Chapter 018_龍と少女①
『ギジュルルルゥ…」
吹雪の中から現れた冬の化身は
全身から冷気を放ちながら・・・
『ギュブ…ギュフブルルル…』
空気を凍らす息を吐き出し、
大きな首を・・・
「…くそっ!」
・・・下ろした瞬間!
「…来い!ギロチン!!」
剣を手にしたルクスが飛び上がり
刃を・・・
『ギギュワアァァーー!!』
・・・向けた途端!
「くっ!?」
龍は、
白い咆哮を解き放ち!?
「わ!」「お嬢様!!」
「きゃあっ!!」「ご令妹様!!」
フルートの風のバリヤを吹き飛ばし!?
私達に雪山の洗礼を浴びさせたのだった!!
「どわぁっ!」
「ルクス!?」
ルクスは壁まで吹き飛ばされ!?
「・・・だっ!?だいじょ・・・」
「バカッ!集中しろ!!」
「っ!ん、んぅ!!」
更にっ、
「エ、エウロ…」
「コレで全力だ!」
フルートも・・・が、頑張ってはくれているけど、
でも!!
「まずい!格が違い過ぎる!!」
東風は意味をなさず
「こ、凍えちゃうよ!?」
「ご令妹様っ…っ!み、みんな!固まって!!」
坑道は白に染まり、
「このままじゃ・・・ゆ、指輪を!」
「ダメだフォニ!今、素手で金属に触ったりしたら…」
「凍傷になってしまいます!!」
気温は氷点下数十℃まで落ち込み
「何もしなければ全滅だよ!凍傷なんて。後で治癒すれば・・・」
吹雪の洞穴で、決死の覚悟で!
震える両手でポーチを探って、2つの指輪を
取り出そうと・・・
『キュフ…』
・・・したとたん?
『…刃をしまえよ。』
「・・・う?」
・・・突然。龍は動きを止め
吹雪を止めて
『…久しいな黒の。数千年ぶりか…?」
私たちをひと呑みにできそうな大きな口を
”少しだけ”開けて・・・
『事情を知らなかった…とは、いえ。”凍気”を伴い現れるべきで無かったな。許せよ…』
その言葉と共に
近づけた顔を持ち上げ
『…コレでよかろう。』
「・・・」
纏う”冷気”を消し去って・・・
『それにしても…お主。人間にしては長寿であるな?…さすがに。数千年という時は龍の我にとってもなが…』
「・・・ちょっ、ちょっと待って下さい!」
『キュフ…』
・・・え?え??
「・・・し、失礼ですが・・・白き龍様?」
『…【凍龍メーテル】だ。以前も教えt…』
こっ、この龍・・・
「・・・【凍龍メーテル】様・・・」
『…うむ。』
しゃあべっったあぁ!!
・・・どころか、普通に会話が成立してる!?
凍龍って、何ですか!?(しかも、名付!?!?)
派手な登場した割に、意外と思慮深い!?!?
あぁ、もうっ!!
ツッコミが追い付かないよぉ!!!
とりあえず・・・
「・・・ひ、人違いをしておりませんか?私は・・・た、確かに黒い瞳を授かりましたが。メーテル様とお逢いするのはコレが始めてです・・・」
『…む?』
たぶん。話してた内容からして・・・
「・・・メーテル様が以前、お逢いしたのはドゥーチェちゃん・・・あるいは 櫻ちゃん では、ありませんでしたか?」
『む』
「・・・私はフォニア・・・フォニア・マルカス・ピュシカと申します。」
『むぅ…』
そういうと、メーテル様は
『ギヂギヂ…』と、
およそ、生体の一部とは思えない
分厚く冷たい。霜で覆われた鱗を軋ませて・・・
『ギュグルルルゥ…』
大きな瞳を
「っ・・・」
・・・私に。
「お、おい!」「マシェリィ!」
「くっ!」
「まっ、」
「ひっ!」
「お、お嬢様!」
「ね様っ!」
「ご令妹様!」
メーテル様が大きな顔寄せたせいで警戒してしまった
みんなに・・・
「だ、だいじょぶ。だいじょぶだから・・・」
・・・視線を送って、呟いて。
抑えてもらうと、
・・・やがて・・・
『…ふむ。確かに…』
納得・・・して、くれたようだ。
すると・・・
「…ファニ。」
慎重に・・・ゲオ様が
刃も視線もメーテル様に向けたまま
「・・・う?」
私に・・・
「もしや…話をしているのか?龍と…」
そんな質問を投げかけた・・・?
「・・・うぅ?」
何を今更?
そんなの当たりまえ・・・
「・・・あ」
って!
「・・・は、はい。・・・こ、こちら【凍龍メーテル】様と仰るそうです。ドゥーチェちゃん・・・黒の魔女様と面識があるとか・・・」
あまりに自然に会話できちゃってたから
忘れていたけど・・・
「…【凍龍】?」
「聞いたことないですね…」
・・・私とメーテル様は【魔法言語】という・・・普段は魔法の呪文に使われる特殊な・・・適性があるヒトにしか認識できない・・・言語(字も、音も。適性があるヒトしか認識できないうえ、適性があるヒトなら”学ばなくても理解できる”。体系化されている言語だから理論上、会話も可能。ただし、同じ属性に適性がある人同士で無いと理解できない。適性が浅いと”あやふや”にしか理解できないから、会話は困難になる。私が全の魔法の呪文をあっさり理解できたり、メーテル様・・・未知の属性(氷属性とか?)を冠している・・・と会話できるのも、コレが理由。因みに、今言った知識はアミちゃんに教えてもらった。)で話をしている。
「…アノ魔女と逢っているだと?」
「それって…りゅ、龍さん。7,000歳以上ってコト!?」
魔法言語は・・・適性のあるヒトに教えてもらえた場合に限るけど・・・適性が無く。言葉として認識できなくても”音”を聞いて、”韻”を踏んで、”雰囲気”を察すれば。「こういう意味だったかな?」(適性がないと、魔法言語を聞いても雑音や紋様としてしか認識できない)って、推察できる。
けどそれは、雑音や紋様のパターンを”覚えている”ってダケで、
言葉ひとつひとつの意味や。呪文の真意を”理解してる”ワケじゃない。
・ ・ ・
※例えるなら・・・そうだなぁ・・・
ある音・・・”曲”が流れていたとしよう!
適性がないヒトは、ただ、音を聞くだけ。綺麗だとは思わないし、そこに意味があるとも思わない。
適性があるヒトは、その音楽がクラシック音楽で。奏でているのはオーケストラで。作曲者はベートーヴェンで。曲は「交響曲第5番 【運命】」で。ベートーヴェンは”こういう気持ち”でこの曲を作曲したんだ。だから、美しいんだ。・・・ってコトを、無条件で理解できる。
適性がないヒトでも、おんなじ音楽を何回も聞いていれば、なんとなく、リズムやメロディーを”覚える”事が出来るし、適性があるヒトに「この曲はこういう曲で・・・」と、説明してもらえれば。その情報を”覚える”ことができる。同じ曲が流れれば「あぁ、【運命】・・・だったカナ?」って。思い出すことができる。
でも、作曲者の真意や、曲の美しさは理解できない。
だって、そもそも音にしか聞こえないんだもの。
「美しい」だなんて。感じるハズ、ないじゃない・・・
・・・コレが【適正】というモノだ。
・ ・ ・
こんな理由で、
魔法言語を理解できるのは執筆者(あるいは発言者)と
”同じ”適性属性のヒトに限られる。
みんなが理解できなかったとしても、
それは仕方ないコトなのだ・・・
「・・・私もメーテル様の名を聞いたことがない。魔族のヒト達も言ってなかったし、大図書館にも記録がなかった。・・・たぶん。記録上は新発見になるんじゃないかなぁ・・・?」
「・・・ドゥーチェちゃんの日記にもソレらしい記載は無かった。」
「・・・龍の寿命に関しては・・・どうなんだろ?野生の龍の生態なんて。ほとんど分かっていないから・・・」
・・・ま。
言語が”ドウ”とかっていう以前に、お口のサイズも顎関節の構造も声帯の形も全く違う人間と龍が、どうして同じ言語を発声できるんだ!?
物理的にオカシイだろ!
非論理的に過ぎるんじゃないのか!?!?
っていう、もっともな意見があるんだけど・・・
「つまり…」
「…話はできるが。それ以外のことは殆ど分からない…と、いうコトだな?」
「・・・・・・・・・はい。」
・・・そんなコト言ったら”素”で魔物や動物や精霊の言葉(?)を理解してるシュシュはドウなってるの?と、いう話。
「…ま。襲う気がねーなら。それで十分だ。」
「確かにな…」
「そもそも、まだ出逢ったばかりだしね!」
「そ、そうだよ!”これから”お友達になればいいんだよ!…ね?ね様!」
問答無用で襲いかかってくる陰キャな精霊もいれば、
歴史的遺産を破壊して現れ、親し気に話しかけてくる龍もいる。
その龍と友達になれという妹もいる。
「・・・そ、そ。ね・・・」
リブラリアは自由だ・・・
・・・
・・
・
『…フォニアといったな。”黒の”…サクラのコトをドコで知った?』
空気を読めるドラゴンのメーテル様は
私たちの会話が終わったタイミングで櫻ちゃんのコトを聞いてきた。
ずいぶん気にかけてるみたいだけど、
そんなに仲が良かったのかなぁ・・・?
「・・・話すと長くなるのですが・・・」
(奴隷だった)櫻ちゃんは(主人に)見られてもいいように。わざわざ“日本語”で日記を書いていた。
・・・ソコまで気を使ってたのに。メーテル様のコトはその日記にすら書いていなかった。
だから・・・
「…む?」
・・・どこまで話していいのか?
悩むところだけど・・・
「・・・お話しますね。櫻ちゃんの。長過ぎる物語を・・・」
メーテル様に吹き飛ばされながらも、
綴られていないところで自力で復帰したルクス君のこと。
どうか、忘れないであげてください・・・




