62話 次のステップに移ろう
宮殿の謁見室にて、僕はあぐらをかいてボードを見ながら戸惑っていた。
「属国って、なにか条約を結ばなくても良いの?」
ボードに表示されている『属国:ガルドン王国』との内容。なんでこんなことになっているのかわからない。
「属国というのはですね、条約で成立するものではないのです。他国の軍に頼っていたり、自国の食料自給率が輸入頼りで、しかも一国への依存率が高い場合になります。それに加えて政治家がその国に媚びを売って、要求を相手の好きなだけ聞き入れてしまう場合ですね」
床に寝そべり、パリパリとポテチを食べながら漫画を読んでいるルフさんが答えてくれる。
へー、そんなパターンなんだ。でもガルドン王国には軍隊がちゃんといたよ?
「たぶんでふが、サイダーください」
「ちゃんと最後まで説明しなさいよっ! 気になるでしょうが」
漫画に集中しすぎて答える気が無くなった秘書さんである。同じく謁見の間で寝そべっていたシュリが文句をつける。まぁ、ルフさんと同じくグデッとしてるんだけど。ただ、僕の膝を枕にしているけど。ゴロゴロ子猫のように寝ているけど。シュリの髪の毛は撫でると触り心地が良いなぁ。
「しょうがないですね〜。有能たるルフが答えましょう。応えましょう」
タオルケットをかけて、すやすやとお昼寝をしているねむちゃんの横に放置されているサイダーにそ~っと手を伸ばしながら、ルフさんが答えてくれる。
「魔王戦と使徒戦でまったくガルドン軍が役に立たなかったことがあの国で噂されてるんですよ。ルルイエ王国へ擦り寄りたいガルドン王国の貴族の仕業です」
「あぁ、この間意次さんが帰国したいと泣いて連絡してきた時に、そんなこと言ってた」
思い出したとぽんと手を打つ。そういえばガルドン王国の軍隊の評価が地の底に落ちているとかジョークを言ってたけど、本当だったのかぁ。
「自国の軍隊が役に立たないのは一番まずいんですよ。ルルイエ王国の影響力があれでドカンと上がりました」
「影響度って、表示がないんだけど?」
「マスキングされているんですよ。こういうのって、感覚の問題になりますから、数値化はできないんです」
「でも影響度が高いからガルドン王国は属国になっちゃってるよ?」
「謎システムというやつです。そこはゲームの適当仕様で」
適当だなぁと苦笑しながらも、どうせゲーム的なシステムだから気にしなくていっか。
とりあえず、ガルドン王国のことは暫く放置しても良いだろう。
「ガルドン王国との貿易はこれ以上増やすわけにはいかないから、次は『大航海ギルド』の拡大でよいのかな」
「ヨグ様の言うとおりだと思う。ペレは賛成」
「あたちもさんせーでりゅ」
同じくゴロゴロしているペレさんとよーこちゃんが賛成してくれる。
「そうですな。これ以上ガルドン王国と貿易を拡大する利点はありません。次なるステップに移るべきでしょう」
「大賛成ミャア」
ゼノンさんと、リスターも同じ考えで良かった良かった。
謁見の間で話し合いをしている僕たちです。謁見の間というけど、単なる憩いの間になっています。
皆でゴロゴロしながら弛緩した話し合いだ。父さんたちはいない。新ルフ島に現れた魔物を狩るのに夢中なのだ。
次なるステップ………漁村や漁港の魔物からの解放なんだけど………。
「ギルド員だと難しいことがわかったんだよね」
嘆息して、空間の狭間にルフさんを落とそうとしているねむちゃんへ視線を向ける。サイダーをとられたから怒って起きた模様。幼女はお菓子が盗まれると自動的に起きちゃうのだ。
「解放するけーひと、報酬があわないんでしゅよね。ちょっとお金がかかりすぎましゅ」
ルフさんを落として空間を閉めたねむちゃんは、そのちっこいおててに紙切れを持つ。
「機体修理費122億TP、町の復興費48億TP……。大金がかかってますね」
ねむちゃんの後ろの空間が開いて、ルフさんがその紙切れを奪いとる。空間の狭間に入ったら、高山病にかかるんじゃなかったっけ? ルフさんピンピンしてるんだけど。
「むーっ、ちょっと失敗しちゃったの! でんどろねむがぽちゃんと落ちるのは想定外だったのでしゅ! 町は焼いちゃ駄目って、言われなかったもん!」
むきゃーと、タイガーねむちゃんへと変身して、ルフさんに噛みつきながら悔しそうにする。
「たしかにちょっとプラズマを撃っただけで町が吹き飛ぶとは僕も思わなかった」
「そうね、私もそれを聞いてびっくりしたわっ!」
「自分は二人の言葉にビックリしてます」
僕とシュリはねむちゃんが知らないのも無理はないと思うけど、なぜかルフさんが半眼になっていた。
「というわけで、地味にふつーに港町を解放していくと良いですよ。今のルルイエ王国の虚像なら充分解放するための力を持っているはずです」
「はぁい」
そっか。それなら仕方ない。魔法戦士団を編成するかな。
隊長は誰にしようかなぁ。
「あたち! べれらんのあたちがいましゅよ!」
「べれらんって、反対に凄そうなランクですよね。でも借金を返すのに昆布採りをするんでしょう?」
「昆布採りで返済をするには何年かければ良いと思ってるんでしゅか! 1年はかかりましゅ! 海底ごと採るのも大変なんでしゅよ!」
「まずいですよ、閣下。この幼女は封印しておかないと大変なことになりそうです」
ねむちゃんはとルフさんのコントはスルーして、リスターへと忠告を求める。ここは初心に返らないとね。
「レベル60を超えたので、初期型精霊艦を建造できるミャア。それに加えてアウターアーマーの設計を元にしたマナエンジン搭載の魔導鎧を製造もできるはず。これで港町を解放していけば良いミャン」
「おぉ、さすがはリスター! 了解だよ」
それなら充分に揃えることができそう。ポチッと……ポチッと……。
「大変だよ、ルフさん。僕のTPがほとんど空になってる!」
「考えなしにタワマンを建てまくったからじゃないですか! 人はそれを自業自得と言うんです! ガルドン王国との貿易の利益はどうしたんですか?」
痛いところをルフさんはついてきた。頭をカジカジとねむちゃんに齧りつけられているのに、まったく顔色を変えないルフさんに。
「魔石がどうやら枯渇したみたい。高騰しているのもあるけど、ちょっと一気に集めすぎたね」
「あぁ、ゲーム仕様ではない現実だとそうなりますか……。ゴミ同然の魔石を千億近く集めたんです。そりゃ空になりますよね」
納得しちゃうルフさんである。そうなのだ、僕も貿易をしていれば魔石が無限に手に入ると勘違いしてたよ。
「金貨は山ほどあるのにぁ………。ぶっちゃけ僕たちにとってはゴミだよね」
「キラキラした石と同じ扱いですからね。……どうしましょうか」
システムで表示されている倉庫に仕舞われている金貨の量はとんでも無い金額だ。よくこんなに集まったなぁという感じ。
まぁ、僕が持っていても仕方ないので、ガルドン王国で湯水のように使っているんだけどね。インフレ? そこはガルドン王国の国王にお任せだよ。
リスターがぴょんとペレさんの頭から飛び降りると、前脚を翳す。ピピッと空中に地図が表示される。
世界地図といっても、僕らが旅してきた場所は詳細な内容だが、あとは羊皮紙に書いたような雑なものだ。
ブーメランを横に置いたような大陸が映し出されるが、その中心の突き出ている部分がガルドン王国と表示されていた。
「ガルドン王国はこのように南大陸と1番近い場所にあるミャア。だからこそ、遠洋航海の補給地として繁栄してるミャアけど、別にルルイエ王国は付き合わなくても良いミャン」
「とすると? 他の国に行こうということ?」
「そうミャア。西の果ての国を狙うべきだと提案するミャア。ガルドン王国と離れすぎていて、帆船という遅さをかんがえるとルルイエ王国の正しい情報は伝わっていないと考えるミャア」
「ルルイエ王国が小さい国で、簡単にやられちゃう弱小国だとバレていないということだよね」
危険な情報だ。魔法を駆使する他国は僕たちの正体をいつ見破ってもおかしくない。ガルドン王国ではバレていないけど、それが他の国でも同じという保障はどこにもないのだ。
「危険な情報という点ではあってますね、閣下」
「さすがはルフさん、わかってるね!」
相変わらず、僕の心を読むのが上手いルフさんへと笑顔で頷く。ルフさんは漫画に顔を突っ込んでいたので眠くなったのかな?
「では、向かうのは問題ないということで、次の目的地は『サンクリシャー帝国』で決まりミャア」
「お〜!」
リスターの言葉に、僕たちは手をあげて同意するのであった。
◇
で、サンクリシャー帝国へと向かうことになったんだけど───。
「ヨグ様、是非私も一緒に行きたいと思います」
向かう前にガルドン王国へと一言挨拶をしにいったら、レーナ王女が一緒に行きたいと言ってきた。
「サンクリシャーは、昔に行ったことがあります。記憶によると、あの地は強さを基準とした身分制度の帝国。弱者にはとても冷たい国なのです」
「そのとおりです、ヨグ王子。かの国は危険です。他国の使者に対しても同様に力を押し測ろうとするところがあります。かつてはゴライアスが使者であり、腕っぷしだけは強かったので、馬鹿にはされませんでしたが、ヨグ王子も試されることでしょう」
応接室でスルドル王子とレーナ王女と簡単な挨拶として話しているが、その情報は不安を煽るものばかりだ。
「無論のこと、神器を使うことも許されません。己の身体と魔法のかかっていない武器防具だけとなります」
スルドル王子が意味ありげに目を光らせて、僕が腰に下げている二代目ただの鉄の棒を見る。
なるほど、危険なところらしい。それならレーナ王女を一緒に連れて行くのはまずいんじゃないかなぁ。
「大丈夫です。私もあれから訓練を続けていますし、足手まといにはならないように気をつけます」
「うーん……それなら頼りにして良いでしょうか?」
「お任せください! きっと後悔はさせません」
胸に手を当てて、頼もしき笑顔になるレーナ王女。それならお任せしようかな。
僕たちは一行にレーナ王女たちを連れて、一路サンクリシャー帝国へと向かうことにするのであった。




