というやつだ・・・着方をしていて,目一杯こちらに体を乗り出している。
「見てないじゃないの!これ,小学生の頃から着てる服なんだよ。」
「小学校から?サイズ,変わってないの?」
「わたし,ほとんど身長伸びてないし。それに,魔法でサイズは調整できるしね。」
そう言われてみれば,愛美の身長はクラスでも1,2を争う低さだ。
「そろそろ帰らないとお母さんが心配するんじゃない?」
「あ,うん。そうだね。」
雷が頷くと,愛美は突然顔を曇らせた。
「その,引き止めてごめんね。」
「全然大丈夫だよ。なんでそんなふうにすぐ謝るの?」
すると,彼女ははっとしたように顔を上げた。
「昔から人との距離感が,近すぎるって言われるの。だから,不安で。」
「大丈夫。僕は,そんなことで君を嫌いになったりしないよ。」
「っ,ありがとうっ!」
愛美は涙ぐんだ顔を見られたくなかったのか,雷の背中を押して玄関まで連れていった。
「家まで送ってあげる。」
今日は断る気にはならなかった。
「うん。」
ご機嫌な愛美と一緒に迷宮の入り口へと向かう。
「本当に迷宮みたいだね。方向音痴なわたしが1人で入ったら,出てこれないかも。」
「じゃあ,紙に書いとくよ。いつでも遊びに来ればいい。母さん,喜ぶよ。あと,多分舞衣も。」
愛美は不意を突かれたように固まった。
「遊びに行っても,いいの?」
「いいに決まってるだろ!僕たち,えっと・・・友達だろ!」
それを聞き,彼女は一瞬だけ複雑な表情を浮かべた。しかしすぐに笑顔を浮かべ,頷く。
「そうだね。『友達』だもんね!」
◇
「えっと,次の角は右,だっけ?」
愛美は紙を見ながらつぶやいた。やがて迷宮の出口が見えてきた。
「やった!なんとか出られた!」
迷宮というだけあり,どこを通っても高い壁や家で視界が悪い。それに,どこの道も特徴がなく,似たような見た目をしているせいで自分がどこにいるのか全くわからない。
「迷ったら絶対出られないわ。これじゃあ,遊びに来るのも大変ね。」
そこで,雷の言葉を思い出す。
「友達,ね。わたしは,本当にそれでいいの?」
ーこんなに心臓がドキドキしてるのに,それを押し殺すの?
その考えを忘れようとして首を振る。
ー思い出すのよ,愛美。今までにあったことを。
両手を硬く組み,目を閉じる。
ーおじさん,わたし,こういう時どうしたらいいか,わかんないよ・・・
愛美はどうやらトラウマを抱えているようで,自分が雷に恋愛感情を抱いていることを認めたくない様子。
一方,雷は異常なほど愛美に対して好意を抱いている。
この2人の関係は,この後どうなっていくのだろうか。
追記:1,100PVありがとうございます!




