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【コミカライズ連載中】持ち主を呪い殺す妖刀と一緒に追放されたけど、何故か使いこなして最強になってしまった件  作者: 玖遠紅音
第3章 黄昏の鐘と栄華の残響

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2話 捨てられた城

 気が付くと、夜の森を彷徨っていた。

 方向感覚を失い、自分が今どこにいるのかが全く分からない。

 どうやってここまで来たのか、どう戻ればルフランたちのいる場所に戻れるのか。

 周りを見渡しても同じような木ばっかりで、目印になりそうなものは何もない。

 少し昔のことを思い出して陰鬱な気分になるが、そんなことよりも早く仲間と合流しなければならない。

 

 跳び上がって空から探すのが最も効率的だが、ここでは枝や葉っぱが邪魔で上手く上空までは行けないだろう。

 そう思って開けた場所を探して歩いていたら、不思議な少女と出会った。

 白銀の髪と血のような紅い瞳を持つ小柄な少女。

 一見ごく普通の村娘のように見えて、その奥にただならぬ迫力を秘めた彼女は、どういうわけか自分と同類の匂いを漂わせていた。


「アルテさんはこのあたりに住んでいるんですか?」

「ええ、そうよ。何年も前から、ずっとね」

「こんなところ……って言ったら失礼ですけど、とても人が住めるような環境には見えないんですが、もしかしてどこかに隠れ里みたいなものがあったりするんでしょうか?」

「いいえ。ひとりよ。あなたの言う通り、ここは人が住めるような場所じゃないもの」

「ええっ……そんなところに何年も暮らしているなんて、アルテさんって凄いんですね」

「……別に、そうでもないわ。私がそうしたいから住んでいるだけよ。さあ、着いたわ。ここが私の家」

「!?」


 アルテの案内で深い森の中を進んだ先にあったものは、到底家とは呼べない代物だった。

 こんな人里離れた場所には似つかない建物。こういうものは、大きな都市の中心部にあるべき巨大な建造物。

 一言で言うならば、城だ。エルネメスの王城と比べると一回り小さいが、屋敷というには大きすぎるそれを、平然と自らの家と言い張って扉を開けるアルテ。


「……どうしたの?」

「あ、いえ。その……もしかしてアルテさんって、どこかの国の王族の方だったり?」

「いいえ。捨てられていた城に勝手に住み着いてるだけよ。今はこんなところに国なんてないわ」

「なるほど……それにしても、ずいぶんと綺麗ですね。捨てられた城という割には」

「掃除しているだけよ。暇だから。さあ、こんなところでじっとしてもつまらないわ。早く入って」

「あ、そうですね。お邪魔します」


 開かれた大きな扉の先でこちらへ手を伸ばすアルテに促されるように、クロムも城の中へと入っていく。

 クロムが中に入った瞬間、背後の大扉はひとりでに締まり、赤いじゅうたんが敷かれた廊下の明かりが一斉に灯った。

 恐らく何らかの魔術がかけられているのだろうが、生憎とクロムは魔術の心得が全くないためその仕組みは理解できない。

 

「ところで、仲間とはぐれたって言ってたわよね。本当はすぐにでも探しに行きたいんじゃないの?」

「あぁ、それはもちろんそうなんですけど、とりあえずはそこまで焦らなくても大丈夫かなって」

「そうなの? 心配じゃないのかしら」

「心配……はしてないですね。正直なところ」

「ふーん……」

「あ、別にどうでもいいってわけじゃないですよ? あの三人は僕がいなくてもよほどのことがなければ大丈夫なくらい強いってことです」

「そう。それならいいわ。この辺りには夜になると昼間の数倍は凶悪な魔物が行動を始めるから心配していたのだけど、杞憂だったみたいね」

「ええ。今探しても見つけるのに苦労しそうなので、とりあえず夜が明けてから探しに行こうと思います」


 クロムの自信に満ちた言葉を聞いて、アルテは僅かに目を細めた。

 夜になれば魔物のレベルが上がる、というのは、事実ではあるが脅しの意味も含めて放った言葉だった。

 だが、それを聞いてもクロムは一切意見を変えず、仲間への信頼に揺るぎがないことを証明して見せた。

 アルテは己の直感から、クロムの実力を高く評価していた。

 そんな彼が”強い”と断言する仲間があと3人いるとなると、仲間との合流されることで自らの立場が危うくなる可能性を考慮しなければならない。

 

 少なくとも、今晩だけは。この夜の間だけは、自分が優位に立っていなければならない。

 何故なら、彼女の目的は――


「アルテさん? どうしたんですか? そんな深刻そうな顔をして」

「――っ、いえ。ごめんなさい。少し考え事をしていたの。夜が明けたときのことをね」

「あぁ、すみません。僕のせいで余計なことを考えさせちゃって……なるべくご迷惑をかけないようにするので!」

「こっちの事情だから気にすることはないわ。部屋はいくらでも空いているのだから、落ち着くまで好きなだけ泊まってもらって構わないわよ」

「はは、ありがとうございます。とりあえず今晩はお世話になります」

「ええ。さあ、冷めないうちに飲んで頂戴」

「いただきます」

 

 促されるままにクロムは差し出されたティーカップに口をつける。

 とても安心感のあるハーブの香りが鼻腔を擽り、程よい暖かさが冷えた体に染み渡った。

 ルフランであればここに甘味料を足していただろうが、それではこの紅茶の良さは損なわれてしまうだろうとクロムは思った。

 

「どう? お口に合ったかしら」

「ええ、とっても美味しいです」

「それは何よりよ。あとでお湯も用意するわ。よかった入って頂戴」

「何から何までありがとうございます」


 紅茶に合わせていくつかお茶菓子が出され、クロムはやや遠慮がちながらもそれに手を伸ばす。

 朝食以降何も食べていなかったことに加え、甘さが控えめであったことから普段から菓子を嗜む趣味がないクロムでも満足がいくものだった。

 しかし、町から離れているというのにあまり日持ちのしなさそうなものが並んでいるのは何故なのだろうか。

 ひょっとしてアルテが自分で作ったものなのかと尋ねると、そうだ、という答えが返ってきた。

 もう少しボリュームがあるものを食べたいとも一瞬思ったが、もとより空腹には慣れているので今はこれで満足するべきであろう。


 ティータイムを終え、風呂に入って汗を流すと、急激に眠気が襲ってきた。

 どうやら想像以上に疲れがたまっていたらしい。その様子を察されてしまったのか、アルテは微笑みながら寝室へと案内してくれた。

 流石は城なだけあって、そこらの宿の部屋とは比べ物にならない立派な部屋だ。

 若干広すぎて落ち着かないが、元々野宿を予定していた中でこのレベルの部屋に泊まれることになったのは幸運以外の何物でもないだろう。

 ルフランたちには少々申し訳ない気持ちが湧くが、それは明日再開してから謝罪すればいいだろう。

 そんなことよりも、眠くて眠くて仕方ない。ここまで強烈な眠気に襲われたのは久しぶりだ。

 明日のことは起きてから考えればいい。今はただ、ゆっくりと……


「おやすみなさい、良い夢を」


 耳を撫でるような甘い声とともにクロムの意識は黒に落ちた。

 

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