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まほー(物理)  作者: 林檎とエリンギ
Last Theory
476/476

~エピローグ~

『『んちゅっ、んちゅっ、んちゅっ…』』


静かな昼下がり…



「・・・んふふふふ。いい子ね・・・」


…季節は夏。

北の大地の(すず)やかな夏。


汗ばむ胸に

産まれたばかりの子と、丸い耳の”拾い子”を

(かか)えたひとりの母親は

健やかに乳を吸う我が子を見て微笑んでいた…



『んちゅっ、んちゅっ、んちゅっ…』

『むちゅ、んちゅっ…ぱ…』

「「…」」


傍らで見守るのは

ひとりの侍女とキツネの少女


父親の姿はなく…

ただ、扉の前と窓の外に

ホオジロとモズの姿が見えるのみ。


穏やかな午後だった………



「・・・エディアラ王国は、まだ不安定。か・・・。いつになったら帰れるんだろう・・・?」

「にゃぁ~…また、戦争なのですか?」


子供がグズる前に目を通した小さな(ふみ)

小鳥の脚に巻かれたソレには、王国民であれば誰もが知っている

中立派筆頭たる公爵の署名と共に…



「・・・ん。そうみたい・・・。毎日毎日、よく飽きないなぁ・・・。」

「にゃははは…」


「今日は北方の・・・ボンリーヌ?・・・どこそこ?」

「…ボンリーヌ領。ヴィルス帝国と接する王国北部に位置する小規模な領地です。人口は約4,000。丘陵地帯が広がり小麦生産には適しませんがリンゴの生産が盛んです。主な生産物はリンゴ酒のシードル…」

「・・・思い出した!クリストフさんが綴理(ていり)の誕生日にくれた・・・」

「ですです!」


…およそ。人ひとりに頼む内容ではない

大それた言葉が並んでいた…



「・・・領都戦だって。でも・・・相手がどんなに用意周到だったとしても、イキナリ領都を戦場にするなんてコト。出来るのかなぁ・・・?」

「ど、どうなのでしょう…?」


〜北方のボンリーヌ領が周辺領に侵略され領都戦が勃発。

至急、鎮圧されたし。

ギヨーム・デュック・オルソート・ドーファン〜



「…おそらく、ギヨーム様は領都戦になるまで”待っていた”のですわ…。」


気付けば…

仕立ての良いロングスカートを履いた淑女と、2羽の鳥が

2人の子供を伴い、更にひとりの眠子(ねこ)を胸に抱いて扉の前に立っていた



「・・・んふふっ。セルディア。お父様に遊んでもらったの?」

「…ケンで。『エイ、ヤァ』…って。したの…」

「・・・そう。楽しかった・・・?」

「んぅ…ね?とと様…」

「あぁ…」


小さな木の剣を手にした小さなブロンドの少女が

僅かに汗ばむモズの背に隠れ…



「…とと様。だこぉ…」

「…ったく。ほら…」

「…えへ。えへへ…」

「・・・んふふふ・・・」


和やかな父娘のやり取りを目にした母親は次に、

視線をわずかに動かして・・・



「・・・リチアは・・・」

「よく寝ているよ…」

「…ふふふっ。つい、さっきまでママまま〜…って。グズっていたのに。お屋敷に入った途端。スヤスヤですわ…」

「屋敷の中はエウロスの風が吹いているからね…」


風の精を従えたホオジロは

寝息を立てるわが子の銀の髪を

愛おしそうに撫でて言った…



「…くー」

「…ふふふ。いい子だね…」

「すぅ〜…」


…2人とも。

自分とパートナーの”いいとこ取り”をしたような

”この娘”が。特別可愛くて仕方ないらしい…



「…おかぁ様。また、どこかへ行ってしまうのですか?」


乳飲み子2人を蛇に抱かせ。小さなその背を軽く叩いていた母親に駆け寄ったのは

美しく…鳥には似ても似つかない…小さなエルフの少年だった。



「・・・アリュシオン。リセリアちゃんのお手々を乱暴に払っちゃ、メでしょ?」


幼馴染の娘の腕をパッと払って駆け出した息子を(たしな)めたものの…



「どうなのですか!?」


可愛らしい気迫で必死に迫る息子に苦笑いした母親は

子供たちをベッドに移すよう、蛇に無言の指示を出して立ち上がり…



「・・・そーよ。女の子に優しくできないアリュシオンに呆れちゃったから。家出しちゃうわ・・・」


…両手を広げ。

侍女とキツネに着替えさせ…



「・・・リセリアちゃん。アリュシオンが・・・ごめんね。」


茫然(ぼうぜん)と。

払われた手を見つめていた小さな淑女に屈んで謝り…



「…い、いえ。まじょ様…」


その言葉を受けた母親は

“屈んだまま”で反転し…



「・・・ほら、アリュシオン。」


肩を震わせていた息子の背に声をかけ・・・



「・・・リセリアちゃんと。妹たちと・・・仲良く待っているのよ?」

「っ…グズっ…」

「・・・夕ご飯までには帰ってくるから・・・ね?」


「…ほ、ほんとっ?」

「・・・ほんと。」

「ほんちょに、ほんちょ?」

「・・・ほんとにホント。」

「うしょ…?」

「・・・嘘じゃないわ。」


「おかぁ様っ!」


グシャグシャの顔で飛び込んできた息子を

『ギュ〜…』っと抱き締めてから



「・・・ローズさん。シュシュ。ルクス。フルート。それとカトリーヌちゃん。子供たちを・・・お願いね?」


ゆっくりと離して

立ち上がり…



「もちろんです!」

「願われましたですよ!」

「へー、へー…」

「…気をつけてね、マシェリィ。」

「お帰りをお待ちしておりますわ。フォニア様。」


(子供たちを驚かさない)控え目な返事を

耳に落とし込んでから…



「・・・アリュシオン。セルディア。それとリセリアちゃん。元気に遊ぶのよ?でも、妹たち・・・リチアとミーリアと、ユキアを起こさないように。ね?」


音もなく“浮かんで”頭上までやってきた

星付きの大きな黒い帽子の縁を持って浅くかぶり。

鏡の前で整えて・・・



「…早く帰ってきてね。おかぁ様…」

「んぅ!とと様とおソトで『エイッ、ヤー!』…なの!」

「お、お気を付けくだしゃいましぇ。まじょ様…」


三様の言葉で答える子供たちに

満足したのか…



「・・・んっ!」


…魔女は。

窓の外…白いカーテンに映える青空にかかる

2輪の虹に目配せしてから



「・・・行ってきます!」


平和な白い、北の子供部屋から

不和の炎に燃える(こきょう)を目指した…





















『…パタン。』

「・・・」


扉を閉めた母親は…



「・・・はぁ〜・・・」


…大きく。息を吐いて…



『…』

銀の翼に。


『『『『『…』』』』』

蛇に。


『…』

金の鎚に。


『…』

焔の石に。


『……』

約束の環に。



そして…



『…』『…』


ミスリルとアダマンタイト…


青銀と黒の指輪を

(ことわり)で包み…



「・・・いくか。』


…紐を()わきに歩き出した。

作者の 林檎とえりんぎ です。

長い長い魔女様の御話・・・

最後まで読んで下さりありがとうございました。


物語の振り返りと、これからのお話を

活動報告に(したた)めさせていただきます。


公開は同日16:10ごろの予定。


よろしければ・・・

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