Chapter 029_身代り人形
林檎です!
本話。結構短めです。
ご了承くださいませ・・・
『…』
久方ぶりに開かれたであろう・・・絢爛だった【煉獄の門】の先は
月光と、ソレを反射した湖の照り返しで青黒く仄めく・・・無残、
で、ありながらも。神秘的な空間だった・・・
『トッ、トッ…』
『コッ、コッ…』
悠久の時を経て、
風と草木に犯されつくされ
過去の栄華も温かみも感じられない魔王城の不気味な雰囲気は
エルフによる略奪と蹂躙と、その後の長い無関心による
”結果”だった。
原型を留めない廃墟
化石と化した遺骨の山
見下ろす湖の畔で漣を浴びる巨蟹の亡骸を今なお侵し
栄華を極める毒の花々・・・
砕かれた王城
天井が崩れ落ち、月と星々を望む玉座の間
大理石が剥がされ、無尽に根が走る床・・・
その、ひとつひとつに
1万年2千年分の恨み辛みが積み重ねられていた・・・
「姉様…」「・・・ドゥーチェちゃん・・・」
部屋の突き当りには
玉座を犯して成長した茨の木が生えていた。
その枝の1つには、
罪無き罪人を閉じ込める【鳥籠】が
吊り下げられ。
そして、その中には・・・
「…アレが…?」
籠のスグ側に来るまで
ソレが生きる人だと気付けないほど
2人は生物”らしくなかった”。
枯枝と枯葉と茨で敷き詰められた籠の中央で
凭れ合うようにチョコンと座る
「みぃ…か、かわいそう…なの。です…」
魔力も。
気配も。
息づかいさえ感じられない。
汚れ。
破れ。
穢された。
見るも無惨な
黒と赤の端切を巻いた。
糸の切れた”2つ”の操り人形・・・
「・・・遅く・・・なり。ました・・・」
・・・ソレが。
魔女と魔王を巡る物語の結末だった・・・
「っ…ゴメンよっ…ご、ごめんよっ!ごめんよぉっ!!」
どうして・・・
「・・・ごめんなさい。」
・・・あぁ。どうして私は
あと1日、1時間、1秒でも早く
彼女のもとに駆けつけなかったのだろう?
図書館ではしゃいでいた1日を
夜の森で眠っていた1時間を
門の前で悩んだ1秒を
どうして・・・
「「…」」
彼女達は・・・彼女達が。
いったい何をしたというの?
「・・・」
戦争・・・そう、ここでは戦争があったのだ。
敵を恨むのは当然だ。
その代表者たる【魔王】を恨むのも
当然のコトに違いない。
「グズッ…ねっ、ねぇさ…グスッ…」
魔族だって沢山のエルフを殺し、里を焼いた。
略奪も暴力も蹂躙も・・・ありとあらゆる”悪意”があったに違いない。
戦争だったのだ。“お互い様”だ。
「殿下。お気を強く持って…」
そして、
可哀想な魔女ちゃんが”利用されて不幸になる”・・・
そんなお伽話なんて、
”ただのよくある物語”だ。
私だってこれまで。
何度も同じ様な目に合いそうになってきた。
「・・・」
この瞳に映る
「・・・」
同じ瞳
同じ髪色
同じ生まれの憐れな女の子は私だったかもしれない・・・
「ご主人様…」
「…ヤレヤレ。…っと…」
色の褪せた水晶体
動きを止めた虹彩
何も映さない網膜
「ぐずっ…ル、ルフ…」
「・・・ルクス・・・シュシュも・・・」
彼女達は・・・そう。正に”人形”だった。
遊び尽くされ、棄てられ、忘れ去られた。
廃墟に打ち捨てられた人形・・・
全て奪われ、嫌われ、弄ばれて、感情さえ失い、
ただ、潰えぬ身体を他人の都合で晒され続ける剥製
と。同じ・・・
「…だ、」
「大丈夫・・・」
コレが呪いでなくて。
何だというの・・・
「フォニアお姉ちゃん…」「アミちゃん・・・」
地獄の門を開ける前・・・
彼女達の姿を見るまで私は
平和だとか。
歴史だとか。
因果応報とか。
自分と他人。他人と他人だとか・・・
「おっ…おねっ…」「・・・願われた。」
・・・そんなコトばかり気にしてた。
「・・・必ず。救ってみせる・・・」
でも・・・
「っ!…お、お願いっ…お、お願いしますっ!お願いしますっ!!」
・・・でも本当は。
そんなコトどうでも良かった。
「・・・んふふっ・・・」
瞳に映る傷付いたヒトを救えないで・・・
「・・・一緒に・・・助けようね。」
・・・何が平和だ。
何が歴史だ。
何が文化だ。
「っ!…うんっ!!うんっっ!!!」
そんなモノ!
クソ食らえだ!!
「みんな!作戦通りに行くよ!」
「ニャンです!」
「…おぅ」
「任せてくれよ!」
「・・・すー・・・」
今は2人に集中しよう。
ソレがきっと、理屈抜きの最適解だから!
「・・・はぁ〜・・・」
その為にも・・・先ずは、
「・・・ん!」
あの、邪魔な鳥籠から・・・
全てを蝕む大樹から
「『炎よ 侵略者なり』」
この、第1声で
「ファイヤーボール!!」




