9月14日 オークの国 ユキくんに魔女郵便までお使いを頼む。あと、獣頭人の秘密を暴露する
おそらく平成26年9月14日
剣暦××年8月14日
オークの国オーバーラブ
ヘンゼル渓谷キャンプ場
ジンさんの誕生日を思い出した。剣暦8月2日だ。
とっくに過ぎとる。
ショック……。
次に会う時にはおめでとうと言わなければならないが、果たしてジンさん生きているのだろうか。
僕とユキくんとリーヨンちゃんは命からがら逃げて来たけれど、逃げることのできない立場にいるフレイムロード候以下何十名の使節団の安否が気にかかる。
オークはあれはあれで理知的な生物なのだが、人間には不明なスイッチが入ると急に棍棒振うからなあ。
リーヨンちゃんが儀式に失敗して偽物呼ばわりされている。
そして、草原の国とオークの国の通商条約締結の機運を上げるための起爆剤として、リーヨンちゃんは大体的にPRされてきた。
王都、まずいことになってないだろうか。
普通の大鬼の感性なら「それはそれ、これはこれ」と言ってくれるのだろうけれど、何しろ王族がらみだからなあ。
そして、アイスバイン陛下以下仲良しオーク王一家は、国民に人気あるからなあ。
王を侮辱した、とか、言い出さないだろうか。
……そして、やっぱり僕にも責任って発生するのだろうか。
とにかく、動かなければならない。
ユキくんに、無茶を頼むことにした。日記には、書けないくらいに、無茶なことを。
※※
「ユキくん、今から手紙を出して欲しいんだ」
「どこかに届ければいいのです?」
「違う、ユキくんから、獣の里に手紙を出して欲しいんだ。魔女封印郵便を使って」
ユキくんは、相変わらずの険しい貌のまんま、緊張した様子。
そりゃ魔女封印郵便なんて言ったら、魔女郵便の中でも最高級の魔女音速飛行で運搬を行う、最上級のセキュリティの、要人のための機密文書郵便業務である。この世界のどのような勢力だろうとも強奪、盗み見、追跡は不可能だが、限られたVIPが莫大な郵便料金を支払わなければならない。
なんと、僕は魔女封印郵便指定登録者であり、莫大な郵便料金の免除対象者なのである。前に、魔女を危険思想集団『ブンゴの遺志』から助けたことがあり、その恩返しとかで。
ユキくんも、この状況で自分が何を書かされるのか、どこにその文書が届けられるのか、予想ができないらしい。
周りを確認。人影はなし。
リーヨンちゃんは、川に水汲みに行っている。
うん、誰にも聞かれていないね。
よし。
「『ケモノリア』に紹介をかけて、二つの事案を検索して欲しい」
ユキくんが、ひっくり返る。
いや、予想はしていたけれど、そんなオーバーリアクションとは。
「か、か、か、か、か、か」
ユキくんは、ひっくりかえったまま、言葉に詰まってる。
このまま、泡吹いて倒れそうだ。
「ユキくん、その驚きはわかるけれど、誰かに聞かれたらまずい。声を小さく」
しかし、ユキくんの動揺は収まらない。
そりゃ、そうだろうな。
僕が口にした、『ケモノリア』
獣頭人の一部の上位者しか知らないはずの、世界最大の秘密。
もしもらせば、秘密を知ったものを殺し、自分も死ぬ定め。
それだけの最高機密。
おそらく、ユキくんも教えられており、絶対に生涯口にしないつもりだったろうに。
いきなり、言われちゃったらね。
「ユキくん、ぶっちゃけるとね、僕『ケモノリア』に入ったこともあるんだ。もちろん、誰にも言っていない。僕がそれを知っていることを、今この世で知っているのは、ユキくんだけだ。ジンさんも、知らされていないはず」
やっと、落ちついてきたのだろう。ユキくんが上体を起こす。
「驚き過ぎて、おしっこもらす所だったのです」
セーフ。
ユキくんは、深呼吸を三回して、訊いた。
「何を、調べるのです?」
「過去に、オークの国オーバーラブで行われた詩鬼儀式の内、失敗の事例について。そして、詩鬼儀式に失敗した、もしくは儀式を行わずに王になったケースの、即位までの経緯について」
ユキくんが唾を飲み込むのが聞こえた。
「そんなことが、本当にあるのです?」
「あった、と思うんだ。そして、それは国内の公式記録からは抹消されても、あそこになら、ある」
むしろ、そういう不名誉な歴史をこそ、保存しているはずだ。
わかったのです。今から王都の魔女会社に行ってくるのです。と言って、ユキくんが立ち上がる。
一応、魔女会社内にある、魔女銀行の僕の口座番号と暗唱番号を伝える。それと、ユキくんが肌身離さず持ってる契約書を見せれば、お金を下ろせるはずだ。必要なら使って、と頼み、見送る。
ユキくんは旅立ち際に「ジジン先輩の苦労が、少しわかってきたのです」等と捨て台詞。
ユキくんは明日には、帰ってくる予定。




