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ヨグの大航海 〜孤島の戦闘民族は国造りをしますっ  作者: バッド
2章 驚異にして脅威の国の始まり

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35話 スキュラクイーンを倒そう

 ドカンドカンと轟音が響き、船体が僅かに揺れて、六角形の水晶型魔導カノン砲から、風属性の砲弾が発射されていく。


 水晶の砲口に魔法陣が生み出されると、緑色の光弾が生み出されて、遥か遠くに集まっているスキュラたちの只中へと落下すると、水面で爆発し『ストーム』を発生させて、刃のように切れ味鋭い風に切り刻まれていった。


「あれはハイスキュラミャア。一発程度ではかすり傷程度しかつけられないミャン」


 ペレの頭に乗るリスターがぴょんぴょんと飛び跳ねて、僕を見てくる。視力を凝らして見ると、確かに一発だと浅い傷しか負わせていない。ハイスキュラっていう魔物は魔導カノン砲を防げる抵抗力を持っているのだろう。


「一発って、2千発ぐらい一度に撃ってるんでしょ? 細切れになってるわよ?」


 シュリが呆れたように、敵の集団を眺めているが、たしかに砲弾の嵐で敵の姿はさっぱり見えない。海底火山でも爆発したかのように、壁のような大きさの水しぶきが吹き上げて、ハイスキュラたちは肉片となっていた。


 たとえかすり傷でも、同じところに2千発受ければ致命的になるのだ。浅い傷でも同じ箇所に2千回なら大怪我に変わるもんね。


 そうなのだ。現在は僕の旗艦を含めて50隻が魔導カノン砲を撃っている。かなりうるさいので顔を顰めちゃう。


「この音はどうにかならないのかなぁ? ちょっと近所迷惑になると思うんだけど」


「砲撃音だけで相手に威圧を与えられるんですよ、閣下。この砲撃音を響かせるだけでインカ帝国は滅亡します」


「たしか5百人の銃を持った西洋人の撃った銃声を聞いて稲妻の魔法だって逃げた人たちだっけ? 5万人もいたのに散り散りになったんだよね」


「よく勉強していますね、そのとおりです。未知の兵器は相手に強い衝撃を与えます。この魔導カノン砲も相手にとっては未知の兵器。恐怖に怯えること間違いなし!」


 ビシッと親指を立てて、とっても良い顔でルフさんが褒めてくれる。僕もエヘヘと笑顔で返す。


「カラスに対して金属音を鳴らして、畑から逃がす感じだね」


「一気にしょぼいイメージにして頂きありがとうございます」


「でも、あれって慣れてきちゃうよね。超音波で反撃してくるし、倒した方が早いよ」


「それはどこの怪鳥なんでしょうか」


「ロプカラス」


「バベルの塔に棲息していそうな名前っ!」


 ツッコミを入れて、なぜかジト目となるルフさんだけど、ルルイエ島でも小さな畑を作ってたんだ。その畑の作物を狙うカラスは時折魔汚染から生まれてくるんだよね。


「とはいえ、少しうるさい。ヨグ様、ボードにSE音の設定があるので、小さくして」


 てこてことペレさんが近づいてきて、僕の裾をクイクイと引っ張って耳元に顔を近づけてくる。水着姿なので、ペタリとくっつくと少し冷え冷えしている。


 実はこの轟音の中で、実は大声で話し合ってます。なので限界なのだろう。


「これで音を変えられるんだ……。ボイス音もあるなぁ」


「そうミャア。ミャアたち王国民と王国が作った物にしか効果はないけどミャン」


 ペレの頭の上でリスターが尻尾をヘニョリとさせて、顰め面で僕を見てくる。なるほど、ゲームだもんね。


 最近、『日本』のことを学んだ僕は簡単に理解できた。


「それじゃSE音は低めに……と」


 ボイス音とかも変更できるけど、それはいらないだろう。ルフのボイス音を消せないのとか、シュリは言わないように。


 あれほど煩かった砲撃音が、雀がチュンチュン鳴くぐらいに小さくなっちゃった。でも、チュンチュンとそこらじゅうから音が響いていくるので、煩いのはあまり変わらないかもだけど。


 それでも音が小さくなったことで、皆が忙しく動いて、怒鳴るように会話をしている様子が聞こえてきた。


 水晶が先端に嵌められている金属製の魔導カノン砲。後部の蓋を開けて魔石を平たくした魔導板を海兵さんが取り替えていく。


「風のカートリッジを再装填完了! 魔石板の準備よし。次弾発射できます!」

「よし、全砲が準備完了後に再度の一斉射撃!」


 魔導カノン砲は元素属性板と魔石板を装填して発射する。自動装填ではないので、忙しなく砲術士さんたちが入れ替えて、スキュラたちに砲を向ける。


『うむぅ〜、全艦に通信でりゅ。時間合わせ、10秒後に発射』


 よーこちゃんが、ウンウンと唸って、こめかみに人差し指をつけて、通信魔法を使っている。100隻から成る艦隊へと的確に通信を送れるよーこちゃんは、幼女だけど卓越した腕を持っている。見た目は体調が悪そうで、苦しんでいるようにしか見えないのが難点だけどね。


「各艦隊に命令をせよ。ハイスキュラたちは、そろそろ潜水して接近をして来ようとするはずだ。次弾は海中戦へと切り替え。近中距離用に土属性で『岩石弾』へと変更」


「ハイでりゅ。次弾より切り替えをするように指示を出します」


 厳しい目つきでゼノンさんが指示を出すと、キリリと眉を寄せて、再び伝えるよーこちゃん。チュンチュンと可愛らしい砲撃音が響き、砲術士さんが素早くカートリッジを入れ替えていく。


「風属性は風の効果もあり、射程距離は90キロ。ですがご覧のとおり威力は弱いです。土属性は射程距離は10キロ。ですが、岩という物理的な力も加わり、水中内でも問題ありません。まぁ、端的に言うと魚雷となります」


 前方へと目を凝らしながら、ゼノンさんが説明をしてくれる。僕も砲撃の嵐を見るが、着弾点にいたハイスキュラのうち、何十匹かは水中に潜って、弾丸を回避したようだった。


「ピピッ、敵の戦闘力解析! どうやら風の魔導カノン砲ではたいしたダメージを与えられないようです。レベルが10離れていると、無効化されてしまうパターンが多いんです」


『スキュラクイーン:レベル50』

『スキュラエリート:レベル40』


 舷側に身を乗り出して、フンフンと鼻息荒く私の出番ですねと、嬉しそうにルフさんが笑顔になる。


 ああいった敵には効かないんだね。『岩石弾』だとダメージを入れられるのかなぁ?


「艦長、第二艦隊のネルソン提督が単縦陣で攻撃をするとの連絡あり」


 ペレさんが艦隊の報告を取りまとめており、新たなる報告にピクリと眉を動かす。


 100隻あるから、今回は3つの艦隊に分けている。ネルソン提督は第二艦隊の提督の渋いおじさんだ。


「駄目だ。突撃する必要はない。ネルソン提督にはネルソンタッチは必要ないと連絡せよ。包囲殲滅をとる」


「あのコアはネルソンに憧れているから仕方ない。了解、でも無視される可能性は高い」


 渋々とペレさんが通信を送り、なにやら難しい顔になる。文句を言われているのだろう。


 というか、接近戦ならそろそろ僕たちの出番だ。腰に差している刀モドキをスラリと抜いて、舷側に足を乗せる。


 スキュラクイーンたちの姿は水中にいるために、その闘気でしかわからないけど、かなりの速さで近づいているのがわかる。


 砲撃をして迎撃をするがあまり効果はないようで、スルスルと接近してくる。ここで近接戦闘に変えるのは良いけど、新品の艦隊を壊されるのは、少し嫌だ。


「シュリ、行くよ。残りのスキュラは僕たちが倒そう」


「わかったわ! それじゃタコもどきを倒しにいきますか」


 僕たちはトンと舷側を蹴ると、空へと高く飛翔する。びゅうびゅうと風が流れて、僕の銀髪を靡かせる。


「それじゃ、私からね!」


 陽光の元で艶やかな黒髪を靡かせて、シュリはスラッとした脚を伸ばして構える。ニカッと笑う好戦的な笑みは戦の女神のように美しく見惚れちゃう。


 新しく作った魔鉄製で魔宝石が散りばめられて、見かけはとっても美しい『頑丈なる脚甲』を脚につけている。見かけはマナが大量に含まれているように見えるように偽装しているらしい。なんで偽装したのかはわからないけど、ルフさんがそう言ってきたんだよね。


 シュリは軽く息を吸うと、闘気を練って紅きオーラをその身体に纏わせる。そして、八重歯をキラリと剥き出すと、その身体がブレる。


『流星脚』


 一筋の流星へとシュリは姿を変えて、スキュラクイーンたちのいる海中へと落ちていく。


 紅きオーラがキラキラと流星の尾のように空中に残り、流星が水面に激突する。


 その瞬間、海中が大爆発した。クレーターのように大きく海中がへこみ、海水が浮き上がる。


 水中に潜っていたスキュラクイーンたち諸共に。


「ウゲッ、ナナニガ?」


 間欠泉に巻き込まれて噴き出すように、スキュラクイーンたちは空中に放り出される。


 それでも、手に持つ三股の鉾を構えると僕へと殺気の籠もった目を向けてくる。


「下等なる人間がっ! 魔法において、我が負けるなど!」


『血杯水流渦』


 鉾の穂先が青く光ると、血のように真っ赤な水が渦となって僕へと放ってくる。


「その水は触れたが最後、体内の血を吸収して敵を干からびさせる! 死ねっ、下等なる人間よ!」


 哄笑しながら、身体を空中に固定させるスキュラクイーン。浮遊も使えるとは、この魔物はなかなか魔法の腕がいいんだね。見ると、周りのスキュラエリートたちも浮遊している。


 だけど、僕もこの三ヶ月間、ただ遊んでいたんじゃないんだ。魔法大学で僕も色々と学んだからね。


「剣心に闘気を籠めて!」


 刀モドキを迫る血の渦へと向ける。血の渦は僕よりも大きく、受けてしまったら、血は洗っても落ちないのよって、お母さんに怒られるだろう。


 未だに魔法は使えないけど────。


 血の渦の飛沫が刀モドキに触れる。


 そして、瞬時に血の渦は凍っていく。竜巻のような激しい回転をしている渦はピタリと止まり、ただの氷のオブジェクトへと変わっていった。


「な、なにをした? 私の最高魔法が!」


「とりあえず魔法は使えないから、闘気で代用することにしたんだよ!」


 驚き目を剥くスキュラクイーンへと教えてあげる。刀モドキからチラチラと冷気が漏れて、僕を中心に温度が下がっていく。


「闘気により、すべての水分を気化させて凍らせる! 僕の周辺はもう液体は液体でいられない」


 南に住むねむちゃんが考えた技だ。とりあえず何でも気化させれば凍ると信じれば良いらしい。たしかに信じたらできちゃった。


『凍土陣』


 海水が粉雪となり、空中を舞っていく。


「戯言を! まだまだ私の魔法はある!」


『水流弾』

『激流葬』

『津波』


 スキュラクイーンは立て続けに魔法を使ってくる。光線のような水が生み出されて、僕を包みこもうとする水流が放たれて、海面がうなり襲いかかってくる。


 だが、その全ては僕に触れる前に凍っていく。いかなる強力な魔法を使っても、水である以上無駄なんだ。


 スキュラクイーンたちの体にも霜がおりてきて、冷気により凍りついていく。


「頂きねっ!」


『流星脚』


 海中から流星が飛び出すと、呆然としていたスキュラエリートたちに蹴りを入れて、その威力を前にスキュラエリートたちを文字通り粉砕していく。


 僕も負けてられない。


「ひっさーつ」


『空間凍結斬』


 爆発するように冷気を刀モドキから噴き出すと、スキュラクイーンへと振り下ろす。冷気の剣は空間を停止させ、物体を凍らせて、スキュラクイーンをあっさりと両断した。


 避けることもできずに、驚愕の表情のままでスキュラクイーンは凍りついていき、空中でバラバラになって落ちていくのであった。


 闘気を燃え上がらせて、事象を変化させる。なんとか魔法が使えないかと頑張った結果なんだよね。


「それじゃ、停泊をしようかな」


 刀モドキを鞘に収めると、僕は旗艦へと戻るのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] >「バベルの塔に棲息していそうな名前っ!」  ツッコミを入れて、なぜかジト目となるルフさん そういえば、ロプロスはルフ鳥の複数形の読みそこねが元ネタとかいう話もあるからなあ
[一言] もう魔法いらんだろw
[一言] ???姫:ルルイエ王国コワイ....(プルプル)
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