Chapter 044_夜明けと共に
「姉様への手紙…確かに預かったよ。」
「刀に関しても。落ち着いたら晶ドワーフに必ず依頼させて頂きます!」
ドゥーチェちゃんこと、櫻ちゃんの最期の願いを
私ひとりで解決するのは難しい。
特に、櫻ちゃんの3つ目の願いはカエン様への言伝だから。
(復活は、早くて100年後の)彼女に直接伝えるのは不可能。
また、この大陸に来てから1度も会っていないドワーフに
見ず知らずの異大陸人である私が。伝説の妖刀を持って行くのも
ハードルが高い・・・
「・・・お願いします。」
・・・ソコで。
魔族の皆様に櫻ちゃんの願いを伝え。いろきろ手伝って貰うことにしたのだ!
「「願われた(ました)!」」
アミちゃんもルフ様もいい人だし・・・それに。カエン様の
心の支えであった櫻ちゃんの最期の願いと知って協力的だ。
手紙と、妖刀の剣は間違いないだろう。
問題は・・・
「・・・後は。彼女の仲間の行方か・・・」
・・・コレだ。
「…7,000年前の遺体…それもドワーフと獣人”も”だろう?…そんなの不可能だろ。」
「にゃあぁ〜…」
ルクスが言う通り・・・
エルフであるベルリラさんはまだしも、
獣人であるフィフィちゃんとドワーフのヴィルガさんの遺体を見つけるのは
極めて難しいだろう。
でも・・・
「・・・やれるだけ。やってみるしか無いよ・・・」
叶えると約束したんだ!
せめて、ソレくらいのコトはしないとね・・・
「…ま!故郷に帰らなくちゃいけないお姉ちゃんに代わって。ぼくらが何とかやっとくよ!」
「・・・お願いね。アミちゃん・・・」
「願われ願われぇ!」
本当なら私自身がやるべきなんだろうけど、
ヴェルム・ウェルム大陸に居続けるワケにもいかない。
いつか必ず戻って来ようと心に決めて
調査や交渉は魔族の皆様にお願いし。
私達は天空回廊へ向かうことにした・・・
「…さ〜て、それじゃ!ぼくらは皆の元に戻ろっか!」
元気よくそう言ったアミちゃんに・・・
「で、殿下!」
慌てたルフ様が声を上げ・・・
「…うんー?」
「姫様はどうするのです!?」
「あっ…」
ど、どうやらアミちゃん・・・いちばん大事なモノを
忘れていたようだ。
「・・・堕天使のサリエルの翼が固まってできた【卵】には相当な強度がある。たぶん・・・玉座の間から落としても。割れない。」
「ソ、ソレは”そーとー”だね…」
「・・・でも、無敵というワケでもない。座標が固定されてるワケじゃないから。壊せないまでも、持ち出すコトができる。」
「っ!?ソレはっ」
玉座(が在った場所)に近づいた私は
銀の光を仄かに放つ”翼付”の卵を『ちょん、』と突いて・・・
「・・・見ての通り・・・宙に浮いている卵は動かすのも容易い。重量は”無い”と思っていい。殻が割れない限りサリエルは出てこないから。カエン様を守るコトもできない。考えうる最悪のケースは。盗まれて・・・重石を付けられ、海に・・・」
「わわわ分かった!!」
ユラユラと揺れていた卵に駆け寄り
抱きしめたアミちゃんは・・・
「ぼくが付きっきりで姉様を守るよ!」
と、叫んだのだった。
「…で、殿下…」
でも、スグにランタン様が
声を発して・・・
「…殿下はコレからシアリアの王族として、毒花や人間。ドワーフ達。そして何より魔族との交渉という重大なお仕事があります。陛下をご心配されるのは最もですが、そ…」
「そそそ…そ、それがなんだっていうのさ!?」
「…陛下が御休みあそばされている今。この国を導けるのは、殿下。貴方様ダケなのですよ?」
「ぐぬぬ…そ、それはヤマラージャが…」
そう言ったアミちゃんに…
「…、」
「・・・」
“無い”唇から”ため息”を漏らしたルフ様は
「…殿下。コレはできれば言いたくありませんでしたが…お立場と状況をお考えになられていないのでアレば仕方ありません…。」
と、厳しめの言葉を放ち、
「え…」
たじろぐアミちゃんをヨソに
「王位継承権第1位であり陛下の唯一のお身内。しかも、陛下の双子の弟であらせられる殿下が開戦早々、戦線を離脱されたコトがこの国にどれ程の影響を与えたか…お考えになられましたか?」
「うぐっ!?」
「行方不明となったフェンリン。キュリストラーの裏切り。ショックで部屋に閉じこもってしまった陛下と、ソレを守護する為に割かれた人員…」
「しょ、しょれ。は…」
「…殿下。陛下は…貴方様のお姉様は。ソレでも最期の最期まで戦い抜きました。負けてしまった…とは、言え。ご立派でしたよ…?」
「そ…は…」
「…毒花も。里の混乱に瞳を奪われ。陛下のコトは二の次のハズ…当城へ来た者がこれ程少数だったのが。何よりの証拠でございます…」
そこまで言ったルフ様は、無い瞳を
「…時に…夜の魔女”月下”…」
私に向けて・・・?
「・・・それって。私のコト?」
「…畏れ多くも。」
「・・・ゲッカって何?」
「…天に在す銀光の君に…ピッタリかと。」
「・・・・・・」
ル、ルフ様。
新しい敬称を創らないで下さい・・・
「…月どころか。お姉ちゃんは海王すら手のひらの上で転がすおヒトだよね…」
ア、アミちゃんまで!?ナニを・・・
「おぉ!…そうでしたね。…では、なんとお呼びすれば…」
「…天下とか?」
「夜下…?」
「黒下?」
「魔下…」
「・・・ヤめて下さい。せめて”卿”にして下さい・・・」
笑いを堪えるルクスと、困った顔のシュシュを横に
提案すると・・・
「し、しかし…」
「…ま、まあ。この問題はヤマラージャやボルレアスも交えて話さなきゃだしね!」
「…ソレもソウですね…」
「・・・」
不安は拭えないけれど・・・
「…では…魔女様。」
「・・・う?」
・・・とりあえず。
ルフ様の・・・
「この…【卵】?コレは、ずっと光を放っているのですか?」
・・・その質問に
「・・・少しずつ弱くなるけど・・・そうね。割れない限り、光を放ち続ける。」
「この、銀の粉も…?」
「・・・ソノ”ふわふわ”は、粉じゃなくて。魔法の残渣が溢れだして見えているの。つまり、物質じゃない。卵が完全に固まれば・・・たぶん。丸1日くらい経てば・・・消える。・・・あ、あと。”ふわふわ”は健康体には劇薬に成り得るから。出ている内は、近づかないほうがいいよ・・・」
「え゛!?だ、抱きしめちゃったんだけど!?!?」
「・・・ちょっとくらいなら、問題ないよ。」
「な、なら。いいケド…。そ、そういう事は。もう少し早く…」
「・・・ちょうど、注意しようと思ってたトコ・・・」
「…」
・・・すると、
「なるほど…」
ルフ様は。慌てて卵から飛び退いた
アミちゃんに向かって・・・
「…では殿下。この卵…陛下のコトは。しばらくは僕の【隠遁の土留色】でこの場に隠し留め。”ふわふわ(?)”が無くなり次第。マスバラスエ卿の”手”で然るべき場所へ運びましょう。」
頑丈な殻に守られている・・・とはいえ。
さすがに、雨ざらしの廃墟に天上人を置いておくわけにもいかないだろう。
ルフ様の魔術でも卵を隠すことができるけど・・・でも、ソレは”見えない”ようにするダケで。本当に隠しているワケじゃないから”踏み込まれ”たら見つかっちゃう可能性がある。
一方でマス様の【遠手】は不可視・不知覚状態で
卵を安全な場所まで運べる。
けど、”ふわふわ”は原理的に。マス様の手を貫通するから見えてしまう。
と、いうか・・・マス様に”良くない影響”を与えてしまう可能性が高い。
明日までココに隠しておいて。
落ち着いてから安全な場所へ・・・と、いうのは
「・・・いい手だと思う。」
と、いうわけだ・・・
「う、うん!そ、それじゃ。ソレで行こう…」
「殿下。陛下は私が責任を持って御守り致します。ですから殿下は。皆にこの事を伝えて来て下さい。」
「わかったよ!」
話も丸く収まったところで
「ソレでは。ハルピュイアに頼んで先触れを…」
・・・と、唱えたルフ様の声に合わせて
「・・・ん・・・」
強風で靡く髪を押さえながら、
朝の空に瞳を・・・
「…おや?」
「…あれ?」
「・・・う?」
「み?」
「…」
・・・向けたん。
だけど・・・?
「ハルピュイア達…」
「・・・居なくない?」




