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まほー(物理)  作者: 林檎とエリンギ
10th Theory
433/476

Chapter 043_夜櫻②

林檎です。


本話、少し長めです。

ご了承くださいませ・・・

「・・・櫻ちゃん・・・」


【櫻】・・・その名は。

彼女の日記から見出した名前だった。


彼女の日記の後ろ半分・・・この本を見つけたヤマ様は

「暗号…?…独自に魔導の研究でもしていたのだろうか…?」

・・・なんて。

難しいコト考えてたみたいだけど・・・


ナンのコトはない。

宇宙一美しい言語である【日本語】で綴られたソレは。

私と同じ、局所銀河群天の川銀河オリオン腕太陽系第3惑星地球東アジア地域日本生まれの櫻ちゃんによる


思い出話とグチだった。



「・・・起きて、櫻ちゃん。もう、時間がないの・・・」


・・・苗字は分からない。綴られていなかったから。


もしかしたら・・・彼女の前世のアイデンティティに”家族”としての情報は

必要なかったのかもしれない。


でも、大した問題じゃない。

私だって、似たようなものだったから。

それに、それ以外のコトは沢山綴られていたから・・・



リブラリアでの生れは7,000年も違うのに、

前世のユリウス歴は数ヶ月しか違わないコト。

通っていた大学は目と鼻の先だったコト。

彼女も私と同じように理系だけど、専門はちょっと違う・・・

将来の夢は建築士だったそうだ!

カッコイイね!


好きな食べ物は・・・タピオカミルクティー!?

・・・んふふっ!ちょっと古くないw?

私、甘い青茶はダメだから。一緒に飲むならマンゴータピが良いかなぁ・・・


・・・話したい事は沢山あった。



「・・・ん、んんぅ・・・」


けれど・・・



「櫻ちゃん!」


・・・初めて出逢えた同郷の友に残された時間は。

僅かだった・・・



「あ・・・あな・・・」

「・・・私は調(しらべ)っていうの。初めまして!」

「・・・・・・に、にほ・・・」

「ん!あなたと同じ・・・」

「おなじ・・・」

「・・・そ。あなたと同じ・・・魔女で。黒い瞳で。前世は日本人よ・・・」

「・・・・・・」


周りにはみんながいるけど・・・構うものか。


世界を渡っても忘れ得ない日本語(ジャパニーズ)でのお喋りは。

私と彼女の会話は2人だけのヒミツ・・・

・・・決して、綴られるコトの無い。

魔女と魔女によるお喋り(ヒメゴト)だ。



「こ、こ・・・」

「・・・ココは魔王様・・・カエン様の”お家”よ。」

「カ・・・カ、カエ!」

「大丈夫!カエン様は・・・カエン様”も”。無事よ。あなたと一緒に・・・無事よ。」

「・・・」


櫻ちゃんがエルフに日記を取り上げられたのは戦争が終わりエルフに支配され

始めてからスグ・・・1年も経っていない頃のコトだった。


その時既に、お互いを気遣っていた2人は

痛みを分かち合うパートナーだったハズだ。



「・・・カエン様とあなた。2人にかけられていた呪いは私が払ったわ。だから・・・安心して。もう、苦しむ必要は無いの・・・」

「・・・」

「・・・カエン様は、ね。この卵の中にいるの。まだ治療中だから出してあげられないけど・・・本当よ。この中で。ヒナに還って。目覚めの時を待っているの・・・」

「・・・」


本当なら顔を見せてあげたいけど、櫻ちゃんの状態を考えると難しい。

だからせめて、少しでも側に・・・



「・・・そっ・・・か・・・」


・・・そう思って。

彼女を抱え直そうとすると・・・



「・・・治癒魔法?」


・・・予想外にしっかりとした声で。

【卵】から私に視線を移した彼女が呟いた・・・



「・・・ん、んぅ。・・・かなりアレンジしているけど・・・」

「・・・んふふっ。さては・・・倒したわね?アノ死神を。」

「うぅ!?・・・ど、どうしてソレを・・・」

「どうしてって・・・行ったからよ?あの趣味の悪い地下に。・・・教会に依頼・・・と、いうか。脅されてね。」

「うぅぅ!?」

「・・・墓場入るダケでもヤなのに!ゾンビとホネ迷路。ヒトダマ階段に、最後は死神!・・・悪趣味にもホドがあるわよ・・・」

「・・・んふふふっ!どーかん!・・・でも。聖堂まで入ったのに。なんでサリエ・・・し、死神を放置したの?」


「面倒だったからよ!」

「うぅっ!?」


「・・・下の廃墟・・・聖堂?だったの?・・・あの場所に行って治癒魔法の知識を取れるダケ取ってこい!・・・ってのが、私が受けた命令(メーレー)!・・・あんな強そうな死神倒すなんて面倒な仕事。ゴメンよ!」

「・・・な、なる。ほど・・・」


・・・・日記から、元気な女の子なんだろうって

思ってたけど・・・



「あの死神・・・やっぱ。激ヤバ?」

「・・・ん、んぅ・・・骨を折っても復活しちゃっう。「うわぁ・・・」最後は核融合で「カクゆうごぉ!?」・・・ん、んぅ・・・」



・・・思ってた以上に

元気な女の子だった・・・



「・・・え?ナニ?調ちゃんって・・・ひょっとして物理系?」

「・・・う?ん、んぅ。専門は量子力学・・・」

「りょうしり・・・・ジャ、ジャパニーズ ぷりーず?」

「・・・これ以上。翻訳しようがないよ・・・」


きっと・・・こんな出逢いじゃなければ。

一緒に遊んでお喋りして。タピタピして・・・



「んふふふっ!ジョーダンよ!・・・何千年かぶりにニホンご・・・を・・・」


・・・普通のお友達に



「なん、ぜん。ねん・・・」


成れたのに。な・・・



「・・・・・・な、なん千年・・・た、経った・・・?」

「・・・”ドゥーチェちゃん”がこの大陸にやって来てから・・・7,185年。経っているわ・・・」

「そんなに・・・ソレじゃ、もう。長老(オババ)を通り越して伝説(レジェンダリー)ね・・・」


こんな。冗談を言える彼女だけど・・・



「・・・あれ程ツラかった幻覚も痛みも。スッカリなくなってるわ・・・。この心も、体もちゃんと自分の元に戻ってきたんだって・・・やっと、自由になれたんだって!実感してる!!」


「なのに・・・」


「・・・心も。体も。疲労感でいっぱいで・・・もう、動かないんだって・・・分かるの。」

「・・・」


「・・・ねぇ、調ちゃん。私って、もう・・・そ、”そう”。なんでしょ・・・?」

「・・・・・」


「・・・・・・やっぱり・・・そう。なのね・・・」

「・・・・・・・・・」



・・・繋いだ手に。



「っ・・・」


反対の手も重ねた私が



「・・・ごめ・・・」


謝罪の言葉を口にしようとした途端



「やめて!」


櫻ちゃんは。



「お願いだから謝らないで!自分が・・・情けなくなるから。お願い・・・」


今日1番の声で。視線で。

私を制し・・・



「・・・お願い。2度目の人生までバッドエンドにしたくない。最期の最期くらい、友人と楽しくて有意義な時間を過ごさせて?」

「っ!・・・ん、んぅ!」


僅かな力を振り絞って咲かせた

彼女の笑顔を・・



「・・・ん、んふふっ・・・こんなステキなお友達ができるなら。頑張るのも悪くないね!」

「んふふっ!アノ魔王様を倒した私を倒したんだもの!自信持っていいわよ!」

「・・・えっと。実は櫻ちゃんを倒したのは私じゃ無くて。私の仲間の・・・」

「えぇぇっ!?」


・・・せめて。

最期の一瞬まで・・・






「うっ・・・」

「・・・う?」


そして・・・



「あー・・・ごめん。ちょっとツラいかも・・・」


・・・その時は。



「・・・・・・ん・・・」


スグにやってきたのだった・・・



「・・・え、えぇと。あぁと・・・」


【満月】に入っていた櫻ちゃんは最上の治癒を受けている。

痛みや精神的な不安に強い抵抗力を示す【月の加護】も帯びている。



「・・・大丈夫。いま、魔法の効力を強めるからね。私を信じて・・・」


・・・その上。

手を握る私が彼女の痛みと不安を魔法で肩代わりまでしている。


長く保たせるのは・・・冒涜だ。



「・・・そろそろ・・・潮時。かな・・・」

「さ、櫻ちゃ・・・」

「・・・いいのよ。はじめから・・・分かってたから。」

「・・・」

「いいの・・・」


朝陽が滲みる目尻に



「っ・・・」


『グッ』っと力を込めて・・・



「・・・カエン様の顔・・・見ていく?」


そう、尋ねた私に



「・・・」


櫻ちゃんは。

『スッ…』っと、夜を瞼の裏に閉まって・・・



「・・・止めとく・・・」


さらに。小さな唇を動かして・・・



「だって・・・見たら。泣いちゃいそうなんだもん・・・」


「・・・」


「・・・っ・・・だ、だいたいね!だいたい!7,000年以上、毎日一緒にいたのよ!」


・・・目尻から。

大粒の夜を零しながら・・・



「・・・見なくたって・・・ここに。宿っているわよ・・・」

「っ・・・っっ・・・」

「あっ・・・っ、あ、あんたが泣くんじゃ無いわよ!」

「・・・だ、だってぇ〜・・・っ。。。」

「あぁっ!もぉ~・・・世話が焼けるわねぇ・・・」


ドゥーチェちゃんは。自身のソレはそのままに。

膝枕している私に腕を伸ばして。涙をそっと拭ってくれて・・・



「・・・最後に3つ。お願いがあるわ。」

「・・・い、いくつっ・・・で、でもっ・・・」

「んふふ・・・3つで、いいわ・・・」


最後の力を振り絞って

微笑みかけてくれて・・・



「・・・1つ目。」


「・・・私の剣・・・【櫻】を。┃クォークドワーフに返してあげて・・・」

「・・・う?で、でもこの(かたな)は・・・」

「・・・毒花がドワーフに無理やり。彼等の秘宝とも言うべきお宝を盗んで打ち直させたのよ。返さなくっちゃ・・・」


あの刀は・・・



「…ったく、」

「ふんす、ふんす!なのですよ!」


・・・うん。

2人が。ちゃんと回収してくれているね・・・



「・・・約束する。」

「頼んだわ・・・」

「・・・頼まれた。」



「・・・」


そして・・・



「あっ・・・」


腕を上げる力も失った彼女の腕を

慌てて受け止め。お腹の上に優しく下ろすと・・・



「・・・ふた。つめ・・・」


櫻ちゃんは。

呼吸ほどの音で声を発して・・・



「・・・みんな。と。いっしょ・・・」

「・・・分かった。フィフィちゃんとヴィルガさんとベルリラさんも必ず探し出すよ。」

「んぅ・・・」


眠たそうに・・・

瞼を半分以上閉じた櫻ちゃんの



「みっ・・・」


その願いを・・・



「・・・ウリエル。」

「イエス!」


「か・・・な・・・ょ・・・」


・・・必ず。



「ロード…」

「・・・分かった。任せて。」


必ず叶えると誓った私は



「・・・・・・ぁ・・・」

「・・・ん!こちらこそ・・・どうもありがとう。お話しできて・・・楽しかったよ。」

「、・・・・・・・・・」


「っ・・・」



・・・その手を。

『ギュッ』と固く握り締め・・・



「・・・すー・・・はぁ〜・・・・・・・・・」


『そっ・・・』と。反対の手を取り。

胸の前に組ませて・・・





















「・・・どうか・・・安らかに・・・」


・・・一夜の。

長過ぎた物語に



「おやすみなさい・・・」


紐を結わえた・・・

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