Chapter 002_花の種
「・・・」
カレント2,187年
恵土の月45日 天気は晴れ・・・
「…どうかされました?お嬢様?」
・・・朝食後。
身支度を整えたみんなの健康診断をするのは
私のルーチンワークだ。
早期発見!早期治療!!
その言葉は、異世界に行っても
医療の真理・・・
「…風邪か?」
健康診断に使っているのはモチロン。お馴染みの
治癒魔法第1階位 【診断魔法】
正しい診断を下すには“術者の知識”が必要で。
診断結果はソレに依存する・・・と、いう意味で、
この魔法は最低位にして最難関の治癒魔法だと
私は思う。
また、
どんなに知識があっても。どれほど適性があっても。
自分自身を診断すると自身の希望・・・”こう”ありたい・・・と、いう願望や、先入観が邪魔をして客観的な診断を下すのが難しい魔法でもある。
・・・けれど、自分自身の診断は
”できない”ワケじゃ、ない。
「・・・すー・・・はぁ〜・・・」
深呼吸して心を無にし
「・・・『祈り込めて』・・・」
”術者を”では、なく。
瞳に映らない”だけ”の対象・・・
”いち患者”・・・と、向き合う。
「・・・『擁する』」
冷静に客観的に第三者視点で“いつもと違う所”を
探す・・・
「・・・ダイアグノーシス」
・・・
・・
・
「・・・・・・うそ・・・」
これまで私にはサリエルがいたから
完璧な健康管理ができていて。
カウンセリングも完璧で。
相談にも乗ってもらえて。
だから、
”期待以上の結果”も、”最悪の結果”からも
瞳を逸らすこと無く。
向き合うことができていた。
でも、今回は・・・
「風邪ぇ!?だ、だだだ大丈夫かい!?マシェリィ!?!?」
魔王様にサリエルを貸したのは
私だ。
「ね様…きょ、今日は!お休みする!?」
妹の為にこの躰を捧げると決めたのも
私だ。
「・・・・・・だ、」
でも・・・
「・・・だ、大丈夫。身体は・・・せ、”正常”。だから・・・」
こんな結果・・・
「・・・し・・・しゅっ、出発。しよう・・・」
・・・誰が。望んだと?
どう、受け止めろ。と・・・?
「「「「「…」」」」」
・・・
・・
・
・
・・
・・・
「・・・ウリェ・・・」
「…ここに………」
夜・・・
「・・・早い。」
・・・月のない
夜。
「ふふふ…いつ喚ばれてもいいように。構えておりました!」
「そう・・・心配かけて。ごめんね・・・」
私はひとり。
聞き耳をたてないようにシュシュに言い聞かせて。
風を読んだら嫌いになるとフルートを脅して。
付いてこないでとルクスに命じて。
満天の星空に少しでも近付きたくて。
灰の野原に魔法の尖塔を立ち上げて・・・
「いえ!むしろ…早く喚んで頂きたく…」
その上で・・・星たちに見守られながらひとり
「・・・どうして?」
「…ロード。っ…」
・・・お腹に。
手を当てて・・・
「・・・ね。どうして?どうして。どうして・・・どうして?なんで・・・」
「…」
「・・・コレが・・・罰だとでも。言うの・・・?」
「…そr「じゃあ、なんでよ!?」…」
「なんで!?ね!なんでよっ!!なんでなんでなんでっ!?!?・・・よ、予防も。対処もしたのよ!?なのに・・・っ、なんでっ!?なんでっ。なんで・・・・・・なぜっ・・・」
「…」
「なんでよ・・・」
「っ・・・」
「・・・っ・・・こ、っ・・・」
「こっ・・・こんなの・・・」
「・・・こんなのって・・・な、ない。よ・・・」
『…』
『『『『『…』』』』』
「…」
黙って聞いて欲しい・・・
・・・そんな。
私の我儘を受けた星と。蛇と。天使は
静かに。
私の言葉を読み続けてくれた・・・
「私・・・自信。ないよ・・・」
「・・・愛せるハズがない。アンナやつの・・・お、思い出すのも嫌な!苦くて臭くて暑苦しいアノ時の・・・だ。って・・・お、思い出す度に・・・
・・・殺したく。
なっちゃい。そうで・・・」
「・・・怖い。」
「・・・っ。だっ・・・だ、だって!だってだって!なんて言えばいいの!?「お父さんは?」って・・・そう、聞かれたら・・・な、なんて。なんて・・・」
「なんて・・・」
「・・・・・・・・・分かんないよ・・・」
「・・・」
「・・・ごめんね・・・」
・・・実は。
治癒魔法をもってすれば、“それ”をするのは簡単だ。
「ごめんなさい・・・っ、ご、ごめんなさいっ・・・・・・っ。っっ・・・」
倫理的な問題は別として・・・”ソレ”は
体内に侵入して栄養価を奪い取る”寄生生物”と”見なす”ことができる。
・・・ならば話は簡単だ。
まず、解除魔法で”機能停止”させて。
次いで、外科処置魔法で物理的な”ライン”を寸断。
タイミングによっては
”残骸”を切開して取り除く必要があるんだけど・・・
だいたいの場合
24時間以内に自然排出される・・・
「・・・」
リブラリアにも”望まれない子供”・・・と、いう
悲しい現実が存在する。
故郷であるエディアラ王国は宗教上の理由で如何なる理由があっても我が子を殺害すると極刑だけど、
“生まれる前”であれば話は別。
“そういう問題”を抱えたお金持ちは
倫理観や尊厳や罪と罰から瞳を背け。
豊穣と繁栄を謳う女神を祭るシスターに
堂々とこう言うんだ。
「まだ、綴られていないから」っ。て・・・
「っ、っっ・・・」
事情は察する・・・
・・・そんな、知ったようなコト言いながら私は
影で彼女達を軽蔑していた。
自分が”それ”をするだなんて、
夢にもみていなかった。
命の理はいつも、
大事な時ほど。我儘を聞いては
くれなかった・・・
「・・・す、すー・・・はぁ〜・・・」
・・・いいえ。
私は悪く無い・・・
悪いのは全部ヤツだ。ヤツらだ。
呪われた花だ・・・
「・・・こ、この手は何を為せるだろう この力は誰が為・・・」
・・・そう、自分に言い聞かせながら
「・・・小指に薬を」
唱える私の・・・
「人差し指に毒を・・・」
「…」
・・・正面から
「祈り込めて・・・」
「…ロード。1つだけ…」
地球の名を冠した星が・・・
「…ロードの。今、いちばん身近に在る者は…」
・・・今。いちばん。
「”こう”考えております………」
聞きたくない・・・
「…生きたい。と…」
・・・言葉を。
「っ!!!!」
っ〜〜〜!!!
「っ、っっ〜・・・そ、そん・・・」
「…いいえ。分かっておりません」
「だっ!!・・・ばっ・・・っ・・・」
「…お叱りならこの天使が幾らでもお受けしましょう。ただ…私は。後悔して欲しくないのです。他でもない、我が母に…」
「っ・・・っっ・・・で、」
「魔王も。神をも葬った【真理の具現】であるロードが何を弱気になっているのですか?不可能など、あろう筈がありません…」
「で・・・」
「…ロードは”魔女”なのですよ?ズルく。賢く。強かに…”こんなことも在ろうかと”…と。”役だ出せてやれ”ば良いのですよ。」
「そっ!?・・・・・・わ、私。は・・・」
「…えぇ、えぇ。もちろん。分かっていますとも。この天使は…すべて。分かっておりますとも…」
「・・・・・・も・・・」
「…ロード。その種子は貴女に根を張り貴女の力を借り貴女が育てる貴女の半身です。DNAが何だというのですか?必要なものは貴女の愛…ただひとつです。」
「・・・、」
「…大丈夫です。ロードの母君も…お祖母様も…そして祖先も。…みな。同じ不安を抱きながらも冬を乗り越え…だから。今ここに。ロードが居るのですよ…」
「・・・」
「私はもちろん。星も『…、!』。蛇も『『『『『ブシュルルルゥ!!!』』』』』。頼れる仲間も直ぐ側にいるではありませんか?これ以上の布陣は無い…と。他でもないロードがお考えになった仲間は…頼りになりませんか?」
「・・・それ。は・・・」
「…大丈夫。妹君も逞しい…と。今回の一件で分かったでは有りませんか?お仲間の2人も…負けてしまった…とは、いえ。…最後の最後まで。戦ってくれたでは有りませんか…」
「・・・ぅ、ん・・・」
「…大丈夫。みんな祝ってくれますよ…」
「・・・そ・・・ぅ・・・かな・・・」
「そうですとも!」
「・・・こ、こんなタイミングで。って・・・お、怒らない?・・・かな・・・?」
「まさか!?…そんなコト思う者居るはず有りませ!長い時を共にし。命を預け合った”仲間”…家族…では、有りませんか…」
「・・・ん・・・」
「…そうと決まればロード!この後さっそく、皆を集めて告げてしまいましょう!!」
「うぅ!?・・・い、今ぁ!?こ、心の準備が・・・」
「そのようなモノ既に在るではありませんか。…ソレに。早く言わないと…」
「・・・う?」
「…いえ、実を言いますと。侍女長殿は既に勘づき始めておりまして…」
「・・・う?・・・うぅぅうぅ!?!?う、嘘・・・でしょ・・・?」
「…信じられないのは。私も同じですが…」
「・・・だ。だって・・・ま、まだ。21日・・・さ、3週目・・・だよ?わ、私自身。自覚症状が無いのに。なんで・・・」
「…測りかねます。」
「・・・」
「しかし…困った事に。侍女長殿は確証を得たらスグに容疑者2名を細切れにするつもりのようです…」
「・・・細切れ!?・・・や、やりかねない・・・」
そこまで話をするとウリエルは
「…さぁ!」
私”たち”をヒョイと抱え上げ・・・
「きゃあ!?」
ドキドキの胸を抱えた私を
「行きますよ!ロード!」
無理やり明日へ
連れ去った・・・




