Chapter 026_門番はずっと見ていた
「おぉ…久しいのぉ!トリノプス。」
「リ、リリ…リ”オ”ン…様…」
「…息災かい?」
「ル、ルル…ルフ…様………あ、あぁ。あぁ…」
トリノプス・ナベリウス=トリィ・・・
「トリノプス…長いこと留守にしたね。済まなかった…」
「ア、アアア…アミ…殿下………お、お待ち、申して。おりました…」
・・・魔王城の門番を任されている【巨目族】のこのヒトは
数少ない、契約して”いない”魔族の1人だ。
見た目は3つ目の巨人で、
巨大なメイス・・・「先」と「石突き」両端に”重し”が付いた棍棒。”錘”って
いうんだっけ・・・を手にしている。
「・・・始めましてこんばんは。フォニア・マルカス・ピュシカと申します。」
トリノプスさんはエルフや人間と契約していないし、
薬を盛られたワケでもない。
1万年年以上昔と変わらず”門番”を務め続けているのだ。
逃げているわけでもないのに、どうして彼だけ無事なのか・・・?
「…人…間…?女??で、でも。あの女とはちが…」
・・・その理由は彼の性格にあるそうだ。
彼はとても素直で・・・そう、”純粋”なのだ。
相手が”敵”だと。主人が”操られている”ダケだと分かっていても。それでも、
主人の言葉に絶対服従する。くらいには・・・素直で、純粋。
「トリノプス!フォニアお姉ちゃんは姉様を治癒しに来てくれた治癒術師様…つまり、ボクらの味方だ。当然、姉様の味方でもある。通してやってくれ」
ァイヒアさんやヤマ様の調査によると、本来、特例なしでは入城できないはずの
エルフやドゥーチェちゃんも、この門を自由に行き来できているらしいので・・・
「…お、おぉ…お…」
・・・おそらく。トリノプスさんは
エルフに操られたカエン様に”命令されている”。
今話した感じからして、アミちゃんやレオン様。ルフ様のコトも
覚えているみたいだけど・・・これまで、最終的には
カエン様の命に従っていたという。
だから。心配しているのは
そんな彼が、果たして。門を通してくれるのだろうか?
・・・と、いうコト。
「な、治…す…?」
覚悟している・・・とはいえ、争いは少ない方がいい。
できれば彼とは、敵対したくないんだけど・・・
「・・・私は治癒魔法と契約魔法を最高階位まで宿しています。カエン様が盛られた薬も、エルフと交わされた契約も。どちらも無効化できます。」
「…」
「・・・必ず彼女を救ってみせます。だから、どうか・・・この門を。通させては・・・いただけませんか?」
「………」
3階建てのビルはあろうかという巨大な門と同じくらいの高さから
「・・・」
3つの大きな瞳で私を見下ろしていた
トリノプスさんは・・・
「…ひ………ひ。ひひ…姫さ…」
『ギチギチ』と大きな音を立てて。
錘をキツく握り締め・・・
「ひめ…姫さ…ひ、姫様。を…」
「・・・」
月下の城前に
「…どうか。ど、どうか。た、たたた…た、たずげて。さしあげて。下さい…………」
大粒の雨を降らし・・・
「どうか………」
・・・自身の。足の指より小さな私に
頭を下げたのだった・・・
「…トリノプス。姉様は…そ、それほど?」
「み、見て。られない。…す………」
「…最後に見たのは?」
「数十年………す、数百年くらい。た、たた…たっでる。カモ…」
「そんなにか………」
「陛下は…最後に見たとき、どんな様子だった?…覚えている限りでいい。治す助けになるかもしれないから…」
・・・ルフ様の求めに応じた
トリノプスさんの話によると・・・
①カエン様も、初めのうちは辛そうな顔をしながらも、
笑顔を見せる事があったそうだ。
②状況が変わったのはヤマ様が大きな反乱を起こしたとき。
彼女 (と、ドゥーチェちゃん)は魔王城から派遣されて出ていったきり、
数百年間。戻らなかった・・・
「数百年だぁ?…ヤマ公は、そんなに粘ったのか?」
「・・・んーん。当人であるヤマ様によると、反乱が上手くいったのは始めのひと月だけで。カエン様とドゥーチェちゃんが到着した後は総崩れ。一晩も持たなかったって・・・」
「ガッハッハッハッ!さすが我が姫!閻魔”殿”も名折れじゃないか!!」
「リ、リオン卿ぉ…。笑い事じゃ無いからね!?…そ、それで…嬢?」
「・・・花のエルフはボロボロになったヤマ様と一緒に、カエン様とドゥーチェちゃんをベラドンナの里に運んだらしい・・・」
「はぁ?なんの為に…」
「・・・ヤマ様は瀕死だったし。ァイヒアちゃ・・・さ、さんは。見てなかったらしいけど・・・そ、その・・・・・・」
「…あん?いったい…」
「…む、無理に言わなくても良いんだよ!?嬢?」
「…ボクから話すよ。」
「・・・殿下・・・」
「…大図書館の蔵書によるとね。ちょうどその時期にベラドンナの里で…【狂乱の宴】が執り行われたそうだ。」
「…は?きょうらん…?」
「…見せしめとして。適当な魔族を捕まえて辱めを受けさせたそうだよ。大衆の前で…大規模に。」
「「っ…」」
③それ以降。カエン様とドゥーチェちゃんの瞳から輝きが消え、
トリノプスさんが何を言っても、何をしても。一切、応えて
くれなくなったそうだ・・・
「じ、じじ…ぢ、ぢゆ。治゛癒じゅづじ…だば…」
私達の話で更に意気消沈し、両肘を地に突けて頭を抱え
泣きはじめたトリノプスさんは・・・
「び、びめ…ひ、ひめ。ひめざばを…っ…」
・・・主人を思い。純粋な、心からの。
涙を・・・
「・・・はい。”絶対に”治してみせます・・・」
・・・異世界の医療がソウであるように、
リブラリアの治癒術も絶対じゃない。
治癒魔法は奇跡みたいな技だけと【理】という名のルールがあって。
できない事も、少なくない。
「…ね、ねねね…ね、願い。ま゛ずぅ…」
・・・本音を言えば、
診断もしていない状況で無責任なコトは言いたくない。
「お、お…おで。おでば…い、い゙、い゙ばぼっ。あ、あの゛どぎぼっ。な゛びも゛…な゛、な゛びぼ…」
でも、自分に無関係の戦争に首を突っ込んだうえ、
魔族側にもエルフ側にも被害を出した状況で。
「・・・そんなコトありません。今も。あの時も。トリノプスさんはココに・・・城門の前に立ち。誰よりも最初に敵に立ちはだかって来たではありませんか。「何もしていない」なんて言ったら、7,000年間寝続けていたリオン様が浮かばれませんよ!」
「ガアァーッ、ハッハッハッハアァァ…い、言うではないか。お嬢…」
今さら、
「・・・だから・・・トリノプス様。」
”できない”なんて。無責任な言葉は・・・
「あなた様の願いは、今、確かに拝聴しました。必ず・・・」
・・・とてもじゃないけど。
言えないよ・・・
「・・・必ず。カエン様をお救いしてみせます。・・・この。瞳に誓って・・・」
・・・
・・
・
「・・・落ち着きました?」
・・・そして数分後
「…グズッ…ッ…は、hあい…」
「・・・それはよかった。」
「ズスッ…///」
グズグズと泣き出してしまったトリノプスさんが涙を納めるまで
見守っていると・・・
「ははは…トリノプス。君は変わらないね…」
「グズッ…お、王子…」
「ソレが。トリノプスの良いところだからね…」
「ル、ルルル…ルフ様。まで…」
「…まったく。もっとシャキッとせんか!シャキッと!」
「リ、リォン。さ、ささ…さま。す、すす、すびません…///」
・・・再開を喜び合うみんなをホッコリと
見つめていると
「よかったですね!ご主人様!」
・・・とは、
斜め後ろのシュシュの言葉。
「・・・ほんとね。」
更に、私の左手の
ちょっと先から・・・
「…ったく。とんだ茶番だな…」
「・・・そう、言わないの・・・」
シュシュのようには素直になれない
王子様の声・・・
「はぁ~…」
・・・そして。アミちゃんが
「…」
小さく浅い・・・けれど長い
息をついて・・・
「それじゃ…」
顔を上げ
「…行こっか。」
唱えた・・・




