6.旅行
夏休みも終わりが近付いた頃、柊二は蒼汰と2人で旅行にやって来ていた。
周囲を観光してから、蒼汰が選んだ温泉宿へ向かった。
「いい宿だな」
「でしょ〜?」
カップルや夫婦ばかりなのが気にはなるが。
自分たちはどんな風に見えているのだろう。友人、には見えないだろうか。親戚?恋人同士? まあ、どう見えていようが、知り合いにさえ会わなければ問題はない。
のんびり温泉に入って、夕食の前に売店で土産を選んだ。
ふと、蒼汰が店の前でじっと一点を見つめているのに気付く。
何か興味を引くものでもあったのだろうかと視線の先を追うが、特にこれといって何があるわけでもなさそうだった。
「どうした?」
「⋯え?」
「じっと見てるから。何かあったか?」
改めて同じ方向を見たが、休憩所で寛ぐ他の客がいるだけだ。
「誰か知り合いでもいたか?」
「⋯ううん。なんでもない」
蒼汰は売店に戻ると、土産を選び始めた。
「俺もバイト先に買っていこうかな〜」
指折り人数を数える蒼汰を見ながら、もしかしたら本当に知り合いがいたのかもしれないと、柊二は思った。けれど、相手にとっては蒼汰はまだ高校生のはずで、ここで会えば不審に思われる。それなら、遠くから見ているだけだったのも納得だ。
「柊二さん、決まった? そろそろ夕食の時間」
「ああ、そうだな」
土産を購入してから、2人はレストランへ向かった。
✦✦✦
「んっ⋯、ぁ⋯、はぁ⋯っ」
証明を落とした室内に、衣擦れの音と2人分の息遣いが響く。
クーラーを効かせていても汗が滴るほどで、柊二の額から流れる汗を蒼汰の手がそっと拭った。
「悪い⋯」
「部屋、風呂付きにすれば良かったね」
「⋯予算が厳しい」
「だから俺も出すって言ったのに」
「こういう時くらい、格好付けさせろよ」
「ふふ。⋯っ、あっ、」
腰を抱き寄せ軽く揺する。蒼汰は喘ぐような吐息を吐き出し、恍惚とした表情を浮かべた。甘く声が漏れる度に上下する喉元に舌を這わせると、中がきゅうっと締め付けられる。
「はぁっ、ぁ⋯」
「蒼汰⋯」
「んっ、しゅう、じさ⋯、ぅんんっ」
蒼汰の、あまり日焼けしていない白い肌は月明かりに妖しく浮かび上がり、柊二の理性を奪っていく。
汗すら甘い蜜のように感じる素肌に吸い付きながら、柊二は何度もその細い肢体を掻き抱いた。
✦✦✦
「先生、いる〜?」
新学期が始まると、またいつものように井上が教科準備室にやって来た。
「どうした? 夏休みの宿題なら明日でいいぞ」
今渡されても見る時間がないのでそう言うと、井上は、そうじゃなくて、といつもの椅子に座って頬杖をついた。
「お土産、ないの?」
「⋯なんの?」
「旅行行ったんでしょ? うちの親が、旅行先で先生のこと見かけたって言ってた」
瞬時に、旅館で蒼汰がじっと何かを見つめていた時のことを思い出した。あれは自分の親が来ていたからだったのだ。
「なんでお前に土産を買ってくるんだよ」
「ケチ〜」
「ケチで結構。だいたい、行き先が同じなら、親から土産もらってるだろ?」
「そうだけど、そうじゃなくて」
意味がわからない。
それにしても、声をかけられなくて良かったと、柊二は密かに安堵する。別にやましいことは何もないが、息子にそっくりな青年を見たら、向こうもびっくりするだろう。
「一緒にいた人、誰?」
まるで見ていたかのように井上は問う。
「友達」
「ずいぶん仲良さそうだったって。だから邪魔しちゃ悪いと思って、声かけなかったって言ってた」
「そりゃ、一緒に旅行するくらいだから、仲いいに決まってるだろ」
なぜか疑わしい目を向けられる。嘘をついているのは事実だが、彼に本当のことを言う必要はない。
井上は、今回の旅行にはついて行かなかったらしい。結婚して20年の記念旅行だったことと、受験生だからというのが理由だそうだ。
もしかして、そう言いつつも本当は行きたかったから、蒼汰は今回の旅行先に選んだのだろうか。
「まあ、いいけどな⋯」
「何が?」
「なんでもない」
だったら親に強請ればいいのにと思わなくもないが、まあいい旅館だったから良しとするかと、柊二は苦笑した。




