致命的な一撃
イルミの魔法の疲労が抜け切らない内にレオンは早々に戦闘を再開させる。
「くっ――」
また、レオンから一方的に攻められる展開に戻る。
距離を取って体力の回復をしたいが、レオンはそれを許さない。彼にとってもイルミのアジリティは苦戦を強いられるモノであると感じており、出来ればこのまま足を使わせず有利に立ち回ろうと考えていた。
ただ、ルディアに防御を最重要技術として教わったイルミには攻撃が当たらない。
どれだけレオンが剣速を上げようと、ルディアの速度には圧倒的に劣る。
そんな相手と特訓を続けてきたイルミが防御に徹底すればレオンの攻撃が当たらないのも頷けた。
「……ふん」
突然、レオンがイルミから距離を取った。
「はぁ、はぁ……?」
息を整えるイルミはレオンが何を企んでいるのかを考える。何故、優位状況を自ら放棄するような事をしたのか。
「……速さだけは認めてやるよ。でも、ただ速いだけだ。何も怖くはねえ。臆病な鼠と同じ、ちょこまかと逃げる事しか能のない雑魚。さっきの魔法だってとっさの窮地に歯を少し立てたようなもんだ」
まだ一撃も当てていないレオンは、それでも余裕の表情で悪態を吐く。
「本当はテメエの一片たりとも認めたくはねえけど、仕方ねえな」
レオンが話している間にイルミは体力を回復していき、もう十分に速さを活かした戦法を取る事が出来るまでになっていた。
「はっ、そんなに俺がお前から距離を取ったのが不思議か?」
イルミの疑念を読み取ったかのようにレオンは振る舞う。
「簡単な事だぜ、『レベル1』。例え、どんだけお前の足が速かろうと、逃げるが得意だろうと、守るのが上手かろうと――鼠じゃライオンには絶対に勝てねえ」
あまりに傲慢な台詞であった。
それは自分の力への自信とイルミを否定する想いが混合して出た言葉のように思えた。
「来いよ。もう十分に体力は回復しただろ? お前の自分の弱さを棚に上げるような戦法なんて取るに足りねえものだって教えてやる」
「――っ」
挑発に乗るようにイルミはレオンに飛び掛っていく。
――大丈夫
自分はまだ一撃も与えられていない。もう一度、自分のスピードで撹乱すれば、また一方的な展開へと持ち込めるはずだと、疑念を拭い自らを奮い立たせる。
懐へと一瞬で潜り込むと、短刀をレオンに叩き込もうとするが――ここで、イルミは気付く。
「え――」
レオンは何もせずに立っているだけであった。つまり、イルミの攻撃に対して一切の防御する動きも回避行動すらも見せなかった。
あれだけ当てる事に苦労したはずの一撃は、まるで訓練用のカカシ人形を相手にするかの如く、棒立ちのレオンに直撃する。
頭上のHPバーが削れていくが、痛みを耐えるレオンの顔がニヤリと笑う。
「!?」
ガシッ――と、微動だにしなかったレオンが急に動き出し、イルミの手を掴んだ。
「さあ、捕まえたぜ鼠野朗」
必死に振り解こうと抵抗するが万力に挟まれたかのように握られた腕はビクともしない。
「そんじゃあ――死ね」
強く引っ張り上げられたイルミは宙に浮き無防備になる。
――あ、やば――
と思考する間もなくドゴッ! という鈍い音と共に、途轍もない衝撃がイルミの体全身を襲い吹き飛ばす。
そのあまりの衝撃でイルミの意識は一瞬だけ暗転する。
木にぶつかる事でようやく止まったイルミのHPバーはみるみる削られていき、ゼロになるギリギリ手前で止まる。
「うっ……」
朦朧とする意識の中でレオンの声が聞こえてくる。
「はっ、今のも耐えんのか。ま、どっちにしろ、次で終わりか」
自分がまだ負けてない事をイルミはレオンの言葉で理解する
「まだ……」
意識を気力で無理やり引っ張り出し、立ち上がる。
「チッ、無駄に頑張ってんじゃねえよ。どうやっても、お前に勝ち目はねえんだよ」
そんな言葉を無視してイルミは持っていた回復薬を全て使い切って、HPバーを満タンまで回復させる。
「あ? 回復薬だと。くっ……ぎゃははは! それがお前の努力の賜物って奴かよ、『レベル1』!」
レオンは腹を抱えて笑う。イルミの努力を笑う。
「教師共が失格にしねえって事はそういう事だろ。いいよ、使えよ。お前に出来る事をやり切れよ! 全部グチャグチャに踏み潰して、否定してやるよ。お前の頑張りを! 今までの何もかも無駄だったて思わせてやるよ!」
「…………」
回復薬を使ったおかげで痛みは多少引きHPバーも回復したが、傷が癒される訳ではなく、全身ボロボロのままであった。
「大体、今の一撃でお前も俺に勝てないのは、もう分かっただろ? 俺とお前じゃ能力値に差がありすぎるんだよ」
悔しいがイルミはレオンの言うとおりだと理解してしまった。
「言いたかねえが、確かに戦闘技術と俊敏さは学院でも上の方だろうよ。でも、それだけじゃ勝てねえんだよ。お前には、俺やシャミア、そしてコーデリアとの圧倒的な差があんだよ」




