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かんてらOverWorld  作者: 伊藤大二郎
死霊祭が終わった!草原の国自宅での日々編
62/363

8月31日 お客さんがたくさん来る 最後に新しい案内人も来る

 日の出と共に、猫頭人のタマちゃんがやってきた。朝飯でも食べていくかと訊くが、もう出国しなければならないとかで、固辞された。

 しかし、他の獣頭人と比べて、タマちゃんは頭の上に猫耳があって尻尾が生えてること以外、ほとんど人間の女の子である。タマちゃんだけ特別そうなのか訊くと、それは獣頭人によって個体差があるのだとか。獣よりも、人の血が濃く出れば、人間に近い顔立ちになる。しかし、タマちゃんほど人間に近い顔つきは、めったにいないとのこと。

「この顔のおかげで、商売やりやすいにゃ。でも、この顔のせいで一族追放されたこと考えると、とんとんかにゃ?」

 随分と、たくましい女の子だ。

 今度はどこに商いに行くのか、訊くと紋の国に行く、とのこと。

 そう言えば、紋の国で仕入れた粗悪品を高値で売りさばくのだとか言ってたな。結局没収された荷物は、見つかったけれど、商取引法違反とかで、すべて処分されたらしい。また仕入れに行くのか。すごい、懲りないってのは一つの才能だと、ここに来て思う。

 また、ばれて袋叩きにされなきゃいいけれど。

 命あっての物種だよ、と窘めたら、「そりゃあんたに必要な言葉にゃ」と返されてしまった。 

 いやはや。 

 そうして、タマちゃんは、日の出の方角へと消えていった。



 今日は、なんだかお客さんが多すぎて、疲れた。

 デミトリは孫娘を連れてくる準備のために、朝からいない。

 イオちゃんはレンちゃんを連れて買い出しを教えに行く、とのことで、朝食を準備した後、出掛けてしまった。案外、あの二人仲良いんだな。

 おかげ今日は、僕と、メイドとしての能力を持たないメイド達だけでお留守番をすることになる。

 結局、お客さん全部の対応を僕がしたのだけれど、朝食前に来たタマちゃん以外、日本語を使える人が来なくて、片言の剣祖共通語で相手をした。

 意外と、なんとかなるもんだ。言葉は、使ってみるものだね。



 ※※



 次に訪ねてきたのは、エルフのシャラクさんだった。やっとこさ出国許可が出たとかで、今から帰るのだとわざわざ伝えに来てくれる。

 そう言えば、この人も密入国してたんだっけ。だけれど、エルフの国とは仲好くしたいから、イリス王女の招請に応えて助けに来たということに偽装したのだった。昨日、書類の偽造が終わったらしい。

 なんと言うか、草原の国の官僚の優秀さには、頭が下がる思い。

 玄関で立ち話もあれだったので応接間に通したが、なんかこんな小汚い屋敷の中に入れてしまっていいのか、困る。 

 相変わらず後光が差しそうな美しさだった。よくファンタジーものに出てくるエルフと言えば美系で、気位が高くて、天女みたいな神聖なオーラ出してそうなイメージがあるけれど、シャラク・ウラさんはまさにその通りの登場人物である。

 イオちゃんはお茶を淹れる練習をさせたメイドをピンポイントで買い物に連れて行ったらしく、お茶を出せる子がいなかったので、自分で淹れてみた。

 超上流階級出身のシャラクさんにこんなもん飲ませたら、殺されるんじゃないかと少しビビっていたが、なんか美味しそうに飲んでくれた。

 今日は何の用で来たのか、話をしてみると、今回の救出作戦に何の役にも立てなかったと、謝られてしまった。いやいや、レミィちゃんやアレグロさんを先導して王都に侵入してくれたじゃない、それだけで十分のアシストよ、と言っても納得してくれない。

 まあ、こんな娘さんに炭坑節歌って踊れと言った僕の采配ミスだったということで、納得してもらおうとするが、僕の片言の剣祖共通語では、なかなか伝わらない。

 しかし、シャラクさんは僕が初めてエルフの国に行った時はものすごく僕のこと嫌っていたのに、どんな心境の変化があったのだろうか。

 とりあえず「貸し一つ」と言うことで無理やり納得してもらった。別に、何にも貸してないんだけれど。

 また、エルフの国の収穫祭を見に行く予定だから、その時には案内してと頼むと、嬉しそうに承諾してくれた。

 ジンさんが聞いたら「また安請け合いして」とか言われるだろうか。



 シャラクさんを見送って、お昼ごはんをどうするか考えていなかったら、なんとメイドの一人(確か、ピコちゃんだった)が、簡単な食事を作ってくれた。感動。

 お約束と言えばお約束だが、塩と砂糖を間違えて、ちょっと食べれなかった。

 なんてふざけてたら、なんと宮廷料理人のアレグロ・スタッカートさんが遊びに来た。

 こんな昼時に何してんの? 姫様の昼ごはんどうすんの? 相変わらず男なのか女なのかわからない顔つきだね? とか色々思ったけれど、空腹に耐える僕はそんなもん全部忘れて、お昼ごはん作って! と懇願していた。ああ、僕はなんて卑しい男なんだ。

 流石、宮廷で王族に食べさせるものを作る人は、違った。 

 よくもありあわせでこんなおいしいもの作ったもんだ、と感激。

 しかも、ちゃんとメイド達の分までつくってくれた。

 ダークエルフ達は、コックの作る料理なんて食べるのは生まれて初めてだったのだろう。今まで見たことがないくらい、年相応の顔をして、がつがつむしゃむしゃ食っていた。

 それを見て、にこにこしているアレグロさんにも「一緒に食べましょう」と言うと、帽子を脱いで、僕の隣に座った。

 人間もエルフも、異世界人も囲む食卓で、料理人は両手を合わせて「イタダキマス」と口にした。

 僕がびっくりしていると「これはホビットの国でホビットに教えてもらった祈りの言葉なんです。今でも心に残ってて、つい言ってしまって」と照れ臭そうに笑っていた。

 なんと言うべきか迷ったけれど、真似して僕も「いただきます」と言ってみた。



 食事が済んで、洗い物をして、アレグロさんは帰って行った。

 あの童顔の料理人が、結局男なのか女なのか、今日も聞けずじまいだった。

 お腹一杯になったら眠くなってきたから、お昼寝でもしようかなと思ったら、玄関を蹴破る音。

「カンテラ様ー! 遊びに来ましたわ!」

「カンテラ様ー! 遊びに来ましたわ!」

 うわ、この日本語のステレオ肉声は。

 嫌な予感がして、玄関ホールに顔を出すと、巫女装束の双子が、そこにいた。

 老竜メルディナンに仕える竜宮巫女のシズカちゃんとトモエちゃん、君達まだ帰ってなかったんだね。

 いつものように、見つかるや否や飛びつかれ、首に両腕をしっかりと巻きつけて捕まってくる。

 重い。

 仕方ないので、そのままぶらさげて応接間に。

 なんか、メイド達の表情が興味深々と言った様子。

 何に対してだろうか。僕の首にぶらさがることではないことを祈るばかり。

 とりあえず、双子をソファに降ろすと、この間の礼をしっかりと言い、さっさと帰れと忠告する。

 グーさんを、どこに待たせているのかしらないけれど、一応老人竜なのだから、大事にしてあげないと。すると、意外な反論をされた。

「爺ぃは、生贄として棄てられた私達が、人並の幸せを掴むことを一番に望んでいますわ。だから、私達は人生を精いっぱい楽しむ義務があるのですわ。だから、観光もいっぱいしますし、お土産もたくさん買いますの。小遣いだって、せびり倒しますわ」

「爺ぃは、生贄として棄てられた私達が、人並の幸せを掴むことを一番に望んでいますわ。だから、私達は人生を精いっぱい楽しむ義務があるのですわ。だから、観光もいっぱいしますし、お土産もたくさん買いますの。小遣いだって、せびり倒しますわ」

 絶対、言い訳だろうと思うけれど、この二人はグーさんを家族だと思って接しているんだなと思うと、なんだか心が温かくなった。

 とりあえず、帰ってもらった。



 なんだかどっと疲れて、応接間のソファでそのまま、うとうとしていたら、どうやら寝入ってしまったのだろう。


 デミトリに起こされた。

「あれ? デミトリ御帰り」

 寝ぼけていたのだろう、普通に返して、そういやデミトリお客さん連れてくるんだったよな、と思い出し、慌てて体を起こすと、応接間の入り口に、三人の男女が立っていた。

 

 つい半月前に、僕に協力して戦ってくれた、無茶苦茶な看守長。直系の末娘

 フレデリカ・レギオン・フレイムロード

 

 先週、舞踏会でダンスを踊った長身の女の子。そしてデミトリの孫

 ミシェール・バタリオン・フレイムロード

 

 そして、意外や意外。フレイムロード家の当主、オークとの条約締結をこじれさせた人。そして、世界廃滅主義者に捕まり、すり替えられた、見た目は頑固そうな中年男性。デミトリのお兄さんの息子。つまり甥。現フレイムロード候。

 ジョージ・レギオン・フレイムロード2世


 えらい面子が揃ったもんだ。

 寝転がって迎えてしまったことに、デミトリ含む四者四様の顔をしていた。


 とりあえず、座ってもらってお茶を出す。


 話の内容としては、それぞれ僕にお礼を言いに来たらしい。


 フレデリカさんは、僕がイリス王女の名誉を守ったことと、今まで経験したことのないような冒険ができたことへの感謝を。

 ミシェールさんは、ダンスに誘ったことと、見知らぬお婆さんを助けたことを。

 フレイムロード候からは、自分の失敗でこじれた問題を、無事に解決してくれたことを。


 全部、僕の手柄じゃないのだけれど礼を言わなくていいというのもなんか不細工な話なので、こちらこそ、と返しておく。

 フレイムロード候は、明日出発する使節団の代表として再びオークの国を目指すことになっている。

 話がこじれたのは、フレイムロード候の偽物のせいということになっているし、それが真実だと、僕も思う。

 だって、フレイムロード候は礼を言った後、僕に「オークについて、教えて欲しい」とオークの礼儀作法について訊いてきたのだから。

 なんとか成功して欲しいので、僕もできる限りのことを説明して、その後「使節団と同伴する『ジジン・ムーゲン・メロディア』という案内人を頼れば、悪いようにはならない」と教える。その場で、ジンさん宛の手紙を書いて渡す。

 フレイムロード候はえらい感激した様子でしきりにありがとうと言っていた(のだと思う。言葉はわからなかったけれど)

 こんだけ素直にありがとうと言える人間が、そんな悪い方向に話を持っていくとも思えない。

 大鬼オークとは、そういうものを一番大切にする種族なのだから。

 きっと、うまくいく。



 その後、フレデリカさんはしきりにダークエルフを何人か譲って欲しいみたいなことを言っていたが、固辞した。どーせ、私兵のダークエルフ軍団でも作りたいんだろうけれど、こんな脳みそロマンでたゆってる人にそんなことさせたらやばいのは、僕でもわかる。

「あなた、ダチョウの騎士団でも作りたいんですか」とツッコんだら「いいな、それ」とか顔がにやけていたから、なおさらである。


 ミシェールさんからは、次に会う約束を求められた。ハンカチを返しに家に伺います、と言ったらお待ちしていますと紋切型のの答えが返ってきた。うん。なんか奇矯なキャラくターばっかり相手にしてきたせいか、すごく癒される。


 デミトリは、にやにやとしていた。

 文句を言おうとしたら、ミシェールさんの方が先になんか怒っていた。

 いい爺さんと孫だ。


 その後、三人を見送り、日が西の城壁に落ちていくのを見て、今日がやっと終わった。


 そろそろイオちゃんとレンちゃんと買い物チームが返ってくる。

 今日の晩御飯なんだろうなあ。



 ※※



 自室でイオちゃん達の帰りを待っていると、呼び鈴がなった。

 仕事帰りのお父さんを待つ子供よろしく玄関に迎えに行くと、

 

 背の低い眼鏡の女の子と、褐色銀髪のメイド服の少女と、シベリアンハスキーみたいな顔つきの見知らぬ犬頭人が、立っていた。


「おかえり、イオちゃん。おかえり、レンちゃん。おかえり……、あの、すみませんどちら様でしょうか」

 僕の頑張って対応したボケをスルーして、テノールボイスの険しい顔の男は自己紹介した。

「ジジン・ムーゲン・メロディアの紹介で参りました。ユユキ・メルクリ族 エンヤートルが第2子 『案内人』ジョリャ・ユユキ・メルクリと申します」

 

 ここに来て、新キャラ登場

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