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ヨグの大航海 〜孤島の戦闘民族は国造りをしますっ  作者: バッド
2章 驚異にして脅威の国の始まり

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52話 おにぎりを作ろう

 魔王ゴラーとの激戦を終えて、僕はなにが起こったのかをレーナ王女たちと話し合うことにした。引き続き、平原で野営を……と思ったけど、ゴブリンたちの死骸だらけなので、とりあえず僕とシュリの放ったエネルギー波で灰に変えて、少し進んだ所で野営をすることにした。


「申し訳ありません、ヨグ様。恐らくはスルドルお兄様になにかあったに違いありません」


 レーナ王女が申し訳なさそうに謝るけど、気にしないで良いよ。戦いはいつ始まってもおかしくないからね。


 魔物との戦いはいつもそうだ。食事中でも襲いかかってくる魔物はいるのだ。その場合は食卓におかずが一品増えるから嬉しいけど。


「スルドル王子は5千の兵士で魔汚染の対処をしていたと聞きました。なにかアクシデントがあったのでしょうか?」


「えっと……なにかというか、あれ程に凶悪な魔王軍を前に……その戦略的撤退をしたのかと思います」


「一旦退いたわけね。たしかにあの敵は少し厄介だったもの。あたしなら全周囲飽和キックで対抗するしかなかったし」


 レーナ王女があらぬ方向を見ながら、気まずそうに答えてくれるけど、シュリの言うとおり少し厄介な敵だった。戦略的撤退を選択したのか。戦略的撤退、なんかかっこいい響きだね。


 僕はアウターの民の中でも、少しだけ器用だから隠れているのを見抜けたけど、シュリとか他の人たちなら、更地にしていたはず。スルドル王子は更地にするんじゃなくて、一旦戦略的撤退をするとは、自制心がとっても高い。尊敬しちゃうよ。


「でも、スルドル王子とはすれ違いませんでした。普通は撤退したら、後ろに下がるのではないでしょうか?」


 僕たちはこれまで誰ともすれ違わなかった。これっておかしくないかな。整然と撤退をしたとしても、ゴブリンたちが追い抜いてくるのは不自然じゃない?


 僕の言葉に、レーナ王女とオルケさんはたしかにそうだと、ハッとした顔になる。


「まさか全滅……いえ、それならばゴブリンたちが追撃にあれ程の兵士を率いてくるのは不自然です。スルドルお兄様は東西のどちらかに向かったのでしょうか。ですがゴライアスとの紛争地帯を横に移動するのは、攻める気があると思われて危険な試みのはずですが……」


 戸惑うレーナ王女は、答えが見つからずに首を傾げている。たしかに僕も同じ考えだ。皆で空を飛んでも、目立つからすぐに気づけるしね。


「閣下、空を飛ぶことを基本に考えないでください。ありえませんので。それよりももっと簡単な答えがありますよ」


 ジト目で僕の頬をふにふにとつつきながら、ルフさんが推察を口にする。なんだろうと、皆が注視すると胸を張って、ルフさんは自信満々にフンスと息を吐く。


「隠れているんですよ。恐らくは草原の中でも、背の高い草が繁茂して、腰を屈めれば敵から見られない場所に」


「5千人が?」


「たぶん戦闘でだいぶ兵力は減っているんでしょうし。忘れましたか? 彼らは魔法があるので、身を隠す穴ぐらいは作れるに決まってます」


 なるほどね。そっか塹壕を作っているようなものか。それなら気づかれない可能性は高いし、防衛にも適しているだろう。ルフさんの推察は鋭いと言える。


 それならやることは一つだ。


「華麗に彼らを助けに行くんですね、閣下!」


「カレーはボツにしたでしょ。ここは大量におにぎりを作って、お腹をペコペコにした人たちに振る舞うんだよ!」


「閣下って、時折滑りますけど、スケートの才能でもあるんですか?」


 しっかりと僕のセリフを引き取るルフさんに、なかなかやるねと笑ってから、腕まくりをする。


「飯盒を並べてご飯を炊きましょう!」


 おにぎり作り隊の設立だ!


「いえ、あの、スルドルお兄様たちの中で魔法使いは少ないので、全軍が隠れることは不可能かと。その推察は間違っている可能性が高いです」


「そんなことはありません。この名探偵ルフの推理はたぶん当たってます」


 慌てて、ルフさんの推理を必死に否定するレーナ王女。対してルフさんは微妙に自信がなさそうで、セリフと行動が合ってない。なにせ、そっぽを向いてるし。でも、そうなるとスルドル王子はどこに……?


「あ、あれじゃない?」


「あ、たしかにそれっぽい」


 シュリが目敏く気づき指差す先で、土がせり上がり、ボコンと土まみれのロープを着たおじさんたちが顔を突き出してきた。疲労困憊といった感じで顔が青褪めている。


「ほら、名探偵ルフの推理は合ってましたよ。当然当たっていると思ってました!」


 ルフさんが得意げに、ボロボロのおじさんたちを指差す。おじさんたちは、僕たちに出会ったことで、安心したのか、身体をグラリと傾げて膝をつく。その穴からは続々と兵士さんたちが現れるのであった。


 どうやら斬新な戦略的撤退をしたみたい。土の中を通ってくるなんて、僕たちにはできないから、魔法の力は本当に凄いや。


 傷ついている人たちもいて、その数は三百人ほど。スルドル王子はいないみたいだから、話を聞こうかな。


 おにぎりを握りながらね!


          ◇


「スルドルお兄様はこの軍にいない!?」


 素っ頓狂な声で、レーナ王女が動揺を露わに魔法使いのおじさんに詰め寄る。


「はい。ゴブリンならば千人程度で良いだろうと仰られて、自軍本隊は魔汚染を迂回。北部にて魔汚染を片付けたゴライアス王子に奇襲を仕掛け、この戦をさっさと終わらせると息巻いていました」


 気まずそうに項垂れる魔法使いのおじさん。暗黙の了解で魔汚染に対峙する軍へは攻撃を仕掛けてはいけないという話だったと思うけど……なるほど、片付けた直後を狙えばいいわけか。


 よく考えているねと、僕は感心したけど、レーナ王女の顔は羞恥と怒りで真っ赤だった。……どうやらアウトな行動らしい。


「恥知らずなっ! たしかに過去において、そのような行動をとる者はおりましたが、皆、その後は後ろ指をさされていたではありませんか!」


 激昂するレーナ王女に、しかし魔法使いのおじさんは同意しなかった。厳しい表情で一歩も引かぬと、レーナ王女の顔を見据える。


「これは苦渋の決断だったのです、王女。今は一刻も早く国を統一しなければなりませんでした。状況が状況だったのです。今のガルドン王国は他の貿易国家からは邪魔だとしか思われておりませぬ。困窮している国が我が国を排除しようと動き始めているのですよ!」


「くっ………。今の状況では満足できないということですか」


「そのとおりです。このままでは我が国は突出した力を持つのは必定、内陸の国家も警戒し、表に裏にとちょっかいをかけてくるでしょう」


 なぜか僕たちをチラチラと見ながら、レーナ王女たちは話している。気づかれていないと思っているようだけど、視線には敏感なんだ。島では視界の外から攻撃をしてくる魔物もいたから、倒すには必要なスキルだったんだ。


 だからこそわかる。レーナ王女たちが何を求めているかを。


 おにぎりを食べたいんだよね!


 今作っているから、待っててほしい。平原で僕たちは皆のためにお米を炊いています。きっとお腹が空いてきたんだ、間違いない。


「閣下、いきなりアホにならないでください」


「ルフさんもそのままだと飯盒が焦げちゃうよ」


「料理を作る際は美味しく作るか、物体エックスにするかしないとキャラが立ちませんからね」


 ツッコミを入れてくるルフさんに、カウンターツッコミを入れると、飯盒を焚き火の中に投げ入れて豪快な炊き方をしているルフさんは頭の悪いことを真剣極まる顔で口にした。


 実にルフさんらしい返答である。とはいえ、僕も本当はわかってるよ。


「僕たちが原因なんでしょ? でも他国にも『大航海ギルド』支店を設立してくれたら、貿易しますよって伝える予定だよ」


「たしかにそうなんですが、それでも中心はガルドン王国になるでしょうし、貿易量から考えて対処しないとまずいということでしょう」


「そうね。スルドル王子は焦って行動したに違いないわ。北部が分裂していれば支援をする国が現れて内乱が続くことになるし。短期間で勝負をつけたいというところのはずよ」


 ルフさんとシュリが正確な分析をしてくれる。たしかにそのとおりだろう。延々と内乱を続ける国などよりも我が国をと言ってくる他国はいるはずだからね。スルドル王子、無茶をしやがって、というやつに違いない。


「スルドルお兄様……無茶をするんですから。無事だと良いのですが……」


 心配そうに北の方向を見て呟くレーナ王女。健気な少女に同情しちゃうよ。


 ルフさんは苦虫を噛んだかのように顔をしかめて、マジですか、この王女と見詰めている。もはやスルドル王子は死にましたと呟いてもいる。なにか意味があるのかな?


 まぁ、大規模な戦争ではなくて、兄弟喧嘩レベルで終わるなら被害も少なくて良いだろう。少し悪いことをしたかもとは思うけど、貿易に来ただけだし、僕たちは悪くないと思う。


「それよりも、おにぎりができた! 皆、食べてみてください!」


 それはともかくとして、おにぎりだ。三角に強く握ったのだ。


「お焦げ入りで美味しいですよ」


 グイグイと魔法使いの口に押し付けちゃう。塩が効いてます、塩が。


「あ、どうも……腹減ってたんです」


 なんだこれと、不思議そうにおにぎりに恐る恐るとかぶりつく。そしてむぐむぐと食べて、ホォと再び頬張り始める。


「面白いパンですな。いつものパンよりも遥かに柔らかいですが、食べ甲斐はありそうです」


 変わったパンだと言いながら、おじさんたちはむしゃむしゃと食べる。夢中になって食べるという感じではない。まぁ、元々白米は毎日食べられるレベルの程よい美味しさだし無理ないか。


 炙った干し肉と共に食べるおじさんたち。イータさんとは違い、まずそうな顔ではない。おにぎりにしたからだ。作戦成功!


「やっぱり皆、おにぎりの方が良いみたい」


「そうね、ガチガチに固めたおにぎりは忌避感がないみたい。少し冷えたから炊きたての匂いは薄れているし、固いから食べごたえもあるわ」


 空気が混ざるようにふんわりと握るのがコツのおにぎりだけど、ところ変われば味覚も変わると、ガチガチに握ったのが良かったらしい。


 この間おにぎりを配った時に、そこまで嫌がられなかったから、少しアプローチ方法を変えたんだよね。


「まだたくさんありますし、炊き方も教えますよ!」


 この大陸では、小麦を練ってパンにするように、ご飯は炊いたらおにぎりにというルールになりそうだけど……まずは流行らさないといけないし、仕方ない。


「どんどん食べてください。たくさんありますので!」


「お、おぉ……ありがとうございます?」


 なんか気まずそうに、でもお腹が減っているから食べ続けるおじさんたち。良かった良かった。


「いえ、良くありませんよ? ヨグ様、すぐにスルドルお兄様のところに向かわないと。後背から先程のゴブリンたちの残党が襲いかかってきたら、軍は総崩れです」


 レーナ王女が焦っているけど、僕は他国の王子だから助けに行ってよいのかなぁ。


「!」


 北にいきなりでっかい闘気が現れたみたいだけど……。これはゴライアスさん?

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― 新着の感想 ―
[一言] スリの時といいこの王女のフラグ建築能力高いなぁ
[一言] おにぎりに具がないと寂しくないかな?
[良い点]  フラグを立ててしまうレーナ姫(´□` )前回の裏話からゴライアスがアホほど強化されてるのを知る読者には「スルドル王子終了のお知らせ」にしか思えないけどヨグくんいるからヒデー事にはならない…
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