第十話 仲間にしてみた。
スライム。
この世界においては中級モンスターである、通称”転生者殺し”とも言われている。
由来としては現地人はそのスライムの脅威を認識しているのだが、転生者はどういう訳かスライムが低級モンスターであるという固定観念があるらしい。
そんな安易な考えによって襲いかかる転生者が殺されてしまうことも多々あることからそう名付けられた。
色は基本色が青色だが、たまにレアカラーのスライムが存在しており高値で取引される。
決まった形を持たず、大きさに関しても大人しくなっている圧縮時の場合こそサイコロ大だが、最大だと人間大まで膨張するらしい
スライム自体は比較的温和な生物だが、危害を加えられようとすると警戒され、身に危険を感じた際には凶暴化し敵対するものへ攻撃を加える。
危険を感じた際には相手を窒息させるか、敵対するものへの体内に侵入したのち体内の臓器などを溶解させて敵対するものを殺してしまうという。
『きゅる』
「かわいー!」
……という説明を俺が聞いたのは、あのあと宿に帰ってからである。
ちなみにミユには「危なっかし過ぎ!」と怒られてしまった……しょうがないのだが、そんなミユは目の前のスライムに夢中である。
ようは俺は本当に体内に侵入されかかかっていた、どちらかというと鼻からの侵入はまだ警戒段階らしい。
俺がもし”ギャルゲースキル”を用いて”彼女”を攻略していなければ俺は今頃窒息死しているか臓器を溶かされて死んでいたかもしれない……なんとも背筋が寒くなって肝の冷える、恐ろしいものだ。
「しかしスライムがそんなに大人しくなるなんて珍しいねえ、よっぽど懐かれたんだよ」
「そうなんですか」
スライムは本来温和にして臆病な性格だからこそ警戒心が強く、自分が倒されると思うと恐怖で敵対者を殺してしまうという思考メカニズムがあるという。
本来は”ブリーダー”スキルなどを持ったものが初めて飼いならし、懐かせ、人間などへの抵抗を失くすものらしく、野生のスライムがここまで懐くのは稀らしい。
……そうして話してくれたのはミサさんで、宿屋一階にあるカウンターに座って教えてもらったことである。
ちなみにこの場は夜にカウンターバーになり、お酒がなどが提供されるとのこと……一応未成年な俺たち兄妹には縁がない場所だろう。
そんなミサさんが関心するスライムこと”スラスラ”は、最初に出会った頃の俺の顔を余裕で多い被せるほどのサイズから、今ではサイコロ大のサイズまで小さくなっていた。
たまに水っぽい擬音を出しながら表面を波打たせながらコロコロ転がっているのが可愛い。
「まぁでもモンスター退治は出来なかったので経験値はゼロなんですけどね……」
「またバイトだね、ユウ兄」
本当なら戦って強くなるべく町の外に出てみた俺だったが、彼女を”攻略”してしまったが為に経験値などを得ることは出来ず俺のステータスには変化はない、絶賛最弱中である。
つまり俺は”スラスラ”を倒していない。
いわゆる”ギャルゲースキル”が発動したのか、口説いたことで彼女は俺の――仲間になったのだ。
* *
『かわいい たべたい』
スライム語に言語設定に変えると、そんな可愛らしい女の子の声が聞こえてくる。
なんとなく分かったことなのだが、敵対する以外にも気に入った相手を消化しようとする傾向があるらしい……愛が重い!
「ごぼぼぼ、ごぼぼぼぼ! っごぼ! ごぼごぼ(むしろ俺が君を食べたい、黒蜜やお酢をかけたらおいしいだろうな)」
『わたしの こえ きこえる ?』
「ごぼぼっぼ!(ああ、こんなに美しい君と話せて嬉しい! ――俺だけの宝石になってくれないか?)」
『きゅう(きゅん)』
攻略成功。
いや……多分これ”ギャルゲースキル”とやらのおかげで、なんだか惚れられやすくなってるだけであって。
決してこのスラスラという子がちょろいわけでは――
* *
ちなみにさっきからの『きゅる』は『あなた すきすき』と俺に言いながらピチャピチャと踊って見せている……かわいい。
どういう訳か言語設定をスライム語にしたあとサンライズ語などに戻しても、そのスラスラの声が脳内で日本語に翻訳されて聞こえてくるのだ……なんというか、本当に便利である。
そしてミサさんに聞こえないような声量でスラスラに――「おれも すき」と伝えると、立方体になったかと思えばカドを軸にくるくる回りだす、かなり喜んでいるご様子だった。
なんだろう……単なる立方体の青い物体なのにこの可愛さは……!
『ブロロロロロロ』
ちなみにスラスラは『あなたの やく たつ !』と自信に満ちた表情(?)。
スライムというモンスターはスラスラだけに限るのかもしれないが、友好的にしてとても可愛らしい子だった。
そのあと異世界ペットショップにミユと一緒に行くと、そこではスライムが売られていた。
黄色メインに一部がカラメル色のツートンな色違いのスライムはかなり値段が張っている、確かに食べたらプリンみたいで美味しそうではあるが。
ちなみにスライムはペットとしても観賞用としても、場合によっては部屋の掃除を手伝ってくれる場合もあり、調教済みな上に懐いてさえくれれば温和なこともあってペット人気は高い。
対モンスターにも強力で、人間の倒し方同様に内蔵を溶解させることでモンスターを倒すことも出来るという……かわいくて強いやつなのだ!
ペットショップにいる仲間を見て『わたし のほうが かわいい』と俺にアピールしている、一応同種族でも対抗心はあるらしかった。
そんな俺がペットショップを訪れたのには訳があった。
「あのー、スライムって何を食べさせたらいいですか?」
モンスターの知識が多そうなペットショップの店員ならスラスラが何を食べるのか知っているかと思い聞きに来たのだった。
「基本的に水分を飲ませればオッケーだけど、本人たちはゼリー状のものを好むみたいだね。異世界コンニャクとか異世界寒天とかも好物みたいだよ」
「そうなんですね、じゃあそこのゼリーも食べますか」
「うん、食べるね。でも水分のあげすぎに注意してね、際限なく大きくなっちゃうから」
「ありがとうございます。じゃあゼリーをいくつかください――」
そうしてペットショップで異世界カブトムシ向けのゼリーを買った、既に手にいるスラスラはゼリーに関心を示しているようだ。
「家に帰ったらな」
『おっけー』
店員の言っていたことを覚えたのだろうか、こうして普通に会話が成立していることも考えればスライムという種族はおそらく見た目以上に知能が高いのだろう。
こうしてスライムことスラスラは俺たちの仲間になったのだった。




