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かんてらOverWorld  作者: 伊藤大二郎
死霊祭が終わった!草原の国自宅での日々編
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8月27日 レンちゃんとダークエルフ暗殺班 僕ん家に住むことに 早速修羅場になる

 おそらく平成26年8月27日

 剣暦××年7月27日



 昨日の宴会の後、一度帰ったレンちゃんが改めて訪ねてきた。

 どうも、相談があると言う。

 

 僕と契約し、草原の国に来ているダークエルフ二個小隊のことらしい。

 死霊祭を終え、僕との契約が果たされたことで、彼らはフリーになった。ほとんどのメンバーがダークエルフの里に帰ったり、次の任地に向かったのだが、行き場を失い、未だに城門の外で野宿しているのが10名程残っているらしい。

 訊くと、どうも、僕の暗殺任務に携わっていたメンバーが、ごっそり。

 その人達には、次の仕事がなく、かと言って里に帰ることもできないでいるという。

 今回の騒動で評判を落とし、契約口がまったくないとのことで。


 別に僕を殺そうとしたことくらいで評判が落ちたりしないと思うのだけれど、実際僕は死んでないんだし。

 と思ったら、そおそも暗殺を命じられて殺せなかったために、評価が激落ちしたということだとか。

 さいですか。


 失敗した上に、ほぼ裏切りのような形で僕に味方してしまった暗殺班のメンバーは、もう殺し屋としての信頼は失っている。かと言って他に何も持っていないので、何をしたらいいのか、と途方に暮れてしまったのだとか。

 だったらレンちゃんみたいに通訳や護衛ができるように教えてあげればいいと思うけれど、そのためにも当面の資金を稼ぐためにも、住居が欲しいようだ。

 ……いや、僕ん家貸すのは何の問題もないのだけれど、自分の里に帰ろうとしないのはどうしてなのか気になった。

 

 すると、ダークエルフの里はそもそも超貧乏なので、稼ぎを失った連中が大勢帰ったら、負担をかけてしまうので、躊躇うんだとか。



 あー。なるほど。いいよ、家に住みなよ。

 ふと、自分としては言い考えが浮かんだ。



 ※※


 僕の提案に、レンちゃんは飛びつくように賛成してくれた。

 デミトリに話すと、御随意に、との返事が返ってきた。

 そこでイオちゃんに話を通す。もしかしたら嫌がるかもしれないと思ったが、すんなり応じてくれた。どうやら家族が増えることを、喜んでくれるらしい。



 早速、街の外にいるというダークエルフを全員呼んで、風呂に入れて、衣装室の奥に眠っていた服を、全員に配る。

 大広間に全員並んだところで、家宰のデミトリと、メイド長に昇進したイオちゃんに皆を紹介した。

「えー、というわけで、今日から住み込みで働いてもらうことになりました、ダークエルフのレンちゃんと、その仲間の皆さんです」

 メイド服に身を包んだレンちゃんは、一礼して自己紹介。

「本日より、働かせていただきます、レンレンデラートル・シガーレスライブスです」

 あ、この子、本名名乗っちゃったよ。

「いーの? 本名名乗って?」

 レンちゃんは、もう殺し屋ではありませんので、と微笑んだ。

「でも長いので、レンとお呼びください」

 と言ったところで、イオちゃんは日本語使えないのを思い出し、共通語でもう一度自己紹介し直してもらおうと思ったら、そもそも僕との片言会話で日本語は大体掴めているらしく、もうイオちゃんは、けろっとした顔をしている。


 その後、残る9人のダークエルフ達も次々に名を名乗っていく。全員のえらい長い本名は把握しきれなかったので、あだ名の方だけなんとかおぼえる。

 リンちゃん、ケルちゃん、ハノちゃん、ポンちゃん、ディキちゃん、ネオちゃん、ピコちゃん、コムちゃん、サイちゃん、ね。

 うーん、見事にレンちゃんと同じ年頃の女の子ばっかり揃ってるぞ?!


 なんでダークエルフの殺し屋は少女ばっかりなのだ。

 どうせ相手が油断するからです、とか殺伐とした回答だから触れないけれど。


 しかしこの子ら、普段はエルフ語を使っている人達だから、使いなれていない剣祖共通語が非常におぼつかなく、名前以外何て言ってるのかさっぱりわからなかった。

 しかし、デミトリとイオちゃんはばっちりのようだった。ならいーや。


 男手が欲しかったのだけれど。褐色銀髪のメイドばっかり10人も並んでるのは、なかなかの光景である。


 とりあえず、レンちゃんに通訳してもらって、屋敷の人間の紹介も済ます。

「こちらの痩せこけた割に背筋の伸びたおじいさんが、高町家家宰のデミトリ。この家を取り仕切ってもらっています。僕は彼にこの家の運営を一任していますので、許可が必要なことをする時は、彼に訊いてください」

 どうぞよろしく、と恭しい一礼を見せるデミトリ。

 そして、隣を示して

「こちらの眼鏡で、皆さんと同じメイド服を着ているのが、メイド長のイオです。家事の全てを任せています。皆さんに仕事の指示を出すのはこの人なので、平時のことはこの人に訊くか、指示をもらってください」

 何か剣祖共通語で挨拶をして、彼女も一礼。


「では、今日より皆さんよろしく」



 職と住む場所のないダークエルフ達に、しばらくの間、うちで働いてもらうことにした。

 働き過ぎのイオちゃんにも、指示できる手足があった方がいいと思い、一石二鳥だと思った。が、もしかして知らない人に屋敷の中をうろつかれるのは嫌だろうかと思い、事前に相談はした。

 すると、そもそも15日の死霊祭騒動の時に、イオちゃんはダークエルフ軍団と面識はあったし、彼女らに指示を飛ばしまくってたから、勝手知ったる仲だった。

 彼女らが元殺し屋で、一度は僕を生死不明の重体に陥らせたことを知ったら、もしかしたらしこりが残るかとも思ったが、すでにその話はケリをつけたことらしく、ミーティング後も、イオちゃんとレンちゃんは、打ち解けた様子で、何か話をしている。

 よかった。

 二人からは、言質としては事前に「大丈夫、何のしこりもない」とは聞いていたが、実際に会ったときに、微妙な空気が流れないか心配だったのだが。

 

 一安心、かな?




 と思ったら、イオちゃんから何かを告げられたレンちゃんが、すごい形相でこっち走ってきた。

「か、か、カンテラ様! イオに今聞いたのですが! お兄ちゃんって呼んでもいいんですか?!」

 だから、何を言っているのだレンちゃん。

 そして、何を言っているのだイオちゃん。

「それは、イオちゃんがそう呼びたいって言うから、たまにならってことで」

「わ、私も呼んでいいですか! 実家を思い出した時とか!」

 何を言っているのだレンちゃん。君、兄弟いないでしょ。

「それは 駄目や」

 また、関西風の日本語を使って、イオちゃんが、こっちに来る。

 メイド長は、何を勝ち誇っているのか知らないが

『旦那様をお兄ちゃんと呼んでいいのは、直接お許しをいただいた私だけです。それと、あなたもメイドとして雇われたからには馴れ馴れしくカンテラ様、などと呼ばず旦那様とお呼びになりなさい』

 的なことを口にしたんだと思う。

 イオちゃん、剣祖共通語だとそんな流暢に喋るんだ……。


 でも、旦那様って結婚してる人に使う言葉っぽいよね。

「別に、レンちゃんの言いたいように呼んでくれたらいいよ。呼び慣れってあるしね」

 と口走ったら

「あかん!」

 メイド長の大声。

「旦那さん! 私が ご主人様! 呼んだら怒った! なのに! この子らに 好きに呼ばす! ずるい! ずるい!」

 ご、ごめんなさい。

 イオちゃん、急にきれる。

「だったら! 私! これから! 毎日! どこでも! お兄ちゃん呼ぶ! ええか!」

 ご、ごめんなさい。ご勘弁を。すると、流れに乗ってレンちゃんまで

「わ、私も呼びます!」

 何どさくさに言ってんだ。



 広間の扉が開く音。

 朝っぱらから五月蠅くしたせいか、結局泊まっていたジンさんが物音を聞いて広間に入ってきた。

「カンテラ、大きな音がしてるが、どうかしたのか? そろそろ俺も帰ろうと……思う……が、レン? その服は何だ? そしてそこにいるエルフ共も、何故そんな服を着ている? カンテラ、お前はどうしてそんな二人から詰め寄られている?」

「ジンさん助けて」

 か細い声で、助けを求めると。


 犬頭人は器用に頭の上の耳をふさぎ、戸の向こうへと消えた。


 ちょ、待てよ。



「旦那さん! いや お兄ちゃん!」

 襟を、襟を引っ張らないで苦しい。

「カンテラ様、じゃなくて、旦那様。お兄ちゃん!」

 何故、どさくさに紛れてレンちゃんまで。そもそもあーた、僕より年上じゃないですか。


 デミトリに助けを求めようと辺りに眼をやると、彼はすでにこの場を離れて自分の仕事場へと消えたようだった。あの野郎。

 9人のメイド達は、なんか珍しい動物を見るような眼でこっちを見ていた。

 


 そういうわけで、家族が増えた。

 

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