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まほー(物理)  作者: 林檎とエリンギ
10th Theory
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Chapter 059_洛花の夜④

「「「「「…」」」」」


初めて入る…どころか。

初めて()の当たりにした【集会場】は

想像していたより、大きな建物だった。


神族様と人間と魔族と、ちょっとのドワーフ…合わせて

3,000人以上いるとされる【ベラドンナの里】と【下種の里】の民。


“御触れ”を読んだ避難民(ボクたち)全員を漏れなく

包んでしまった…



「歩けない人は置いていけ。」

「月が下り始めたら閉鎖する…」

なんて、

言われていたけど。


背負われてやって来た老人。

深夜にようやくたどり着いた怪我人や病人まで


神族様は労いの言葉と共に”当然”…と、ばかりに

手を添えて集会場へ招き入れてくれた。



【召使い】に【奴隷】…

そんな風に綴られているボク達だけど

神族様はボク達を「どうでもいい」だ

なんて、思っていない…


危険な外に立ちはだかって。

その身を挺して守ってくれた。


神族様は確かに、ボク達を必要としてくれている…

ボク達は、この【ベラドンナの里】の民なのだ!と、

改めてソレを実感できた。


蒸し暑くも静かな夜だった…




「すー…すー…」


心配していた幼い妹も

父の腕の中で静かな寝息を立ていた


出発前にグズっていたので

知らないヒトが大勢いる避難所に行っていいものか?

悩んだけれど…ナンのことは無い。


黄昏の道…避難の途中…で

”馬車に揺られ”始めた妹は。

集会場に辿り着いた頃には既に


夢の物語の住人だ。


ボク達の不安も。

避難所の熱気も。

神族様の緊張も。

常夜の気配も


何も知らずに健やかな寝息を立て。

柔らかな頬を涎で汚すその姿に



7,000年の時を経て現れた魔女も。

4輪の幻獣も。黒を深める混沌の夜も。


全て、

恐ろしいお伽話を読んだ夜に見る“ただの悪夢”

なんじゃ、ないかって…



「くー…くぅ〜…」


…そんな平和な。

”夢”をみていた…


………

……





















「…ァ君。フヮァ君。」


夜半過ぎ…



「んんぅ…」


…家族で丸くなってウツラウツラしていたボク。

けれど、聴こえてきた呼び声に気付き



「…んわっ!?」


『パッ』っと目を覚まし飛び起きると…



「ひゃっ!?」


…ソコには。



「…れ?」

「…」


…中途半端に伸ばした指をそのままに、

肘を胸元まで引っ込めて

驚いた顔でコチラを見る…



「…モデレート…さ。ま…?」


…彼女がいた。



「…あ。あはは…は…」


傍らにホタルブクロ(【光蟲】入りのようで、仄明るい光を灯している…)を

置いていた彼女は…



「…お。おはよ…う…?」


イタズラが見つかって恥ずかしいような…

含みのある苦笑いで頬を掻いたのだった…



『ススッ…』


家族を起こさないように…気を付けながら



「…?」


「なに…?」と、見つめ返すと…



「…着いてきて。」


手を添えてボクに耳打ちし。


灯りを手に

立ち上がったのだった…



「…」

「…?」


なんの説明もなく…振り返りもしない…



「…」

「???」


…そんな。

彼女に困惑しながらも



「しょっ…」


立ち上がり…



『ザッ、ザッ…』


芝生でできた集会場の床を。できるだけ”軽く”踏みしめながら

涼やかな(あゆみ)に合わせて揺れる

長い銀の髪を追った…











「たかーい!」


急な階段に…ハ、ハシゴまで登って///!?


後を追っているボクの身にもなってほしい!

と、

何度も思いながらやって来たのは…なんと!

【世界樹】の中腹にある穴…樹の(うろ)であった。



「う、うわぁ…」


凄い所に来てしまった…



「ね、ねぇ!?」


こんな神聖な場所に…人間のボクが来てしまったのは

どう考えてもマズい!!

とか、


こんな時間になんの用!?いや、マジで!!

とか、


スカートなのにホタルブクロ咥えてハシゴ登るなんて、

“お転婆”を超えて、”ハシタナイ”よ!

とか、


言いたいことはいっぱいあったけど…

と、取り敢えず!



「し、しーっ!!」


深夜に大声出すのは止めましょう!

下には親族様が沢山いるでしょ!!

もしバレたら。君は良くても…


そう、怖気づいたボクに



「ココまで来ればヘーキよっ!」


…あくまで明るい彼女は。

ホタルブクロを洞の入口にある花瓶に

『そっ…』と挿して…



「…見て。」


地上の…



「…うん?アレ…?」


夜を犯す篝火(かがりび)に照らされた…



「建物…?」


…石造りの”砦”のような建物を

指差したのだった…



「…【檻】とか。【娯楽施設】とか…あるいは。【花園】…と。呼ばれる施設よ…」


森の中…【里】から、さほど遠くない場所…に存在する謎の砦…



「?…へ、へぇ………」


…【里】に17年も暮らしているけど。

あんなモノがあるなんて知らなかった…



「…魔女は。今。あそこに居るハズよ。………父様と。一緒。に。ね…」

「え…」

「………あそこは。ね…。…よ、良く言えば”更生施設”なの。私たち(エルフ)に従わなかったり。危険な思想を持ったヒトを教育するための…」


教育?更生施設?

そして…


【花園】



ハナゾノ…


「ひょっとして…”あの”。ハナゾノ?」

「…」

「…え?えっ!?…い、いや…だ、だって!アレは物語の中ダケの…」


ボクの言葉に



「…物語に。ちゃんと…つ、”綴られて”。いた、で。しょ…?」

「…」


そ、そん。な…



「…【花園】は。ね…」


漆黒の森に微かに照らされた不気味な建物を

見つめていたボクに。彼女は…



「【花園】は…よ、夜だし、ここからじゃ分からないけど…。…周囲に幻覚作用のある花が植えられているの。私たちは子供の頃から無毒化するお茶を飲んでいるから平気だけど。普通は…みんなは…違う。」

「…」

「花粉を吸い込むと判断能力が鈍くなって。”周囲のヒトの言葉を鵜呑みに”してしまうらしいわ。要するに。”いいなり”になってしまうの…」

「っ…」

「魔女…さん。は…。…今。あそこで”再教育”されているハズよ。花の毒は”魔法じゃない”から。彼女に抗う術は…たぶん。無いわ…」

「…」

「…彼女をあそこで”教育”……し、躾けた…って。古い記録まで。あったわ………」


人間のボクが知ってはいけない話を淡々と

語る彼女に…



「ど、どうしてボクにソンな…ソ、ソンなコトを…?」


とてもじゃないけど受け止めきれない

特大の秘密に狼狽えながら問い詰めると…



「…ツラい。からよ…」


彼女は…



「…い、言ったでしょ!?魔女さんは”普通の女の子”に見えたっ…て。…わ、私と同じ…す、少し幼いくらいの女の子だったって!」


「…」


「さ、”再教育”…って。そ、そういうコトよ!そういうイミよ!分かるでしょ!?」


「そ………うん…」


そういう話…いや。

そういう”物語”は確かに。読んだコトがある。

で、でも!ソレは大昔の話だ…って…



「…」


…何も言えずにいたボクに



「…かわい…そぉ……」


彼女は…



「可哀想………そ、そう!そう、思わない?」


…優しすぎる。純情すぎる。

彼女は…



「た、確かに昔!!悪い事したのかもしれないわ!でも…も、もう7,000年も経っているのよ!?もういいじゃない!自由になりたいって…そう思ったっていいじゃない!!自由にしてあげたって…い、いい。…じゃ。ない…」


洞の縁から伸びた太い枝の上で

美しい涙を流す彼女は…



「っ…」


『ギュウッ』っと、自身の爪が食い込むほどに

小さな手を強く握り締めた。彼女は…



「…っ!」


『キッ!』と…

決意に満ちた顔をボクに向けて



「…助けてあげたいの!」


父なる大樹の上に立ち

母なる風に髪を靡かせ…



「ずー…っと利用されて…し、死ぬ事もできなくて!未だに利用される可哀想な女の子を助けたい…ね、ねぇ!私の考え。間違ってるかなぁ!?」


その。必死の言葉に…



「彼女がしたことは正しいことじゃなかったたかもしれない!でも…だ、だからって!」


…全部知っているワケじゃない。納得したワケでもない。



「…お、お父様相手に。ドコまでできるか分からないけど…」


でも………





















「………手伝うよ。」


…ソレが。



「え…」


彼女の望みだというのなら…



「お、お伽話の知識しかなかったけど…し、真実はモデレート様が言った通りなんだろ!だ、だとしたら”可哀想”どころじゃ無いよ!」


…それが。



「っ!」


彼女に近づく理由になるのなら…



「…ボ、ボクなんかが力になれるか分からないけど…きょ、協力するよ!」


…下心でいっぱいのボクに



「っ〜…!!」


彼女が気づいていたかどうか?は。

分からないけれど…



「…ありがとうフヮァ君!!」


満面の笑みと…



「うわぁ//////」


…ヒトの温もりを抱き。

(ベラドンナ)の香りを嗅げたのだから…






「…ご、ごめんね///」

「う、うぅん…///」

「わっ///私ったら…///」



…顔を赤らめた彼女はスグに距離をとってしまった。



「…///」

「//////」


けれど…



「…///」

「っ〜…//////!そ、そんなに見ないでぇ、、、、、、」

「//////」


…憧れの。天上人ではなく。もっとも身近な…

憧れに近づけた…これからもっと、近づける…という



「もっ///…も、もうっ!からかわないでよね!」


幻覚に侵されたボクは



「あ、あはは…ご、ごめ…」


…頬を染め。

恥ずかしそうにしている彼女の顔しか。

見てなくて…





















「…へっ…」


…背景を支配した夜闇に



「あっ…」



花が引き落とされる

その姿(さま)



「…」


何も…身振りひとつ…


できずに



「………」

「…、……!!」


叫び声さえ奪う闇に

散る花弁を。



「…」

「…」


…ただ。

見送った…

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