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名もなき物語〜主人公のいない物語〜  作者: 真黒
第一章 「世界の“矛盾”」
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第一章 9話 「蠍の使い魔」

祝!20話!

 首を捻って、必死でかわす。すると、消化器が音を立てて耳の横を飛んでいった。

 それを投擲してきたのは、女子生徒の体を乗っ取った悪魔だ。


「ファルシオン!」


 雷がそう叫ぶと、その手に剣が現れる。すかさず持ち直してそのまま走り、敵へと肉薄する。

 悪魔といえども、その体は生徒のもの。戦うのはかなり気が引ける。一瞬の迷いは、刹那の遅れを作り出す。

 その隙をついて、歪んだ棘のようなものが雷の首へと伸びてくる。なんとかファルシオンを引き戻し、軌道を逸らしたが、肉が抉られ、血が噴き出す。


「ヤッタ!当タッタ!」


 頭に響く嫌な声で、悪魔が無邪気に言う。


「愛美、頼む!」


 気道に血が入り、声が濁る。

 焼け付くような痛みに耐え、首の傷を押さえながら横に倒れる。


「任せて!『聖なる小刃(ホーリー・エッジ)』!」


 そう言って放たれた小刃は、悪魔の素早い動きによってかわされる。

 そして、悪魔はより大きな脅威とみなした愛美を次なる標的に定めた。


「危ない!...ガハッ」


 叫ぶと同時に、口から大量の血が噴き出す。

 雷は全力を振り絞ってファルシオンを投げた。その刃は愛美と悪魔の間に刺さり、悪魔は動きを止める。


「ありがとう!古の鎖を模倣し、全てを縛りたまえ!『偽・(フェイク・)束魔狼鎖(グレイプニル)』!」


( グレイプニルって確か、北欧神話で最高神オーディンを飲み込んだとされる狼、フェンリルを縛っていた鎖、だったっけ?)


 痛みに耐えながら雷は、昔読んだ本に書かれていた内容を思い出した。魔狼、フェンリルを縛ったとされる、グレイプニル。名前を聞く限り、かなり強そうな響きだが...?


 魔法の詠唱が終わると、空間が裂け、鎖が飛び出してきて、悪魔の手足を縛った。

 かなり細い鎖だったので切られないか不安だったが、その心配は必要なかった。


「何?力ガ、抜ケテク......」

「今だよ、雷くん!」

「っ、ああ!」


 完全に動きを封じられた悪魔に、渾身の一撃を刃に乗せ、叩き込む。

 ゆっくりと、刃がその体を通り抜けていく。そして、その中に宿る悪魔の本体を真っ二つにした。


 声にならない叫びをあげ、生徒の体が地面に投げ出される。慌ててそれを受け止めるが、その体は激しく痙攣を始める。

 愛美がすかさず駆け寄ってきて、女子生徒の胸に手を押し当てた。


治療(マジック・キュア)!」


 淡い光があたりを照らし、次第にその体の動きが穏やかになっていく。

 光が消えると同時に、その体はまるで憑き物が落ちたかのように静かに横たわった。

 敵がいなくなると、一気に体から力が抜けていく。


「っ!」


 途端にどこか遠くで感じていた首の傷の痛みも急に戻ってきて、思わず呻き声が出てしまう。


「大丈夫?ごめん、今直すから!」


 真波がかけ寄ってきて、膝をつくと、雷の首筋に手をかざした。


「『治癒(ヒール)』」


 これで2回目だが、相変わらず自分の体が高速で治っていくのは奇妙な感覚だ。自分の体の一部が別の生き物になってしまうような気持ちを覚える。


「大丈夫、だと思う。なんとか。ありがとう。」

「ううん、お礼を言うのは私の方。命懸けで戦ってくれてるんだもの。」


 放課後の校舎には、夕暮れの光が差し込んでいた。流石に2日連続で悪魔と戦うと、かなり疲れる。しかし、彼にはまだやることがある。意識を失っている女子生徒を、不自然ではないところに運ばなくてはならない。

 愛美の方を見ると、彼女は両手を合わせて「お願い!」というポーズをした。

 仕方がない。少し気は引けるが、やるしかないと心を決める。できるだけそっとその子を抱き上げ、玄関へと運ぶ。

 愛美に目で合図すると、彼女は頷き、女子生徒の耳元で囁いた。


「『起きて。』」

「...あれ、ここは...?」


 名前も知らない女子生徒が目を開けた。服装からして、一つ上の先輩らしい。


「『あなたは、忘れ物をとりにきたの。だから、今日は家に帰るのが遅くなった。わかった?』」


 不思議な響きを帯びた愛美の声が、肌から染みてくるように感じられる。


「うん。私は、忘れ物をとりにきた。」

「『うん、そう。帰ったら、このことは忘れて。』」


 愛美がそう言うと、名前のわからない先輩はふらふらと帰っていった。

 先ほどの不思議な声について、雷は愛美に尋ねた。


「さっきのあれ、何?」

「あれって?」

「ほら、さっきのさ。不思議な声。」

「ああ、あれ!」


 愛美は手をぽん、と打った。


「これは、『言霊』って言うんだよ。う〜ん、なんて言ったらいいんだろうなぁ。...催眠術。そう、催眠術みたいなもの。」

「言霊?」

「うん。言葉に魔力を込めて、相手への心理的影響を強める。そういう効果があるの。」


( なんか、魔法って想像してたのとちょっと違うな。)


「へえ、便利だね。」

「あっ!今なんか、変なこと考えてたでしょ!」

「考えてないよ!純也じゃあるまいし。」

「冗談よ、冗談。」


 くすくす笑いながら雷の手を握り、愛美は歩き出した。

 全てが終わり、2人は家路についた。


「疲れたなぁ。まさか学校に2体も悪魔がいるなんて。」

「まあ、学校は悪意も集まるところだからね。仕方ないよ。」


 そう言うと、愛美はなぜか少し不満げな顔を向けてきた。


「どうかした?」


 雷がそう聞くと、愛美は慌てて首を振った。


( どうしたんだろう。)


 雷が首を傾げていると、愛美は思い出したように手を打った。


「そうだ、雷くん。今日、ちょっとうちに寄ってかない?」


 そう言われて時間を確認する。今日は特に予定もないし、少しくらい遅くなっても大丈夫だろう。


「うん。いいよ。」


 そう言うと、愛美の顔がぱっと晴れた。


「やったぁ!嬉しい!」


 その可憐な笑みに、またしても雷の心臓が跳ね出す。


「実はちょっと見せたいものがあるのよね。」


 かなりうきうきした様子の彼女を見ていると、自然に笑みが溢れた。


( 愛美と一緒にいると、楽しいな。)


 2人が歩いていると、すれ違う人たちがやたらとこちらを見つめてくる。時折、「あのカップルかわいい」などと言う声も聞こえてきた。


 正直、雷はそう言われて嫌な気はしなかったが、愛美が嫌ではないかと不安だった。

 そっと隣を歩いている彼女の顔を見るが、特に気にしている様子はない。気のせいか、少しだけ距離を詰めてきたような気すらする。


 そうこうしているうちに、愛美の家の前についた。

 何度見ても大きな屋敷だ。そこで、ふと気になったことを聞く。


「愛美、そういえばさ。今まで、よく1人で過ごしてることがばれなかったね?」


 すると、愛美は不思議そうな顔で雷を見た。


「えっ?だめなの?」

「子供1人で生活するなんて、本当は駄目だよ。普通は孤児院とかに行くことになる。」

「そっかぁ。おじさんの魔法かな?」

「おじさん?あの、君を引き取ってくれたっていう?」


 前に愛美が言っていた。両親を目の前で殺され、1人になってしまった彼女を引き取り、魔法の使い方と、悪魔の存在を教えたという。


( 何者なんだ?)


「うん。そういえば、今考えてみれば不思議なことがいっぱいあるかも......。」


 庭の踏み石の上をぴょこぴょこ跳ねながら、愛美は言った。


「小さい頃、買い物とか行ってなかったけど、食べ物に困ることはなかったもんね。」

「いや、考えるまでもなく不思議だろ!」


( 成績一位なのに、なんでこういうところは抜けてるんだろうな...)


 疑問に思いながらも、彼女の後についていく。


「お邪魔しまーす。」


 リビングに着くと、愛美は早口で雷に言った。


「ちょっと待っててね!お菓子用意してるから、キッチンからとってきてくれると嬉しいな!」


 そう言い、愛美は二階への階段を駆け上がっていった。

 キッチンの場所は、なんとなくだが覚えている。どれだけの部屋があるのかわからない廊下を歩いていく。


( この家、ほんとにどれだけ広いんだよ。下手したら迷子になるぞ。)


 なんとか記憶を辿りつつ、前に行ったはずのキッチンを目指す。

 少しすると、前に来たことのある「だいどころ」と書かれたプレートのかかったドアが見えてきた。


( ここだ!)


 ドアを開け、広いキッチンに入った雷の目に映ったのは、予想もしていなかったものだった。


「.........」


 こちらを敵意に満ちた眼差しで見つめるそれは、蠍の姿をしていた。


( こいつ、悪魔だ!)


 そう判断し、戦闘体制に入る。しかし、一方で蠍もじっとしてはくれないようだった。ハサミを打ち鳴らし、尾の針を雷に刺そうと迫ってくる。

 頭を低く下げて避け、右手を構えて叫ぶ。


「ファルシオン!」


 本来なら、明るい光が瞬いて雷の右手に剣が出現するはずだった。彼は手を振りかぶり、蠍の尾を切断した。と思った彼の手は、空を切る。

 出現するはずの剣は応答せず、彼の手には何も現れなかった。


( なんでだ?)


 もう一つのハサミが迫る。


( やられる!)


 その時、キッチンの扉が再び開けられた。


「雷くん、お待たせ。って、何やってるの!?」


 すると、なぜか蠍は動きをぴたりと止めた。


「でも、ご主人様。こいつ、侵入者です。」


 幼い少年のような声で、蠍が喋った。


「何言ってるの、スコッピ!雷くんはわたしの、わたしの......」


 そう言って愛美は雷の方を向き言い淀むと、もじもじと指を絡ませた。


「友達だよ。」


 なぜか知らないが、そう言わないと蠍に刺される気がした。


「まあ、ご主人様がそう言うなら。」

「もう!勝手に攻撃するのはやめてっていつも言ってるでしょ?」


 愛美が当たり前のように蠍と会話するので忘れていたが、よくよく思い返してみればこの蠍は、悪魔だ。


「愛美、なんで悪魔がここにいるんだ?」


 愛美が説明しようと口を開けたが、蠍がそれを遮った。


「失礼だな!ワr...ボクはご主人様の眷属、使い魔だぞ!大体ご主人様を呼び捨てにするなんて、何考えてるんだ、お前!」

「いいのよ、スコッピ。雷くん、あのね、この子はわたしが魔法で召喚した使い魔なの。だから、仲間だよ。」


 そう言い、愛美は来ている服を見せつけるように背中を見せた。そこでやっと、彼女が服を着替えてきていることに気づく。

 白いフリルのついたワンピースを着た彼女は、自慢げに上目遣いでこちらを見てくる。


( やばい。可愛い。)


 今までの制服姿も十分に可愛かったが、私服は比べものにならなかった。


「これ、昨日魔法で作ってみたの。どう?似合ってる?」

「う、うん。すごく似合ってる。」

「コホン!」


 蠍がわざとらしく咳をする。


( なんか、めんどくさいやつだな。空気を読んでくれよ。)


「あ〜そ、そういえば、こいつの名前、スコッピっていうんだ?」


「う、うん。蠍って、英語で『スコーピオン』でしょ?だから、可愛くしたら『スコッピ』になったの。」


 愛美も察したらしく、話を合わせてくる。

 そして、さっと雷に近づき、申し訳なさそうな顔で耳元で囁いた。


「お願い。仲良くしてあげて、ね?」

また書くやつ増えた・・・



長くなったので,次回も続きます。


追記:1,000PV,ありがとうございます!これからもよろしくお願いします!

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