Chapter 020_正義と悪
林檎です。
本話、かなり短めですが、
ご了承くださいませ…
「…んん。んぅ…」
…夜。
夜が迫っていた…
「…大丈夫か?テー?」
「ぅ…んっ!?んぅ!」
「…寒いかい?」
「ん、んぅ〜ん!大丈夫だよフルート君!」
嵐が上がり、代わりに昇ってきた太い三日月
赤と青と黒が織りなす終わりの色
騒ぎ立てる森の賢者たち
対象的に静かな夜と湖と彼方の古城…
「ちょっと…怖くなっちゃったダケ。なの…」
「「「「「…」」」」」
ページは塗り潰されようとしていた。
赤く、青く。そして黒く…
「…ねぇ。ゲオ様…」
「怖い」と言って甘えた私を
強くお包みしてくれたゲオ様を見上げ
「…なんだ?」
…お父様とは違う、その眼差しに
「…///」
『キュッ』としたお胸を見透かされたみたいで…
『ハッ』…っと、恥ずかしくなって下を向いた。
「…、、、」
「…」
「…’’’」
「…」
ケれド…
「…っ、」
…覚悟を決めて。
胸の奥を『ギュッ』と押さえつけた私は
「すー…」
夜の空から勇気を吸い込み
「はぁ~…///」
お胸の熱を
全部…できるだけ…ちょ、ちょっとだけ…吐き出して。
「…あ、あのね。聞きたいことが…あるの…」
自分を包む毛布と、その下の逞しい腕を
『じ』っと見つめながら…
「…なんだ?」
心の地面に育ち始めた…
「…ぅ、ん…」
ね様の前では、決して
見せる事のできない…
「…あのね………」
…不安の種を。
「…ね様は。
悪者になっちゃうの…かなぁ?」
「…どうしてそう思う?」
…返ってきたのはゲオ様の言葉だけだった。
でも、
顔を上げなくても声を聞かなくても分かる。
ローズさんとフルート君は憤ってて、
エルフの3人が困ってて。
魔族の人たちは焦っているんだろうなっ。て…
「…だって。エルフさん。それと。エルフさんと一緒に暮らしてるヒト達からみたら。ね様は平和な日常を壊した悪い人なの…」
「ご令妹様っ!我々魔族は魔女様のご活躍と御恩を決して…」
「…じゃあ。人間のヒト達は?」
「そ…」
「ドワーフのヒト達は?獣人のヒト達は?」
「…それは…」
「ね様は。魔族のヒト達以外、全員の…悪者。かなぁ?悪い魔女さんかな…?」
「「「「「…」」」」」
里の手前…森の入り口に
みんなで作った即席隠れ家の中は急に静かになって。
焚き火の『パチパチ』という音だけが響いていた。
街の喧騒も、風の音も。
いつの間にかなくなっていた…
「…姉を悪く言われるのは嫌か?」
頭のうえから聞こえた声に
「ヤだよ!ヤに決まってるもん!ね様は…強くて優しくて泣き虫なね様は!テーの自慢のね様だもん!!誰にも…」
言い終わらないうちに…
「お前の姉は…」
ゲオ様は、
再び口を開いて…
「…フォニは。万象の魔女は。アドゥステトニア大陸に帰っても極悪人だぞ?女王殺しの魔女…」
「違うもん!アレはルクスお兄ちゃんが…」
「小僧はフォニアの奴隷だ。奴隷の罪は主人の…」
「違うもん!!」
「…フォニが。小僧を見捨てると思うか?」
…ね様は。
ルクスお兄ちゃんの事も家族だって言った。
きっと…
「…」
…そもそも。
ね様が女王様と戦うことになった原因は私だ。
私が捕まったのは戦争のせいだ。
戦争の原因は宗教とか歴史とか人種とか…そういう、
誰にも、どうする事もできない。難しくて『ぐちゃぐちゃ』した
”形が無い”のに”積み重な”ったナニカのせいだ…
「…ヒトは弱い生き物だ。故郷を追われ。宝物を盗られ。大事なヒトを奪われた悲しみや虚しさや痛みを。ドコカにブツケなければ、とても、生きてはいけない生き物だ…。」
…ソレは。ツマり…
「…その”ドコカ”が。ね様だってコト…?」
「おそらくな…」
「冗談じゃないよ!」
毛布から顔を上げて、
『キッ』とゲオ様を睨んで
「ね様は私の…私達の…みんなの為に泣きながら頑張ったんだよ!!なのにっ」
「…多くの者はフォニが参戦した経緯を知らんか、知ってても深く考え直そうとしない。”金紫戦争で女王と共に数万の命を奪い。その女王すら手にかけた。”ソレが万象の魔女…」
「ヤだよ!ナンでよ!?何でっ!ね様が恨まれないといけないの!?」
興奮した私の瞳を
「…」
…今までより強く。押さえつけるような視線で
見下ろしたゲオ様は…
「…ティシア。」
…口調も強くして。
お包みする手だけ、優しいままで…
「…お前の姉は。決して、”優しい”ダケの魔女じゃなかった…。ソレは分かるな?覚えているな?」
…その言葉に
「…」
…私は。
目尻の雫を払うコトはできなくて。
負けないように、その瞳を見上げるのが精一杯で…
「…コレからやろうとしているコトも同じだ。沢山の人が傷つく…それを分かっていながら。それでも悪魔の側に着くと決めたのは…唱えたのは…あいつだ。」
「っ…ぅうっ…で、で…っ!」
「どれ程の覚悟で唱えようとしているのか知らんが…」
ゲオ様の…
「…ソレクライの汚名は被ってもらわんとn…」
その言葉に
「っ!」
熱いモノが『カッ!』となって!
「バカァーーー!!」
ゲオ様のホッペを
『ッパアァーッ!!』
無理矢理引き抜いた
手の平で………
『…ッ!』
そのっ、
「「「「「っ!!!」」」」」
瞬間、
『ドグワオォォーーーンンンッッ!!!!!』
だった…




