Chapter 021_筆を手に
シュシュと合流した翌日
カレント2,188年 治月の月 34日
「ついに…」
「ここまで来ましたね…」
黒光りする”岩でできた”【アーケーンの門】
横一文字に挿された閂を抜いて巨大で無骨な戸をくぐれば
その向こうは、私たちの故郷【アドゥステトニア大陸】だという・・・
「スンスン…み………ちべたっ!?…ご、ご主人様ご主人様!この門…外で雪か氷に覆われているみたいです…」
魔族の皆さんにもらった・・・
お洒落過ぎた美容室のソレと同じくらい、実利を欠いた古代地図によると、
真っ白な三角(“お山”かな?)の群れ(“山脈”を表している?)の狭間にある
アーケーンの門は、四角と三角が重なったナニカ(“お家”だと推察)までグニグニな線をずー・・・っと下っていかないと、いけないらしい。
・・・察するに。
アーケーンの門は北方の山間にあって。
人里からは、かなり離れているのだろう・・・
だから、シュシュが取っ手に触れて調べた通り。
“氷漬け”になっていたとしても不思議じゃない。
「お外の雪…氷?を。溶かす必要があるってこと?…でも、そんなの簡単だよね、ね様!?」
この扉を開けるには、まず、閂を抜いて。さらに
ティシアが言う通り凝固したH2Oを溶かす必要がある。
異世界なら重機が必要な大プロジェクトになるだろう。けど・・・
「・・・ん!それじゃ、早速・・・」
・・・ま。
リブラリアには魔法があるからね。
物理なマホーで『ちちんぷい!』だよ!
「…マ、マシェリィ!?唱えるつもりかい??」
「…お前は動くなよ。ボクが斬れば…」
魔法を唱えようとすると2人が制止してきた。
けど・・・
「・・・だから。大丈夫だってばぁ!・・・今朝ヒュドラを喚んだ時だって平気だったでしょ?」
ここまでヒュドラを再召喚しなかったのは、一度でも
還して再召喚すると5頭全てが手元に戻ってきてしまうからだ。
居場所が分からなくても、最後の1頭がシュシュと一緒だったから
そのままにしていたのだ。
けれど、それはもう、必要ないからね・・・・
「…で、でも…」
「・・・大丈夫。セトは喚ばないから・・・」
天空回廊の精霊はシュシュが消滅してくれたはず。
さらに、理由は分からないけど応えてくれないセト
(もう大丈夫なのかもしれないけど、いちお・・・)
も除外すれば・・・ま。問題ないだろう・・・
「…ったく!知らねーぞ!?」
「・・・気をつけるよ・・・」
プロの鉱夫集団ドワーフの 地質学の知識と土木建築技術は信頼に値する。数千年経った今もなお遺る巨大地下施設を作り上げた彼らが雪崩や崩落の危険性があるレッドゾーンに外界との接点(アーケーンの門)を造るとは思えない。
だから
多少、荒っぽく・・・爆破するとか・・・しても、
遺跡が崩壊したりは、しないだろう。
しないだろうケド・・・でも、
扉が凍り付く〜などという”らしく無い”状態になっている以上、油断はできない。
それに・・・
「・・・ちょっと。試してみたいから・・・」
ね・・・
「き、気分が悪くなったらスグに止めるんだよ?…や、約束だよ!?」
「・・・分かってるってば・・・」
・・・お久し振りの指輪を嵌めて。
『ハラハラ』顔のフルートと・・・
「…ったく!…大規模展開なんて済んじゃねーぞ?」
「・・・ん。魔力消費は少ないハズだし・・・ソレに。1回”おためし”もするから・・・」
心配症なルクスに振り返ってから・・・
「・・・すー・・・」
深呼吸を・・・
「・・・はぁ〜・・・」
・・・ひとつ。
「『リブラリアの理”第10”原理 綴られし定理を今ここに』」
理の望むままに・・・
「『あさきゆめみし ゑひもせす』・・・」
・・・言葉を
編んで・・・
「・・・メルト!」
『パチィンッ!』
・・・唱える!
すると!
『…パシャンッ』
「「「「「なっ!?!?」」」」」
意識の先・・・”岩でできた閂”が
溶け落ちた!
さらに・・・
「リリース」
『パチィンッ!』
・・・再びの
指パッチンで
『バキッ!』
融解した岩のバーは、
元の形を取り戻し・・・
『…ドガッ!』
っと、重力に従い加速して
床のタイルを砕いて着地!
そして・・・
『…』
・・・沈黙。
したのだった・・・
「・・・ん・・・」
・・・うん!
“理論通り”うまくいったね!
まさに、唱えたと・・・
「ちょっ、ちょぉおっ!?」
「はああぁぁっ!?」
・・・とおり?
「マシェ!?えっ?…い、イマナニヲ…???」
「・・・何?って・・・魔法で閂を外したんだけど・・・?」
「だけど・・・?…じゃ、ねーよ!閂…あの、大岩!”溶け落ちた”ように見えたぞ!?」
「・・・実際に。物理的に溶け落ちたんだけど・・・?」
・・・あ、あれ?
これまで散々、多種多様な魔法を唱えてきたから。
今さら驚いたりしないだろうと思ってたんだけど・・・?
「…フォニ」
「・・・う?」
・・・珍しく、顎に手を当て。
床に落ちた閂を眺めていたゲオ様までもが振り返り・・・
「…そんな魔法があったのか…?」
・・・と、聞いてきた。
「・・・あ。ソコか。」
ソレで。納得のいった私は3人・・・と、
私と閂と”閂受け”を順番に見かえすみんなに
「・・・今のは、新しい属性魔法よ」
そういえば、言ってなかったカモ・・・と、
思い出した私は・・・
「・・・こないだメーテル様から賜った【凍龍の理】を紐解いて編んだ定理のひとつ。」
と、答えた。
すると、
「…は?」
「アンダ…?」
「・・・編んだ。」
「…編んだ…って、編み物のコト?…私。ね様がお裁縫してるトコなんて見たこと無いよ?」
「お、お嬢様にそんなコトさせられません!メイドの私めが…」
「・・・ローズさんと会う前・・・子供の頃はやってたよ?」
「そなの!?」「そうだったのですか!?」
「・・・う?ん、んぅ。・・・ボタン付けとか、簡単な刺繍くらいなら・・・」
「「意外…」」
「・・・むぅ~!ローズさんまで・・・」
「ご、ごめんなさい!お嬢さま…」
「…おい。話がズレてんぞ。」
「・・・そ、そだったね・・・」
「要するに…フォニ。先ほどの魔法は。せんじつ遭遇した龍から受けた祝福を基に。お前が創った新魔法…と、いうことだな?」
「・・・創った・・・という表現は正しくない。私は原理を解釈して定理に落とし込んだだけ。つまり、紐解いてあn・・・」
「お前が新魔法の定理を作った。…と、いうことだろう?」
「う〜・・・ちょっと違うけど・・・ま。それで納得してもらえるなら・・・」
「ね様。まほー作ったの!?」
「・・・正確に言うと”作った”ワケじゃないんだけど・・・・・・ま。」
「すごいねね様!!!」
「「さすがお嬢様(ご主人様)です!!」」
「え?え゙??…マ、マシェリィ?魔法って…作れるモノなのかい?」
「・・・だから。”作った”ワケじゃ、ないんだってばぁ・・・」
「…似たようなモンだろ。」
「全然違う!・・・むぅ・・・”作った”。なんて、間違った認識をしてるうちは魔法を編むことができないよ!」
「その言い方だと…フォニ。ひょっとして、オレでも作れるということか?」
「・・・方法を知っていればね。」
「そうだったのか…」
「・・・興味があるなら。僭越ながら私がお教えしましょうか?」
「…そうだな。興味はあるな。頼もうか…」
「ん!」
「ね様、ね様!私もテーもぉ~!!」
「・・・ティシアには、ちょっと難しいかもしれないけど・・・で、できるだけ分かりやすく説明するね・・・」
「わぁいっ!」
「ご、ご主人…様…」
「わ、我々も…」
「…って。さすがに無理ですよね…」
「・・・う?エルフのみんなも興味あるの?・・・なら、いいよ。」
「「「本当ですか!?」」」
「うぅ!?・・・ん、んぅ・・・ま、まぁ。実際に編めるかどうか?は、別だけど・・・」
「”そお”言うってコトは…マシェリィ?ひょっとして…凄く。難しい?」
「・・・そうね。”すごく”難しいと思う。」
「お前が”すごく”って言うなら。相当だな…?」
「・・・ん。・・・”最低限”。魔法言語も含めた全ての言語をスラスラ言えるくらいにならないと。いけないからね・・・」
「「「「「え…」」」」」
「…いや、無理だろ。」
「…ね様。私…やっぱり、いいや。」
「うぅっ!?」
「お勉強。好きじゃない…」
「・・・ま、魔法編纂は確かに難しいから。無理強いしないけど・・・そ、それ以外のお勉強は。がんばろうね・・・」
みんなに囲まれてしまっていた私は
「・・・そ、それじゃ、みんな。そのお話しは、落ち着いてからにして。今は・・・」
改めてアーケーンの巨門を見つめ・・・
「・・・お家に帰ろう」
唱える!
りんごどぅえ~すぅ!
次週!5/11
2本立てで、最終投稿日となりまぁ~す!!
あとあと、お知らせもありまっす!
おったのしみにぃー
・・・よろしくねっ!




