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魔王の城へ

 

 どれだけそうしていただろうか。私はモニターの前で茫然としていた。カーテンの隙間から陽光が差し込み、夜明けを知らせている。

 私は両手でパンッと顔を挟み込むように叩く。Fが死んだ?それがどうしたーーとはもはや言うまい。私は確かに動揺しているし、このまま何もなかったことには出来ない。いや、「したくない」が正しいか。我々が過ごした決して短くない時間、それは生活、あるいは人生の一部と言っても大袈裟ではなく。その終幕が相手の死に逃げなど、そのような不完全な決着では到底受け入れられない。


 レスバトルとは最後にレスしたものが勝つ。


 それは絶対の不文律である。しかしながら相手は私の最後のレスを見ていない、私の勝利宣言を見ていない。そんな可能性を残したまま、この長き闘争に終止符を打てるか?


 否、断じて否である。


 私はスマートフォンの画像フォルダを開き、この十年毎日欠かさず見た憎きダニ顔を睨みつける。Fの免許証だ。ヤツがなぜハンドルネームではなく本名を名乗るのか。全てはこの免許証がスレッド内にアップロードされたことに起因する。私はこの免許証の画像を毎日貼り付け、時には加工し、ヤツに泡を吹かせていたのだ。


 「テメーの墓の前で勝利宣言かましてやるべよ」


 私はあえて声に出して誓う。ヤツの墓の前で私の勝利を宣言し決着とする。

 私は立ち上がると、母ゴリラの財布から金を抜き取り、妹ゴリラの貯金箱を割った。それをスマートフォンと共にウエストポーチに詰め込み、読売ジャイアンツのキャップ(お気に入り)を被る。雌ゴリラどもが何やらウホウホと喚いているが知ったことか。私は母ゴリラを蹴り飛ばし、妹ゴリラを踏み付け玄関のドアから飛び出した。

 そのまま駅に向かうべく横断歩道を走り抜けたその時、白い軽トラがけたたましいブレーキ音を響かせながら突っ込んできて私は跳ね飛ばされた。


 「大変だよ!大変だよ!本当の本当に大変なんだよ!」


 運転席から達磨のような男が叫びながら降りてきた。


 達磨のような男、彼は自身を魔王と名乗った。私は魔王に抱えられると助手席に押し込まれシートベルトで固定された。痛みで意識が朦朧とするが、打ち所が良かったのか骨は折れていないように思う。くだんの魔王はというと何事もなかったかのように鼻歌を口ずさみながら上機嫌で運転していた。


 「君ねえ!急に飛び出したりしたら危ないだろう?僕だったから避けられたものの!そんなに急いでどこに行くつもりだったんだい?」


 私は痛みで彼の言うことをよく咀嚼できないまま、問われるがまま答える。


 「H県に行くんだべよ……」

 

 「それはまた遠いねえ!でも君さっきから顔色があまり良くないよ!無理しちゃダメダメ!少し僕の城で休んでいきなよ!これも何かの縁!焼肉奢ってあげるよ!」


 焼肉ーー私は久しく機会になかった御馳走の響きにごくりと喉を鳴らした。

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