8月12日 敵の正体と新しい酵母の調達 あと看守長が仲間になる
おそらく平成26年8月12日
剣暦××年7月12日
草原の国グラスフィールド 国境警備隊 北方方面基地
僕とジンさんが乗っているヨロイダチョウは、普通のダチョウと少し違い、全身の羽毛や皮膚が硬質し、まるで鎧を着込んでいるかのように見える事からそう呼ばれる。表面がざらついており、体当たりで他の獣に外傷を負わせたり、牙から身を守る。
しかし、なぜか背中の一部分だけは硬質化しておらず、人が乗ることができる。
まるで、そう品種改良でもされたような存在で剣の国の一部でのみ生息しており、年々、数が減少している。
最初は軍用鳥としての運用も考えられ捕獲も行われたが、気難しくて乗せる人を選ぶ上に、非常にデリケートで飼育費用が馬の10倍かかる。
そんなもん捕まえてくるくらいなら、馬を買った方が早い、と頭のいい人が決断して、ヨロイダチョウは忘れられていった。
しかし、剣の国を旅していた去年、野生生物保護協会の保護対象生物となったヨロイダチョウの人工飼育に宝くじで当たったお金のすべてを寄付していた僕には、いつでもダチョウを貸してもらえるように手配ができていた。
このヨロイダチョウ、何がすごいって強いとか以前に、夜通し走ってもスピードが落ちないくらいタフなところ。
一日で大陸の端から端まで移動してくれる。これのおかげで草原の国→オークの国→草原の国国境警備隊→ドワーフの国という強行軍も可能。
まったく、情けは人のためならずとは、言ったものだ。
昨日までの出来事をまとめると、8月11日の早朝ん、オークの国で国王陛下の親書を預かった僕とジンさんはその足で僕達が拘留されていた草原の国の国境警備隊基地に吶喊した。
なぜかブチ切れてた看守長さんは何を思ったのか自ら先陣を切って僕に飛びかかってきた。
いや、それはいいんだけれど、なぜ武器がムチだったのだろう。
他の看守さんはサスマタとか、警棒とか持ってたのに、なぜ、ムチをあんなノリノリで……
体中に残った多くの蚯蚓腫れと引き換えに、ホビット酵母を僕から取り上げるように命令した人間が誰だったのかを聞き出すことに成功する。
結局は、世界廃滅主義者『ブンゴの遺志』のメンバーが、草原の国の中枢に潜り込んでいたということだった。
その人が、オークの国との交渉をこじれさせ、僕を殺すための刺客を放ち、福江不明になった僕にスパイの容疑をかけ、その弁明に動こうとした姫様を病気を理由に居室に軟禁している。そして、異人排除の機運を高め、城内の融和主義者の身動きを取れないようにしている。
その目的は、僕だけが予想がついた。
8月15日。つまり剣暦7月15日の『死霊祭』に宝物庫から一般公開される秘宝というものがある。おそらくそれだ。
それを奪取する瞬間に、邪魔な人間を封じるために、ここまで立ち回ったのだ。
フレイムロード候は。
多分、偽物だ。本物のフレイムロード候はどっかに監禁されているんだと思う。
前に、生きている人になりすます魔道具を使う『魔女メイクアップサービス』とかいう魔女に出会ったことがある。あれを雇えば、可能だ。
すでにホビット酵母は証拠品として国軍に引き渡されたとのこと。多分、処分されていると見て、間違いない。
ここまでの行程は無意味になってしまった。
けれど、まだ方法はある。
というわけで、毎朝ホビットパンを売りに来るホビットに、酵母をわけてもらうことにした。
それが、8月12日、今朝のこと。
一晩かけて説得して看守長から全面協力を取り付ける。
コネがあったからとは言え、オーク王より話をつけるのが難しいとか、えらい人がいたもんだ。
ここでも切り札『イリス王女からの手紙』を使用。
なんと、この看守長、姫様の女学校時代の同級生だったらしく、筆跡から間違いないと信じてくれた。
……この人18歳かよ?!
なんでも、実家が持てあまして辺境で勉強させようと派遣したんだと、お目付役として一緒に飛ばされたというエレンさん(僕の房の担当看守)から教えてもらった。
まあ、いい。
とりあえず、ここらへんでできたてのパンを売るくらいなら、焼き上げも発酵もこの周辺でしているはず。ならば、酵母も持ってるはずという希望的観測でそのホビットを待つ。
日の出と共にやってきたのは、ホビットの中年男性で、しかもよく見ると、僕がこの世界で最初に出会ったホビットの村の、ロベスピエールさんだった。
僕の姿を見ると「カンテラァ!カンテラァ1」と喜びながら抱きついてきた。その後「ヨサァク! ヨサァク!」と、リクエストをもらったので、とりあえず一曲歌う。もちろん、歌うナンバーはこの世界の30代以上に何故か100パーセントウケる切り札曲『与作』
なんかここ最近切り札ばっかり切ってるな、と思いつつも何とかホビットパンを売ってもらう。
それを朝ごはんにしながら、酵母について交渉をすると、快く譲ってくれるということに。
しかし、小人も人間も、こういうもの適当に譲ってくれるけれど、これの資産的価値については、考えたりしないのだろうか?
それはやはり、異国との交易というものについて考えるのが、国や貴族、大商人くらいだからだろう。その位置にいる人々が、ホビット酵母で儲けようとすれば、それはもうひどいことになるだろう。
ならば、そうなる前に小人の国は他国と通商条約を結ぶ必要があるのではないだろうか。でないと、いらぬ争いが生まれる。
しかし、なんだ。その原因となるのは僕か? ならやはり僕は、この世界に交わりを与える僕は、いらぬ争いを与えているのだろうか。
それは、すべてが終わってから考えよう。
今はただ、世界廃滅主義者から、世界を守ることだけを考えるんだ。
とか無駄な思索をしていたところ、ロベスピエールさんはビンに入った酵母をくれた。
長持ちしないぞ? と言われたが、大丈夫。集合場所まで、このヨロイダチョウなら2時間だ。
旅立とうと、看守のエレンさんに別れを告げると、何故か旅支度の看守長が出てきた。あんた何してんの?
ジンさんが言うには、この人、「私も連れて行け」とか仰っているらしい。
友に不遇を味あわせる奸賊を討ちに行くらしい。
……その、リュックからはみ出たムチでですか?
この際、喧嘩要員もいるか、と思い、連れていくことにする。
いや、待て、この人公務員だろ? 勝手に持ち場離れていいのかよ、と思ったが、どうも仲間の看守連中もノリがいいというか、この烈女を持てあましているというか、応援しながら送り出してくれた。
……一応、名前を訊くと「グラスフィールド王国フレイムロード侯爵家次女フレデリカ・レギオン・フレイムロード」とのこと。
世間は、狭いってことかね?
とりあえず、揃えるべきものは全て揃った。
僕とジンさんと、このフレデリカさんで、一路、ドワーフの国レスナー山脈未踏破地域を行く。
僕が手紙を送った6人の内、5人がそこに集まっているはず。
今日から明日にかけて、集結し作戦を説明。
14日に草原の国に向けて出発
15日の死霊祭で、敵の邪魔をしまくって、すべてをうやむやにするために。




