Chapter 017_アッサリと成される悪魔の復活
「・・・おはようございます。ボルレアス・イシュアラーク・アスタロト=ドラゴン様。」
それは、
思ってもみない目覚めだった…
「…は?キサマは…」
「ボルレアス!!」
一族の存続と引き換えに
眠り続ける…
「は?…っ!?まさか…で、殿下!?」
…ソレが。
毒花が唱えた契約だった…
「あぁ!そう…そうだとも!長い間力になれなくて。本当に済まなかった!」
「…」
…女幼子もいる子らを前にして。
「最後のひとりになるまで…」などと戯言を言えるはずもない。
むしろ、故郷を…そして我が子らの危機に気付くコトさえ
できなかった無益な老体にも使い道があると分かり。
毒花に感謝したほどだった。
可愛い息子・娘。孫たち。
そして竜たち…
…”我が子”らの健やかな姿を見れぬ事は無念だが、
この空の何処かに”居る”事実が”ある”と思うだけで
ワシは満足…
「…娘。ワシを起こしたのは貴様か?」
「・・・はい。フォn」
…満足せざるを
得なかった………
「名前などよいわぁ!!」
7,000年ぶり…そう。7,000年ぶりだ!!
長い眠りから無理やり覚まされたワシが唱えた
固有魔術【竜化】は
「・・・」
「ごだえ゛よ゛っ!!!」
“あの頃”と同じように現れ。
虹を背にした小娘に顎を向け…
「・・・はい。」
「…」
…しかし。
恐れを知らぬ小娘は
「・・・腐海の森を焼き。ボルレアス様を目覚めさせたのは私です。」
小さな声で囁やいた
「ししし死ぃ!!」
何も知らぬ小娘めがっ!!
『ゴバッ!!』
頭に血が上ったワシは
「・・・」
側に殿下がいることも忘れ
ブレスを放とうとした!!
『パッチィンッ!!』
…しかし、
『…!』
次の瞬間!!
「ま゛、魔法だとっ!?」
漆黒の魔法印が拡がり
「ハッ!」
次の瞬間!
「ガハあ゛ッ!!」
強大な力で巨大な体が…太い首が。強靭な翼が。
大地に圧され!?
「ゴフッ!!」
溜めていたブレスの炎が暴発して口を赤く焼いた
「グッ…ッ…」
バチバチと鱗が爆ぜる音を聞きながらも、
何とか動こうと藻掻いたが…
「ッ…フスッ…」
指一本…どころか、
「フッ…ブッ…ッッ………、」
呼吸さえ…
「ッ゛…」
…絶え絶え。
まぶたを上げると
「…お、お姉ちゃ…」
心配そうにアタフタとする殿下と…
「・・・大丈夫。・・・加減を誤ったりはしませんから・・・」
「そ、そうかもしれないけど…」
殿下を抱いて…ちゅ、宙に浮かび!?ながらも、
飄々とした顔の小娘が…
「こっ…こm…めっ…」
「・・・う?」
く、黒い…複雑に絡まるリング状の魔法印の中央で
「そっ…ホっ……ッ…」
「・・・・・・その体躯で。100G下でも呼吸ができるなんて・・・竜とは。すごい生き物なのですね・・・」
「なm…な…」
魔法…そう。魔法に違いない…
小娘はおそらく、
何らかの魔法でワシの体を地面に押し付けて…
「グッ…く…」
呼吸もままならず、
朦朧とした意志の中
無駄な抵抗を試みていると…
「や…止めるんだ。ボルレアス。」
「…」
「君じゃ、お姉ちゃんに敵わない。相性が悪すぎるんだよ…」
小娘に抱えられた我等が溟王殿下は…
「お、落ち着いて…。お姉ちゃん…フォニアお姉ちゃんは味方だよ…」
「・・・」
「…お、お姉ちゃんも…もう、止めてあげて…」
…小娘に言って聞かせ。
「・・・仰せの通りに。」
「っ…ぐばあぁ、はあぁー…はあぁ、はあぁ、はあっ…はぁっー………」
「あ、ありがと…ね…」
「・・・んーん・・・」
地面に降り立ち…
「…ボルレアス。いいか?」
「はぁ、はぁ、はぁ~…は、はっ…で、殿下。失礼を…」
「…それはもう、いいから…。それより…聞いてくれ。」
「はっ…」
…ワシの前に立ち。
「姉様を…そして皆を。助けに来た。協力してくれ…」
ワシの瞳を溟海に沈めた…
「………」
その姿を前にした
ワシは…
「………御意に。」
………
……
…
「…人間とは恐ろしい生き物ですな。」
「ホントだよね〜…」
「・・・むぅ・・・」
フォニアという小娘は
術を解いた直後、
どこか怪我していないか?
骨は折れていないか?
不調があれば治癒術で治すから言え…と。
心配そうな顔で告げたのだった
「お姉ちゃん…。こ、これでもボルレアスは魔王軍で2番目…こと、殲滅戦に関しては最強と謳われていたんだよ?なのに…」
「手も足も出ぬとはこのコトですな。その謂れも改めねばなりますまい…」
…そして小娘…いや。
“小娘”などと言っては失礼だな。
…フォニア嬢は。
ワシの無事を知ると周囲の残火など気にも止めずに机と茶の入ったポット。そして人数分の椅子とカップを取り出し、殿下ともども茶を勧めた。
呆気にとられるワシの前で殿下が、
「…あはは。お姉ちゃんらしいや…」と、
呆れ顔で呟き。ソレでも素直に席についたのでワシも習い。
コレまでの経緯を説明されたのだった…
「・・・ですからソレは。魔法の相性の問題で・・・」
「…ワシの固有魔術は直接的ですが、その分強力なので。搦め手で来る相手も圧倒してきたのですがな…」
「お姉ちゃんの魔法は戦術云々関係なく相手を無力化しちゃうからね…」
「・・・そ、そんなコト有りません。質量がなかったり、効果範囲から逃れられてしまうとソレまでで・・・」
「…つまり。”ウィル・オ・ウィスプ’や”ファンタズマ”。その他、特殊な環境のみに棲息するガス状魔物以外は敵ではない。と…」
「・・・この大陸には。そんな恐ろしい魔物が棲息しているのですね・・・」
「…でも。お姉ちゃん水魔法や風魔法も宿してるよね?」
「…つまり。無敵。と…」
「・・・わ、私はタダの。人間の小娘です・・・」
「「…」」
「・・・・・・」
頭をかぶってみせた小娘は
「・・・ソ、ソレより!」
机の上に置いていた帽子を”浮かせて”
(ワシの位置からは見えない)自身の膝上に移動させ…
「・・・ここまでのお話は。ご理解頂けましたか?」
視線をワシに移し…
「…うむ。」
「・・・では。私との契約を交わしていただけますか?」
「…」
フォニア嬢が言う【契約】とは
“ワシを殺さない”
見返りに、
“陛下が目覚めた後は、種族を問わず争いを極力避け。大陸の平和の為に尽力する”
という。
実に一方的で自惚れた
【理想】という名の【夢見事】
【契約】という名の【我儘】だった。
高々10年と少し生きてきたダケの小娘が
3万年の時を経たワシに言っていい言葉では無い。
しかし…
「・・・殿下とヤマさ・・・ヤマラージャ閣下。そしてァイヒア様は契約して下さいました。」
「…」
「・・・もし。ご契約頂けないとあらば。大変残念ではありますが・・・ココでお別れです。」
「………」
…ココまでのやり取り。そして
殿下が黙っている事実からして。
呪文は唱えた通りになるのだろう…
「ボルレアス………」
押し黙っていると…
両手で湯呑みを包んだ殿下が
口を開き…
「ぼくは…。多くの皆に迷惑をかけたぼくが言うのも難だけど…。ぼくはもう。十分だと思ってるんだよ…」
「殿下…」
「…あのね、ボルレアス。ぼく、昨日までお姉ちゃんと一緒に花のエルフの里にいたんだよ。」
「毒花の里にですと!?」
「…そう。人間に変装して…あはは。おかしいよね?魔王の弟で、溟王であるぼくが宿敵エルフに饗されるなんて…」
「…」
殿下は
青い瞳を碧い茶面に映しながら…
「…エルフたちもね。悩んでいるみたいなんだよ…。ぼくら魔族や。人間。そしてドワーフ・獣人との付き合い方を…」
「…」
「今なら…できるんじゃないかな?って。そう思っているんだよ。昔…戦争のま…」
「詭弁ですな。」
遮ったワシに…
「…」
…押し黙った殿下
「…殿下。そしてヤマには分かりますまい。」
「…」
「一族を背負ったワシの…ワシラの!!っ…」
「…」
「くっ…」
「…」
「失礼を…」
「………………ぅん…いや。じぃじの言う通りだから…」
「………」
「…」
「…」
「…」
しばしの沈黙…
「・・・」
…火の爆ぜる音。
フォニア嬢の瞬きの音だけが響く
イヤに静かな昼前のひと時に…
「…フォニア嬢。」
「・・・う?」
居たたまれなくなったワシは
視線を。移し…
「…貴殿はなぜ。このような…」
真理の瞳に
助けを求めると…
「・・・」
…万象の夜は。
真っ昼間でも輝きを失うコト無く…
「・・・私はコレまで。沢山の人を殺めてきました。戦争に加担したことも。拷問したことも。苦しく酷い死を演出したことも。障害を背負わせたコトも。一族丸ごと絶滅に追いやったコトも有ります・・・」
…ただ。”あったコト”を
”あったまま”に語り…
「・・・しかし・・・」
小さな手で
上品に湯呑みを傾け…
「・・・ふぁ・・・・」
呆れるほど平和な
声で。表情で…
「・・・しかし。仇人を殺し、敵を全滅させ、街を破壊したところで。
愛しい人は
帰ってきては
くれませんでした・・・」
「「…」」
再び
「そして・・・」
湯呑みで顔を隠し…
「・・・・・・・」
無音で。
優美に啜り…
「・・・ふぅ・・・」
“魔法印”で包んだ茶の最後の雫を
小さな唇に落としてから…
「・・・有限の時を生きる私達は・・・」
【竜王】の名など
意味を成さぬと言いたげに
「・・・立ち止まっていられるほど。暇じゃありませんので。」
「「…」」
立ち止まって…
「…はっ!」
“立ち止まっている”
かっ!!!
「ふははははははっ!!!!」
「・・・う?」
「はぁ?」
「気に入ったぞ小娘!」
いい度胸ではないか!!
「よっ!」
立ち上がったワシを
「・・・う・・・」
呑気に眺めるバカ娘を
「わ!?」
「きゃあ!?」
バカ息子ごと抱き上げ
「先程は油断しただけじゃわい!」
「え・・・と・・・」
「なぁにが”じぃじ”じゃ!そんな呼び方を許したツモリはありませぬぞ!」
「え。とぉ…」
ちからづくで
抱き上げて
「…まったく!世話がかかるわい!!」
唱える!!
「・・・ふぅ。とりあえず【竜王】様はコレでいいね?」
「うん!」
「・・・次は・・・獅子王様?」
「そう…つ、次は慎重に。ね…」
「・・・う?」
「そ、その…獅子王【リオン】は。なんて言うか…け、喧嘩っ早くて…」
「・・・大丈夫よ。問題ない。」
「え。とぉ…」
「・・・次も。物理で圧倒するダケ。」
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りんご。です!
誤字と、ルビミスを見つけたので修正しました。
大変失礼いたしました・・・
・・・よろしくね。 (24/09/16 08:25)




