Chapter 024_毒の花②
「征け!獄卒達よ!」
数千年ぶりに顕現した地獄の番人は…
『『『『『ズ…ズズズズズッ゙ッ゙ッ゙ッ゙ッ゙…』』』』』
閻魔が開けた死国の門を潜り
「くっ…撃て!怯むなぁ、撃てぇい!!」
我に…
「あ…あ、ああぁぁー!!」
「悪魔だ!!」
「悪魔の軍団が来たぞっ!!」
…そして、後続の同志に刃を向け
「にっ、にげっ…」
「っ!?いかん!」
ヤツラに背を向けた者には…
「ぐをおあぁっ!?」
…不可避の【死】を与え
「なあっ!?」
「おっ、おい!?今…な、なぜっ!?」
「背を向けた途端…」
「どうなっ…があぁっっ!!」
戦場に地獄をもたらしたのだった…
「いかん!逃げるなっ!!」
数多の獄卒と向き合っていた私は、視線を向けること無く
声を張り上げ…
「閻魔の固有魔術【獄卒】は迎え撃つしかない!!背を向けた瞬間、確実な死が齎される!」
閻魔…ヤマラージャの固有魔術【獄卒】は
数百体の地獄の番人…獄卒…を召喚する魔術だ。
「し、しかし!?」
「てっ…て、手強っ!?ぐわっ!」
今朝まで平和だったこの里に、突如として現れた
夥しい数の悪魔の軍勢…
兵が怖気づいてしまうのも、
いた仕方ない。
「踏ん張れ!コイツらは直接攻撃しかせぬ!…ま、魔法で対処しろ!!」
しかし…決して。
倒せぬ相手 というワケではない!
「くっ…このっ!」
「うおぉぉ!!」
「ニードル、ニードルッ!」
「「ブレスぅ!!!」」
魔法は使わないし、
手にする獲物は剣と斧が多く、偶に槍持ちがいる程度。
遠距離攻撃にはめっぽう弱い。
そして、腕前もせいぜい”上級”だ。
「いいぞ!その調子だ!!」
私自ら指導した兵達であれば…
「きいてる…き、効いているぞ!!」
「…いよっし!」
…十二分に
「ヤツら…動きが鈍いか!?」
「な、ならっ!速い木魔法が有効か!?」
「火魔法なら一網打尽にできるぞ!」
「数が多い!魔法をアンサンブルして!…ち、近づかれる前に迎え撃て!」
「「「「「はいっ!!」」」」」
相手になる!
「せいっ!…はぁ、はぁ…」
「くそっ…キリがない…」
…しかし。
問題は…
「…た、倒せるには…くっ!?まだ来るのか!?」
「…倒しても倒しても…な、何体出てくるんだよ!?」
閻魔が召喚する【獄卒】は倒せる相手だ。
顕現する数にも限りがある(記録から見積ると、1,000体くらいが上限だと考えられる)し、倒せば瞬時に灰となって消え失せる。
臆病風に吹かれて背中を見せない限りは、
理不尽な攻撃もしてこない。
問題があるとすれば、それは
いくら倒そうとも、あの禍々しい魔法印…地獄の門…から
”減った数だけ”現れるというコトだろう…
「ブ、ブレスぅ…っ、はぁはぁはぁ…い、いったいいつまで続ければ…」
「や、休むな!やるしかないんだっ!!」
「くそ!くそくそくそぉ!!!」
振り返れば 死
前を向けば 無限の軍勢…
魔力・体力もだが、コレでは兵達の気力が保たない。
“このまま”というワケには…
「お前ら!何とか耐えろぉ!!」
…【獄卒】の攻略法は
1つしかない!
「閻魔あぁぁーー!!」
閻魔を打ち倒す事…そう、
「再び還れえぇぇ!!」
“あの時”のように!
「覚悟っ!」
穂先が閻魔の首を刎ねようと煌めいた…
「…ふっ」
…その瞬間
「!?」
不敵な笑みと共に
『キイイイイイィィィーーーーン!!』
ヤツの首元で穂先が…と、止まった!?
水面の紋様…
だとっ!?
「しまっ…」
閻魔にばかり…
『グル゛ル゛ル゛ル゛ル゛ヴヴゥ゙ゥ゙ゥゥゥ…』
『ドオオォォーーーン゙』
………
……
…
「…ふむ。【魔花】にしては呆気ない最期だったな?」
「グガアハハハハアァァ!!所詮、毒花など。この程度よ!!」
「…こヤツも老いたな。我輩に気を取られて卿のコトなど失念していたようだ…」
「グガアハハハハアァァ!この【響竜】は固有魔術で空間を支配できる!ヤツの耳にワシの羽ばたきは聴こえんし、瞳には映らんかったハズじゃわい!」
「…本来は大人しい竜で攻撃など滅多にせんし、固有魔術も”逃げ”る為にしか使わぬが…。卿が化けると極悪だな。」
「”悪”を付けるな!”悪”を!!【至高の魔術】と申せ!」
「そもそも、野生のファルオメリスは…大きくとも精々、人間程度であったであろう?長身のヤツを軽々踏み潰すなど…」
「グガァーッ、ハッハッハッハアァァ…!竜とは偉大なモノだ!コレくらいのサービs…」
…トカゲめが
「「!?」」
…ふんっ。
『ドパアァンッ!!』
魔花は花開いた
「ぐぬをぉっ!?」
「卿っ!?…くっ!」
その大輪は喧しいトカゲをひと口に…
「グガッ!?…グ、グヲオォォア゙ア゙ア゙ァ゙ァ゙ァ゙ー!!」
…くそっ。
既のところで逃げられたか…
「卿!だ、大丈夫k…」
「大丈夫なワケあるかジジイ!!…っくそっ。片足取られたか…」
「サッサと再生…」
「わ、わかっとるわい!…貴様と違って変化が必要なワシは手間がかかるんじゃ…まったく。さぁてェ…【月天竜】で。えぇかのぉ…」
まぁ、よい…
「ふんっ…」
巨竜の足をもぎ取った魔花に乗って飛び上がった私は
地面に降り立ち…
『カチンッ…』
月光を弾く穂先を構え、
「…いくぞ」
唱えた…
………
……
…
…
……
………
蒼白く光るヤツの刃が地面に触れる
0.3秒前
「卿お゙お゙お゙ぉ゙ぉ゙ーっ」
失った足先から鮮血を流す
細身の銀竜が
「ぐふっ!!」
有無を言わさず我輩を咥え
夜に閃いた!
『ッ…』
そして…
同時に!?
『、ドッ…』
大地が唸り、
6つに裂けた筒状の…【テッポウユリ】のような…
巨大な花が
『…パアァンッ!!』
天に向かって花開き!
「きょ…」
「ぐぬをぉっ!!」
我輩を…そして閃く竜を呑み込まんと、
『ッドドドドドド…!!』
数えきれぬほど連なり、
『パパパバババッ…!!!』
次々に花開いては!?
『ズザザアァァ…』
裂けた口を重ね合わせて細身となり
瞳で捉えるのも”やっと”の速さで
地面に軌跡を写しながら
「くっ…昇るぞ!」
「お、おぅ…をおぉぉー!?」
大気を地の底へと引摺り去っていったのだった…
「ふいぃ〜…」
昇るのを止めた卿が…
「ヤツの魔花でも。さすがにこの高さまでは追ってこれまい…」
羽ばたき、高度を保ち。
下の様子を伺い始めたのは…
「助かった。ボルレアス卿…」
「…まったく。世話が焼けるわい…」
ヤツが米粒程度に見えるほどの
高さでのコトだった…
「…に、しても。だ!」
…卿に咥えられていた我輩が、這い出て
背に移動していると、
火の焚かれた地面を睨んだ卿は…
「なぁ〜にが「こヤツも老いたな…」だ!老いたドコロか、あの頃より洗練されとるではないか!?」
…などとボヤキ始めた
「我輩に言ってどうする…」
「貴様が言ったのであろうが!」
「ソレは…スマンかった。我輩の誤りだ。訂正しよう」
「さては毒花のヤツめ!ワシの攻撃で目を覚ましおったな!」
「…だとしたら失策だったな。」
「策を練ったのは貴様であろう!」
「………スマンかった。」
…卿も我輩も。あの頃から変わらぬな…と。
「…ところで卿よ。」
「あ?…なんだ!?」
「…いい加減、足を治癒…」
「!?…わ、わーっとるわい。今やるところだ!」
「さよk…」
「左様だ!…ま、まったく。ヒトをジジイ扱いしおって…」
郷愁の念に駆られていた…
「「!?」」
その瞬間だった!
「き、」
卿よ!…
『ドッ、パアァァーンッッ!!』
…そのひと言さえ言えぬ合間に
「なあぁっ!!」
我輩は…そして竜に化けた卿は
卿のうめき声と共に仄白い筒に一瞬で包みこま…!?
「!!!」
しまった!
高空にまで届くのか!?
逃げなければ!
逃げられるか?
…そんな言葉を吐く暇さえ無いまま
『ズッ…』
我らを包んでいた夜の黒は
白い花弁に閉じ込められて…
『ザザザザアァァーー!!!』
空と大地を這いずる轟音
体を引き摺られる衝撃。そして、
毒に塗れた甘い香りと共に
『ザザァァ…ッ………』
大地へと…




