Chapter 008_ダンジョン【天空回路】①
「・・・んぅ。んぅ・・・ん。分かった・・・」
数分後・・・
「・・・それじゃ、お願いね・・・」
離れ離れとなったものの・・・距離が近かったお陰で、
ヒュドラを通して妹たちと連絡を取ることができた。
「何かあったらスグに連絡するのよ?しっかりね・・・」
全員の無事を確認すると・・・
「…なんだって?」
・・・前に立ち、
魔道具の灯りを頼りに回廊の先を睨む
ルクスが振り返らずに問いかけた
「・・・ティシア達・・・ゲオ様もローズさんもエルフの3人も。全員無事だって・・・」
「…」「そう!ソレはよかった…」
ルクスの無言の了解と、フルートの言葉を聞きつつ・・・
「・・・んぅ・・・」
・・・私は。
先ほどの出来事を考えていた・・・
「・・・」
・・・セトには。物質的な”実体”が無い。
一定範囲・・・空間・・・”そのもの”のが本体という
特殊な精霊だ。
本体の中に物質的なナニカが入り込んだとしても
無重力体験をできる以外に影響はなく、
慣性を持って突入した物質は
そのまま貫通してしまう。
・・・つまり。セトには古典物理学的な直接攻撃が一切
通用しない。
ダメージを与えるには(私がやったような)相対論的効果を利用したり・・・或いは、宇宙創生レベルの超々高エネルギーを叩き込むしかない。
・・・要するに。セトを倒すには
”空間”を歪ませる必要があるというコトだ。
そういう意味でも。力王は”強力”な精霊なのだ・・・
「・・・」
「…マシェリ?」
・・・そんなセトが。
あんな、誰がドコからドウ見ても【物理】な
槍の刺突で弾け飛んでしまったのは
どうしてだろう・・・?
「・・・う?・・・あ!ご、ごめんね。考え事してた・・・」
・・・残念ながら。
今の私にはその理由が解らない。
「…そう?なら、いいけど…」
「ん、んぅ!」
「油断すんな…」
「・・・んぅ・・・」
可能性としては・・・ゲームにありがちな、
“精霊”に対する魔法攻撃・・・とか?
・・・でも、同じ攻撃を受けたルクスのギロチンちゃんは
平気だったから。コレじゃない気がするんだよね・・・
「・・・ま。向こうのヒュドラと通話はできているからソレほど離れてはいないハズ。無限窟の横穴の1つ・・・ドワーフの坑道・・・の入り口に全員、無傷でたどり着いたって・・・」
「そう!…それなら、探索を続ければ、きっと再会できるね。マシェリィ!」
「んっ!」
魔導の検証の為にも・・・そして、なにより
【天空回廊】を”みんなで”踏破する為に・・・
「・・・ん。よし。それじゃあ・・・すー・・・」
セトを還して満足したのか?
はたまた、他の理由かは分からないけど・・・
アレきり槍は飛んでこない
「・・・はぁ〜」
・・・だから。
今がチャンス・・・
「『リブラリアの理第5原理 綴られし』・・・」
・・・とりあえず。下に降りてみんなと合流!
その後、もっと下に落ちちゃったシュシュを・・・
「「ちょっとまてー!!」」
「っ!?」
・・・助けようと。
唱えた途端・・・
「てぃえへぇぁもがぁ・・・!?」
フルートに口を
ルクスに指輪を
押さえ付けられてしまった私が
不満を告げると・・・
「マ、マシェリィ!!」
「魔法は禁止ったばっかだろうが!?」
・・・2人は。
「・・・むぐぅ・・・」
大きな手をそのままに
「生活魔法ひとつで”あのザマ”だ!?あんなヤベー召喚獣喚んだらどうなるか…ちったぁ考えろ!」
「・・・で、でも。シュシュが・・・」
「お耳ちゃんは強い!食料も装備も入ったストレージバッグも持ってる!…それに、マシェリィの蛇も着いているんだろう!?なら、大丈夫さ!」
「・・・でも・・・・・・」
説得されて、なお粘る私に・・・
「…おい。」
「っ・・・」
・・・ルクスが。
掴んだ手を痛いくらいに握り締め・・・
「…フォニアお前。アイツを信じていないのか?」
「そ、そんなワケ!」
「なら、信じろ。」
「・・・」
・・・そして。
「マシェリィ…」
フルートが・・・
「・・・わ・・・」
私の顎を
『クッ』っと引いて・・・
「…マシェリィ。もし、立場が逆だったら…どう思う?」
「・・・う・・・」
「…マシェリィは。病気のお耳ちゃんに、遠回りしてでも助けに来いって…言える?」
「そ、そんなコト言うワケないじゃない!」
「…でしょ?」
「・・・でも、今の私はびょ・・・」
「確かに!マシェリィは”病気”じゃ無いのかもしれないよ!でも、ちょっと唱えたダケで倒れ込んでしまうじゃないか!…この遺跡には魔物も。強力な…おそらく、あの槍を投げてきた…精霊…も、いる。今のマシェリィは…」
「…足手まといだ。」
「っ・・・」
フルートと・・・そして、
「ちょっ、ちょっと小僧!なにもソコまで…」
「…分かってねーんだ。ハッキリ言ってやれ!」
・・・ルクスの。
真理な言葉に
「っ・・・っ。っ・・・。。。」
打ちのめされていると・・・
「「っ!!!」」
・・・突然!?
ルクスが剣を構え。
「ごめんよっ!」
「ひゃっ!?」
フルートに抱き上げられ!?
「…チビ!!」
ルクスの怒声が
「エウロス!嵐のバリアでぼくらを守れ!」
「狭い坑道でか!?無茶を…」
「いいからヤレ!!」
魔導具で照らした坑道は一瞬で
戦場と化し
『ビュオォォンッ!!』
土砂を伴う嵐を切り裂いて現れた轟に
「…同じ手ぇ、食らうかよおぉぉ!!!」
頼みの声に
『ガギギギギイイィィ…ンッッ!!!』
摩擦音に・・・
「きゃあぁぁーー!!!」
・・・私は。
悲鳴を上げることしか
できなかった・・・
・・・
・・
・
「出ゅっ発ぁーつ!」
…ちょっと、気を失っている間に
お嬢様もご令妹様も
“ずいぶん”大人になられたようだ…
「おっ、お嬢様っ!?」
「先頭は…」
「わ、わたくしグリッサンドにお任せ下さいませっ!」
無限窟に投げ出されたあの時…
ご令妹様は冷静に。
”お嬢様の”の召喚獣に助けを求めて私達6人を包み込ませ。遅れてやって来た2頭の召喚獣も合わせて”降りられそうな”横穴に不時着させた!
「うー?…んふふ!もちろんだよ!…先頭はグリッサンドさん!次いでゲオ様。次が私とローズさん!その後ろがザイロフォンさんで、殿がリゾルートさん…でしょ!?」
…ご母堂様に託された侍女は
ちょっと涙ぐんでおります。
そして同時に。役目が終わったのかなぁ…と。
感傷に浸っております…
「…そうだな。…テーの言う通りの陣形で…」
「「はい!」」
「お任せくださいませ!!」
アドゥステトニアに着いたら”お暇”を貰うようかなぁ…
…そう、思っていた私は
今の状況に感謝していた。
”あの“、何でも1人でこなしてしまうお嬢様が
今は”守るべき”お姫様である。
天使に龍に。蛇に、木のお化けに星まで従える
万象の魔女様が今は、紙切れ1枚出せない
か弱い女の子である!
日記の新しいページを生み出すのも、
唇を潤すコップ一杯の水も
寝床を照らす灯りも
ぜ〜んぶ、侍女頼みである。
私無しでは、お嬢様の生活は成り立たない!
こんな萌えるコトって…ない!よね!?
「ローズ…さん?」
だから…そんなお嬢様と離れ離れになってしまったのは
大変遺憾なコトだった。
ご懐妊されて。いつも以上にキメ細やかなお世話が必要なお嬢様の側にいるのが野蛮な魔物2体だけだなんて…し、心配で心配で!
「…ズさん。ローズさんっ!!」
「ふえっ!?」
お嬢様のことを想い、顔を青くしていた私に
「ほーらぁ〜っ…!」
ご令妹様は…
「ね様のコトが心配なのは分かるけど…。でも!ここに居たって何も解決しないよ!?」
「ご、ご令妹様っ!?///」
…まるで。子供の頃のお嬢様のような
ちっちゃなお手手で…
「まほーなんて無くても、ね様は強いよ。大丈夫だよ!」
私の手を引っ張りながら…
「…それより大変なのは私達だよ。ね様も…ルクスお兄ちゃんもフルート君もいない中で、この坑道を進んでね様達に合流しないといけないんだよ?道も分からないし、どんな魔物がいるかも分からない…ノンビリは、していられないよ!…だよね?ゲオ様!?」
…ご令妹様の言葉を受けたゲオルグ様は
「ふっ…」
笑みを浮かべて。
腕を組みながら私を見つめて…
「…あぁ、そうだな。こんな所で野垂れ死ぬわけにはいかない。…テー。そして侍女。お前たち2人にも、もちろん戦ってもらうからな。」
…力強く!
「んー!」
「…も、もちろんです!」
唱えた!!!
(ロ)「あぁっ!…お嬢様とは、また、ひと味違って…イィ!」
(テ)「…う?」




