Chapter 012_瓦礫の王国②
「ブレス…」
戦の詩はザイロフォンさんの
静かなひと唱えから始まった…
『ギ…』
『ギャウ………』
突然、広場に現れた一塊の森に違和感を覚えた魔物もいたかもしれない…でも、リゾルートさんが生み出し。ザイロフォンさんが”そよい”だ眠の風は
魔物達に、異変を報せる間を与えなかった…
「行くぞ!」
「んっ!」
「「「はいっ!」」」
魔力を絶たれた森が地面に還るより先に放たれたゲオ様の言葉に
私達は走り出すコトで答えた。
「止まるな!」
…ソレが、ゲオ様からの指示だった。
大きな背中を頼りに私は走った…
『ギッ!?』
『ギャッ、ギャッ!!』
グリッサンドさんによると…
「ゴブリンなど恐るるに足りません!鈍感で弱小!辛抱が無いくせに機転も効かず、鍛錬も才能も露ほどありません!魔術も行使しません!騒ぐだけの烏合の衆に過ぎません!」
…とのこと。
私も…生まれて初めて短剣で殺めた魔物が
一昨日襲ってきた小柄なゴブリンだった…
「…くそっ。思ったより気付くのがはや…」
『…ッシュンッ!』
『ギギッ!?』『ギャ!』
「「「!!?」」」
「ゲオルグ様!グリッサンドが…」
「あぁ、分かっている!…行くぞ!」
「「「「はい!」」」」
…さ、さすがに。グリッサンドさんの言葉は楽観的過ぎるけど…
それでも、ゴブリンは私でも倒せるくらいの魔物だった。
でもソレは、
相手がゴブリン”1匹”だけの時の話だ。
周りに仲間がいる時の。話だ…
『ギャ!?』
『ギ!』
『ギャギャギャギャッ!!』
ココまで私達は坑道と…せいぜい横穴ひとつ程度の…限られた場所でゴブリンと戦ってきた。
数も…多くても精々。十数匹までだった…
「ゲ、ゲオルグ様!さすがに…」
「多くのゴブリンが異変に気付いたようです!」
…けれどココは彼らの巣で。
数え切れない程のゴブリンがいた
広さも申し分ない
大小の瓦礫が散乱しているから
死角が無いわけじゃないけど…
すべてのゴブリンの瞳から逃れて進むなんて
不可能だ
「…リゾルート。ザイロフォン。」
「「はいっ!!」」
いくら相手が弱い魔物といえど、
数万匹に囲まれたらどうなるか………想像に難くない。
コレまで沢山の魔物を見てきたね様とゲオ様によると
魔物の中には戦いを好まないモノや”逃げ”を優先するモノも
少なくないらしいけど、出遭った瞬間、襲ってきて。
夜襲や奇襲まで仕掛けてくるアノ魔物が…
「「『森の願い』!!」」
…本拠地に乗り込んだ私達を見逃すとは、
思えない
「『月の木陰で小夜更かし』…」
「『木々を縫って』…」
打ち合わせと違い
唄い出しが同じだったから驚いたけど…
「…テー!侍女!2人を守れ!」
「ん、んぅ!」
「はい!」
どうやらザイロフォンさんは
突風魔法以外の魔法を唱えるつもりみたい…
「『木漏れ日揺蕩う、うたた寝を』」
「『環を描き』」
リゾルートさんの【眠森魔法】は
さっき聞いたから覚えているけど、
ザイロフォンさんが唱えている魔法は…なんだろ?
「…はっ!」
『ザシュ!』
「ショ、ショットガン!」
『ギギッ!?』
『ギャ!』
「せぇーい!!」
『ギャギャァ………』
いつも真面目なザイロフォンさんが打ち合わせと違う事をしたんだから、
きっと”凄い魔法”に違いない。
でも、どんな魔法がくるのか分からないっていうのは
ちょぴり不安だね…
「『静かに細やかに大地を覆う』」
「『巡り巡って』」
…こんなコトなら。
適正属性である土魔法以外の魔法も
ね様から教えてもらっておけば良かったよぉ…
「『それは緑の潜めく進撃』」
「『時をなし』」
でも、この2人なら…
「『影の森を這う』」
「『原始の森を往く』」
…絶対!
「スリーピングフォレスト!」
リゾルートさんが槍を地に刺しながら完唱すると…た、戦いの最初とは違って
大きな音を立てながら数え切れないほどの木々が『ドオンッ!!」…と、
地面を押し上げ青々とした葉の間から”モヤモモヤ”を拡げはじめた!
「サーキュレーション!」
ザイロフォンさんが手にした矢を地面に突き刺すと、
私達を取り囲むように旋風が起こり…次の瞬間!
『ズザザザアァーー!!』…と、リゾルートさんの生み出した
木々を…その枝を押し倒しそうなほどに傾ける風が吹き荒れた!
「っ…」
「リ、リゾルートさん!」
「っ!?す、すみません侍女長様…」
森を生み出す…。そんな大規模魔法を行使すれば
魔力をいっぱい使っちゃうのは当然だ。
魔力切れで立ち眩みしたリゾルートさんを
ローズさんが慌てて支えたのを見て…
「ハァー」
「ザイロフォンさん…」
「私も…」…そう思った私は
荒く息をしていたザイロフォンさんの肩に
手を置いて…
「!?…い、痛み入りますご令妹様。ですが…」
すると…
「…テー。油断するなよ…」
「ぅ、ぅん…」
「…返事は?」
「はい!」
…ひとり警戒を怠らなかったゲオ様に睨まれちゃった!?
「わ、私は大丈夫ですから!」
「ん、んぅ!」
慌てて短剣を握りしめて立ち上がり
風の壁の向こうへの警戒を再開すると…
「…はぁっ。しっかりしろ…」
…ゲオ様が。
溜め息ひとつ…
「っ…。ご、ごめんなさい…」
い、今のは…テ、私が悪かった。ね…
接近してくる魔物を警戒するのが私の仕事なのに
“大丈夫な”ザイロフォンさんに声をかけて
警戒を怠るなんて…
「ん…」
気持ちを入れ替えて剣を強く握り締め
木立ざわめく旋風を見つめ直すと…
「…ゲ、ゲオルグ様。」
「す、すみません…げ、限界…」
玉のような汗を流すザイロフォンさんと
ローズさんに支えられたリゾルートさんが、
そう告げた
「…あぁ。よくやった2人とも。十分だ…」
魔力を粗方使い切った2人にゲオ様は
ねぎらいの言葉をかけ…
「…テー!」
「はい!」
「侍女」
「はい!」
「…2人もいいな!」
「「は、はい…」」
そして…
「…構えろ!」
唱えた!!
「ん!」
「はっ!」
その瞬間!
私は短剣を
ザイロフォンさんは弓矢を前に構え…
「さぁ!」
「はい…」
ローズさんは倒れそうなリゾルートさんを抱え直し。
リゾルートさんは支えながらも、槍を握る手に力を込めた!
「「「「「…」」」」」
2人は頑張ってくれた。きっと、唱えた通りになっている。
でも、もしかしたら…そう、思って。油断しないように武器を構え。
いつでも唄い出せるように唇を濡らして緊張しながら待っていた。
そして…
「っ…」
…森が地に還り風が止むと。
ソコには…
「す、凄い…」
広場を埋め尽くさんばかりの…数え切れない魔物が折り重なって倒れ伏しており。
辛うじて立っている魔物も、今にも倒れてしまいそうにフラフラとしていた。
その光景に…
「…やりましたねリゾルートさん。広場にいる魔物を全て無力化しましたよ」
家臣を褒めることなんて、めったに無いのに…
肩に支えたリゾルートさんを覗き込みながらローズさんが。そう言うと…
「…そ、そう。ですか…。よ、よかったです…」
魔法酔いの体調不良と、空腹が同時に来たんだと思うけど…
リゾルートさんは荒い息で肩を上下させながら
腰袋から取り出したレンバスの欠片を摘まみ。そう言った…
「…」
警戒を続けているものの…やっぱり。唱えた通りに
広場の魔物はホントに”全員”眠ってしまったようだ。
これなら安全に…
…そう、思った
「…まだです!」
その時だった!!
『『『『『ギャギャギャアァァーーーーッッ!!』』』』』
離れた場所で周囲を警戒していた
グリッサンドさんの声に続いて、
けたたましい鳴き声!
出所は…
「テー!上だ!」
「っ!」
瓦礫のお城の上に沢山の…今まで見たより大きくて、
様々な武器を携えた”強そうな”ゴブリンの群が…
『『『『『ギャーッ!!』』』』』
私たち目がけ、跳び下り…
「すーっ!」
それならっ!
「来るぞっ!構え…」
ゲオ様の言葉の横で
私は!
「『洞窟よ 風をはめ込み 落せ』」
一息で呪文を
唄いきって!
「フォールゥー!!!」
魔物たちの
「「「「「なっ!!」」」」」
着地予定地点に
「落っちろーっ!!」
ふっかぁーい!
『『『『『ギャアァーーー・・・…… 』』』』』
落とし穴!!
『『『『『 …ドドオオォォーンッ!!』』』』』
「「「「「あ…………」」」」」
「やったぁー!!」
「「「「「…」」」」」
………
……
…
「…よくやった。テー。」
「んふふふふっ!理のままに…だよっ!」
林檎です。
次回3/8の投稿に関してなのですが・・・
林檎。旅行に行く予定ができちゃって。
投稿できない可能性が高いです…
これまで一度も欠かしていないので「できるだけ頑張りたい」とは
思っておりますが…もし、投稿できなかったらごめんなさい。
ご了承くださいませませ。




