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はじまりのゴリラ


 『あーちゃんの乳をバックから揉みたい』


 タタンと小気味の良いキーを叩く音を響かせ、もはや私の座右の銘とでも言うべき文言を書き込むと、傍のスマートフォンを手に取り同じスレッドを開いた。


 『Fはフサフサイケメンさんに負けてすっかりおとなしくなったよなw』

 私は回線を切り替え連投する。


 そう、Fがこのスレッドに姿を見せなくなり二週間が経とうとしていた。

 Fというのはこのスレッド内において、愚かにも、真に愚かにも、私に対して煽りという幼稚な攻撃を仕掛けてくる雑魚の中の雑魚である。


 そもそもこのスレッドは固定ハンドルネーム、曰くコテというものを禁止しているのだが、幾人かは私のように決め台詞とでも言うべき独自の文言や独自の顔文字等を持っており、半ばコテのようなものーー『半コテ』と呼ばれる上級住民が存在する。しかしながらFはその中においてハンドルネームではなく本名を名乗る非常に稀有な男であった。


 私はFとの十余年にも及んだ闘争がついに決着をみたのだと改めて想いを馳せる。


 Fの書き込みがなくなり一週間が経った日。私は盛大な勝利を関連のあるすべてのスレッドで宣言すると、その日は一日中回線を切り替えながら私自身の勝利を讃えた。母親、妹のスマートフォンすら駆使し私は私の栄誉を讃え続けた。


 Fが現れることはなかった。


 私は充足感とわずかな寂寥感という相反する感情を持て余しているのだろう。今もほんの少しだけ、ほんのほんの数ミクロン、私はヤツが書き込むことを期待している。

 ふと思い立ち手慰みにヤツのフリして書き込んでみた時だった。私の書き込みにレスがついた。ドクンと心臓が跳ね上がる。まさかヤツか、と脳がじわじわと熱を持つ。逸る気持ちを押さえつけゆっくりとスクロールする。


 『お前もしかして一昨日の書き込み見なかったのか?F亡くなったってFのお母さんの書き込みがあってどうせお前のなりすましだと思ってスルーしてたんだが…なにこれガチだったの?


964 Trader@Live![sage] ID:cT/Sj7Gga

Fの母です。Fは他界しました。

生前こちらの掲示板の方々へ伝えてほしいと頼まれましたので。それでは失礼致しました。』


 ジリジリと熱を持った脳が発火し視界を真っ白に染め上げた。いや、馬鹿な、何が、嘘だ。まとまらない言葉が喉を素通りする。なぜか分かる。私だからこそ分かる。否定したくとも直感が断言する。真実だと。


 燃え尽きて真っ暗になった視界をモニターの代わりにするように、Fの最後の、最期の書き込みが浮かび上がった。


 『アホゴリラwwwwww

  バカなお前には散々笑わせて貰ったわw

  よくもまあ毎日飽きもせず張り付いてよw

  親孝行でもしろやw

  友だちでも作って遊べやw』

 

 

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