どこまでも無力で ①
これほどまでとは思わなかった。
タタ爺はフェンシングの構えを取り、カイルと対峙していた。
リターナの魔法攻撃で若干のダメージを負っているようだが、カイルの表情には余裕が窺える。だが、何度か牽制攻撃を繰り出すも、瞬時に紅い閃光のような刺突に弾かれ、流石のカイルと言えども、手を出しあぐねていた。
――タタ爺には一分の隙もない。
これで全盛期の三割……。
俺がタタ爺に渡したポーションは、一時的に身体能力を向上させる効果に絞った。
パワーポーションとハイポーションを1:1で混ぜ、ベースを創る。
ハイポーションを使ったのは、エクスポーションだと効果が強すぎてパワーポーションとの釣り合いが取れなくなるからだ。
そして、タタ爺の体力を考慮し、タイムブースター0.25、神の滴0.25を加えて再錬成をした。
「クライン……てめえ、何をした?」
隻眼のカイルが、タタ爺と睨み合いながら言った。
恐らく、カイルは気付いている。
俺に何らかのスキルがあることを。
「知らないね、それよりも自分の心配をしたらどうだ?」
「ケッ! 言うようになったもんだぜ……」
――『戦略家』と言う非凡な職能に恵まれた男。
俺には、カイルがなぜこのようになったのか理解ができなかった。
目の前の獣のような男は、俺には無い才能も、力も持っている。
何より、成長できる未来がある。
なのに、なぜ?
「戦闘中に余所見とは、随分と舐められたものだ……」
刹那、紅い閃光と化したタタ爺の刺突がカイルを襲う。
「ぬ……⁉ ちぃぃぃっ!!」
「――Acrab!」
カイルの左肩から弾けるように鮮血が流れた。
「――Sargas!」
次に右足首。
「く、クソッ!!」
「――Shaula!」
右大腿部、カイルが地面に膝を付く。
「こ、この爺……」
タタ爺は構えを崩さない。
冷たく突き刺すような眼をカイルに向ける。
「どうした? お前はこれまで、どんな理不尽も通して来たのだろう?」
「ぐ……」
「――Pipirima!」
「ぶはっ――⁉」
カイルが腹を押さえて吐血する。
「ハンスは良い奴だった。他の者も皆……」
「へっ……、弱ぇ奴が死ぬ……それの何が悪い? 少し早いか遅いかの違い……さ」
「貴様には天蠍の第四突まで打ち込んである、人間相手では初めてだ」
「何だそりゃ……全……効かねぇよ……」
カイルの意識が途切れ途切れになっている。
こんなになってまで、まだ憎まれ口を叩くとは……。
この男の原動力は何だ?
カイルに何がここまでさせるのだ?
「時間も無い、一気に第十五突のAntaresま――」
突然、タタ爺が膝を付いた。
「タタさん⁉」
タタ爺の額には滝のような汗が流れていた。
顔面は蒼白となり、唇が青白くなっている。
副作用か⁉
早すぎる、何故だ?
「だ、大丈夫です、クラインさん……まだ、戦える……」
タタ爺は震える手で天蠍剣を握り締めた。
が、その時――。
「オラァッ!」
「――グフッ⁉」
瞬間、カイルの蹴りでタタ爺の身体が宙に浮いた。
見るとカイルは何処から出したのかポーションを飲んでいた。
「ぷはーっ! こいつは中々だぜ……なぁ、クライン? お前の作るショボいポーションとは大違いだ」
「カイル……貴様ぁ!」
「おっと」
カイルの拳が俺の腹にねじ込まれる。
「がはっ……⁉」
胃液が逆流する。
息が止まり、全身を氷で包まれたような悪寒が走った。
「間違えちゃいけねぇな、クライン。お前は弱い、何も変わっちゃいねぇ」
カイルに顔を踏まれ、頭蓋骨が軋む音が聞こえた。
「ぐ……が……」
「死なせねぇぞクライン……、お前にはポーション奴隷として、一生地獄を味わわせてやる……」
「よう、カイル! お楽しみだな?」
さ、最悪だ……テッドが来やがった。
クロネは? くそっ!
「おうテッド、遅ぇぞ。とりあえず爺はほっといても死ぬ。クロネはどうした?」
「ああ、たっぷり痛めつけてやったぜ……ひひひ」
テッドは下卑た笑いを浮かべる。
「ふん、殺してないだろうな?」
「もちろんさ、あいつは俺の性奴隷にする」
「……好きにしろ。それより、こいつに奴隷拘束契約をしなきゃな……ここからだとレグルスに行くか?」
「いや、メンブラーナが良い、レグルスの飯は臭くて敵わねぇ」
よし、注意が逸れた今がチャンスだ……。
俺はそっと魔法収納袋に手を入れ、瓶を取り出した。
「――おっと、させねぇよ?」
「うぐっ⁉」
カイルに手を踏まれる。
「――やってくれるじゃない?」
テッドがカイルをぶん殴った。
カイルは吹き飛び、後ろ向きに転がる。
な、何だ⁉ 何が起こったんだ?
「クライン、大丈夫?」
「リターナ⁉」
――変化⁉
「説明は後、早くポーションを!」
「あ、ああ、わかった!」
俺はすぐにポーションを飲み干し、
「リターナ、タタさんを安全な場所へ!」と頼む。
「わかったわ」
「クロネは?」
「大丈夫、もうそろそろ終わる頃よ」
リターナはタタ爺に肩を貸し、その場を離れた。
*
「ぐへへへ……いつか、お前を無茶苦茶にしてやろうと思ってたんだ……」
頭から血を垂らしながらテッドが笑った。
「ふん、気色悪い……」
攻撃はほぼ急所に入っていた。
だが、テッドの異常なまでのタフさに、クロネは攻めあぐねていた。
「さっさと決めないと……まずいわね」
――クロネが仕掛ける。
地面を這うように、身体の重心を低く、迸る稲妻のように一気に間合いを詰める。
『海猫流―――海王龍十八渦!!!』
突き上げる荒波の如く、雷属性を帯びた十八連撃がテッドを襲う。
「ぬぅぉおおおーーーーっ!!!」
テッドは硬化した腕で耐えしのぐ。
だが、その腕に小さな亀裂が入った。
決壊するダムのように崩れたが最後、亀裂は連鎖的に広がり、テッドの腕は崩壊し始めた。
たまらずテッドは硬化を解く。
「クッ……奴隷の雌ガキがぁあああああ!!!」
テッドはクロネに飛びつく。
が、クロネは素早く上空に身を躱した。
「終わりよ――」
クロネは格闘家のスキルである【 強 化 】を発動する。
属性攻撃とクラインのポーションによるブースト、さらに強化を乗せて渾身の一撃を放つ!
『海猫流―――海王蛇の尾!!!』
面白いと思ってくださった方、評価やブクマで応援よろしくお願いします!




