Chapter 015_今は昔②
「…我輩にも。うまく説明できませんで…」
「あははは…」
知識は身につくのに成長できない・・・
ソレはたぶん、ヤマ様のニュアンス的に
成功を体験しても自信はつかないし、
失敗を経験しても同じコトを何度も繰り返してしまう・・・という
意味だと思う。
私達ヒトの人生は短く有限だから
ソコから学び成長していくしかない。
でも、【不死】であり、無限の時を持つ彼等は
その”必要性”がない。
成功すればソレでいいし、
失敗しても、いくらでもやり直しが効く。
たぶん。
ソウいうコトなのだろう・・・
「・・・分かった。ソレなら、今後はソノつもりで付き合うコトにするね。」
「お頼み申す…」
「…ぼ、ぼくも。コレでも気を付けているんだけどね…」
「…ウソつけ。」
「「ロードのコトは必ず!我々が護ります!!」」
「・・・お、お願いね・・・」
「ヤレ、ヤレ…」
「「もちろん、願われました!ロード!!」」
・・・だとしたら。
ソレが事実なのだとしたら
私は・・・
「・・・でも。ソレなら尚更、戦争には加担できないよ。」
「ぐぅ…」
「・・・それどころか、反対する。再戦すると言うのなら・・・私は。カエン様救出に協力しない。」
「「っ!?」」
彼等の【不死】がドコから来ているのか・・・?
ソレは一端、置いておこう。
とても興味深い命題だけど、
考えても、どうせ答えは得られない・・・
「そ、そんなぁ!?ココまで来て!?」
「・・・ココまで・・・と、言っても。ココは私達の旅路の途中に過ぎませんので・・・」
「むぐぐ…」
ソレより問題は、彼等・・・魔族・・・の
考え方だ。
「・・・アミちゃん。ヤマ様も。・・・この土地は元々。あなたたち魔族の物で。エルフに奪われたのは確かなコトなんだと思う。取り返したいと思う気持ちも分からなくはない。」
でも・・・
「・・・でもね。でも、ソレって。もう、7,000年以上昔のコトなのよ?この土地で今を生きている”みんな”は誰ひとり、そんなコト覚えてないんじゃないかな?ソレは。もう、【思い出】じゃなくて。【歴史】になっちゃっているんじゃないかな?」
「そ、それは…」
「で…で、でもっ!」
”悠久の時を生きている”
そして、
“成長できない”
という言葉を
他でもない、彼等自身の口から聞いた今は・・・
「・・・実際にエルフの里を見た今なら思う。この大陸は今、とても平和で安定している。ソレは素晴らしいコトだと思う。格差や搾取。不条理や理不尽が有って。悲しみに暮れるヒトや、悔しい思いをしているヒトがいるのも事実かもしれない。けど・・・」
こんな風に・・・
「・・・この平和は。赤の他人が通りすがりに壊していいモノじゃない。・・・私が。”彼女”のように。ひっかき回してしまったら・・・きっと、また・・・。・・・だから・・・申し訳ないけど。カエン様のことは・・・」
おも・・・
「…じゃあ。」
私の言葉に
『チンッ…』
「…じゃあ。さ…」
ルクスの切っ先に目もくれず、
身を乗り出したアミちゃんは・・・
「…姉様に。ぼくの。たった一人の家族の姉様に。このまま…」
「・・・」
「…このまま。永久に。苦しんでいろって…」
「・・・・・・」
「…そう、言うの。かい…?」
「・・・・・・・・・」
・・・青い瞳から青い雫を流し。
私の瞳を見つめ・・・
「ひぐっ…ぼ、ぼく…だって…ぼ、ぼくだって!できるならやってるよ!自分でやってるよ!だけど…だ、だけどっ!お…お姉ちゃんには分からないんだよ!何でもできちゃうお姉ちゃんにはっ!!」
「・・・」
「…ねえ!姉様を…かっ、家族を!苦しんでる家族を助けたいって思うのは間違ってるかな!?」
「・・・」
「た、確かにぼく達は戦争に負けたよ!彼らがしたように、ぼく達も沢山エルフを殺した!!それは認める!どっちの”せい”だなんて…ど、どっちが悪かっただなんて…。もう、ソンナコト言うつもり無いよ!」
「・・・」
「ぼくは。ただ…助けたいんだ。みんなを。今も苦しんでいる…みんなを。何もできなかった…どころか。みんなに迷惑ばっかりかけちゃったから!だから…」
「・・・」
「でも…ぼ、ぼくにできる事は限られてて。頭もよくなくて!だから…お、おねぇちゃんに、頼ることしかできないんだよおぉ~…」
そう言ったアミちゃんは。
その場に崩れ落ちて・・・
「で、殿下…」
ヤマ様に抱きかかえられながら・・・
「・・・」
私を
「お、願いっ…おねがい。お願いします…ひぐっ…ひぐっ…」
見上げ・・・
「…なんでもっ…ほ、欲しいものがあったら言って!何でもあげるし、なんでもシます。だから…」
「・・・」
「ぼ、ぼくは…ど、どうなっても…ど、毒花のイケニエになってもいい。姉様の身代わりに…なれるの。なら………」
「・・・」
ウリエル・・・
そう、心の中で問うた私に
「…」
帰ってきた答えは・・・
「・・・」
・・・そう。
彼の言葉は・・・
「・・・では・・・」
・・・それなら。
「・・・私と・・・契約
しませんか・・・?」
私が思う
「・・・悪魔さん?」
最適解は・・・
・・・
・・
・
…
……
………
「なんですと!?」
「まさか…そ、そのような契約を!?」
「…よ、よろしかったのですか?閣下…」
生意気な小娘が
里に戻った後…
「よろしいも何も…他に手もあるまい…」
「「「「「しかし!」」」」」
ヤマラージャ閣下は、退席させられていたオレ達に
コトの成り行きを教えて下さった…
「…あんな子供の…」
「い、言いなりになるなど!」
あの小娘…フィリアとかいう…の実力は計り知れない。
なにせ、長年閣下を縛ってきた呪いを暴いただけでなく、
指摘したその場で。ソレをアッサリと解いてみせたのだ!
オマケに、無詠唱(固有魔術か…?)で天使の姿をした召喚獣らしきナニカ…精霊?
…を喚び寄せたという
…もしかしたら、【人間】というのは偽りで。
オレたち【竜人族】のように何千年も生きているか。あるいは、
閣下たちのような…【不死】の存在なのかもしれない。
オマケに、あの瞳…
…なぜ。紫の瞳でソレができる?わからない…
とにかく。君の悪い小娘であった…
「ふふ…気持ちは分かるが…しかしな、考えてもみろ?」
…気味の悪い小娘ではあるが、殿下と閣下が信頼を置いている以上
オレ達は口出しできない。
…それに。理由はともかく、
閣下の呪いが解けたのは喜ばしいコトだ。
なにせ閣下は、あの忌まわしき呪いのせいで、この里から出ることができなかったし、(生活魔法を除いた)ほぼ全ての魔術を封じられていた。
情報も、毒花が望むままに読まれていた。
おかげでオレ達は今まで、
“父”が「頼れ」と言った御仁…故郷を奪われ帰る家を失い。
滅亡を待つばかりだったオレ達【竜人族】を種族丸ごと匿ってくれた
第二の父である閣下…に”ずっと”嘘をついて
いなければならなかった。
その、居たたまれない日々が終わり迎えたのであれば…
「人間…しかも、殿下とは”異性”であるのに。あの女子は殿下の魅了に”無意識”に耐えたのだぞ?それほどの術者が、こちらの思惑通りに動いてくれると…思えるか?」
「そっ、それは…そ、”それほど”の娘で…?」
「…あぁ。”それほど”だ。」
「し、しかし…」
「そ、それでは!」
「では…あれか?我輩に薬か魔術であの小娘を洗脳し、「思いのままに操れ」とでも言う気か?…毒花どもと同じように?」
毒花どもと同じように…
「「「「「…」」」」」
…そう、言われてしまうと
帰す言葉がない。
しかし…
「し、しかしそれでは。我らの故郷は…」
…閣下が説明してくれたところによると、
閣下と殿下は、あの小娘と”ある契約”を結んだという。
その契約によって
小娘はカエン様と13摩天様の封印を解除してくれるし、治癒もしてくれるそうだ。
しかし、
カエン様の救出が終わった後は…
「…別に。”取り返せない”と決まったわけではない。契約によって”縛られた”のは“個人的な喧嘩”以上の紛争であって…毒花が主体的に我らを侵すようなコトがあれば、自衛権もある。“交渉”の余地はある…」
…我ら魔族は小娘との契約によって、
毒花共と共存の道を”歩まされる”…そうだ。
「交渉…です。か…」
「我らの土地を。資源を。命を…数千年に渡り弄んできた連中と…」
「…話し合え。と…?」




