Chapter 032_火と水
「・・・せーの!」「せ、せーのぉ!」
ドゥーチェちゃんを2人に任せた私は
「…」
扇子(カエン様の発動子)を手に、
突っ込んできたカエン様を
『『『ブシャアッ!!』』』
しばし、ヒュドラに任せ!
「「『噴水よ』!」」
アミちゃんとデュエット!!
「…」
『ブシュル…』『ブシャア!!』
カエン様の最大の武器は、何と言っても
【炎化】と呼ばれる固有魔術だ。
「「『そなたは命の泉 余りある生の飛沫上げ』」」
全身を【炎】という現象に変える・・・という、ワケ解んないチートは
攻撃にも防御にも適しているし、アミちゃんの【水化】と同じように
①無詠唱かつ、無動作で発現可能。
②魔力の続く限り発現可能。
③自身に危機が迫った時は、自動で発現する
といった特徴を持ち合わせていらしい。
当然ながらカエン様の魔力量は(ほぼ)無限だし、
【火属性魔法】の【書の主権者】でもある。
・・・もはや、チートを通り越して”オブジェクト”に近い存在である。
ゲームだったらプレイヤーが絶対に勝てないイベントボス扱いだろう。
「「『大地に実りを 高らかに』」」
ドゥーチェちゃんは一体、
どうやって彼女を倒したのか・・・?
・・・実は。ソレはよく分かっていない。
戦いの前にヤマ様から預かった彼女の日記(因みに、日記はエルフが廃棄したモノをァイヒアちゃまが回収し、ソレがヤマ様の手に渡ったらしい。ァイヒアちゃまは、本当にいい仕事をする!)に目を通したけど、
「当時は極度に集中していたから、どんな戦いをしたのか覚えていない・・・」と、綴られていた。
「「スプラッシュ!!」」
・・・もっとも。
仮に彼女の戦いが分かったとしても、
運動神経”C−”なうえ、宿している魔法も違う私に
同じ事ができるとは思えない。
私は私なりに戦うしかない。
・・・ま。その代わり
私にはカエン様をよく知り、水属性魔法の【書の主権者】であらせられる
溟王様がいる!
私ひとりでは”かなり”苦労するであろう、カエン様との戦いだけど。
アミちゃんと2人なら・・・
「わぷっ…」
アミちゃんとユニゾンをして唱えたのは水属性第5階位の【噴水魔法】だ!
「お姉ちゃん!」
「ん!」
「「(・・・)せーのぉっ!」」
噴水魔法は、地面に現れた魔法印から水を吹き上げ
その勢いで相手にダメージを与えるコトが多い魔法だけど・・・
今回は使い方が違う
「「『霜よ そなたは冬の使者』」」
コレは、アミちゃんに教えてもらったコトだけど・・・
カエン様の【炎化】にはひとつ、大きな欠点がある
「くっ…」
『ブシャァッ!!』
その弱点というのは
“人間の姿のままでずぶ濡れになってしまうと、炎に化けるコトができなくなる”
という、ナカナカに致命的なモノ。
「「『風を凍らせ 舞い降りて』」」
炎に化けている間は無敵のカエン様だけど、
素早く動けなくなるし、他の魔法も行使できなくなるなど、制限も多いらしい。
(因みに、アミちゃんの水化にも同じ様な制限があるとのこと)
「…えいっ」
『ブシャ!』
ただし、炎化が無くても
カエン様はめちゃくちゃ手強い。
「「『大地を白に染め上げる』」」
発動子の【扇子】は【緋閃鋼】という
未知の物質(金属?)でできているらしく、
魔力を通すと謎の原理(魔法では無く、発動子の機能だそうだ。)で
先端から炎が飛び出す!?
「むくっ…ほ、『炎よ 侵略者なり』ファイヤーボール!」
『『『ブシャァ!!?』』』
【扇子】は”涼”を取るための道具では・・・?
なんてツッコミを寄せ付けないホド優雅な仕草で。
カエン様は、まるで舞いでも踊るかのように
魔法と戦技でヒュドラを翻弄し、
『『『グルルルルゥ!!』』』
最後は召喚獣まで喚び出したカエン様は
「あっ」という間に濡れた身体を乾かしてしまった!?
「「フロスト!」」
けどっ!
「きゃっ!」
ギリギリ!
霜魔法が間に合った!!
「あっ、あ…」
たかだか第5階位の魔法・・・とはいえ、
溟王様とユニゾンして生み出した氷だ!
『ググルルルゥ!?』
第9階位の煌獅魔法の炎でだって、
簡単には溶けないよっ!
「お、おねっ…っ…は、早っ!…くぅっ…」
「ん、んぅ!」
とはいえ!
「・・・セト!」
ノンビリしても居られない!!
『…!!!』
あらかじめ、
コッソリとカエン様の上空で待機させていたセトに
重力圏(効果範囲)を展開するように命じて!
「ヒュドラ!早く戻ってきなさい!!」
『『『りゃ〜!!』』』
体をクネクネ
地面を大急ぎで這ってきたヒュドラの
『『『りゅっす!』』』
炎天下で熱せられた、熱い体が
「ひゃあっ///!!」
『りゃ?』
足首に巻き付いたのを
「・・・な、なんでもない!い、いくよ!」
『『『リャッス!!』』』
感じた瞬間!!
『パッ、チィンッ!!!』
発現!!!
『!!!!!』
途端、
セトの周りに多重の魔法印が展開!!
「ま、まずい!サr…きゃっ!?」
直後!
氷に閉じ込められていたカエン様が
漆黒の星に飲み込まれ!
『グガッ!?グオ゙ア゙ア゙ア゙アァ゙ァ゙!!??』
カエン様に呼ばれ振り返った
3頭の竜もろとも
『…ッ』
夜の静寂に
飲み込まれ!
『ッバヂィン!!』
骨が
肉が
氷が
空気が
そして空間が
瞬く間にひしゃげて、
破裂音を吐き出して・・・
『ンンッッ…………………』
綴られし世界に
「・・・ふぅ・・・」
静寂を齎す
「あ…あ、あはははは………」
夜が訪れたのだった・・・
・・・
・・
・
「…だ、大丈夫…なん。だよね…」
「・・・たぶん・・・」
カエン様を重力の穴に閉じ込めた私は、
その場で一息ついてから・・・
「たぶん…?…お姉ちゃんにしては、ずいぶん”あやふや”な答えだね…」
小指の先程の大きさまで圧縮されてなお、
多数の魔法印を巡らす漆黒の星を
見守っていたのだった・・・
「・・・だって・・・仕方ないでしょ?カエン様の固有魔術にどれホド”解釈の余地”があるのか?未知数なんだもの・・・」
明確に”物質”に化けるアミちゃんと違って
カエン様は【炎】という・・・現象に化ける能力を持っている。
リブラリアの魔術は現実の物理現象に則している方が効率がいいけど、
術者のイマジネーションが”しっかり”していて。かつ、大量の魔力を注ぎ込めば”かなり”の無理が効く。
「うぅぅ…姉様が相手と思うと。怖いなぁ…」
「姫様は。ソレはもう、強かったですからね…」
ましてカエン様は、原初の魔法のひとつである火属性魔法(コレはアミちゃんから直接聞いたコトなんだけど、カエン様とアミちゃんが2人で編み出した【火属性魔法】と【水属性魔法】をお手本にして、他の魔法は作られたそうだ。ただ・・・ま。エルフと魔族とでは解釈が違ったり。魔導の”源流”が違いそうな属性魔法があったり・・・そういう、細かい話もあって。複雑らしい。)の【書の主権者】であり、【創始者】でもある。
「・・・」
私自身がソウであるからこそ、分かる。
【書の主権者】とはつまり、
その魔法の”可能性”をいちばん理解している者
という意味だ。
炎とは、燃焼現象”そのもの”である・・・
・・・ソレは”私の解釈”に過ぎず、
異世界の”自然の理”に過ぎない。
”言葉”の定義に過ぎず、
”科学”の範疇に過ぎない。
【炎】そのものに成れるヒト相手に、
そんな理屈が通じるとは思えない。
人体発火を起こしておいて・・・炎の中から、
平然と元通り着物を着て現れた彼女に
熱統計力学が通用するのだろうか?・・・甚だ疑問である。
この綴られし世界で。
綴られるより前から息づき、
芸術的なまでに美しい魔法理論を綴ったヒトが
ソノコトに気付かないとは思えない。
きっと・・・
『ズ…スズ…』
・・・きっと。




