29話 仲の良い国となろう
ヨグはベッドにぽてりと寝っ転がり、フワァと欠伸をする。今日もとっても疲れたので、少し眠いんだよね。
ガルドン王国の最高の宿屋というだけあって、布が何枚も重ねられて柔らかい。でも、綿がないようでふかふかでないのが、少し残念だよ。
しっかりと洗濯されているし、真っ白でとても綺麗だから、ルルイエ島での以前のベッドよりも遥かに良いし。
掛け布団にくるまって、ぬくぬくと温もりを感じてウトウトする。壁に置かれた燭台に灯る蠟燭の炎がゆらゆらと揺れて、窓の外はもう真っ暗だ。
歓迎パーティーから数日が経過して、後は貨物を売って帰るだけだ。……のはずなのに、ガルドン王国はまだ取り引きをしてくれないから困っている。
きっとこちらを焦らして、貨物を安く買取ろうとする作戦に違いない。貿易の注意点として、リスターが教えてくれたんだ。
なので、こちらは泰然と構えるのみ。そして相手が動くまで暇だから街に出掛けようと思ったら、なぜか大勢の人々に囲まれて、外に出られなかった。
なんちゃら王国の大使とか、かんとか爵位のおじさんとか、よくわからない人たちが話しかけてくるのだ。どうやら貨物を売ってほしいんだろうけど、信義に欠けるから、まずはガルドン王国と取り引きをするつもり。
そう説明すると、なぜか寛容ですなとか、相手は懲りてはおりませんぞとか、我が国の方が良いかと思いますといった声が大きかった。
しかも列をなして、同じ内容の言葉を言い換えて、入れ代わり立ち代わり話しかけてくるのだ。お陰でこの宿屋は満員御礼笹もってこい状態だけど、王都を観光するつもりだった僕としては極めて残念だった。
今日もなんとかかんとかさんが、是非にルルイエ王国のお手伝いをと言ってきた。早く帰って欲しかったのに、粘るものだから夕方になっちゃったのだ。
シュリは毎日観光に行ってるから、ずるい。今日も串焼を片手に走り回っていたんだって。
なのでふて寝をする。もう明日は誰にも会わないで、こっそりと観光に行こうと誓って目を瞑る。
──と、トントンとドアがノックされた。トトトンと音が変わるので焦っている模様。
「はぁい、まだ起きてますよ〜」
「良かったですぜ、殿下。今とんでもない情報が入ってきたので、連絡しにきました」
中に入ってきたのは、ほろ酔い加減のダリさんだった。ちょっとお酒臭いけど、その目は真剣なものだ。
僕は掛け布団をぺいっと放ると、ダリさんへと顔を向ける。何かあったのかな? ダリさんは頭をかきつつ、壁際に置いてある椅子に座る。
「とんでもない情報が入りましたぜ。どうやらガルドン王国のゴライアス王太子が謹慎を受けていた塔から逃げ出したとか。今の王都は兵士だらけです」
「バッテリーを切らして壊しちゃった人だよね? 謹慎に耐えられなかったんだ」
僕も悪さをした時は、封印されたことがある。たしかに何日も謹慎をするのは辛いんだよね。脱出することは僕はできなかったけど、ゴライアス王子はできたんだ。凄いや!
「北部に逃げたようで、軍の派遣を考えているようですが、どうも軍部の人気があるようで、王国の動きは鈍いようです。……もしかしたら内乱になるかもしれませんな」
「内乱……。言葉では知ってるけど、そこまでの失敗じゃないでしょ?」
バッテリーを切らして、グレートガルドンを暴走させたのはミスだけど玩具を壊しちゃったぐらいで、内乱はないと思うんだ。
「それがですな……グレートガルドンは壊してはいけなかったようです。仕舞ってあった宝物も国庫も全て失った責任をとらされるところだったとか」
「ガーン! あの玩具は豚さん貯金箱みたいな玩具だったの!? 壊しちゃいけないよって、先に教えてくれないと!」
楽しんで、最後は必殺技まで使っちゃったよ! 粉々どころか、塵も残らなかったよ!
「どうやらあのロボットはガルドン王国の守護神だったようで……」
ポリポリと頬をかくダリさんの言葉にピンときちゃったよ。ガルドン王国の象徴の看板みたいなものだったと。たしかに目立つかっこいいロボットだったしね。
「あぁ………。ネズミマンが住む伝説の遊園地のお城みたいなものだったんだ! 看板だったのかぁ。それなら怒られるのもわかるね」
「しかも他国の王子に壊されたのですから、怒られるというレベルではなかったようですぜ。命がかかっていたと専らの噂です」
「そうなんだ……。それなら、僕にも少し責任はあるだろうし、明日はガルドン国王に会いに行こう!」
さすがに僕らが破壊したからね。罪悪感があるよ。レーナ王女を通じて、謁見のアポイントメントをとってもらおうかな。
◇
2日後に会える約束がとれて、僕はお城に向かっていた。街を観光しながら行こうと思っていたので、街中をゆっくりと歩いている。
道すがらに周囲を見ると、この間よりも人が多い。宿屋のご主人はアワアワと慌てていたけど、お店や家屋から覗くように見てくる人たちがなんだか戸惑っているよ?
なんでだろうと首を捻りながら、てこてこと歩いていると、前方から慌てて馬車が走ってきた。騎馬に乗っている騎士さんたちもたくさん引き連れている。
「ヨグ・トルス・ルルイエ王太子とお見受けする。私は炎の騎士団団長です。お迎えにあがりました!」
馬から飛び降りて、膝をつく団長さん。兜から覗く顔には汗をびっしょりとかいていた。ガツンと地面に勢いよく頭をぶつけると、大音声で言ってきたので、ハッと気づく。
もしかして、一人で歩いてお城に向かったらまずかったのかも! ここはきっと宿屋で待っていないといけなかったのだろう。どうりで宿屋のご主人が困った顔をしていたよ。
ゼノンさんたちは止めなかったんだよね。シュリはゼノンさんになにかを言われて、今回はついて来なかったし、やっぱり他国の礼儀作法って難しいね。
「遅れて申し訳ありません」
「気にしないでください。迎えが来るなんて思っていなかったんです」
言い訳をして、ひらひらと手を振ると、なんかますます団長さんは縮こまってしまう。
「む、迎えがないなどと、我が国は決してそんな無作法なことは致しませぬ。決して、決して!」
「そうだったんですね。ゴライアス王子の件もあるので、勘違いしてました」
ゴライアス王子のミスに合わせて、城を壊しちゃったからね。怒っていてもおかしくない。
「! ……必ずやゴライアスは捕縛致します。我が国の名誉にかけて!」
団長さんが国の名誉をかけるほど、かなり国王は怒っているらしい。僕も謝らないといけないね。
◇
お城が無くなったために、僕は離宮に案内されていた。さすがは大国、離宮にはズラリと侍従さんや侍女さん、メイドさんたちが壁際に並んで頭を下げていた。
この間よりも歓迎されているような………怒っているという威圧の意味があるんだろうなぁ。
仮の謁見の間に入ると、今度は貴族さんたちがズラリと並んでいた。その中には数日間の間に宿屋で会った人たちもいるので、ニコリと微笑んでおく。
知り合いは増やしておかないといけないから、友好的にだ。
微笑みを見た貴族さんは、ニヤリと不敵な笑みで返してきて、周りの貴族さんに胸を張るように得意げに顔を向ける。
きっと知り合いだぞと威張りたかったんだろうね。
急ごしらえなのがひと目でわかる広間だ。絨毯も色違いで敷き詰められていて、剥き出しの石壁に、ただの広間であることを示すように部屋の作りも長方形すぎる。
それに玉座もただの少し豪華な椅子だ。予備の玉座とか無かったんだろうなぁ。
ガルドン国王とレーナ王女、あと知らない人が玉座の前に立っていた。
僕がてこてこと謁見の間を進むと、ガルドン国王は玉座から立ち上がり、僕の前に来ると腰を屈める。
「おぉ、ヨグ王子。よくぞ来てくれた。先日の謝罪もできないままに申し訳なかった」
なんだかこの間会ったよりも疲れている顔で、ガルドン国王が頭を下げてくる。貴族さんたちが、その様子を見て、驚きでザワザワと騒然となる。
貴族の礼儀作法では、王は頭を下げることはないと教わっていたから、僕もびっくりだ。それだけゴライアス王子がしたことはまずかったんだ。
だって、他国の王太子にガルドン王国の象徴たる看板グレートガルドンを壊させちゃったからだ。僕がこの王国の皆に憎まれる可能性があることを考えると、謝罪するのは当然なのだろう。
僕ももう少し手加減するべきだった。あれは玩具だったから、マナタイトゴーレムよりも遥かに弱かったしね。
まぁ、終わったことは仕方ない。僕の方は謝らなくて良さそうだから、こちらの要求を聞いてもらうことにしよう。
「お気になさらずに。僕の方は三つの取り引きができればと願います。遥々訪れたガルドン王国との誼を深めるためにも」
「うむ、もちろんだ。どのような内容か教えてもらえるかな?」
なんか急に緊張して、ガルドン国王は顔が強ばるけど、そんなに難しいことじゃないよ。
「一つは貨物と多少の金貨と魔石との取り引きを。一つは補給基地として使っている島の領有権の承認を」
「うむ、それら二つは既に聞いておる。問題はない、魔石はすぐに用意しよう。島についても領有権は承認する。我が国の物ではなく、ルルイエ王国の物と認めよう」
良かった。あっさりと片付いた。ガルドン国王は僕を穿つかのような鋭い視線になって、最後の一つを待っている。
なので、ニコリと微笑む。
「最後は友好条約を結びましょう。そうですね………お互いの国が危機であるときに援軍を出すと言った条約です」
「む……それらも細かい内容は決めなければなるまいが問題はない。我が国にとっても助かる内容だ」
「では、皆の前でとりあえず握手で友好を示しましょう」
「よろしい。では、友好を」
スルスルと僕の予想外に話が進んで内心はびっくりしているけど、きっとガルドン国王は良い人なんだろう。
ゴツゴツした手を握り、ガルドン国王と握手をする。
『友好国ができました! 『魔法技術』が伝わってきました!』
それと共に、念願の『魔法技術』が手に入った事をボードが教えてくれる。
正直、貿易や島よりも遥かにこちらが欲しかったんだよね。
これでルルイエ王国は飛躍できるだろう。
本当にありがとうございます、ガルドン国王。
僕は静まらない謁見の間にて、ガルドン国王と握手をしながら、ニコニコと微笑むのであった。




