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まほー(物理)  作者: 林檎とエリンギ
10th Theory
425/476

Chapter 036_茜没する夜の海

「「ネプチューン!!」」


“ネプチューン”とは、嬢が言い出した言葉(人間語?)で、

“溟海の王”という意味なのだそうだ…



『…!!』


嬢が宿した

第10階位の召喚獣と…



『キュクルルルルゥー…』


殿下が宿す

第12階位の召喚獣を要するという、この贅沢な魔法…正確に言うと、2つの魔法のアンサンブルであり。定義の上では魔”術”…は


姫と対するために嬢が編み出した…



「っ!?」


…恐らく。

紙上(・・)最強の物量攻撃である。



「ジン!遠慮は要らないよ!」

『キュ、キューゥ!』


夜空…

先の戦いの余波で天井を失った玉座の上空

に現れた巨大な鯨は…



『ュー…』


…無限…とも、思えるほどの水を

勢いよく吹き出し始めた!



「・・・セト!」


すると…



『!』


嬢の召喚獣は遥か上空で

信じられないほど巨大な魔法印を展開!?



『キュクルルルゥ…』


殿下の鯨を。

その巨体と吹き出す水もろとも吸い上げ



『…』


瞬く間に。

上空に”青き星”を生み出したのだった!



『『『ググゥ…』』』


対する姫は。

煌獅(サラ)を制しつつ、

頭上に生み出された星を警戒して身構えていた



「…」


…恐らく。

先ほどまでの攻防で嬢の召喚獣の特性…星の外側には一切影響を与えない…範囲外は安全…と、いうことを

理解したのだろう。


でも、だからこそ。

嬢と殿下の行動の意味が解らず

警戒し…動けずにいた。



「・・・ふー・・・」


…そして、時は満ち。



「・・・アミちゃん。始めるから・・・お願いね。」


嬢の言葉に…



「…わ、分かった…うん。ジンも。いつでもいいって…」


やや緊張した表情の殿下が

唱えると…



「・・・セト」


…嬢は。

腕を高く掲げ



「っ!?」

『『『グルルルゥ…』』』


警戒する姫と煌獅(サラ)を瞳に沈め



「・・・”裏返し”」


小さく唱え・・・

そして、



『パッチィンッ!!』


指を弾いた!

すると!?



『!!!』


上空の魔法印が捻じれ!?



『キュググ…』


殿下の召喚獣が逆さまに!!



「あっ…」

『『『グルフッ!?』』』


直後!

姫と煌獅(サラ)の体が持ち上がり…



「んんんっ・・・」

「わわっ、」


嬢の…そして殿下の小さな体(無論。殿下の手に下げられた僕も)も

星へ向かい始めた!







「お、お姉ちゃ…」


嬢に抱き締められた殿下は、

空…自ら生み出した青い星に向かう身を案じて声を上げた



「・・・大丈夫よ。」


一方、嬢はというと…

落ち着き払った様子で



「・・・セト。聞いているわね?」


空中で姿勢を180°回しながら

”眼下に”広がる大海原の中心を・・・



『…』

「・・・ん。いい子ね・・・」


・・・瞳に沈め。

薄く微笑んでから・・・



「・・・衛星(サテライト)

『パチィッン!』


唱え、指をこすった。

すると…



『…』


“上空に”落下する僕たちを取り囲むように

魔法印が展開され…



「うわっ!」

「ふにぃ・・・っ、とぉ・・・」


…次の瞬間



「…と、止まっ…た…?」

「・・・ん。高度214mで停止。・・・衛星には万一に備えて、周囲に斥力場を張ってあるから瓦礫が飛んできても弾くけど・・・針みたいに細い物体が。音速を大きく超えて突っ込んきたら、さすがに貫通しちゃうから・・・気をつけてね。」

「…う、うん…そ、そんなコト。そうそう無いとは思うけど…き、気をつけるよ…」

「・・・ん!」


「と、いうか!ぼくよりお姉ちゃんが気をつけるべきでは!?」

「・・・私にはヒュドラがいるから」

『『『ブシュルルルゥ!!』』』

「………そ、そっ…か…」


…いやはや。嬢には驚かされっぱなしだ。

範囲魔法は本来、効果範囲”内”にしか効果を及ぼせない…ハズ、なのだが。

嬢は魔法をアレンジして範囲”外”にも効果を及ぼせる

ようにしたらしい。


そのため…



「サ、サラ!」

『『『グルルルゥ…』』』


迫る水面に危機を感じた姫が。

急いで炎にその身を変えたところで…



「・・・カエン様が逃げ始めた。カエン様が遠くへ行けば行くほど、必要な水の量は指数関数的に増えてっちゃうんだけど・・・間に合いそ?」


…殲滅力では劣るものの。物量では大きく(まさ)



「…ふふふ!ぼくをダレだと思っているのさ!?」

「・・・んふふっ。そうね・・・」


殿下がいる限り。



「くうつ…!」


その身を。片方だけの翼を紅蓮に変え。

さらに煌獅と重なり。

一処(ひとところ)の炎となった姫は



『『『『…』』』』


猛烈な勢いで拡がる海原と…




「お、お姉ちゃ…」

「・・・大丈夫よ。このまま・・・」


透明の星の中で浮遊する僕ら…

ランタンの僕と殿下。そして、星の母である嬢に背を向け


逃げ続けた



『………ザザザザザァ…』


けれど…



『ザザザザアァー!!』


はるか上空にあった殿下と嬢の星は

目に見えて膨れ上がり

城を飲み込む!


その様子に



「えっと…そ、そういえば!」


心配した殿下が頭の上…嬢を見上げ、そう言った。



「・・・う?」


返した嬢に。殿下は・・・



「…け、剣の彼とお耳ちゃんは大丈夫なの!?この魔法。お、お王城を飲み込んじゃうんじゃ…」

「・・・あの2人にはこの魔法の特性を伝えてあるから。気づけば逃げると思う。・・・最悪、捕まったとしても。セトが捕捉して私達と同じ”衛星(サテライト)"に匿ってくれるから・・・」

「お…お、王城…は…?」

「・・・ソレは・・・ど、どちらにせよ。ここまで荒廃しちゃっているんだから。建て直すしか無いんじゃないカナ?」

「えぇぇ…」

「・・・ソコまで責任持てないよ・・・」


嬢の返答に…



「ぐぬぬ…はぁ。まぁ…でも、その通りだね…」


一応の納得をみせた殿下は



「そ、それにしても!」


自らのお力…とは言え。嬢の制御で

みるみる青に飲まれ始めた光景に瞳を移し…



「…【炎化】しても、姉様は”ヒトの姿と同じ速度でしか移動できない”…とはいえ。実態のない”炎”という形態をとっているから…」

「・・・立体的に逃げられるカエン様を確実に補足するには全方位から隙間なく。容赦なく。圧倒的な物量で・・・」

「…水攻めする。ですね…」


…殿下の召喚獣が止めどなく吹き出す水によって王城は既に

上半分ほど”溟王の星”に飲み込まれていた…



「姉様…」


遥か彼方…

サラの力も借りて必死に逃げようとする“ヒト処の炎”

を切なそうに見つめる殿下に…



「・・・アミちゃん。もう・・・終わりにしよう。誰よりも。カエン様の為に・・・」


…そういった嬢の



「っ…」


その手を

キュッと握りしめた殿下は



「…行ってくる!」

「ん!」「はっ!」


僕を嬢に託して【水化】し



『パシャンッ!』


透明な星から、大海原へと飛び出し!



「…ジン!」


星の海に泳ぎ出た殿下は



『キュキュキュキューイ!』


巨大な召喚獣(くじら)

とりついて



「もっと沢山!姉様を包んであげるんだ!」


すると…



『キューイィッ…!』


…殿下の召喚獣が

海中にいても分かるほどの波を立たせ、

背中…そして口の前に描かれた群青色の魔法印から

水を吹き出し始めた!



「わ・・・セ、セト。水の勢いが強くて直撃すると危なそうだから・・・す、少しだけ。動こうね・・・」

『…?』

「・・・そ、そうかもしれないけど・・・い、いちおうね。・・・ここじゃ。カエン様の姿も確認できないし・・・」

『…!』


片手に僕を。

反対の手で帽子を押さえていた嬢は

召喚獣に呟き



「・・・いた。」


遠くの炎が見える場所まで移動すると…



「・・・セト。カエン様の進む先に超短周期pulsar(パルサー)と、重力場で光を周回させるcavityキャビティを発現。・・・その二つを組み合わせてcoherent(コヒーレント)(こう)を生み出し。彼女が拠り所にしている原子をLaser(レーザー)冷却で減速なさい。」


…と?

僕には全く理解できないコトバを唱え…



『パチィンッ!』


…指を擦ったのだった。

すると…



『!』


彼女の胸元の。帽子の先に着いた球体が

(既に、信じられないほど多数の。複雑な魔法印を展開しているのに。更に加えて…)複雑な魔法印を描き。


姫とサラの向かう先に小さく仄かな星を生み出した!?



『!?』


姫…ひと処の炎…は遠目でも分かるほど狼狽え、

針路を変えようと…



「…?」


唱えようとした…の。だろうか?


嬢の星に照らされた(どうやら、嬢が生み出した星は姫を強い光で照らしているらしい…)途端、

炎はほとんど動かなくなり…



「・・・思った通り。”現象化”で存在を保つ事はできても、空間内を”移動”するには従来通り”物質化”が必須ね。・・・そうでないと。幾何学的に説明がつかないものね・・・」


…理屈は全く分からないが。

炎の進みが遅くなったのは嬢に唱えた通りらしい…



「姉様あぁ!!」


そうこうやっているうちに



「っ!?」


遂に

紺碧の星が



「きゃあっ!?」


炎を捉え!




「あっ…あぁっ!?」


『ジュウジュウ』と白煙を上げながら



「姉様っ!!」


白い翼の溟王が



「きゃあぁー!!」


黒き翼の炎帝を



『ゴボンッ!!』


紺碧の大海原で抱き留め



「やっと…やっと!やっと捕まえたよ!」


1万2千年ぶりの



「ただいま、姉様!」


逢瀬を果たした…

今日は七夕!!


七夕記念の閑話を上げました!

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