36話 補給基地に停泊しよう
スキュラクイーンたちを倒して、僕は旗艦へと戻った。笑顔で出迎えてくれるゼノンさんやペレさんたち。そしてサマーチェアに寝そべって、不貞腐れた顔で、ラム酒をがぶ飲みするルフさん。
「もう少し加減をしてくださいよ。魔法の力を見せる時が来るかもと、密かにワクワクしていたのに、闘気で理を変えられたら意味がないじゃないですか。ブハーッ」
瓶に口をつけてグビグビと飲み、お酒がタラリと胸元に溢れて、ちょっと汚い。シュリが僕の視線に気づいて、肩をすくめてルフさんに近寄る。
「ほら、汚れてるじゃない。不貞腐れたふりをして、艶かしい肢体をヨグに見せないようにしてよねっ。洗ってあげるわ」
優しい笑顔で舷側に置かれた板切れまで、ルフさんの足を掴んで引きずっていく。
「なんで私の足を掴むんですか? その洗い方は海賊の処刑と同じです。ちょっと板切れに私を乗せようとしないでくださいよ。落ちる! 落ちてしまいますから!」
「大丈夫。ちょっと洗ってあげるだけよっ!」
シュリが舷側に置いた板切れの上にルフさんを乗せて、外へと放りだそうとするので、板切れにしがみつくルフさん。ぶんぶん振って落とそうとするが、驚異的なバランスで、ルフさんは板切れの上で踊っていた。
相変わらずの仲の良さだよね。少し羨ましいや。
とはいえ、二人の漫才をいつまでも見ているわけにはいかない。
「リスター、準備はオーケーなんだよね?」
「お任せくださいミャン。既に皆には攻略本を渡しているミャン。王様も攻略本に従って動いてくださいミャア。作戦は少し修正して、補給基地から始めるとするミャンミャン」
鼻をスンスンと鳴らして、つぶらな瞳でもふもふペットはフリフリと尻尾を振る。可愛らしい小動物の頭をそっと撫でながら、片手に攻略本を取り出してみる。
題名は言わずもがな、『アースワールドⅦ』だ。
ペラリと捲って、第二章を読む。章題は『国家間貿易についての注意点』だ。
そこには国家間貿易で注意することがたくさんあった。戦争から同盟国の裏切りまで、様々なイベントがあり、その際の攻略情報だった。
そこには─────。
◇
埠頭に到着してその見事さに感動しちゃう。なにしろ百隻の魔導艦が停泊できるように、小さな島なのに上手く港を作ってある。
防波堤が沖合いに設置されており、高波を防いでおり、湾内ではまっすぐに伸びた魔導石製の埠頭が何本も設置されていた。
スキュラとの戦闘により、施設は少し壊れていたが問題ない。切り開き更地となった土地に石よりも強靭で、コンクリートより遥かに劣化しにくい魔導石を敷き詰めてある。
百隻を停泊するのに手狭ではあるが、この小島の規模でよく作ったと言えよう。
陸に上陸していたスキュラたちは、クイーンが倒されたことにより逃走していた。厄介なことにならないように、第二艦隊のネルソン提督に駆逐を命令してある。
なので、埠頭で防衛していたコアさんたちは戦闘を終えており、埠頭に集まっていた。その中には意外なことにレーナ王女の姿もあった。
埠頭に停泊しているガルドン王国の帆船があったので、誰かが来ているのだろうとは思っていたけど、意外だ。
ちらりと皆を見ると、水着から制服に着替えているし、既によーこちゃんが島のコアさんたちと思念通信を終えて、準備はバッチリだ。
レーナ王女がいるとの報告を受けて、埠頭に停泊する前にリスターが監修したので、皆の意思疎通に問題はない。
僕の搭乗している一番艦、第二艦隊と第三艦隊の旗艦がまずは埠頭に停泊する。
100メートル級の魔鋼鉄製の艦はゆっくりと減速しつつ、コアさんたちやレーナ王女の待つ埠頭に上手くつけた。
僕はスゥハァと深呼吸をして、いつもよりも緊張気味にタラップが降ろされるのを見守る。ガシャンとタラップが降ろされたので、僅かに目を細めて冷淡に見えるようにして降りてゆく。
後ろにはシュリ、ゼノンさん、そして水兵が護衛としてついてくる。
第二、第三艦隊の旗艦からも同じように提督が部下を率いて降りてくる。
第一艦隊の提督は言わずもがな、ゼノン・アドミルさん。文武に長けて有能そうな渋い中年のおじさんで軍の制服がよく似合う。
第二艦隊の提督ネルソン・シュートさん。ちょっと古い時代の艦長服を着ており、伊達目隠しを片目につけており、実直そうでいかにも軍人といった雰囲気の中肉中背のおじさんで誰に憧れているか丸わかりだ。
第三艦隊の提督は意次・スワンプ。狸のようにだいぶふくよかな身体の老齢のおじいさん。白髪が混じっていて、一見好々爺に見えるが、その目に潜むのは冷徹で狡猾な光だ。
この三人にと共にガルドン王国と相対することと決めている。
ここからはリスターの言うとおりに演技をしなくてはならない。
大国の王太子に見せかけて、ガルドン王国との力の差に気づかれないようにする。ルルイエ王国が侵略されないように。
埠頭に並ぶ人たちの中で、僕は誰に話しかけようか考えて、レーナ王女へと笑顔で歩み寄る。
「レーナ王女。まさかこの補給基地にいらっしゃるとは思いませんでした。どうやら防衛戦に加わって頂けた様子。感謝致します」
ちょっとズボンとかも汚れていて、大変だった様子のレーナ王女は、僕に近づいてくると微笑みながら淑女の礼をする。ドレスを着ていないのに、気品があって美しい姫様だなぁ。
「御機嫌よう、ヨグ・トルス・ルルイエ王太子。友好条約の際にお互いの国が危機であれば支援するとお決めになりました。援軍は当然の我が国の責務でございます」
「これは失礼を。レーナ・オル・ガルドン第一王女のお言葉で、私はガルドン王国との友好条約を結べて本当に良かったと本国でも皆に話せるでしょう」
「ありがとうございます、ヨグ王太子。私も国でルルイエ王国との友好条約が素晴らしいものだと、常々語っているので嬉しく思います。それとせっかく友好条約を結んだのですから、私のことは気軽にレーナとお呼びください」
ぽふっと胸に手を当てて、レーナ王女はコテリと首を傾げる。なるほど、たしかに仲が良くなったんだから、それぐらいは当たり前だよね。
「では僕はヨグと呼んでください。改めてよろしくお願いします、レーナさん」
なので、僕もニコリと微笑み返す。喜んでくれたのか赤面して俯くので、対応としては問題はなかったみたい。
「あたしのこともシュリとお呼びください、レーナ王女」
「ありがとうございます。恥ずかしながら、友人は数えるほどにしかいなかったので、とても嬉しいです。よろしくお願いしますヨグ様、シュリ。シュリさんも私のことはレーナとお呼びください」
「同じくあたしもいつも側にいるのはヨグだけなので嬉しいですわ。レーナ」
頑張って上品さを見せようとするシュリが優しい笑みを見せて、レーナさんと目を合わせる。なぜか火花が散っているような気がするけど気のせい、気のせい。
レーナさんへの挨拶は終わったので、僕は本来の相手へと体を向ける。
「どうやらスタンピードを防いでくれた様子。ご苦労でした、ショウ・ダーバ男爵」
「ははっ。有り難き幸せ。王国の賢者にして太陽であらせられるヨグ王子へご挨拶を」
跪いているショウさんが、深々と頭を下げる。ショウさんの部下も他のコアさんたちも同じく頭を下げてくれるので、少し照れちゃう。こういうのに慣れないといけないんだろうなぁ。
「スキュラたちを撃退した手腕は見事でした。戦死者は何名ぐらいですか?」
「戦死者は52人。負傷者はだいたい100人前後かと思われます」
結構倒されちゃったらしい。全員虚像であるため問題はないが、ちょっと可哀想。ゲームキャラは弱いからなぁ。王女たちも苦労していたようだけど、これは本来レーナさんは戦ったりしたことがないからだろう。
『人口43589』
死んでしまったために、たぶん人口も減った。
『人口43701』
そして戻った。増えた分に死んだ虚像たちの意識は入り直すから、もう復活しちゃった。
とはいえ、ゲーム的な増え方や虚像が実質不死であることは最高機密だ。なので哀悼を示さなくてはならない。
「一門あげての任務遂行ご苦労様でした。被害も鑑みて、ショウ・ダーバ男爵は、先日のミスで返還していた伯爵位を再度授与。1億TPとルルイエ銀翼第一勲章を授けたいと思います。そしてこの島の代官をダーバ家門から出してくれればと考えます」
悲しむふりより、報奨を口にすることで、多少の魔法使いが戦死しても、痛くも痒くもない大国アピール。ここで、涙を流して哀しみを示すのは小国で人材が少ないことを表すらしい。リスターがそう言ってた。
そして、ショウさんは以前のミスで元々の伯爵位を返還していた謎設定。ミスも何もないんだけどね。
なにやらレーナさんが頷いているから意味はある。
さらにゼノンさんたちを見て、間違っていないかなと確認する。
「殿下の思し召しのままに」
ゼノンさんは反対することなく頷いてくれる。
「功績のあった者に相応しいかと同意します。この補給基地は重要拠点となる予定ですし」
ネルソンさんは嬉しそうにショウさんを見てから頷く。友人アピールだっけ?
でも、反対する人が一人。
「お待ちください、殿下。殿下の海よりも深きご温情は素晴らしきもの。この意次は感激で胸を震わせております。しかしながら、功績に報いるには伯爵位を再度授与したことでよろしいかと愚考致します」
好々爺な笑みで目は狡猾に光り、反対してくるのは意次さんだった。じろりとショウさんを睨みつけて、僕へと忠言をする。
「馬鹿なっ! 意次卿、ショウ卿は返還の必要なしと陛下からはお言葉を賜ったにもかかわらず、責任をとって爵位の返還をしたのです。今回の任務において汚名返上をするために、一門の魔法使いを全て連れて来たのだ。報奨は殿下のおっしゃるとおりである!」
その言葉にネルソンさんが、眉をピクリと震わせて、怒気の混じった言葉で返す。
「そうでしたかな? 私は最近物覚えが悪くてのぅ。返還されたのだから、伯爵位は新たに昇爵したと考えるのが妥当では? だが、それを譲っても報奨としては多すぎます。どうでしょう殿下。この島の代官職は与え過ぎではないかと忠言致します」
飄々とした様子で、意次さんが弛んだ頬を揺らすと、ますますヒートアップするネルソンさん。
「忠言? で、この島の代官は誰が相応しいと?」
「それは国に返ってからお決めになればよろしいかと。そうですな、国に帰るまでは私の家門でも防衛戦に長けた者が船にはおりますので、お役に立てるかと思います」
「はっ! なにを白々しい。殿下、意次卿の話に耳を貸してはいけませぬ。臣下への報奨は手厚く。これ、古来からの名君たる要素の一つでありますれば、お言葉を違えぬよう」
「手厚すぎれば、臣下は簡単に増長致します。ここは代官職だけは外した方がよろしいかと」
仲の悪い二人。武官のネルソンさんと、本来は文官の意次さんは睨み合って火花を散らす。
僕はとても困ったよとゼノンさんを見上げるが、その表情は平然としており、口を挟まなかった。殿下の教育係も兼任しているわけ。
仕方ないとため息をついて、僕はレーナさんへと話を振る。
「どうでしょうレーナさん。今回の防衛戦において、第三者目線からショウ伯爵の活躍がどれほどであったか教えて頂ければ幸いです」
僕の言葉に一瞬間があり、レーナさんは口を開く。
どんな答えが来るかなと僕たちはワクワクして待つのであった。
どうか、劇は終わりですかと演技を見抜かないでね。




