Chapter 005_エントランス
「せー…」
「…にょー!」
【天空回路】の入り口にある【イステッドの門】
推定重量1万トンといったところだろうか・・・
「「「フラアァァーー!!」」」
「せにゃー!」
「うをおぉぉー!!」
「「「「えぇーい!!」」」」
「・・・が、がんばれ・・・」
【イステッドの門】が建てられたのは7,000年以上昔。最後に開かれたのは・・・正確には分からないけど・・・雪の降り積もり具合からして数百年から数千年前は経っていそう・・・
論理的に考えて7,000年前の扉(それも、メンテナンスされていない・・・)が開くハズ無いんだけど、ヤマ様の話によると
この扉は今もちゃんと開け締めできる(だろう)とのコトだった。
「そんなまさか・・・」とは、思いつつも。
異世界で培った常識が通じないのなんて、転生モノ”あるある”だから。
試さないわけにもいかないよね・・・
『ゴ…ゴゴゴゴゴ…』
「・・・うぅぅ!?・・・ほ、ほんとに開いてく・・・」
“開き戸”の場合。
どんなに戸板が大きく・重かったとしても
丁番が頑丈かつ精巧で。扉全体のモーメントバランスが最適なら(最初、ちょっと力は必要だけど・・・)比較的弱い力で開け閉めできる。
成人男性3人、女の子1人、少女1人
獣人1人
エルフ3人
が横に並んで余りあるほど巨大で、恐らく”タンカー”ほどの重さがある扉が魔纏術無しのヒトの力で動き出したのは
一重に【峰の(シュピッツ)ドワーフ】の技術力の高さが故だろう。
・・・いやいや、どんなに技術力が高かったとしても。
7,000年、風雨と冷気に晒されて劣化しない物質など存在しない!
どうなってんだこの扉!?!?
・・・と、私に言われても、困るよ。
とりあえず受け入れようよ。開いちゃったんだから
そういうモノなんだよ。きっと・・・
『ゴガアァァン…』
「ふひー…。やぁ〜…っと開いたぁ…」
「…ったく。これしきで…。情けないぞ、チビ」
「ふう…」
「…なんだか。久しぶりに力仕事をした気がしますね?」
「ずっと移動続きでしたからね…」
「・・・みんな。お疲れ様でした・・・」
魔法も力仕事も禁止されてしまった私が
扉を開けてくれたみんなに労いの言葉をかけるより先に・・・
「…」
頼れる斥候 シュシュはひとり、
扉の前で耳をそばだて。
『じっ…』と、扉の向こうの暗がりに大きな瞳を
向けていた・・・
「…何か感じますか?シュシュ様…?」
そんなシュシュに声をかけたのはチューリップの里から付いてきてくれているグリッサンドさん。
・・・この2人は斥候として協力し合うコトが多いから。よく話をしている・・・
「…なんにも感じないです…」
シュシュのその言葉に
「そうですか…わ、私も…」
グリッサンドさんも同意の言葉を告げ・・・
「…で、でも…」
・・・さらに?
「…なにか。嫌な”予感”がします…」
「…シュシュも。そんな気がしますです…」
2人のその言葉に
「・・・」
私は・・・
「「「「「…」」」」」
・・・そしてみんなも。
緊張した面持ちとなり。
「…いくぞ。」
ゲオ様のその言葉を筆頭に・・・
「…マシェリィ。いくよ?」
「・・・ん、んぅ・・・」
「…離れんじゃねーぞ。」
「・・・分かってるよ・・・」
「…ご令妹様。お手を…」
「ん。んぅ…」
「…リゾルート。私は右を見るから。お前は左を…」
「…わ、分かったわ。兄様…」
・・・謎に包まれた闇の道に
歩を進めたのだった・・・
・・・
・・
・
「『灯よ 静寂を穢すもの』スカルボ…」
「スカルボ…」
・・・ゲオ様と。そしてローズさんが
灯火魔法を唱えると・・・
「う、うわぁ…」
まず最初に
私達の瞳に映ったモノは・・・
「崩れてる…」
「こ、これは…」
「ヒドいですね…」
・・・事前情報の通り
門を潜ってすぐのエントランスは半分以上が土砂に埋まり。
立派だった門とは打って変わって。無惨な・・・廃墟とすら、
呼べない程の。洞窟のような・・・姿を晒していた・・・
「悪魔の話によると…確か。この”落盤”が起きたのは。回廊が閉鎖されたのよりずっと後で…それ以降、調査できていないんだっけ?」
「・・・ん。そう、聞いてる・・・」
調査隊を送っても誰も戻ってこない上、落盤が起きて入口から先に
進むコトさえ、できなくなっちゃったのなら。調査を諦めるのも仕方ないね・・・
「…それで?どうやって進むか。だが…」
腕を組んだゲオ様のその言葉で
「「「「「…」」」」」」
みんなの視線は私に集まった。
そこで・・・
「・・・」
私は身体ごと。
視線を隣・・・
「…っ」
・・・ため息を突いたルクスへ向けて。
「・・・r」「ギロチン!」
尋ねるより先に
ギロチンちゃんを喚んだルクスは
「…”落盤”を斬れ。」
そう、言いながら剣を振り”上げ”・・・
「…オッサン。ひと1人通れる幅で斬る。土を固め…」
「『…積み上がれ』ハウル!」
「…」
「…ふっ。コレでいいか?」
「…巻き込まれんなよ。」
「…誰に言ってる。小僧…」
・・・と、いった調子で。
ゲオ様と仲良く掘削作業を始めたのだった
「・・・」
・・・あの2人。仲いいなぁ・・・
ちょっと妬いちゃう・・・
「つ、」
・・・なんて?思っていたら?
「つ、土魔法なら私も手伝うよ!」
・・・と、言いながら妹が前に!
「はあぁっ!?じゃ…」
ルクスはソレを邪険にしたけど・・・
「…よし。テーは左の壁を頼む。」
・・・ゲオ様がソレを掬い上げて
「ん!分かったの!」
「…いいか?オレとタイミングを合わせるんだ。」
「ユニゾンみたいな感じでやればいいのカナ…?」
「…いや。作るのは別々の壁だ。ユニゾンを意識すると最悪、オレとテーの中間…ちょうど小僧の位置に壁ができてしまう」「おい!」
「ナルホド…なら!ゲオ様とはタイミング”だけ”合わせて。自分”なりに”唱えればいいのね!?」
「そういうコトだ…」
不満気なルクスを放おって話は進み・・・
「…ホレ。小僧」
「ルクスおにーちゃん!」
準備万端!
といった表情で見つめる2人に
「…ったくっ!」
悪態で答えて。
そして・・・
「(タイミング)合わせてやっから、早く唱えろ!」
「ふっ…よし!」
「んっ!」
仲良し土木工事がはじまったぁ~
・・・
・・
・
「…落盤を越えたぞ。」
「ふひー…ちかれたぁ…」
「…ヤレ。ヤレ…だ…」
靴を汚した3人が帰ってきたのは・・・
「・・・お疲れ様。」
「ご令妹様!そしてゲオルグ様。冷たいお水を用意しましたよ!…奴隷は。勝手に飲めば…」
・・・作業を始めて1時間ほど経った
後のコトだった・・・
「…ずいぶん時間がかかったね?」
フルートのその問いに
「それは…」
「…ぷはぁーっ!…んーとねぇ…それは。途中から落盤”じゃない”壁になっててね。ルクスおにーちゃんが。”そのまま”じゃ”斬れなくなっちゃった”からなの…」
お水の入ったコップを受け取ったゲオ様と。そして、
水をがぶ飲みし終えたティシアが答えたのだった・・・
「・・・う?落盤じゃ、ない?」
ぞんざいに扱われる可哀想なルクスに
お水を渡しながら尋ねると・・・
「…あぁ。」
「・・・真っ直ぐ進んだつもりが。通路の壁まで曲がっちゃった・・・とか?」
「いや…」
私の問いに答えたのはコップに口を着けた
ルクスでは、なく。
ゲオ様で・・・
「フォニたちがいる位置を確認しながら進んだからな。」
「…んなマヌケじゃねーよ。」
「・・・そ・・・」
でも、それってつまり・・・
「…天空回路の”通路上”に壁があったってコトかい?」
ヤマ様に教えて貰った情報によると、
アドゥステトニア大陸までは
イステッドの門→エントランス→廊下→昇降機→
トロッコ路→・・・大陸横断・・・→エントランス→アーケーンの門
と、いう道程になっていたそうだ。
トロッコ路の入り口と出口には扉があったらしいけど、ソレ以外は”通し”だった(扉の無い昇降機なんて恐怖しか無いケド。実際、ソウいう造りだったらしい・・・)とのこと。
だから、この先にある昇降機を登るまで、真っ直ぐに進んでいる限り、
扉も壁も無いハズなんだケド・・・
「・・・それで。その壁はどうしたの・・・」
なんで壁が在るのか?は、分からないけど
先に進むには越えなければならない。
だから・・・
「…斬ったさ。」
ルクスのその言葉に
「・・・そ。さすが、ルクス・・・」
安心して
「・・・それじゃ、進もうか・・・」
みんなを振り返って言ったんだけど・・・
「ね、ねぇ…。ね様…」
・・・なぜか?
ティシアが苦い顔をして私に声をかけた
「・・・う?」
なんだろう?
そう思いながら続きを促すと・・・
「…あのね。あのね。この先の…しょ、しょーこーき?なんだケドね…」
ソコまで言うと
「…おい。」
横からルクスが声を上げ。
「…う?」
さらに・・・
「…直接見たほうが早いだろう。」
・・・ゲオ様が?
「…う、うん…そ、そうだね!」
「…シュー(シュシュのこと)。先頭を頼む。」
「にー…にゃんですよ…」
「殿はグリッサンド」
「は、はい!」
「シューの次はオレ。テー。」「ん!」
「侍女」「はい!」
「小僧」「ヤレヤレ…」
「フォニ」「ん、んぅ・・・」
「チビ」「おっけー」
「…最後に。エルフの3人」
「は、」「はい!」「お任せを!!」
警戒度の高い布陣を指示されて
全員の緊張感が高まり。
そして・・・
「…いくぞ。」
暗闇の一本道に
歩を進めた・・・




