Chapter 052_栄華極めし花の森
林檎です。
本話から、すこし短めのお話が続きます。
ご了承くださいませ・・・
「・・・行ってくる。」
毒花からの脅迫文が届いたのはティシアが連れ去られてから5日後のコトだった。
文によると、
妹は世界樹のある【ベラドンナの里】・・・毒花どもは”聖都”なんて
大層な名で呼んでいる・・・に捕らわれているとか。
ここ【ローズの里】から【ベラドンナの里】までの距離を考えると少し
早すぎる気がするケド・・・
精馬を乗り継ぎ。
船で湖を渡れば不可能じゃない。
大勢の魔族に加え。シュシュとフルートの
目と耳と足と喉をもってしても見つからない以上、
罠と分かっていても。
誘いに乗るしかなかった・・・
「…本当に済まない。お姉ちゃん…」
「・・・」
「申し訳の言葉も…」
「・・・・・・・・・」
・・・いちお、今回は隷属化されないように対策を取っている。
長期戦になってもいいように、薬や食料も準備している。
ヒュドラもいつだってとび出せる!
ケド・・・あの子の顔を見せられたら
私は。きっと・・・
「ご主人様…」
「・・・んふふふ。心配いらないよ。シュシュ・・・」
「………はい。です………」
相手は”ただの”ヒト・・・不老な”だけ”が取り柄の耳長だ。
シュシュやフルート。ルクスみたいな特級戦力が出てこない限り
遅れを取ることはない・・・とは、いえ。
この短期間で私の弱みに気付き、
“あの”ゲオ様を退けた相手だ。
油断はできない・・・
「マシェリィ…ほ、本当にご…」
「・・・メ。」
「っ///」
「・・・その言葉は・・・もう、聞き飽きた。・・・もう、十分・・・」
「…で、も………」
「・・・それより・・・引き続き。あの子の足取りを追ってね。信じてるから・・・お願いね。フルート・・・」
「っ………わ、分かった…よ………」
ひとつ良かったコトは。
コチラもオーボエ・・・とかって、名前の
族長の実の息子を捕虜(みんな忘れているカモしれないけど、魔王城でシュシュが瞬獄〇した耳長)として捕らえているコトだ。
オーボエは族長の実の息子で、次期族長候補ナンバーワンだというから・・・
交渉の余地はあるハズだ。
人質交換なんて趣味悪いケド、
相手もやっているので、四の五の言っていられない。
「…気をつけてね。」
「・・・ん。・・・フルートも・・・ね・・・」
「うん…」
「・・・」
『『ちゅっ…』』
心配しているのは、毒花が
【私】ひとりを標的にしている
というコト・・・
ドゥーチェちゃんと魔王様を解放し、
オーボエを捕まえ、
哲学者であるフォルテピアノを倒し、
ローズの里を陥落させたコトを知っているハズなのに・・・
脅迫文にはソレラについて、全く触れられておらず。
ただ、妹を人質に捕っているというコトと、
私ひとりで、ベラドンナの里に来い・・・と、いうコトだけが綴られていた。
「ルクスも・・・2人を。みんなを・・・お願いね。」
「…」
「・・・う?お返事は?」
「…ったく!」
「・・・お〜へーんーじ〜h「…ったよ!」・・・んふふふ。いい子。いい子・・・」
「っま///」
「・・・んふふふふふ!」
「///…ったく!」」
毒花達の狙いは私・・・そう、私・・・魔女だ。
・・・確かに。
もし、私を手に入れられれば
ヴェルム・ウェルム大陸の再統一も簡単だろう。
でも、
私を隷属化することはできないし、
精神支配しようにもウリエルの加護があってできない。
毒や薬を飲まそうとされればヒュドラが肩代わりしてくれるし、
万が一、飲み込んじゃっても
堕天使の加護で”なんとか”なるだろう。
・・・もちろん。
物理的なダメージを負うツモリなんて、
万にひとつも無い。
「・・・ルクス。だっこして・・・」
「はぁっ!?」
「・・・抱っこ。めーれー」
「っ///…」
「・・・んふふふ!・・・んふぅ〜//////」
「…///」
「・・・」
「…」
「・・・・・・ん、んぅ・・・」
「っ//////」
「・・・・・・・・・かたぃ・・・///」
「んがぁっ!?!?////♂♀////バ、バカなコト言うな!き…き、筋肉だろうが!?」
「・・・う?筋肉・・・ま。そゆコトにしといてアゲル・・・」
「っ〜…///////」
「んふふふふふっ・・・」
ティシアに近づくコトさえできれば・・・
ソレさえできれば。
あの子に潜めたヒュドラの力でどうかできる
そう・・・
今回は、前回とは違う。
対策もとったし、
考えられる限りの準備もしてある。
きっと大丈夫だ。
きっと・・・き、きっと!
「・・・それじゃあ・・・そろそろ。ホントに行くね・・・。」
瞳の隅に映る
小さな影と不安なんて・・・
「う、うん…す、水龍で行くんだよね!?な、なら!途中まで送るよ、お姉ちゃん!」
「…どうか。お気を付けてくださいませご主人様………」
「気をつけてね。マシェリィ………」
「…せ、…せーぜー死ぬなよ。」
「・・・ん・・・」
・・・きっと。
幻だ・・・
「・・・行ってきます・・・」
・・・
・・
・
「お前が”今代の”魔女か…ふむ。」
「・・・」
ベラドンナの里は、噂に違わぬ美しい都市だった。
世界樹と、その傍らにある集会場を兼ねた族長の家・・・さながら、お城のような・・・があって。ソレを中心に放射状に木道が敷かれ。道端には色とりどりの花が咲き乱れ。水場やベンチも沢山あって・・・緑と人工物が完璧な都市計画の元に融合された
“桃源郷”のような場所だった・・・
「…まさか虹に…いや。龍に…乗ってやってくるとはな。こんなにはや…」
「・・・手段も日取りも書かれてはいなかった。問題はないでしょ?」
「…そうだな。問題は無い。無いが…しかし。礼儀がなっとらんな小娘」
「・・・それはそれは・・・育ちが悪いモノでして。御生憎様ね・・・」
「…」
・・・ハッキリ言って。
ベラドンナの里は平和そのものだった。
ローズの里で起きたイザコザを・・・そして、
私がやって来た理由を・・・”真実”を知らない里のヒト達は
突然、虹の尾を引く龍を4柱も連れて現れた私に驚き
恐れ慄き逃げ惑った。
・・・ソレはソウだろう。
“魔女はワルモノ”と綴られ信じられている民族の。その中心都市の真ん中に
どう見ても魔女な魔女が魔女っぽい方法で突然やって来たのだから
驚き、怖がるに決まっている。
侵略者は・・・里の平和を脅かすワルモノは・・・
私だ。
「はぁ〜…まったく。度し難い…」
でも・・・ん、んーんぅう!
それでも、揺らいじゃメだ!!
ココまで来て。今さら後には退けない!
毒花達は”それ程”のコトを・・・い、妹を拐ったダケじゃ無く・・・
ドゥーチェちゃんやカエン様・・・魔族や人間のみんなに
酷い仕打ちをして甘い蜜を吸ってきた。
何も知らない市民・・・とは、言うけれど。
誰ひとりとして無関係じゃない。
この里の花々は沢山の血と涙・・・自分たちの”ではない”・・・
悲しみと悔しさを糧に咲き誇っているのだ・・・
「・・・」
・・・そ、それに!
そもそも私は戦争をしに来たワケじゃない!
ただ妹を返してほしいダケだ。
素直に返してくれる・・・とは、思えないケド・・・
ひ、必要以上に脅したり壊したりはしない”つもり”だ。
準備は万端・・・イザという時の隠し星もある。
「…いいから。サッサとコッチへ来い…」
あとは・・・
「…神父様がお待ちだ」
「・・・ん・・・」
・・・唱える
ダケだ・・・




