Chapter 006_無限窟①
【Dwarf】
・・・リブラリアのドワーフは偏屈でなければ、ケチでもない。
辛抱強く、鍛錬を欠かさない。
陽気で明るく、お祭り好き。
故郷や伝統を大事にする一方で新技術や流行に目がなく。
他の文化を抵抗なく受け入れる懐の深さもある。
穏やかな性格をしており人間とも、エルフとも、
魔族とさえ仲良くできる社交的な種族だ。
細かくて口煩い一面はあるケド、ソレは真剣さの裏返し。
私はドワーフが好きだ。
リブラリアで唯一、”種族”として好感を持てる
・・・
・・
・
「…み?行き止まり…」
「おいおいゲオ君。どうなって…」
「…焦るな。壁の最後、数センチ残しておいただけだ。こぞ…」
「わー…ってるよ!…ったく。ギロチンはツルハシじゃねーってのに…」
・
・・
・・・けれど。
ドワーフは愛すべき隣人ではあるけれど。
私達人間は”山の子”ドワーフを”本当の意味”で
理解するコトはできない。
彼らドワーフは山を”父”大地を”母”と呼ぶ独特な
山岳信仰をしている。
【山岳信仰】なんて異世界にもあるし・・・いったい、ナニが独特なの?
と、いうと。
彼等の山岳信仰は・・・山を”崇め”ているのは
間違いないんだけど・・・その、”崇め方”が、独特。
信仰対象である神様や仏様って。
普通、大事にするモノだよね?
けれどドワーフは自分達の故郷である・・・”父”である
・・・その山を。
“攻略”するコトを本懐としている。
・・・
・・
・
「・・・ルクス。お願い・・・」
「…へーへー。…っと!」
『キインッ!』
・
・・
・・・
裾野に家を建て。
木々を伐採し。
山肌を切り崩し。
穴を掘って。
資源を根こそぎ掘り尽くし。
ゴミと死体と汚染物質を埋め立てる・・・
・・・ソレが。
彼等なりの”崇め方”なのだ。
父なる山はドワーフ達の
揺りかごであり、
家であり、
お墓でもある。
そして同時に
金の成る木であり、
生活の場であり、
ゴミ捨て場でもある。
・・・
・・
・
「みゃっ!?」
「シュ!?」
「っ!とぉ…危ない危ない。…大丈夫か?シュー?」
「に…に、にゃん。です…。…あ、ありがとです…」
「・・・ほ。・・・ありがとうございましたゲオ様。落ちそうになったシュシュを助けてくれて・・・」
「…いや。今のは足下を照らさなかったオレが悪かった。スマンなシュー…」
「に…、にゃんのです。シュシュも…ちょっと。警戒し過ぎて。足下注意が足りなかったですよ…」
「…オッサン。ちょっとズレろ。穴を拡げてやる…」
「…おぉ。そうだな…」
・
・・
・・・
ドワーフの神話・・・おとぎ話・・・によると、
山の資源を取り尽くしたその先には【聖域】と呼ばれる場所があり。
ソコには【山の真髄】なるモノが在るそうだ。
ドワーフの攻略目標はこの【聖域】に到達するコトであり。
【山の真髄】を手に入れるコト。
ただし、彼ら自身。
聖域とはどのような場所なのか?
山の真髄とは何か?
そもそも、本当にそんなモノが存在するのか・・・
・・・なにひとつ、分からない。
けれど、
少なくとも旅の途中で出逢った・・・出逢ったと言っていいのか
・・・【焔のドワーフ】はソコに辿り着き。
ソレを手に入れたと綴られていた。
”滅亡”と。引き換えに・・・
・・・
・・
・
「ふー…こんなもんか?」
「・・・ありがと。ルクス」
「お、おぅ…」
「…マシェリィ。危ないから気をつけなきゃダメだよ?…ま。もっとも。もし落ちそうになっても助けるけど!」
「・・・ん、んぅ。・・・ありがとフルート。頼りにしてるね。」
「ふふふ!頼られたさ!」
・
・・
・・・
ドワーフ達の技術も。知識も。その生活も。
全ては、この【山の真髄】(という正体不明のモノ)
を手に入れる為に存在している(少なくとも、彼等はそう考えている)。
山の真髄を手に入れて”どう”するのか?・・・とか。
手に入れた後”どう”なるのか?・・・とか。
彼らは、そんなコトを微塵も考えていない。
技を磨き
知識を蓄え
世代を重ねることで
【聖域】に至り。
【山の真髄】を手に入れる・・・
・・・ソレが。
ドワーフの”存在理由”であると言って
憚らない。
・・・
・・
・
「…か、壁を開けたらイキナリ垂直の崖とは…」
「危険が危ないですね!」
「風が吹いていないので…こ、こうして照らさないと。ソレと分かりませんね…」
「…ご令妹様も。あまり前に出てはいけませんよ?」
「…う?う、うん。うん…」
・
・・
・・・
【聖域】とは?
【山の真髄】とは?
【焔のドワーフ】を滅ぼしたのは・・・ダレか?
帽子の先でリングを回す”力場の王”は
きっと、その答えを知っている。
けれど、教えてくれたのは
”力の使い方”だけだった。
【ドワーフ】については何ひとつ、
教えてはくれなかった。
・・・けれど。
焔の山の扉を開き、凍える山を抜けた”今”なら
その問いに・・・おそらく。では、あるけれど・・・
答えを出すことができる。
この山の【ドワーフ】達は。
きっと
・・・
・・
・
・・・
・・
・
・・・
・・
・
「…ここが。」
「【無限窟】…」
【無限窟】・・・
中2感満載の素敵な名前だけど
ナンのコトは無い。
無限窟とは、昇降機がある(あった)大穴のコト。
天空回路のある上層部とエントランスから伸びる回廊。そして、
はるか地下深くまで続く垂直の穴だ。
どこまで続いているのか・・・ソレは当時のドワーフ達さえ、
(天然の穴だったらしい)分からなかったそうだ。
故に、【無限窟】と名付けられたとか・・・
「…」
大きな耳と目を全開にして暗闇を見つめ、
集中していたシュシュに
「…どうだシュー?何か…」
ゲオ様が問いかけると・・・
「………に…」
・・・シュシュは。
「…微かに…」
ゆっくりと振り返り・・・
「…ずぅ〜…っと。遠くの方に…」
瞳を閉じて。
「…魔物と。」
開いて・・・
「…強い。”ナニカ”の気配を。感じますです…」
・・・唱えた。
「…魔物だと?」
最初に返したのは、ルクス。
「ドワーフの坑道…だよね?と、いうことは…」
次いでフルート。
(※ドワーフの坑道は本来、魔物が出現しない。仮に出現したとしても、ドワーフ自身が総力を挙げて処理する。だから、魔物の気配がある…というコトは、この坑道が”役目を終えている”事を意味する。)
「シュー。規模は?ソレに…強い”ナニカ”とは?」
ゲオ様に・・・
「規模…と、遠すぎて正確には分からないのです。でも…気配が『モヤモヤ』してるから、たぶん。”群れ”なのですよ…」
・・・シュシュが答え。
「つ、強いナニカ…わ、私も感じます!こ、この無限窟に入った途端。なんと言うか…こ、この穴全体。山全体を”包み込む”ような…し、”支配”するかのような強い気配を!」
グリッサンドさんがシュシュに同意し。
「ナニカ…きょ、強力な魔物でしょうか!?」
ザイロフォンさんは弓を構え
「もしかして…げ、幻獣!?それとも精霊でしょうか!?」
リゾルートさんは警戒を強め
「ご令妹様!」
ローズさんはティシアを抱き締め
「ねさま!」
ティシアが伸ばした手が
「・・・ティシ・・・」
私の手に触れる・・・
「「「「「っ!!!!!」」」」」
直前!!
「来ますです!!」
シュシュの叫びとともに。
「フォニア!」
「マシェリィ!」
無限に続く暗がりから・・・
『ビュオォッ!!!!』
・・・風切り音!?
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ここからお話の本筋から離れて、作者による解説となります!!
【天空回廊】の構造に関して・・・
前話でフォニアが説明してくれていますが、
分かり辛かったかもしれないと思い。図を用意しました。
↑要は、こういうこと。
黒い矢印のラインが【天空回廊】となります。
※ただし、スケールは適当なので、ご注意ください。
・・・よろしくね!
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