30話 文明開化をしよう
ザザンと波音がして、キラキラと海面が輝き、魚が飛び跳ねる。船首に乗って、船が作る白波を綺麗だなぁと思いながら僕は前方を見ていた。
「あっ! 見えてきたわよヨグ!」
「うん! やっと戻ってきたね!」
隣に立つシュリが嬉しそうに身を乗り出して、嬉しそうに指差す。薄っすらと僕らの島である『ルルイエ島』が見えてきた。
緑溢れる僕らの島は、以前と少しも変わらなかったけど、なんだかとっても懐かしい。胸が締め付けられて郷愁が感じられる。きっとホームシックになっちゃってたんだろう。
今は米粒みたいに小さいけど、精霊艦ならすぐに到着するはずだ。
「お土産を用意しないとね。たくさん買ってきたから!」
「そうねっ。皆きっとびっくりするわよ。こーんなにたくさんのお土産を見て」
風に靡かせている髪を押さえつつ、シュリが陽射しの元で快活に笑う。その元気の出る笑顔に僕も嬉しくなり、ニコリと微笑み返す。
だいたい二ヶ月程度の航海だった。面白いことがたくさんあったんだよと、皆に土産話をするとしよう。グレートガルドンの話はきっと皆面白がるに違いない。
「それじゃ、船内に戻って準備をしよう!」
「えぇっ! わかったわ」
僕はシュリと手を繋ぎ、船内へと戻るのだった。
船内でお土産をたくさん抱えて、外に出ると既にルフ島の埠頭に船は停泊していた。埠頭には皆が待っており、笑顔で手を振ってくれている。
「ヨグお帰り〜」
「楽しんできたか〜?」
「怪我はない?」
アウター全員が集まっており大歓迎だ。ガルドン国には悪いけど、僕は島の皆が集まる歓迎の方が嬉しい。
「ただいま〜、たくさんお土産があるよ〜」
「驚きなさいよねっ! とっても大変だったんだから!」
僕たちは船から飛び降りて、スタッと埠頭に降り立つ。そうして、皆にもみくちゃにされながら、大歓迎をされるのだった。
◇
「ほぉ〜、そんなに面白かったのか。ヨグと遊べる玩具ロボットがあるなんて世界は広いな」
「うん、父さんの教えてくれた『空間断絶斬』がとっても役に立ったよ」
「そりゃ、良かった。あの技は使いどころが難しいから、教えるか迷ったんだがな」
歓迎会は宮殿で、庭園まで使っての大宴会だ。レストランからどんどん料理を買ってきて、お母さんたちも料理をして、山のようなたくさんの料理がテーブルに並んでいる。
以前と違って、陶器製のお皿もあるし料理も食べ切れないほどに多い。お酒もあるしジュースもたくさん置いてある。
皆はお肉を頬張り、お酒やジュースを飲み、笑顔でワイワイと騒いでいる。
土産話をしたら、父さんは興味津々で、皆も周りでそれを聞いて目を輝かせている。
「全員、学校も卒業したし、次は順番に航海できるな」
「皆、合格したんだ! おめでとう!」
「あぁ、最後の難問。格付けテストも一問も間違えなかった。俺は一流の貴族だぜ」
兄さんがお肉を片手に持って、むしゃむしゃと豪快に食べながら、ニヤリと笑う。やった、それじゃ次は皆で航海に行けるね。先輩として色々教えてあげないと。僕が先輩……ふふふ、なんか嬉しい。
「ガーン! 学校に保管していたルフ特製ソウルラム酒をもしかして空っぽに!」
「なかなか強烈な味だったな、ワハハ」
「くっ! 魂すらも酔わせるお酒を密かに作っていたのに、たった二ヶ月で飲み干すとは………戦闘民族め」
ルフさんが悔しそうにテーブルを叩いているけど、そんなに強烈なお酒だったんだ。でも僕たちは基本二度目の毒とかは体質的に効かなくなるんだよね。すぐに回復しちゃうし。
「これからは補給基地の確保も必要だし、ちょうど良いミャア」
「……世界は広いから、全然構わないと思う」
リスターがオペレーターコアさんの頭の上でミャアミャアと尻尾を振る。オペレーターコアさんはリスターの背中を優しく撫でてぼんやりとした顔でちびちびとオレンジジュースを飲んでいた。
「殿下。私の名前はペレ。今後ともよろしく」
「ごめんごめん、ペレさんだよね」
「ペレって、レベル高いですがあまり使わない悪魔でしたよね、ウゲッ」
僕の視線に気づいたのか、むぅと口を尖らせて不満そうなので、ペコリと頭を下げて謝る。そして、ルフさんはペレさんの投げたワイン瓶が頭に当たって、倒れていた。
「そういえば、ヨグは殿下呼びになったのね。陛下っておかしいから仕方ないか」
「うん、なので父さんが表向きの王様でよろしくね」
シュリがペレさんの言葉にオレンジジュースを飲みながら思い出したように言う。僕もそういえばと思いだして、父さんにお願いする。これからは国王は父さんということにしておこうと思う。
「あん? まぁ、良いぞ。3段階の変身をしなけりゃいけないのか………うん、もっと修行しなけりゃいけないな」
「これ以上強くならないでくださいよ! ルルイエの帝王は必要ありませんから!」
ニマニマと笑って、新たなる目標ができたと父さんが目を爛々と輝かすと、ルフさんが飛び上がって悲痛な声で叫ぶ。周りの人たちもそれを聞いて、3段階の変身かと、面白そうに話し合っているので、修行が始まる予感。
「あらあら、これじゃ航海は暫く無理ね。皆は修行に励むと思うわよ」
頬に手を添えて、おっとりとした口調で母さんが微笑む。多分母さんも修行をするんだろう。……僕も修行したい!
「くっ………53万でも一億でももはや一般人にとっては凶悪な力には変わりません。誤差ですか。もうなんでも良いです」
「嫌な予感がするミャア。もしかしたら億単位から超えるかもミャア」
「誤差ですよ、誤差。というわけで、閣下。そろそろ宴会は終えて、新たなる力を。『魔法技術』にて解放された施設を作りましょう」
僕を抱えて、ルフさんはてこてこと外に出る。なにが起こるんだと、皆も興味津々でついてくる。
「閣下。『魔法大学』と『魔導発電所』の作成をお願いします。汚染度ゼロの『魔導発電所』は普通の発電所よりも電力効率は少ないですが、使い勝手が良いのです」
いつものふざけている時とは違って、涼やかな目つきになり、凛々しい表情でルフさんがボードを開いて説明をしてくれる。
「はぁい。僕も作りたくてワクワクしてたんだよね! それに魔法屋さんも作って良い?」
「船舶ドッグもレベルを上げるミャア。そうすれば魔導艦が建造できるから、もう帆船に頼らなくても良くなるミャア」
せっかく作った帆船は早くも役立たずらしい。ちょびっと残念。ガルドン王国に売れば良いかな?
ボードを映し出して、説明を確認する。
『魔法大学:1億TP。魔法使いを教育できる』
『魔導発電所:15億TP。魔導エネルギーを作り出せる』
貿易をして手に入れた魔石と、島での狩りにより集めた魔石や素材を交換したことで、TPはぎりぎりある。これなら維持費を入れても大丈夫。
「閣下。魔導エネルギーは万能エネルギー。まぁ、ぶっちゃけガスや電力の代わりになるエネルギーです」
「これで文明開化の明かりがつくんだね! それじゃ、ていっ!」
ポチリと一覧を押下すると、ルフ島の空き地に水晶で作られた塔が聳え立つ。陽射しを返してキラキラと輝く水晶は水色で、塔に近づくと僕らの顔を映し出す。
「綺麗ね。スベスベだわ」
シュリが壁を触って、ホォと感嘆する。皆も集まって、ペタペタと面白そうにしている。
『魔導発電所稼働します』
機械音声が水晶の塔から響くと、水色の粒子がふわりと広がっていく。その粒子が建物に触れると、建物の形が変わった。
家屋はモダンなマンションに、店は石造りから煉瓦造りやコンクリート製へと変わり、土の道がアスファルトのような物で舗装された道へと整えられていく。
豪族の城はドーム型のスタジアムのような建物へと変貌した。
そうして、街に明かりが灯り、島の風景は一変するのだった。
「ふわぁ……凄いね。完全に変わったよ!」
予想よりも凄い結果に、僕は口をぽかんと開けて呆然としてしまう。発電所を稼働しただけで、変わっちゃうんだ。
『文明開化が発生しました! 魔導文明の始まりです』
パンパカパーンと楽しげな音楽が聞こえてきて、空から花吹雪が舞ってくる。
「閣下。これからが躍進の時です。魔導文明があるならば力もつけられるでしょう。ふふふふふ、力なんてまったく必要なさそうですけどね! これが自分の決め台詞だったはずだったんですけどね! うわーん!」
凛々しい表情であったルフさんが崩れ落ちて、バンバンと地面を叩いて泣き崩れる。なんかとっておきのセリフがあったみたい。
「これなら夜でも明るいのね? 電力って便利なのね」
周りの建物に灯りがついたことにより、シュリたちは物珍しそうに見渡す。建物一つ一つに水晶が嵌められており、内部にチラチラとマナの光りが宿っている。
そして、建物内部にも同じような水晶が嵌められている。電灯が光り、キッチンではコンロが備え付けられている。エアコンは無いけど、レベルが上がれば作れるんだろうね。
『ルフ島』
ルルイエ王国
資金8678万TP
毎月維持費:2797万TP
多種鉱石埋蔵量99972637
レベル31/999
土壌レベル31/999
魔汚染レベル63/100
人口:41240人
設置施設
豪族宮殿、TP変換神殿、樵小屋、製材所、大工工房、港レベル10、船ドッグレベル10、軍学校レベル10、兵舎レベル10、学校レベル10、鉄鉱山レベル10、鍛冶工房、多種工場、醸造所、魔導発電所、魔法大学
島のレベルが上がったことにより、島の様子が一変したのか。
「30レベルの壁を超えたね。これが文明開化?」
「はい。これからは工業品の量産体制も多くなります。『魔法屋』もきっと面白いものを作れますし、魔導兵が………まぁ、武力はどうでも良いですね」
へっ、とやさぐれて、ルフさんは地面に寝っ転がりのの字を書き始める。なにか、また琴線に触れたことがあったみたい。
まぁ、とりあえずは放置で良いかな。それよりも、これからも楽しみだ。
「僕も魔法を覚えて強くなるんだ!」
「あたしも付き合うわよっ!」
魔法。外の世界の人たちが使う技術を僕たちも学ぶとしよう。そして、もっと強くなるんだ!
雲一つない真っ青な空を見て、僕は拳を強く握りしめるのであった。
────でも、いくら頑張っても、ちっとも魔法は覚えられなかった。




