Chapter 025_毒の花③
「…ふんっ。油断したのは互いだな…」
【魔花魔法】は木属性第7階位の
魔花"召喚”魔法だ。
「…おい、戦線を立て直せ!鈍牛を前に立たせ、時間を稼ぐんだ」
「は、はいっ!!」
「直ちに!」
この魔法は他の木魔法とも、他の属性の召喚魔法とも違う
ユニークな…特殊な契約が”必要な”…召喚魔法だ。
契約にも…その維持にも。
多大な労力を要するが、
発現が速い木属性魔法を…
ロジックもキーも要らずに(ほぼ)ノータイムで。
あのような高空まで茎を伸ばし、竜をひと呑みにできるのだから
十分見合うと言えよう
「弓兵!魔法兵!お前らは、もっとしっかり唄え!」
「「「「「い、いえっさー!!」」」」」
…平時に宿すには費用対効果が悪い…と。
嫌味を言われ続けてきたが。この成果を持って帰れば
文句を言う者もおるまい…
「フォルテしゃま、フォルテしゃまあぁぁ〜!」
「…」
…兵に指示を飛ばしていた私に
フザケた声をかけてきたのは…
「フォルテしゃま!」
「………何のようだ。喧し鳥」
ヒトよんで
“空飛ぶコボルト”
「シ…シ、シァヒアれしy…」
“残念な”シァヒアだった
「…」
無言で腕を組み
「いいからサッサと報告しろ」という
雰囲気を出すと
「そ、そのっ!」
バサバサという不快な音を立てた鳥は
「シ、シアリア島に向けて船を漕ぐニンゲ…」
なっ!?
「なんだと!?」
「ひゃっ!?」
「”シアリア島に向けて”…だと!?確かか!?」
振り返りながら詰め寄ると
「ひゃっ、ひゃぁあぁ〜…」
途端に動揺し、怖気づいた鳥に
「確かか?と、聞いたのだ!…サッサと答えんか!!」
さらにまくし立てると
「あぁっ…ああぁぁ〜…」
「…ちっ…」
怯え、使い物にならなくなった鳥を
早々に見切った私は
「…くそっ!閻魔と竜王…2大魔天を”囮”に使っただと!?それで【炎帝】を。【首無し】を…そして【魔女】を!?相手にするというのか!?…それ程の者がいるというのか!?」
魔族の側には少なくとも、
契約魔法の術者がいることは分かっていたが…
「まさか…」
こうしては居れん…
「スグに向かうぞ!案内せよ!」
空中で頭を抱える、
無駄に器用な鳥に叫び
「くそっ!役立たずのグズめ…」
毒づいた…
「…おい!誰か代わ…」
…その時だった
『ドガアァァァァーーーン!!!』
突然の轟音!!
「!?!?」
そして、
我が身を襲う浮遊感!?
『ガラガラガラガラ…』
突然の事に…
「っ」
…何も。
指一本動かせなかった私は
周囲の土砂と共に
『ググウゥゥ…』
地の底から沸き上がった不快な熱に包まれ…
『バグゥン!』
…そのまま。
ナニもできぬまま。
頭上で合わさる山型のナニカが
夜空を覆い隠したのを…
『バギンッ!』
…………最後に。
『ゴギンッ…ゴギッ、バギッ…………』
『ゴッ、ゴッツ…ゴギュ…バギッ……ゴグンッ……』
………
……
…
…
……
………
「…時が経ち過ぎたな。互いにな…」
魔花…フォルテピアノの攻撃は確かに速い。
斧術を極めたと自負している我輩でも
発現してから避けるのは困難であり。
竜となった卿は…押して図るべしもなし。
「グバヮーッハッハッハアァァーーー!!喰いごたえが無いのぉ、魔花!土の味しかせんではないか!」
しかし…しかしだ。
ヤツは忘れていたのだ…
「…助かった。マスバラスエ。お主のお陰で最大の脅威を屠ることができた…」
「う、んんんん…」
…コチラにはマスバラスエ卿がいる。
マスバラスエ卿の【遠手】…
「我輩と卿も無事だ。…何度目だろうな?卿に助けられたのは…。…重ねて。感謝を…」
「き、ききにににに…、そ、れれれがボクのののの…」
「グバハハハァ!感謝するぞい卿!!」
「…い、いええぇぇぇ///」
発現すると、
”触れるこも、知覚することもできなくなる”
…という強力な能力は
戦場での物資運搬に最適だが、同時に
不可避の攻撃の”防御手段”としても最適だ。
また、
ありとあらゆる攻撃を”奇襲”に用いるのにも最適だ。
…無論。事前に、
入念な打ち合わせが必要だがな…
「い゛や゛ー!卿の能力は、まったく素晴らしいな!さすがであるぞ!!」
「こ、こぅうえええぃ…」
「ゔゔ〜ん゛?…なんだぁ!改まる必要など無いぞ!ソレ、胸を張れ胸をおぉぉ〜!!」
「〜〜〜…」
戦闘が始まったと同時に。後衛として…
人材の追加や負傷者の離脱を手助けしていたマスバラスエ卿だったが、
魔花が現れたとの連絡を受けた後、我輩たちの側に急行し、
遠手を発現”したまま”我輩の背に乗ってくれていた(…ハズである。
なにしろ我輩も知覚できない故、彼の言葉を信じるしかない。)
そして、我輩たちが摩花に呑み込まれた”直後”…
”どこか”へと引きずられる”前”…に。
ボルレアス卿もろとも
我輩たちを包み込み魔花の攻撃をやり過ごした…
「…卿よ。マスバラスエ卿には張るべき”胸”が無いぞ。」
「ぶを゛お゙゙ぉ゙!?…グハハハハハーッ!そうであったな!では、マ゛スバ卿゛よ゛!指を張れ!指を!!」
「…意味が分からん。」
「ゆ゛、ゆ゛ゆ゛ゆ゛…」
「…マスバラスエ卿よ。ボルレアス卿に合わせる必要は無いんだぞ…」
魔花に食われ、次の瞬間
地下深く…魔花が掘り進んだ穴の中…に居た時は驚いたが、
スグにボルレアス卿に言って【呑殿竜】に変化してもらい
地面から魔花…フォルテピアノ殿…を食い破った
というわけだ…
「…ソレはそうと。卿よ」
「あ゙?…なんであるか?」
竜化をして解いて、ヒトに戻りつつあった卿に話しかけた我輩は
「魔花は…確かに。葬り去ったのだな?」
念の為に尋ねる。
すると…
「…」
地下で再生した…とはいえ。足を失い、傷も負い。
立つのも辛そうな卿は地に胡座をかきながら
自身の顎を摩り…
「何か妙な…鳥?犬?…の味も混じっていた気もするが…」
…軽く首をひねってから
「だが…うむ。」
頭を戻し。
『バシィッ!』
手で膝を叩き、
「…今度こそ、間違いないわ!」
鋭く野性的な瞳で
我輩を見据え
「何千、何万と食ってきた耳長の味がした。甘ったるくて吐き気を催す…毒の味が。な…」
唱えたのだった…
………
……
…
・
・・
・・・
「・・・みんな。離れちゃメよ・・・」
魔都シアリアは濃密な毒に覆われていた・・・
「毒…?この、靄がか?」
遠目では気づかなかったけど・・・
シアリア島は地面から身の丈くらいの高さの範囲が
モスグリーンの”いかにも”怪しい靄で覆われていた。
この靄は・・・
チョットくらいなら吸い込んでも問題ないんだけど、長時間吸い続けると
意識が混濁しちゃう。ついでに、肺ガンのリスクファクター足りえるので、
避けるのが懸命。
「・・・ん。スグに体調を損なうワケじゃないけど・・・吸い込まない方がいい。」
島に着く前にシュシュが気付いていたので、
上陸前に風魔法で全員を覆って、対策はしておいた。
でも、めちゃくちゃ強いと噂の
魔王様とドゥーチェちゃん。そして、魔王様直属の【首無】騎士様を
この状態(全員を包む風のバリアーを維持したまま)で相手にするのは、
ちょっと心配・・・
「そう…」
・・・なんて、考えていたら
「…それなら、嬢?僕がその役代わろうか?」
・・・と、提案してくれたのは
魔国の良心。紳士的な灯火でお馴染みの
「・・・ルフ様・・・」
・・・だった。
「…大丈夫さ。僕の固有魔術【灯火】は効果を”重ね合わせる”事ができる。”癒やしの萌木色”を維持したまま、戦闘が始まったら”闘志の橙色”を重ねるから…」
ランタンであるルフ様は自身の灯りが届く範囲に、
“光の色”毎に異なる魔法現象を発現することができる。
【癒やしの萌木色】 には治癒効果があり、
【闘志の橙色】 には五感を高め、戦意を向上させる効果がある。
因みに、
倉庫でシュシュがリオン様の接近を許しちゃったのは、ルフ様が【隠遁の土留色】で存在を隠していたのが原因だ。
「・・・ありがとうございます。ですが・・・」
ルフ様の魔術はとても便利だ。
(ランタンだから)自力では動けない・・・とか、
(ランタンだから)中の蝋燭が消えるとただの置物になっちゃう・・・とか、
デメリットもあるけど、便利だ。
今回の戦いでも、もちろん頼りにしているし、信頼もしている。
でも・・・今は、
それ以前の問題として・・・
「・・・”癒す”と、いう事は。吸い込んだ靄の毒性を無効化する・・・と、言う事ですよね?」
「…そうだけど?」
ルフ様のお心遣いは、もちろん。
嬉しいんだけど・・・・
「・・・それ以前に。靄を吸い込みたく無いのです。無毒化されると分かっていても、吸い込むこと自体が気持ち悪いので・・・」
例え無毒であったとしても。
モスグリーンのエアロゾルを肺に取り込むなんて
ゴメンだ!
「…そうかい?ランタンの僕には分からないけど…嬢が言うのなら、”そう”なんだろうね。配慮が足りなくてゴメンよ…」
「・・・いえ!むしろ、提案頂きありがとうございました。」
などと、
紳士なランタンと話していると・・・
「ガッハッハ!まぁ、確かに。いい気分はせんからな!」
リオン様と
「バ、バッチィ事に代わりは無いものね…」
アミちゃん。そして・・・
「シュシュも。くしゃいのはヤなのですよ…」
・・・シュシュが同意してくれたのだった。
「…おい…」
そして最後に
「・・・う?」
剣の王子様も頷いてくれるのかな?
そう思いながら振り返ると・・・
「…お前。砂漠で紫色の毒虫食ってたじゃねーか。アレは良くてコレはダ…」
「セト!」
余計なことっ
『パッチィン!!』
「げっ!?」
言うんじゃないのっ!!
『ダァァーンッ!!』
「グブッ…ッ、ツブ…」
「・・・10Gくらいじゃ潰れないよっ!息ができない程度だよ!!」
「にゅふふふっ!ざまーみろっ!なのですよっ!!」
「がっはっはっー!鍛え方が足りんな小僧!!」
「…女の子に嫌味言っちゃダメだよ?少年。」
「…剣のお兄ちゃんも。苦労しているんだね…」




