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まほー(物理)  作者: 林檎とエリンギ
10th Theory
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Chapter 026_門番はずっと見ていた

「おぉ…久しいのぉ!トリノプス。」

「リ、リリ…リ”オ”ン…様…」


「…息災かい?」

「ル、ルル…ルフ…様………あ、あぁ。あぁ…」


トリノプス・ナベリウス=トリィ・・・



「トリノプス…長いこと留守にしたね。済まなかった…」

「ア、アアア…アミ…殿下………お、お待ち、申して。おりました…」



・・・魔王城の門番を任されている【巨目族(サイクロプス)】のこのヒトは

数少ない、契約して”いない”魔族の1人だ。


見た目は3つ目の巨人で、

巨大なメイス・・・「先」と「石突き」両端に”重し”が付いた棍棒。”錘”って

いうんだっけ・・・を手にしている。



「・・・始めましてこんばんは。フォニア・マルカス・ピュシカと申します。」


トリノプスさんはエルフや人間と契約していないし、

薬を盛られたワケでもない。


1万年年以上昔と変わらず”門番”を務め続けているのだ。

逃げているわけでもないのに、どうして彼だけ無事なのか・・・?



「…人…間…?女??で、でも。あの女とはちが…」


・・・その理由は彼の性格にあるそうだ。

彼はとても素直で・・・そう、”純粋”なのだ。


相手が”敵”だと。主人が”操られている”ダケだと分かっていても。それでも、

主人の言葉に絶対服従する。くらいには・・・素直で、純粋。



「トリノプス!フォニアお姉ちゃんは姉様を治癒しに来てくれた治癒術師様…つまり、ボクらの味方だ。当然、姉様の味方でもある。通してやってくれ」


ァイヒアさんやヤマ様の調査によると、本来、特例なしでは入城できないはずの

エルフやドゥーチェちゃんも、この門を自由に行き来できているらしいので・・・



「…お、おぉ…お…」


・・・おそらく。トリノプスさんは

エルフに操られたカエン様に”命令されている”。



今話した感じからして、アミちゃんやレオン様。ルフ様のコトも

覚えているみたいだけど・・・これまで、最終的には

カエン様の命に従っていたという。


だから。心配しているのは

そんな彼が、果たして。門を通してくれるのだろうか?

・・・と、いうコト。



「な、治…す…?」


覚悟している・・・とはいえ、争いは少ない方がいい。

できれば彼とは、敵対したくないんだけど・・・



「・・・私は治癒魔法と契約魔法を最高階位まで宿しています。カエン様が盛られた薬も、エルフと交わされた契約も。どちらも無効化できます。」

「…」


「・・・必ず彼女を救ってみせます。だから、どうか・・・この門を。通させては・・・いただけませんか?」

「………」



3階建てのビルはあろうかという巨大な門と同じくらいの高さから



「・・・」


3つの大きな瞳で私を見下ろしていた

トリノプスさんは・・・



「…ひ………ひ。ひひ…姫さ…」


『ギチギチ』と大きな音を立てて。

錘をキツく握り締め・・・



「ひめ…姫さ…ひ、姫様。を…」

「・・・」


月下の城前に



「…どうか。ど、どうか。た、たたた…た、たずげて。さしあげて。下さい…………」


大粒の雨を降らし・・・



「どうか………」


・・・自身の。足の指より小さな私に

頭を下げたのだった・・・






「…トリノプス。姉様は…そ、それほど?」

「み、見て。られない。…す………」


「…最後に見たのは?」

「数十年………す、数百年くらい。た、たた…たっでる。カモ…」

「そんなにか………」


「陛下は…最後に見たとき、どんな様子だった?…覚えている限りでいい。治す助けになるかもしれないから…」


・・・ルフ様の求めに応じた

トリノプスさんの話によると・・・



①カエン様も、初めのうちは辛そうな顔をしながらも、

 笑顔を見せる事があったそうだ。


②状況が変わったのはヤマ様が大きな反乱を起こしたとき。

 彼女 (と、ドゥーチェちゃん)は魔王城から派遣されて出ていったきり、

 数百年間。戻らなかった・・・



「数百年だぁ?…ヤマ(コー)は、そんなに粘ったのか?」

「・・・んーん。当人であるヤマ様によると、反乱が上手くいったのは始めのひと月だけで。カエン様とドゥーチェちゃんが到着した後は総崩れ。一晩も持たなかったって・・・」

「ガッハッハッハッ!さすが我が姫!閻魔”殿”も名折れじゃないか!!」

「リ、リオン卿ぉ…。笑い事じゃ無いからね!?…そ、それで…嬢?」


「・・・花の(フラゥル)エルフはボロボロになったヤマ様と一緒に、カエン様とドゥーチェちゃんをベラドンナの里に運んだらしい・・・」

「はぁ?なんの為に…」


「・・・ヤマ様は瀕死だったし。ァイヒアちゃ・・・さ、さんは。見てなかったらしいけど・・・そ、その・・・・・・」

「…あん?いったい…」

「…む、無理に言わなくても良いんだよ!?嬢?」


「…ボクから話すよ。」

「・・・殿下・・・」

「…大図書館の蔵書によるとね。ちょうどその時期にベラドンナの里で…【狂乱の宴】が執り行われたそうだ。」


「…は?きょうらん…?」


「…見せしめとして。適当な魔族を捕まえて(はずかし)めを受けさせたそうだよ。大衆の前で…大規模に。」

「「っ…」」


 

③それ以降。カエン様とドゥーチェちゃんの瞳から輝きが消え、

 トリノプスさんが何を言っても、何をしても。一切、応えて

 くれなくなったそうだ・・・



「じ、じじ…ぢ、ぢゆ。治゛癒じゅづじ…だば…」


私達の話で更に意気消沈し、両肘を地に突けて頭を抱え

泣きはじめたトリノプスさんは・・・



「び、びめ…ひ、ひめ。ひめざばを…っ…」


・・・主人を思い。純粋な、心からの。

涙を・・・



「・・・はい。”絶対に”治してみせます・・・」


・・・異世界の医療がソウであるように、

リブラリアの治癒術も絶対じゃない。


治癒魔法は奇跡みたいな技だけと【理】という名のルールがあって。

できない事も、少なくない。



「…ね、ねねね…ね、願い。ま゛ずぅ…」


・・・本音を言えば、

診断もしていない状況で無責任なコトは言いたくない。



「お、お…おで。おでば…い、い゙、い゙ばぼっ。あ、あの゛どぎぼっ。な゛びも゛…な゛、な゛びぼ…」


でも、自分に無関係の戦争に首を突っ込んだうえ、

魔族側にもエルフ側にも被害を出した状況で。



「・・・そんなコトありません。今も。あの時も。トリノプスさんはココに・・・城門の前に立ち。誰よりも最初に敵に立ちはだかって来たではありませんか。「何もしていない」なんて言ったら、7,000年間寝続けていたリオン様が浮かばれませんよ!」

「ガアァーッ、ハッハッハッハアァァ…い、言うではないか。お嬢…」


今さら、



「・・・だから・・・トリノプス様。」


”できない”なんて。無責任な言葉は・・・



「あなた様の願いは、今、確かに拝聴しました。必ず・・・」


・・・とてもじゃないけど。

言えないよ・・・



「・・・必ず。カエン様をお救いしてみせます。・・・この。瞳に誓って・・・」


・・・

・・





















「・・・落ち着きました?」


・・・そして数分後



「…グズッ…ッ…は、hあい…」

「・・・それはよかった。」

「ズスッ…///」


グズグズと泣き出してしまったトリノプスさんが涙を納めるまで

見守っていると・・・



「ははは…トリノプス。君は変わらないね…」

「グズッ…お、王子…」


「ソレが。トリノプスの良いところだからね…」

「ル、ルルル…ルフ様。まで…」


「…まったく。もっとシャキッとせんか!シャキッと!」

「リ、リォン。さ、ささ…さま。す、すす、すびません…///」


・・・再開を喜び合うみんなをホッコリと

見つめていると



「よかったですね!ご主人様!」


・・・とは、

斜め後ろのシュシュの言葉。



「・・・ほんとね。」


更に、私の左手の

ちょっと先から・・・




「…ったく。とんだ茶番だな…」

「・・・そう、言わないの・・・」


シュシュのようには素直になれない

王子様の声・・・



「はぁ~…」


・・・そして。アミちゃんが



「…」


小さく浅い・・・けれど長い

息をついて・・・



「それじゃ…」


顔を上げ



「…行こっか。」


唱えた・・・

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