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まほー(物理)  作者: 林檎とエリンギ
11th Theory
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Chapter 010_自惚れ者の末路

タイトルは

「自惚れ」→「うぬぼれ」と、読みます。


・・・よろしくねっ!

『ブフォァ!!』

『ガキンッ!』


暴風と金属音



『ブシュルルゥ…』


そして荒波を打つ銀の水面


 

「・・・・・・ぅ・・・」


薄明かりの洞窟で迎えた目覚めは

“この物語”紙上、最悪のモノだった



「き、気持ちゎr・・・」


黒い颶風(ぐふう)は視覚を奪い

耳を突く音は聴覚を奪い

揺れる水面は平衡感覚を奪った。



『しゅるるるぅ…』


頭痛と吐き気と気怠(けだる)さに(さいな)まれて呟くと、

守りの水星は申し訳なさそうな声で唸りながら・・・



『しゃるるぅ!!』


・・・大きく。私の体を持ち上げて。

床から突き出た穂先を(かわ)した!



「ひゃあっ・・・!?」


・・・その上で揺り動かされた私が

無事であるハズが無かった。



「うっ・・・ぷっ・・・」


治癒魔法を行使する余裕も無く・・・耐える事すらできず。

制したハズの重力によって、不調の底に落とされた。


気絶したままでいられたら、

どんなに楽だったか・・・



「エホッ、ケホッ・・・うえぇぇ・・・」

『ブシュルルゥ!』

「うひゃぁあんっ!?」


”ごめんなさい…”というヒュドラの言葉に返す余裕も無かった。



「…しっかりしろ!」


・・・そう言いながら、

私の前に立って必死に剣を振るってくれるルクスと



「くぅっ…は、『林の願い 北の森を往く』ブレスッ!」


声を枯らしながら唱えてくれるフルートに・・・



「うぅっ・・・えふっ、えふっ・・・」


・・・お礼をいう事も。謝ることもできなかった私は

瞼を閉じて。本能的に両手でお腹を抱えていた。



『…』


この子の為に・・・そう、思って洞窟に足を踏み入れた

私の決断は間違っていただろうか?

事情も分からず苦しめられるこの子は不幸だろうか?



「・・・っ・・・っっ・・・」


私は・・・自惚れていただろうか?



『ブォァ!!』

『ギンッ!』

『ブシャア!!』


悔しい。悔しいよぉ・・・



なんで魔法が使えないの?

 でも、この子の”せい”だなんて絶対に思いたくない!


魔国に(かくま)って貰っていればよかった?

 でも、よそ者である魔女(わたし)が彼の地に長く留まるコトはできない!

  それに、この子もきっと・・・


こんな物理な攻撃、セトが居れば簡単に看破できたハズ。

 ・・・なのに、どういうわけか。私の(しもべ)は沈黙を貫いた。

  理由くらい教えてくれたって、いいのに・・・



「っ・・・ひぐっ・・・うぎゅっ・・・」


苦しみと悲しさと悔しさと歯がゆさと後悔と心配と謝罪と怒りと・・・

色とりどりの不の感情を混ぜ合いながら私は

銀の水面の中で歯を食いしばって耐えるコトしかできずにいた。


感情の落としどころも見つけられず・・・でも、

体調のせいでヒステリーを起こす事さえできず、


いつ終わるとも知れない・・・コントロールできない暗闇の中で

ただただ、苦しんでいた・・・



「・・・うっ・・・ぅ・・・」



「お前はまだ挫折を感じたことが無いだろう?それで…どうする?その時が来たら…お前はどうする?」


・・・苦しみの中で、ふと、子供の頃。

ローデリア師匠に言われたそんな言葉を思い出した。


・・・思えば。

師匠の下で修行していた時でさえ、挫折らしい挫折を経験していなかった。

家族を失った時も。なんだかんだ、(かたき)をとることができた。

風のエルフに幽閉された時でさえ、自力で状況を脱した。


自分じゃ、どうするコトもできない・・・

そんな状況に陥ったことが。これまでなかった・・・



「・・・で、も・・・」


・・・お腹に触るたびに、感じる。

お腹が大きくなるたびに、思いも大きくなる。



「・・・この子だけは・・・絶対に。」





















「なぁっ!」

「マシェ!!」


・・・けれど私の思いとは裏腹に。唐突に。

その時は来た。



『パシャアンッ…!』

「っ!?!?」


まる5日間。

2人は傘となり私を守り続けてくれた。

治癒魔法で気力も体力も回復していた・・・とは、いえ。



『ドオォーンッ!』

「ぎゃふっ!!」


・・・ヒュドラも。本当に頑張ってくれた。

潤沢で無い魔力の最後の1滴まで絞り出して私を守ってくれた。

あなたは私の自慢の星よ。本当にありがとう・・・



「あっ・・・がっ・・・・・・っ、ごプっ・・・」


正面・・・洞窟の岩肌からとび出した槍はルクスの剣に両断され・・・”いつも”なら、その破片はフルートの嵐が運び去るか、またはヒュドラが弾くか、”いなす”かして私には届かなかった。


けれど・・・



「っ、っ・・・!?!?」


たまたま・・・いや、おそらく

敵の唱えた通りに


フルートは別方向から飛来した無数の(つぶて)にかかりきりで

コチラを見ていなかった。


ヒュドラは咄嗟に反応してガードしてくれたけど・・・貫かれた。



「っ、なっ!!?」

「マシェリィ!!」


まず、お腹に強烈な痛み。

一瞬の浮遊感

背中の衝撃



「ごっ・・・ぶぷっ・・・」


口からあふれるドロドロとしたナニカ。

朦朧とする意識。

霞む瞳に・・・



「ごぼっ・・・ぷっ・・・」


・・・映った。モノは・・・



「わ・・・あ・・・か・・・っ・・・」



・・・

・・





















……

………



「マシェリィ!!!」


一刻の猶予も無かった!



「おっ!おいっ!!」


追撃なんて気にしている余裕はなかった。

ぼくは小僧と共に彼女に駆け寄った。



「・・・わ・・・あ、か・・・っ・・・」


閉じかけの…定まらない視点で彼女が見ていたものは

自身のお腹だった。


きっと彼女は、こう言いたかったんだ。

「私の。赤ちゃん・・・」




「あああぁぁっ!!なんて…なんて事だ!?」


彼女のお腹には1本の…半分に避けた…(やじり)が突き刺さっていた。

…守ろうと、必死に抗った彼女の両手を貫き。

数本の指を弾き飛ばし。

地面と壁を真っ赤に染め上げて。

彼女の身体を冷たい壁に縫い留めていた…



「ど、どうす…」

「そんなのぼくにも分からないよ!!!」


どうする…どうする!?

最愛の彼女を!家族を!!

こんなところで…こんな下らない理由で


失うわけにはいかない!!



「…と、とにかく下ろさな…」

「バカかチビ!!抜いたら出血するだろうが!!」


…不思議と小僧を(とが)めようとは思わなかった。

ぼく自身が必死だったように。彼も必死だったと分かっていたから。

それに、いま優先すべきコトは何か?分かっていたから…



「じゃあ、どうする!?ぼくたちじゃ治癒できないし。肝心な時にアノ天使は…」

「…たしかコイツ。薬師の薬を常備…」

「それだ!!」


彼女を失うワケにはいかない。

ソンナコト絶対にあってはならない!!

物語を終えるわけにはいかない!!



「…あった!コレでいいだろ?」


彼女が腰に下げた袋(マシェリィは、スグに使う道具やオヤツはストレージバッグではなく、腰袋に入れている)を漁った小僧が取り出した小瓶には…



「痛み止め。止血・増血・傷薬…ただし、劇薬!?副作用に注意?副作用…?」


…張り紙に。

かわいい文字で薬の説明と簡単な注意書き。

そして、”ドクロマーク”が綴られていた…



「だ、大丈夫かなぁ…」


当然だけど…薬学の知識はないから一抹の不安が(よぎ)った。

けれど…



「悩んでる時間ねーだろ!」


小僧のその言葉に



「…そ、そうだね!」


そう頷かざるを得なかった…






『キュポンッ!』


ぼくの返事を待たずにコルクを抜いた小僧が

彼女に近づいた…



「…待て!」


…その時!?



「うをっ!?」

「て、天使…ウリエルか!?おまえ、今まで何を…」


…彼女が許可しなかったのか?

その行為が”魔法行使”になってしまうからなのか?…分からないけれど、


姿を見せずにいた天使が

マシェリの前に立ち



「…ダメだ。」


小僧の瞳の前に大きな手を出し

制した…



「ダメって…!?」


ぼくの言葉に



「…治癒魔法の併用を前提としてる。」

「なっ!?」

「じゃ、じゃあ。ぼくらが飲ませても…」


…失望するぼくらを無視した天使は

ふと、マシェリのポシェットを指さし…



「…もうひとつ、あるだろう?」


…さらに。



「…ロードの意に反するから私にはできない。やるなら…お前たちでやれ。」


その言葉に



「…は?」

「…?」


困惑するぼくらの瞳を見た天使は



「はあぁ~…」


ため息1つ。

そして…



「…○○がある。」


…え?えぇぇっ!?



「…は?○○…?」

「へっ!?はぁっ!?…な、なんでマシェリィがソレを!?」


「…時間が無い。」

「っ!わ、分かってる!」


信じられない…けれど、”彼女の”約束の天使が嘘をつくはずがない。

…なにより、悩む時間が惜しい!



「お、おい…!?」


戸惑う小僧を無視して



「…」


ヒトを見下ろす天使を通り過ぎ



『ひゅー・・・っ・・・』

「っ…」


…もう。

素人目にも時間が無い彼女の傍に駆け寄り…



「どうか…どうか”あって”くれ!!」

○○(まる・まる)・・・って、

な~んだっ!?

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