揶揄われ王子
朝起きると、ジーンとターニャが俺を待ち構えていた。ジーンは俺でターニャはレイチェルと瓜二つのマスクを被っている。
潜入捜査する時に必要だからとターニャに作ってもらった魔道具がある。これは相手の情報を読み取ると瓜二つのマスクが作れる。優れているのはそれだけではなく、声も全く同じになる。マスクを脱ぐと効果が切れるが、それまではずっと維持してくれる。一度でも情報を読み取れば、何回でもマスクが作れる便利アイテムだ。
「ぐへへ。いいじゃないか。いいじゃないか」
俺の顔したメイド服姿のジーンが、下卑た笑いをしながらターニャのお尻を触っている。
「アルマ王子おやめになってっす。許してっす」
レイチェルの顔した技師の服装のターニャは、言動と違い、嫌がるどころかお尻を突き出している。
なにこれ?
俺は何を見せられているんだ?
よく見ると部屋の隅でレイチェルが土下座したままピクリとも動いていない。
「レイチェル、あいつらに好きにさせてていいのか?」
「すいません、すいません。アルマ王子。本当に申し訳ございません」
レイチェルに声を掛けたのに謝罪の一辺倒で話にならない。
ジト目でジーン達を見るが、まだ楽しそうに俺たちを弄る寸劇をしている。
正直こういう扱いをされるのは覚悟していたさ。
あいつらの性格ならするって分かっていた。
だけどな、変装の魔道具まで用いて俺とレイチェルを揶揄うとは微塵も思いつかなかった。
マジで一度キツイお灸をすえなくてならんな。
どうすれば二人を懲らしめるか考えてみたけど、分が悪いことに気が付いてしまった。
母上だ。
最悪の場合にジーンは母上にチクる。絶対そうだ。間違いない。
息子のメイドと王妃って接点なさそうだけど、二人きりでお茶会するくらい仲がいい。
これまでのことを報告しているか気になるが、母上に探りをいれるのは出来ない。
息子だからか分かりやすいのか、言動に不自然な点があれば執拗に攻めてくる。はっきり言って怖い。
レイチェルの勘違いなのに、勘違いしているのはジーン達以外にも現場にいた連中も同じだ。
父上や兄上にも連絡が届いているだろうな。頭が痛い。
どうしてこうなったのだろう。
俺としては真面目に捜査していたはずなのに。
兄上は優秀だから、俺が国王になる道などない。
そうなると、陥れる必要はないはずだ。
うーん。分からん。
単に運が悪いだけなのか、策略的なものがあるのか。
ボーっとしてたら、ジーンとターニャが役割を交代していた。
わざわざ、マスクまで被り直して何やってんだか。
「いいお尻してるっす。撫でさせろっす」
「いやあああ。アルマ様駄目です。お止めになってぇぇ」
「ゲヘヘ。ここには誰もいないっすよ。観念しろっす」
「誰かあああ! 助けてくだされーーーー!」
我慢が限界に達した。
「お前らいい加減にしろ! 外に声が聞こえたらどうするんだ!」
「「……………………」」
効果があったのか、二人とも黙りこんだ。
やっと大人しくなったと思ったのもつかの間、二人はレイチェルのマスクを被って俺に近づいてくる。
コイツら何をする気だ?
身構えてると、二人は俺を中心に円を描くように歩き出した。
「痴漢、痴漢、あそっれ」
「不潔、不潔、アルマ王子は不潔っす」
両手で目を押さえしゃがみ込む。
どうしたら止めてくれるんだ。
このままじっとしていればいいのか。
5分くらいしたら声がやんだ。
ふう。ようやく飽きてくれたのか。
覆ってた両手を離して目を開けると、信じられないものを見てしまった。
二人は父上と母上のマスクを被っていた。
「アルマよ、お主は痴漢をしたのか? わしに詳しく話してみるがよい」
「アルマ、母は悲しいですっす。そんな息子に育てた覚えはないっす」
どうやってマスクを手に入れた?
あれは魔術具で相手の情報を読み取らないと作れないのに。
母上は分からなくもない。ジーンと仲良しだし。
でも父上は無理だろ。国王なんだから。
くっ、手口を聞くのも恐ろしい。
ダメだ。俺には止められない。逃げるしかないのか。
立ち上がり、息を軽く吐いた。
自室に逃げ込もうかと思った時に、ひとつだけ手があることを思い出した。
「レイチェル、護衛騎士の仕事しろ! こいつらは不敬罪だ。殺さない程度に斬ってかまわん」
「……了解しました」
土下座したままで謝罪の言葉を繰り返したレイチェルが返事をすると、ゆっくり起き上がる。
レイチェルが腰にぶら下げている剣の柄を握りなら、ゆっくりと近づいてくる。
その気迫に押されたのか、二人は簡単にマスクを外した。
「やだなぁ。レイチェルは。冗談だよ。ちょっとしたコミュニケーションなのに」
「そうっすよ。筋肉だけじゃなくて、考えまで固くなってはダメっすよ」
ターニャの余計な一言にレイチェルの顔に青筋が浮かんでいる。
剣を鞘から抜かず収まった状態で二人の頭を叩いた。
痛そうな鈍い音がした。
「きゃあああ!」
「痛いっす」
腕を組んで仁王立ちし、その前に二人を座らせた。
余計な事をしたら罰を与えるために、レイチェルは二人の後ろで監視してもらう。
「なんですかもう! ちょっと揶揄っただけじゃないですか」
「そうっすよ」
なぜか叱られてるはずの二人が、口を尖らせてむくれている。
君たち、反省の色ゼロだね。
「あれがちょっと? お前ら、頭大丈夫か?」
息を長く吐いて頭を振った。
常識について認識を合わせる必要があるな。
じっくり作戦を練ってから試してみるか。
起きたばかりで疲れてしまった。
これから警備局に行かないのに。




