Chapter 040_人形遊び②
木属性第11階位の【弄魔法】は
趣味の悪い、
生き物の自由と尊厳を奪う最低最悪な魔法だ。
・・・花のエルフ。
ソンナンばっかりだね・・・
「木魔法…?」
「・・・ん。発現すると術者は対象を好き勝手に動かすことができる。隷属魔法のように率先して行動させる事はできないけど、その代わり・・・対象の意志と”生物としての本能”を完全に無視して。肉体の限界を超えた無茶な動きをさせることができる。」
この魔法は文字通り、人体を弄ぶことを目的とした魔法で・・・
ま。想像通り、対象を
”操り人形”
にする魔法だ。
(ちなみに!ルフ様の魔術の効果で【糸】が見えているけど、アレは魔法の効果を”概念的”に現したモノ。実際に糸が括られているワケじゃ、ないよ。)
「む、無茶な動き。と、いうと…」
「…どう見ても”死に体”のコイツらが動いているコト…か?」
「・・・ん!まさにソレ。」
対象にできるモノは
生物。または、その死体。
そして・・・
「・・・この2人・・・アスラム様とリオン様は見たとこ。もう、崩御されている可能性が高い。でも、動かすことができてしまう。何なら、肉の塊になったって動かすことができる。」
「に、肉の塊!?」
「げぇ…」
「・・・弄魔法は”ヒトガタ”をした全ての物体を対象とするコトができる。生体も、死体も・・・ヒトを模した人形だっていいし。何なら精霊でもいい。術者が”ヒトガタ”だと解釈できれば、ソレを”人形”として操るコトができる。」
戦いの中でボロボロになったアスラム様と、首まで失ったリオン様でさえ、対象にできたんだ。
術者のイマジネーションが豊かなら、それこそ
どんなモノだって・・・
「せ、精霊まで従えるっていうのかい!?」
「・・・原理的にはね。」
「ぼくのジンや…お、お姉ちゃんの星も!?」
「・・・原理的には。ね・・・」
・・・ま。
11階位の魔法で呪文が長い・・・そして、難易度も高い
から・・・
「…フォニアが操られたら終わりだな。」
「・・・そー思うなら。そーならないように守ってよね!」
「にゅう!ご主人様には誰も近寄らせないのです!」
「・・・頼りにしてるね。シュシュ」
現実には、難しいだろうけどね・・・
「…そ、それでお姉ちゃん!2人は…」
どんな厄介な魔法にも必ず攻略法はある。
アスラム様とリオン様は魔王級魔族なのだから、
この魔法を解除できれば(長い時間はかかるだろうけど・・・)いずれ、
復活するだろう。
でも・・・
「・・・残念ながら。この魔法は治癒魔法でも契約魔法でも解呪できない。」
「「「「!?!?」」」」
この魔法はあくまでも、
“外側から”対象を動かす魔法だ。
「呪い」・・・と、呼ぶ事はできるかもしれないケド。
怪我や病気。そして契約ではない。
「…オイオイ。どんだけメンドクセーんだよ…」
「にゃあぁ〜…。早く倒せて良かったのです…」
さらに・・・
「…あれ?でも…操作系の魔法…なんだよね?それなら、術者を倒せば…」
アミちゃんが言う通り。
ナニカを”操作する魔法”は術者・・・”操作者”・・・が居なくなれば発現が止まるのが常識だ。
でも、
「・・・んーん。”術者”が気絶しても・・・たとえ、亡くなったとしても。この魔法は発現し続ける。」
「えぇー…」
人形使いが居ないのに”お人形”が動く。
その理由は・・・
「・・・この魔法は・・・術者が対象の操作を放棄した場合。その権利が世界樹に譲渡されるコトになっている。」
「「はあっ!?」」
世界樹・・・ユグドラシルが原因だ。
「ユグドラシル…なのです?」
「・・・ん。」
「…木が操作するってか?植物が…?」
「・・・ん。」
「…」
怪訝な顔のルクスに・・・
「・・・世界樹はもともとヒトであり。”意思ある”木だから・・・。」
「は?」「み?」
コレは、私もカルマート様に教えてもらうまで
知らなかったんだけど・・・
「・・・エルフの族長は。世界樹を守護すると同時に・・・」
・・・信じられないとは、
思うけど・・・
「・・・万が一、世界樹を失った場合。その”ヒト柱”・・・つまり。族長自身が世界樹に”なる”義務を背負っているんだって・・・」
「…世界樹に…なる?」
「・・・楓魔法なのか、別のナニカなのか・・・?・・・詳しい事はカルマー様ですら、知らないって言っていたけど・・・。族長は代々、その技を継承しているんだって・・・」
「じゃ、じゃあ…マジで?」
「・・・ほら。エルフって・・・自分の里の世界樹を「お父様」って呼ぶでしょ?ソレは。ソレが理由なんだって・・・」
・・・ちなみに。エロフ君からも。
チューさせてあげる見返りとして裏を取ってあります・・・
「………マジなのかよ…」
あえて言うまでもないだろうけど・・・
動物と植物は細胞レベルで全く別の生き物だ。
いったい、ナニがドウ転んでソウなるのか?
皆目、見当もつかないけど。
でも、とりあえずこの世界では”そう綴られている”
コレ以上の議論は、無意味だろう・・・
「・・・ま。ソレはともかく・・・」
話と気持ちを切り替えるために
帽子に意識を向けた私は
「・・・セト。」
2つの”お人形”に、
決して自由を与えないよう
『…。』
言い聞かせてから・・・
「…?」
アミちゃんを見つめ
「・・・それで・・・どうする?アミ殿下?」
「で、でんか…って。呼ぶの?…今?」
「・・・”殿下として”の。答えが欲しいからね・・・」
「ぐぅ…」
で、
本題だけど・・・
「・・・セトが重力場を解いた瞬間。アスラム様とリオン様は動き出す。」
「…」
「・・・2人を・・・どうする?」
視線を下ろし・・・
『ボキンッ、ゴギンッ…』
と、異音を立てながら・・・
重力に逆らおうと、
無駄な努力を繰り返す・・・
『ブグズッ…ゲジュッ…』
「っ…」
憐れな金属と肉の塊を
瞳に沈め・・・
「・・・」
・・・再び私を見つめた
青い海は・・・
「…ど、どう…どう…………」
「・・・」
「…そんな………だ、だっ…て…」
「・・・・・・」
・・・うん。
気持ちは分かるよ。でも・・・
「っ…っっ………」
・・・そんな目で。
見つめられても・・・
「・・・」
・・・私にだって。
どうすることもできないんだよ・・・
「…」
「・・・」
しかし・・・やがて。2分もしないくらいで
「…っ!」
ついに、
決意が固まったのか・・・
「っ…」
・・・アミちゃん・・・んーん。
魔国【シアリア】の王位継承権第1位である
「…。」
【溟王】アミ殿下 は・・・
「…」
握りしめた拳を・・・もう一度。強く握り
「…。…」
・・・無音で。
青い瞳から、深い青を流しながら・・・
「…やってくれ。」
唱えたのだった・・・
「・・・仰せのままに。殿下・・・」
リオン様。
短い間だったけど・・・ありがとうございました。
『パッ…』
アスラム様も。
長い間。お疲れ様でした・・・
『…チィンッ…』
どうか・・・次の目覚めは
『!!』
穏やかな夜に・・・
・・・
・・
・
・
・・
・・・
「それで…姉様は?」
「まさか…ひ、姫様もアノ魔法に!?」
「っ!?お、お姉ちゃんっ!?」
ひと騒動、終わったあと・・・
「・・・心配いらない。2人は弄魔法には、かけられていなかった・・・」
カエン様とドゥーチェちゃんを寝かせた診察台へ向けて
歩き始めると、
ルフ様を手に、駆け足で私を追い越したアミちゃん
が振り返りながら、そう言った。
「…そ、そう!ソレは良かった…」
「不幸中の幸い…なのは、いいのですが。しかし!?ナゼ…」
「・・・”かかっていない”呪いの診断はできないから。詳しい事は分からないけど・・・考えられるのは。中に入ったモノを”保護”する能力を有する【籠魔法】と相性が悪かったから・・・とか。弄魔法は対象を”使い潰し”ちゃって長期保存に向かない・・・とか。カエン様とドゥーチェちゃん、どちらも強い上、エルフが苦手な魔法を多く使うから。扱いきれないと判断した・・・とか?・・・じゃ、ないかな?」
「な、なるほど…」
「…おそらく。ソノ全部が理由だろうね…」
ここまで予想が立つのも・・・それ以外も。
大図書館での「予習」が大いに役に立ってくれた!
ホント。
カルマート様には感謝だね・・・
「・・・」
説明が終わると・・・
「そ、それで…」
・・・落ち着かないアミちゃんは診察台に駆け寄り、
カエン様・・・お姉様の力ない手を取り、振り返った
「・・・2人は・・・」
彼の視線に向き合った私は・・・
「・・・2人は今、気を失っている。診察を終えて。契約も解除したから・・・後は。治癒するだけ・・・」
・・・両手と喉に。
祈りを込めて・・・
「・・・始めるよ・・・」




