Chapter 062_魔女の証明
「「げっ…」」
妹ちゃんと共にぼくの背で眠りに落ちたマシェリを
ベッドに寝かせたのは昨日…いや、夜明け前の今朝のこと。
「…なんで小僧がコンナトコロに?」
昼過ぎに目覚めたマシェリは先ず、
ローズちゃんとゲオ君の様子を見に行って。
ぼくとお耳ちゃん(ついでに小僧も…)を労ってくれて
遅れて目覚めた妹ちゃんと
お腹いっぱい、ご飯を食べて。
「話をしたい…」という魔族を「・・・また明日。」と、言葉少なに突っぱねて。
召喚獣の力でベッドの上に浮かび上がり。お耳ちゃんに顔を埋めて抱き締め…
「…チビ。お前こそなんでココにいる」
…そして夜。
珍しく思い詰めた表情で食事を済ませた彼女は
さり気なくぼくに寄り添い。そして言った
「・・・月が昇ったら。部屋に来て・・・」
………
……
…
「なんでって…マシェリに呼ばれたからだよ!」
夜。
マシェリが自室にぼくを呼ぶことは少ない…と、いうか。そんなコト
これまで1度もなかった。
ぼくの方から押しかけたコトは何度かあったけど…
ローズちゃんに殺されるか、気付いたら廊下で血塗れの状態で寝転がって(おそらく、お耳ちゃんの犯行…)おり、彼女の姿を拝むことすら叶わない。
ぼくが彼女に会えるかどうか?は。運と…何より、
彼女の気まぐれに支配されているのだ。
「マシェリは”ぼく”に用があるのさ!邪魔者は消えな!」
そんな中、もたらされた
愛しの彼女からのお誘い!?
まして今は、彼女の宝物と彼女自身を助け出した直後!
もしかしたら…キ、キスと指と…それ以上は
決して許してくれない彼女が…
…つ、ついに!?
否が応でも期待してしまう!!
…そう思って。
意気揚々と彼女の部屋へ向かったというのに…
「…命令されたから居る。…仕方ねーだろ」
…コレである。
「はあぁぁぁ〜…小僧”も”。か…」
小僧と共に呼び出された…と、なると。
呼び出しの理由はぼくの”期待外れ”。
扉の先には、マシェリに抱かれてご満悦のお耳ちゃんが居るコトだろう。
隙だらけのマシェリ…は、ともかく。
撫でられながらでも一切の隙を見せない”最速”のお耳ちゃんが
いる中で。マシェリに近付くなんて自殺行為でしかない…
「何だと思って来たんだよ…」
「ぶぅえ〜つにぃ〜…」
殺される事には慣れてきたし、天使なマシェリの慈愛に満たされると思えば
むしろ、ご褒美ですらあるけれど…
マシェリの意向に背いて
また、口をきいてくれなくなったら、堪らない
今夜も生殺しで返されるのかぁ…
「…ったく。」
…そう思って。
落胆し。
「はぁ~…」
愛と欲望を多分に含んだ溜息を吐いた
ぼくの隣で
「…行くぞ。」
ノブに手をかけた小僧に
「…」
無言で同意し。
『キィ…』
ぼくは…ぼく達は
「「…」」
足を踏み入れてしまった…
「・・・」
無限の引力が支配する
その部屋へ…
………
……
…
「…え………」
「お、おい…」
…ソコには
「・・・ね。」
…ソコには夜があった。
太陽すら内包して、なお黒い。
無限の宇宙があった…
「・・・聞いて。」
窓際の彼女は
昇ったばかりの月と、数え切れない星で
躰を濡らし。
熱く艶かしく立っていた。
…頼りない夜色の衣を1枚だけ
羽織っていた……
「・・・”あいつ”。私の躰を見て言ったの。小さくて。貧相で。”かい”が無い小娘だっ・・・って・・・・。・・・そう。言ったの・・・」
…喉を鳴らすことさえできずに佇む
ぼくらを放おって
彼女は”御伽噺”を続けた。
決して綴られることの無い
「花のエルフが”どうして”滅ぶことになったのか?」と、いう。
歴史の秘話を…
「・・・”そう”思うならスルなという話。小娘相手に、情けない声をあげるな。という、話・・・」
ドス黒い汚れと怨みを 薄い柔肌で包んで輝きに変え。
強かな笑みを 乙女の涙で星に変えて。
破滅の魔女は悲劇のヒロインに変わった。
ソレは、もう。
【魔法】と呼ぶに相応しい。
まほー仕掛けの我儘だった…
「・・・偉大なお母様と。優しいお父様から貰ったこの身体を否定するなんて許さない。そんな男に生きる資格はない・・・。・・・ね?2人も・・・そう、思うでしょ?」
月の天使
母なる星
夜の女王
万象の支配者である彼女に
「・・・この髪も。この肌も。この身体も。この色も・・・この熱も。全部、私の自慢なの。全部が・・・きっと、絶対。美しいわ・・・」
奴隷身分の惨めな男が
敵う道理は無い
「・・・だから・・・ね?」
だから、ぼくらは
魔女の喉に魅力され。
魔女の指先に躍らされながら…
「・・・証明して。」
魔女の唱えた物語に
命を賭けなければならない。
罪を被らなければならない。
責任を取らなければならない。
愛を授かる
見返りに…
「・・・この身体がキレイだって・・・」
…きっと。瞳に夜を映した
あの、瞬間から…
「・・・私が。キレイな乙女だってコトを・・・」
ぼくらはきっと、
魔法にかかっていたんだ…
「・・・・・・証明して。」
全てを飲み込む
引力のまほーに…




