第九話 攻略してみた。
なんだかしっくりくる作品タイトルになりませんね
原点回帰みたいな感じに
<レベルが50に上がった!>
そうして今日バイトを上がった俺はついに……本来ならばチュートリアルをこなして上がるレベルの最低値まで上げることが出来たのだった。
……いや始まりの町以降の推奨レベル50って高すぎないか、本当にインフレしているのかもしれないけども。
「お疲れさまユウ兄」
「おお、ただいま」
バイトから帰るとミユが一つしかないベッドでごろごろとしている。
正直ミユとしてはありあまる力を持て余しているのだろう、俺のせいで異世界ニート生活で本当に申し訳ない。
そんな今のミユのステータスは――
[レベル:320]
これはバーニングドラゴンを倒したことで上がったのだろうか、この世界のレベル上昇具合はインフレかと思ったが高レベルに従い流石に上げ幅は少なくなるらしい。
[スリーサイズ:82・51・73]
…………ん?
「ミユ、実は大きくなったか」
「な、何の話かな!?」
俺はバックログを見て知ってしまっているのだ――ミユが衣類屋に行って下着を調達しているのを!
いや別に知りたいと思ったわけではなくてですね、そんなまさかシスコン変態ストーカーみたいな行為好き好んでしませんともハハハ。
ついその文章を読んでしまったんですもの、不可抗力!
「背、大きくなってるなと」
「そ、そっち?」
俺が意図したのはそっちじゃないけども……しかしこの一か月ちょいでなんで大きくなってるんだろうか。
まさか例の意図しない夜中のMP回復儀式による副作用が……!
――これは、ほぼ無能な俺と最強魔術師の有能な妹の胸を育てていく物語である。
冴えてる妹の胸の育てかた……これ以上はやめておこう。
「ミユ、俺レベル50になったんだ」
「そうなんだ! 私の六分の一だね!」
ぐっ、地味に酷いことを言う……これがミユに言われたのでなければ殴りかかっているレベルである、レベルだけに。
確かに貧弱な俺はバイトをしてお金と経験値を稼ぐぐらいしか出来ないのだから許してほしい。
「そこで――ちょっと町の外に出てみようと思う」
「えええええええええええええ」
そ、そんなに驚かなくてもいいじゃないか。
「百パーセントやめた方がいいよ! ユウ兄には無理だよ! 絶対死んじゃうよ! 次死んだら私も死ぬよ!」
さらさらっと俺を全否定の上で衝撃の心中宣言。
いや、それはマジでやめて……俺は二度死んだから生き返れるの分かってるけどミユにその保証はないからマジでやめて。
「だがミユ、俺には魔王を倒すという義務が」
「な、なら私がちゃちゃっと倒してくるよ! テレポーテーションで魔王城に乗り込んで魔王倒せばいいだけだよね」
それがマジで出来るならクソゲーすぎる!
「いやしかし……俺が魔王を倒さないとミユが現代送りにされるって」
「そ、そうなんだ……。じゃあ、私が現代に行ったところでユウ兄を転生特典にするから!」
「初回特典、最強魔術師に使ってるから無理だろ」
「そうだったー!」
転生特典二重取りなんて許されないだろう……俺のミユを転生特典した上で存在している”ギャルゲースキル”に関しては謎なのだが。
「なぁミユ、俺そんなに頼りないか? 兄としてはやっぱり、カッコが付かないのは辛いんだがな……」
「…………」
確かに俺が貧弱ならばミユは俺を守ってくれるかもしれない――もしかしたら一生ずっと。
それを考えたとしても、やっぱりミユに頼りきりというのは……情けなく思えて仕方ないのだ。
「俺もさ、出来る限りならば自分の足で歩きたいし、自分の手でモンスターを倒したい……そう思うのはなんらおかしいことじゃないよな」
「そうだけど……そうだけど!」
「大丈夫だ、俺は割と強くなったぞ……なにせバイトの日はそこら辺の岩を壊して経験値を得てちゃからな」
俺としても自分にできる経験値の手に入れ方を実践したのだ。
バイトのほかに岩壊し、ミユに返済した上で残った金で経験値ポーションを買って飲んだり……俺なりに努力したつもりなのだ。
だから、出来ればこの努力が報われてほしいと思うのは――そんなにダメな考えだろうか?
「やっぱり兄としてはさ……妹を守りたいもんなんだよ、この異世界でもな」
「ユウ兄……っ」
それは兄妹の兄としての矜持でありプライドでもあった、例えそれが叶うのがずっと先だとしても――
「流石に私とのレベル差は埋まらないと思う」
……こう、時折”空気なにそれ美味しいの?”と、ばかりに空気を読まないことに定評のある――自分の想う正論をブンなげてくる妹ミユであった。
いくらシスコン気味な兄でもそこは「頑張ってね」とか「だといいね!」とか「期待してるね!」とか言って欲しいものなんだよ……。
ま、まぁこういうミユも俺は――
そうして宿屋のミサさんに少し町の外に出かけて来ることを伝えると――
「死んだらちゃんと言うんだよ」
と蘇生魔法準備中とばかりに唇にリップクリームを塗りながら言って来るミサさん。
いや、死人に口は無いので言いようがないんですけど。
なにはともあれ、再びの町の外を夢見て買い揃えた装備などを付けてミユと二人で町を囲う防壁の外にだったのだった――
= チョコミント平原 =
町の外に出てみると、そこは至って平和だった。
自然に満ちていて、チョウチョが花の周りを飛び回り、緑が広がっている……至って普通の平原だった。
まさかここで俺が即死するクラスのモンスター、バーニングドラゴンが出て来るなんて到底思えないのどかさがあった。
「……俺なんでこんなところで死んだんだろうか」
「ぐ、偶然だよ」
むしろ俺は引きが強いのだろうか、そんなレアモンスターを呼び寄せてしまうぐらいには……それも考えすぎだな。
「とりあえずあの弱そうなスライムに挑んでみるか!」
「あ、そのスライムは……!」
俺は手に持った木の剣でスライムに殴りかかろうとして、僅かに飛び散っていたスライムに足を滑らせ――突っ込んだ。
「あ」
スライムに顔だけ取り込まれた俺は息が出来なかった。
そして鼻からスライムが俺の身体への侵入を試みてきていよいよ、ヤバイ!
まさか俺スライム相手に死ぬのか……またそんなショボイ死に方で――
しかし俺は最後の抵抗とばかりに”ギャルゲースキル”を発動しスライムのステータス画面を見た。
レベルは51だった、普通につええし、スリーサイズは分からなかったがどうでもいい、性別の欄は――
――女子だった。
「ユウ兄! ユウ兄しっかりして! 死んじゃやだ! もう死んだら許さないって言った! 今度は私も死ぬって言った! だからだからあああああああ」
ミユが俺をスライムから引きずり出そうとしている間、俺は言語設定を開く――あるじゃないか”スライム語”!
「ごぼぼぼ、ごぼぼぼぼ! っごぼ! ごぼごぼ」
「ユウ兄ユウ兄ユウ兄、うわあああああああああ」
ミユの叫びがスライム越しに聞こえる中――
「ごぼぼっぼ!」
そう俺は言った途端にスライムが俺を解放した。
そして――
『きゅう』
俺の手のひらにコンパクトサイズに圧縮されたスライムが載り、踊るのだった。
「……ユウ兄?」
「な、なんとかなったぞミユ」
「……ど、どうして?」
ミユの疑問はもっともだろう、そう俺は――
「スライムを攻略した」
「……うん、それは分かるけども」
ちょっと言葉が足りなかったらしい、その攻略とはスライムを”モンスター”として攻略したわけではない――
「この”スラスラ”は俺の彼女になってくれた女性だ」
「……ちょっと意味わかんないんだけど、スライムに飲み込まれている間の酸欠で脳がやられちゃった?」
失礼なことを言う。
「だから! ミサさんやコナ相手にやったように、女の子だから口説いたんだよ!」
『きゅうきゅう』
俺の手の上で嬉しそうに転がるスライムを見ながら、しばらくミユは呆然としているのだった。