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呪われ姫と浄化の悪魔  作者: 華
第三章 呪われ姫は社交界へ
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帰宅

 店を出たのち、四人は急いで帰路についていた。

 慌てて街の門を出て馬車を呼びつけ、その中に飛び込むようにして乗り込む。

 ルミナスなどは公爵夫人らしからぬ形相だったと思うのだが、まあそんなことを気にしている余裕もなかった。

「病み上がりだっていうのに出かけたなんてことがばれたら、いくらアトラス様といえどもお怒りになるでしょうね……」


 こころなしかいつもより速度の速い馬車の中、ルミナスは息を落ち着けながら呟いた。その声にあまり覇気がないのは、ここまで全力疾走してきたからだろう。

「で、でも、いつもアトラス様は帰ってくるのが遅いし、大丈夫だと思うんですけど……」

 元気づけるように笑うサミュラを見て、シェルラは視線を下げて首を振った。

『でも最近は早めに帰ってきてるし、今日なんかは仕事そっちのけで帰ってきそうよね……』

「何しろもう夕方だしな……ちょっと弁解は無理だな」


 ごもっともである。空は西だけではなく一面が茜色に染まっていた。もうアトラスが家に帰ってきていてもおかしくない時間だ。

「でも今日は楽しかったわ。ありがとうね、サミュラ。あなたが誘ってくれたおかげで、新しいものが色々とみられたわ」

「い、いえ! そんなことないです! むしろ疲れませんでしたか……?」

 こわごわとこちらを見てくるサミュラに「大丈夫よ」と微笑みかけた。そして隣にいる妖精に声をかける。


「シェルラも、あんまり人間に慣れていないのに最後まで付き合ってくれてありがとう。疲れてない?」

『私は大丈夫よ。私も一回町に行ってみたかったんだし』

「そう、それならよかったわ」

 ほっと安堵の息をつきつつ、ルミナスはヒュートに顔を向けた。


「護衛って大変なんでしょう? ごめんなさいね、一人で重労働任せちゃって」

「あー、別に俺は疲れてねえよ。大丈夫大丈夫」

 頬杖を突きながらからりと言ってのけるヒュート。事実あの店員達以外に困らせられることはなかったのだ。

 ナンパをするような輩はもちろんいなかったし、こっそり誘拐しようとしている奴らはヒュートの異様な雰囲気にしり込みして逃げて行ったのを確認している。

 そういう仕事に手を染めている奴らは、ヒュートの体から放たれる殺人鬼のオーラが肌で分かってしまうのだ。

 ……それに比べてみると、本当にあの店員たちは脅威だったのだが。


 それを思い出して唐突に苦笑したヒュートを見て、ルミナスは首を傾げる。サミュラも怪訝そうな顔をした。

「どうしたの? 思い出し笑い?」

『思い出し笑いをする奴はエロイっていうわよね』

 間髪入れずに鋭く切り込むシェルラに、ヒュートは頬杖をガクッと折った。

「んなわけねえだろ! 何あけすけなこと言ってんだお前!」

『何よ、自分の欲に忠実とでも言いなおせばいいわけ?』

「そういう問題じゃねえ!」


 にらみ合う二人の攻防がおかしくて、ルミナスはコロコロと笑った。


 ほどなくして、馬車は無事に公爵家に到着した。



 飛び降りるようにして馬車から降りると、使用人たちが玄関に勢ぞろいしていた。

 荷物をそのうちの何人かに任せて、急いで屋敷の中に入る。

「あ、ルイーズ! アトラス様は……」

「大丈夫です。キールさんに連絡してなるべく遅くするように頼みましたから」

「あ、そうだったの!? ありがとう、助かったわ!」

 とても気の利くことをしてくれたようだ。ほっとして全身から力が抜ける。


「それにしてもたくさん買いましたね。楽しかったようで何よりです」

「ええ。ちょっと、かさばるものが多くって、ごめんね」

 ルミナスの荷物はもっぱらぬいぐるみである。等身大のそれもいくつか買ってしまったので、軽くても結構かさばるものになってしまった。

 すると、ルイーズがにっこりと微笑んで言う。

「楽しかったのなら良いのですが、とりあえず湯あみをなさってください。その姿を見たら、旦那様が卒倒いたしますよ」

「え!?」


 いったいどんな格好なのだろうか。確かに髪も服も全体的に乱れているような気はするが。

「い、急いで行ってくるわ」

「はい。準備は出来ています」

「ありがとう! あ、サミュラ達もゆっくり休んでね! 付き合わせちゃったし!」

 そう言いながら慌てて湯殿に駆け込んでいくルミナス。アトラスが帰ってくる前に何とかいつも通りにしておかなければという思いが頭を占めていた。


 それを見送って、サミュラ達とルイーズは顔を見合わせた。

「奥様、結構活発になられましたね……正直ちょっと驚いています」

『今日いろいろ見たことで吹っ切れたんじゃないかしら。まあ元気があることは悪いことじゃないと思うわ』

「そうそう! ルミナス様、楽しそうだったし!」

 明るく笑うサミュラに、他の者達もつられて笑う。


「にしても、俺たちも結構ぼろぼろだし、早めに着替えた方がいいんじゃねえの。花嫁さんだけが綺麗になってても、俺らがぼろぼろだったらどっちみち怪しまれるだろ」

「それもそうだね。じゃあ私も着替えてくる!」

『あ、ちょっと。走ると危ないわよ!』

 そんなシェルラの忠告を無視して、サミュラは元気よく走り去っていく。

「まったく、あの子には危機感というものが皆無ですね。……お二人も着替えてくださいね。もうすぐ夕食ですから」

 そう言って、ルイーズはきっちりとした礼をすると夕食の準備をしにリビングへと行ってしまった。



「んじゃあ俺も行くわ。眠いし」

 あくびをしながら方向転換をして歩き出した少年に、シェルラはさらりと言った。

『そうね。サミュラへのプレゼントはなくさないようにしなさいよ』

「へいへい、分かってるって……は!?」

 自分の部屋に戻ろうとしていたヒュートは、ぎょっとして振り向く。背中を冷や汗が流れた。

「な、なんでお前、それを……」

「は? 何でもなにも、店員さんたちに囲まれてたじゃないのよ、気づいてないとでも思ってたわけ? 馬鹿ね。……にしてもあんた、そんな格好してあんな純情乙女が好きだったなんて、以外中の以外よね」

「良いだろ、別に」

 剣呑な目つきで見てきたヒュートに、シェルラは呆れたような視線を送る。


「悪いだなんて言ってないわよ。でも、手は出しにくいだろうな~って、そう考えてただけ」

「手を出すって、お前なあ……」

 あけすけな指摘に言葉を詰まらせると、シェルラは肩をすくめてくるりと踵を返した。

「まあせいぜいがんばりなさい。泣かせんじゃないわよ」

 最後に低い声でそう言ったかと思うと、シェルラは鼻歌を歌いながらどこかへと行ってしまう。言いたいことはそれだけのようだ。

「……サミュラの周りって、怖い女たちばっかだな」

 怖くないのは花嫁さんだけだな、とため息をつき、ヒュートは自室へと戻っていったのだった。



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