十七都市評議 — 傭兵都市ガルダ・中央広場 —
合同会議は、皮肉にも一年前に騒動が起きたあの広場で開かれることになった。
赤牙団と鉄仮面団、両方の旗が今度は並んで掲げられている。睨み合うためではなく、初めて、同じ議題のために。広場には木製の壇が組まれ、両団の幹部、十七都市から集まった市民代表候補、そしてミラの協力者たちが集まっていた。
リンは壇の脇に立っていた。前に出るつもりはなかった。今日の主役はミラだ。
◆ ◆ ◆
ガロとデュバルが並んで壇に上がった。一年前なら考えられなかった光景だった。
「集まってくれて感謝する」ガロが口を開いた。「今日決めるのは、グラウン連邦の代表選出の仕組みだ。十七都市、それぞれの傭兵団と市民が、対等に意見を出す場を作る」
「異議のある者は、今のうちに言え」デュバルが続けた。「決まったあとに蒸し返すのは認めない」
広場がざわめいた。すぐに一人の男が手を挙げた。鉄仮面団の古参構成員らしい、厳つい男だった。
「頭目。俺たちは何のために剣を取った。力で街を守るためだ。それを市民に決めさせるって、俺たちの存在意義はどうなる」
広場が静まった。デュバルが答えようとしたとき、ミラが壇に上がった。
◆ ◆ ◆
ミラは緊張していたが、声は震えなかった。
「あなた方の存在意義は、なくなりません。これからも、街を守るのはあなた方です。変わるのは——『何から』『どうやって』守るかを、市民と一緒に決められるようになることです」
男は不満そうな顔をした。ミラは続けた。
「一年前、この広場で起きたことを覚えていますか。傭兵団同士の抗争で、市民が逃げ惑った。あれは、誰も望んでいなかった戦いでした。でも、止める手段が市民にはなかった。今度の仕組みは、そういう事態を未然に防ぐためのものです。あなた方の剣を奪うのではなく——剣を抜く前に、止める道を増やすためです」
男はしばらく黙った。それから、ぽつりと言った。
「……俺の弟は、あの日の抗争で怪我をした。八歳だった」
広場が静かになった。
「もし、あの日に止める仕組みがあったら——」男は言葉を切った。「いや、もういい。質問は終わりだ」
男は手を下ろし、壇から離れた。ミラは深く一礼した。
◆ ◆ ◆
議論は午後まで続いた。
代表選出の方法、傭兵団との情報共有のあり方、構成員の生活保障——細かい論点が一つずつ詰められていく。リンはほとんど発言しなかった。代わりに、ガロとデュバルが交互に、団員たちの不安を一つずつ拾い上げ、ミラが市民側の懸念を整理していった。
夕方近く、骨子が固まった。
「グラウン連邦十七都市評議会」ガロが宣言した。「各都市から傭兵団代表一名、市民代表一名。合計三十四名による評議会を設置する。五大陸会議には、この評議会から選ばれた二名を派遣する」
広場に拍手が起きた。完璧な解決ではない。まだ多くの課題が残っている。だが、一年前には想像もできなかった光景だった。
◆ ◆ ◆
会議の終わり、ミラがリンのもとに来た。疲れた顔だが、目が輝いていた。
「……できました」
「お前がやった」リンは言った。「私は隣に立っていただけだ」
「隣に立っていてくれただけで、十分でした。リンさんがいなかったら、誰も話を聞いてくれなかった」
「最初の扉を開けるのは私の役目だった。中を歩くのはお前の役目だ」
ミラは少し笑った。それから、懐から一通の手紙を取り出した。
「そういえば、これ。あなた宛に届いていました。アルダ王国の紋章付きで」
リンは手紙を受け取った。アレンからだった。その場で開いた。
アレン・ソレイユからの手紙
リン
返事が遅くなった。王国内の状況が、思ったより複雑になっている。
保守派の貴族たちが、ヴァルネスとの協力に強硬に反対している。彼らの筆頭、ロウ・アルバという男が、五大陸会議そのものを潰そうとしているようだ。
「光と闇の和解は、帝国分裂の歴史を否定する」というのが彼らの主張だ。建前は立派だが、本音は別にあると思う。
グラウン連邦のことは聞いた。あなたとミラ殿の動きは、王国内でも話題になっている。正直、心強い。
こちらも、すぐに片付くとは思えない。シアが、王国内の火属性魔法使いへの扱いに気づいてしまった——根が深い問題だ。手紙では書ききれない。
五大陸会議の開催が近づくほど、各地で同じような軋みが起きている気がする。
また会おう。今度は剣のためではなく。
アレン
リンは手紙を読み終え、しばらく黙った。
「悪い知らせですか」ミラが聞いた。
「悪いとは言わない」リンは手紙を畳んだ。「ただ、グラウン連邦だけの話じゃなくなった、というだけだ」
夕暮れの広場で、両団の旗が並んで揺れていた。一年前は血と砂で覆われていたこの場所に、今日は議論の余韻と、わずかな希望が残っていた。
だが、五大陸全体を見れば、これはまだ最初の一歩に過ぎない。
リンは手紙を懐にしまい、北の空を見た。アルダ王国の方角。ロウ・アルバという名前を、頭の中で繰り返した。
「次はどこへ行きますか」ミラが聞いた。
「まだ決めていない。だが——」リンは少し考えた。「アレンが困っているなら、行く理由になる」
ミラは少し笑った。
「やっぱり、似てますね」
「弟にか」
「いえ」ミラは首を振った。「困っている人を放っておけないところ、誰に似てるんでしょうね」
リンは答えなかった。だが、夕陽に染まる広場を歩きながら、口元はわずかに緩んでいた。




