Chapter 004_イステッドの門
あけおめ!
こと・・・
・・・よろしくね!
「・・・う?」
風雨の月20日 天気は雪・・・
「…う?…あ!」
【アドゥステトニア大陸】
と
【ヴェルム・ウェルム大陸】
の北方には2つの大陸を横断する長大な
【リツェルランド山脈】が横たわっている。
「ねーねー!…アレ?アレがそうかな!?」
「は、はい!恐らく…」
「…魔族から頂いた地図によると…」
「間違いないハズです!」
【峰のドワーフ】の古代遺跡【天空回路】
その入口である【イステッドの門】は、そんな
リツェルランド山脈の山裾に築かれており
悠久の時に降り積もった雪に半身を埋めながらも
古代に滅んだとされるドワーフの栄華を謳っていた・・・
「雪に覆われていますが…綻びもほとんどありませんし。立派…ですね?」
「放置されてから7,000年も経っているようには見えんな…」
「ねー…」
ローズさんとゲオ様が言う通り歳月を感じさせない
ほど立派な。その威容に見惚れていると・・・
「…油断すんなよ」
「ん、んぅ・・・」
ルクスが・・・
「マシェリィ寒くない?温度上げようか?」
「・・・だ、だいじょぶ・・・」
・・・そして、エアコンをかけてくれているフルートが。
気遣いの言葉をかけてくれたのだった・・・
「ねー、ね様ね様!このままじゃ入れないケド。どーするの!?」
2人のエスコートを受けながらロワノワールから下馬すると、
先にエオリカちゃんから飛び降りて門を見上げていたティシアが
振り返って叫んだ・・・
「・・・雪。か・・・」
イステッドの門はとても巨大
(超大型巨人の通行をも想定していたのかもしれない。そういえば、砂漠で出逢った(と、言っていいのか・・・?)【焔のドワーフ】が築いた【ヌチルデンの門】も巨大だった。ドワーフはあまり大きくない種族なのに、どうして巨大な扉を作るのだろうか・・・?)
で立派だけれど、半分以上が雪の下に埋もれてしまっていた。
こういう時は、
火魔法や風魔法で熱を送り込み。溶かすのがセオリーかもしれないけど
でも・・・
「・・・溶かすと洪水になっちゃいそうだから・・・水龍を喚んで。雪を動かすね。」
「んー!」
ゲームやアニメでは溶かした雪はドコカへと消えてなくなっちゃうケド
現実は違う。
溶けた雪は水になる。
行場をなくした水はどこへ行くか・・・
・・・その答えは
麓から登ってきた私達の方へ。だ。
「・・・『対輪重ねて 対橋架ける』フラーテーション!!」
圧倒的火力で”昇華”させちゃえば?
という意見もあるけど、外気温が氷点下だから飽和水蒸気量が少なく、
全てを気化しきれない。
それなら、気温も上げちゃえばいいじゃん!っていうのは真実だけど、
気温を上げるとなると、必要以上に規模が大きくなってしまう。
そんな非効率なコト・・・する?
「・・・ツィーアン。ツィーウー。門の前の雪を退かして。」
『『グクルルァ!!』』
「・・・フーウェンとフーシェンは扉にくっついている氷を剥がしてね。」
『『ヒピュルルルゥ!!』』
水龍は
「水」の「龍」と書く精霊だけど、
水蒸気から氷まで・・・「H2O」という分子構造を持つ、あらゆる状態のソレを意のままに操るコトができる・・・
『グルルゥ…』『…ククルゥ!』
「ふをぉ〜…しゅ、しゅごい…」
「巨大な雪山を。いとも簡単に浮かび上がらせてしまうとは…」
「す…す、水龍様は。凄い精霊様なのですね…」
「…ティシア様。あと一歩!お下がり下さいませ…」
・・・もちろん。”モノを動かす”ダケならセトでもできるけど、
でも、水は”水素結合”によって互いに結ばれているから”重力”で引き剥がすのは・・・もちろん。不可能じゃないけど・・・効率が悪い。
『フリュリュー!』『ピリュゥ!』
「にゃあ〜…扉に貼り着いた氷が『ペリペリ』剥がれていくです…」
「…大したもんだな。」
「さすがお嬢様です!」
知識と力は”使いよう”
物理を駆使してスマート力で解決しよう!
「・・・っ・・・」
・・・ま。
ソレはいいとして・・・
「・・・ぅぷっ!?」
「マシェリィ!?」「おい!」
・・・実を言うと。
私・・・
「う〜・・・ぅ〜・・・」
数日前から”ツワリ”が始まって。
絶不調だったりする・・・
「エ、エウロス!マシェリに新鮮な風を…」「よ、よし!」
「…無理すんなったろ!ったく…」
話に聞いてた”食事”や”匂い”で気分が悪くなるコトは無く、
普通に旅する分には大丈夫なんだけど・・・
「・・・うぅぅ・・・やっぱり。魔法を行使するとメだなぁ・・・」
・・・どういうワケか。魔法を使った途端、
気持ち悪さが襲ってくるのだ・・・
『『グクルルウゥ…』』
『『ヒュピルルゥ…』』
「・・・ご、ごめんね。もう、還っていいから・・・ど、どうも。ありがと・・・」
『『クルルゥ!』』
『『ピルルゥ!!』』
行使”できない”ワケじゃないんだけど、
魔法を維持するのが難しいのだ・・・
「無理しないでマシェリィ…。何かあっても。ぼくらが何とかするから…」
「…魔法は禁止ったろ!?」
「・・・うぅぅ・・・」
魔法の使えない私なんて。
タダのわがまま”食いしんぼ”である・・・
「ね様ぁ…大丈夫?」
「・・・ん、んぅ・・・し、心配かけてゴメンね。ティシア・・・」
「…やはり辛いようだな。暫く休んでいろ…」
「・・・ごめんなさい。ゲオ様・・・」
「お嬢様!お茶…い、いえ!お水を…」
「・・・ありがと。ローズさん・・・」
ツワリは妊娠の影響で体の構造やホルモンバランスの変化によって引き起こされるといわれている。
当然の事ながら、人間の”正常な生理現象”であるため
治癒魔法で治すコトができない・・・
「・・・んく。んく・・・」
「…よし。よし…」
症状の内容も期間もヒトそれぞれ。
体質にも因るし、体調や環境にも因る
チェルシーお母様は比較的”軽”かったらしいケド、
私のソレは立っていられなくなる位にヘビーなモノだった。
・・・でも。
魔法をきっかけにツワリの症状が出るなんて話。
コレまで聞いたことも読んだことも無いんだけどなぁ・・・
「・・・ふぅー・・・ありがと。ローズさん・・・」
「恐縮です…」
・・・ま。
魔法は術者の体調や気分の影響を受けるモノだし、
魔法行使でハイになっちゃう”魔法に飲まれる”現象
なんてモノもあるのだから
妊娠との相互作用で思わぬ結果を引き起こす可能性も
否定できない。
私は”たまたま”そういう体質だった・・・と、
受け入れるしかない・・・
「…マシェリィ。何度も言ってることだけど…」
「…魔法行使は禁止だ!いいな!?」
「・・・む、むぅ・・・」
「そーだよ、ね様!2人の言う通りだよ!赤ちゃんに何かあったらどーするの!?」
「…自重できぬのなら。魔族のもとに戻るしかないな…」
「そ、それは・・・」
「…お嬢様。道は私どもが切り拓きますから…」
「ゆっくり休んでいて欲しいのです…」
「・・・・・・」
・・・ただ1つ。
確実に言えるコトは・・・
「・・・うぅぅ・・・・・分かったよ。無言でいるよ・・・」
「「「「当たり前だ(よ)(です)!」」」」
「・・・ぐぅ・・・・・・」
・・・正しいのは皆で。
間違っているのは私だというコトだ。
「…おい。蛇と星。出しっぱなしじゃねーか?還せよ…」
「・・・こ、この子達には10年分くらいの魔力を与えてある。当面の間は補給無しでも動いてくれる・・・」
「10年分んぅ!?…ちょっ、ちょっと想像つかないんだけど…ま、まあ。マシェリの体調はマシェリがいちばん分かってるだろうから強くは言わなけど…。無理はしないんだよ?」
「・・・ん、んぅ。無理しない・・・」
「…苦しむのはお前だけじゃないんだぞ?」
苦しむのは自分だけじゃない・・・
その言葉はホルモンの力で強制的に”母親”にされつつある私の心を深く抉る
「・・・わかってるよ・・・」
治癒魔法での自己診断・自己治癒(これも理由はよく分からないけど、治癒魔法は行使してもツワリの症状が出ない。天使の忖度を感じる・・・)に加え
【天使の祝福】も受けている私に
流産や死産の可能性は殆ど無いだろう。
でも、だからといって無理をしていいハズが無い
「…ほら。」
「…行くよ?マシェリィ」
「・・・ん、んぅ・・・」
こんな状況でドワーフの古代遺跡なんて
踏破できるのかなぁ・・・?




