Chapter 014_失格
「・・・・・・・・・ぅ、」
魔道具のランプが頼りの。暗くて寒い鍾乳洞に
置かれたベッドの上で・・・
「おい!」「マシェリィ!」
「・・・う・・・ぅ〜・・・?」
・・・私は目覚めた。
2人の王子様と、
「…ロード。おはようございます。」
「・・・・・・う?てん、し・・・?」
「…はい。熾天使ウリエル。貴女の僕にございます…」
「・・・私の天使?」
「はい!貴女様の天使にあります!」
・・・一柱の天使に
見守られながら・・・
「おい、大丈夫か!?」
鉛のように重い瞼を半分開けて
「・・・う〜・・・」
「…ったく…」
ルクスに支えられながら身体を起こし
「マ、マシェリィ…む、無理しないで、ね!?」
フルートに手を取られて導かれ・・・
「・・・ん〜・・・」
「ゆ、ゆっくり…。だよ…?」
周囲を『ぐるり』と見回して。最後に自分のお・・・
「・・・」
そっ、そう・・・そうだ!
そうだった!!
「い、『祈り込めて』・・・」
本能的に体が動いた。
両手をお腹に置いて、自分ではなく我が子の為に唄い出した”この”喉には
「『擁す』・・・」
自分の状態にまで気を配る余裕なんてなかった。
「る・・・きゅうぅ・・・」
・・・2日間。気を失っていた私は。
この時“飢餓感”と言っていいほどの強烈な空腹を抱えていたし、自力では
起き上がれないくらい衰弱もしていた。
「おい!」「マシェリィ!?!?」
目を回して、ベッドに逆戻りしてしまったのは理のまま。
ルクスとフルート。2人の腕が咄嗟に受け止めて。
ゆっくりベッドへ横たえてくれたからよかったものの・・・
「ロ、ロード!?また無茶を…」
「ぅ゙きゅ〜・・・」
・・・ソレがなかったら。
愛し子に“また”余計な負担をかけるトコロだった。
母親失格である。
愛しい
大切
守りたい・・・
・・・そんなコト言っておきながら。
この子の健やかなる成長をいちばん邪魔しているのは
私だった・・・
「っ」
こんな私は。きっと、
母親
「・・・ひぐっ・・・ひっく・・・」
失格である・・・
「ご、ごめっ・・・っく・・・」
「…おい………よ、よしよし…」
「っく・・・ひゃっく・・・」
「マシェリィ…。だ、大丈夫…大丈夫だよ?だから。泣かないで…」
「ロード…。し、心配せずとも。お子は無事にございます。」
「ひっく・・・っく・・・」
「先ずは食事を召し上がって下さい。すべてはソレからです…」
「っく。ひぎゅ・・・う、うえぇ・・・」
「「「…」」」
・・・2人と1柱の声に耳を傾ける余裕もなかった。
泣いて。
泣いて。
なにが悲しいのかも分からずに、ただ泣いた。
「えぇっ・・・えっく。。。ひゅぐっ・・・。。。」
わがまま言って。
みんなを巻き込んで。
この子も巻き込んで。
危険な目に遭わせて。
命の危機に曝して。
後悔の堂々巡りをして。
何もできずにまた泣いて・・・
「っく。ひっく・・・え、えうぅ・・・」
「「「…」」」
・・・みんなを困らせた。
「…しかた。ありませんね…」
「…?」
「…おい、チビエルフ。」
「え゛…て、天使のクセに口悪すぎるでしょ。キミ…」
「…今からロードを寝かしつける。快適な風をロードに送れ…」
「…え?君。そんなコトできたの?」
「…無理矢理に、な。ロードの心に負担…と、いうか違和感を残してしまうため、出来ればやりたくないが…」
「…お、おい!本当に大丈夫なのか!?」
「冷静さを欠いている今ならその影響も最小限にできるだろう。…このままにしておく方が危険だ。」
「ひっく・・・えぐっ・・・う、うぅ、うぎゅう・・・」
「「…」」
空腹と。
後悔と。
悲しみと。
痛みと。
混乱の底で泣きじゃくっていた私は・・・
「…そ、そう…かも。な…」
「………エウロス。言われた通りに…」「…あぁ。」
どこまでも優しい2人と
「…ロード。失礼…します。ね…」
…リスクを背負ってくれる天使の手によって。
「ひぐっ・・・」
「…さぁ……ロード…」
「あぐっ!?・・・っ、・・・っっ・・・・・・・・・」
「…」
再び訪れた眠の海に
沈んでいった・・・
・・・
・・
・
「・・・え・・・・・・」
再び目覚めた私は2人と1柱の圧力に押し負けて無言でお粥を食べさせられ。その後・・・
「・・・うそ。でしょ・・・?」
何があったのか・・・”どうやって”重症だったこの体を治療したのかを
聞かされたのだった・・・
「・・・わ、私が嫌がってたの知ってたでしょ?なのに・・・」
アレを使うつもりなんて無かった。
私は人で有りたかった。
櫻ちゃんの苦しみを見た後では、ソレが”幸せなコト”だとは、到底、思えなかったから・・・
「…ロード。他に手は無かったのです。聡明な貴女様なら分かるはず…」
私だって死にたくない。
この子を失うのはもっとイヤだ!
他に手は無かった・・・と、いうのは
本当のコトだろう。
「・・・」
でも、だからといって・・・
「…だ、大丈夫だよマシェリィ!ぼくがずっと守るから…」
普通にお母さんになって。
普通におばちゃんになって。
普通におばあちゃんになって・・・
「・・・ルクスは?」
「…」
「・・・いつか。居なくなっちゃう・・・の・・・?」
・・・そんな”普通”を。
夢見ていたのに・・・
「っ・・・」
・・・母親だけじゃなくて。
人間としても失格だなんて・・・
「………はぁ〜…」
「・・・」
「…んなら、好きにすればいいだろ?」
「・・・う?」
「…今まで散々、人の人生弄んできておいて。今更何言ってやがる?」
「・・・もっ、もてあそんでなんか・・・」
「よく言うぜ…ったく、」
「・・・む、むぅ・・・」
「とにかく!だ…。…ここまで来たんだ。今更だ。…お前に食わせたのと同じ…木の実?アレをエルフの里から奪うとか。死霊術師使うとか。お前ならどうとでもできるだろ?」
「・・・し、死霊術なんて非論理的なモノ・・・」
「例えだ、バカ。例え…」
「むぅ〜う〜!・・・バカじゃないもん・・・」
「…ったく。………最後まで付き合ってやるよ。」
「っ・・・ルクス・・・」
「…マシェリィ。怪我をさせちゃってごめんね。本当に…ごめんよ。」
「…すまなかった。」
「っっ・・・ど、どうして謝るの?悪いのはゎ・・・」
「バカ!守るったのに守れなかったボクとチビの”せい”に決まってるだろ!…お前が責任感じるコトなんて無いんだよ!」
「・・・でぇ、でぇもっ・・・しょ、しょもしょもわたしぎゃ・・・」
「母親であるマシェリィが子供の為を想うのは当然だよ!」
「…ボク達の仕事はそんなお前を…お前”たち”を守ることだ。」
「ソレができなかったぼく達は…父親。失格だよ…」
「…」
2人の言葉に・・・
「・・・しょ、」
・・・涙が
後から後から込み上げてきて・・・
「しょんなことっ・・・にゃ、にゃいっ・・・よっ・・・!」
・・・私は。
2人に縋り付いて。
泣きじゃくって。
再び眠りについて・・・
「・・・フルート。ちょっと肌寒い・・・」
「え!?そ、それはイケないね!?ごめんよマシェリィ!スグに…お、おい!エウロス!」
「よ、よし…」
「・・・ルクス。「あーん」して。」
「はぁっ!?…自分で食えよ。」
「・・・ヤ。食べさせてくんなきゃ食べてあげない。」
「…なら、食わなきゃいいだろ」
「・・・むーうー!私と赤ちゃんが飢えてもいいって言うの!?ルクスの甲斐性なし!ロクデナシ!!嘘つき!!!」
「だーっ、もうっ!うっせーなー!…ったく!!!…ほれ。」
「・・・ほれ。じゃ、ない。あー・・・」
「っ///あ、あー…」
「・・・んっ!!・・・んふふふっ///」
「///…ったくっ///」
体力が戻るまでの間。
甘えながら穏やかに過ごしたのだった・・・




